木ノ葉のお札屋さん   作:乙欄

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2.5枚目

「ハハ、ともかく4人で最初の演習をやるよ」

 

「「「ハイ!」」」

 

「いい返事だね。さて、この演習は君達のチームワークを見るためのものだ」

 

「チームワーク?」

 

「ん! この2つのスズをボクから取れたら演習終了。簡単だろ?」

 

「スズが2つということは……」

 

「そういうこと!」

 

「え、どういうこと?」

 

「……3人のうち1人は脱落ってこと」

 

「ん、察しがいいね。さあ始めるよ!」

 

 

 朝、第三演習場。集合時間よりずっと早くに来たカカシは。気配を消し、慰霊碑の裏側にそっと跪くと……昔、自身が参加したスズ取り演習のことを思い返していた。

 

(あの演習の時……オレはチームワークなんて考えちゃいなかった)

 

 ミナト班にて、カカシの実力は飛び抜けて高かった。故に他の2人──オビトとリンの相手をする時と、カカシの相手をする時ではミナトの手加減のレベルが違った。

 

 そこで。2人に作戦を言い、共闘しようとした──ように見せかけその実、2人を囮に使った。

 

 それでもミナトはスズを取ったカカシ達に合格を言い渡した。

 

 カカシならすぐにチームワークの重要性に気づくと、信じてのことだったらしい。弟子を信じて見守るのもまた、師の在り方だと。

 

 ミナトからそう信じてもらえていたということは、カカシにとって非常に、本当に喜ばしいことだ。

 

 しかし。カカシのせいで、オビトが、リンが──悲劇が起きてしまったのもまた、事実。

 

 あの演習の時。ミナトが、カカシにチームワークの素質が欠けていると判断してくれれば。どうなっていただろうか? 

 

 師として、演習でチームワークを示せずともいずれはと信じるべきなのか。チームワークが無ければ躊躇なく落とすべきなのか。そもそもチームワークの判断基準とは? わからない。ぐるぐると思考が巡る。いつも迷ってばかりだ。

 

「……確かに忍者の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる……けどな。仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ。どうせ同じクズならオレは掟を破る! それが正しい忍じゃないってんなら……忍なんてのは、このオレがぶっ潰してやる!!」

 

 ルールよりも仲間をとった者を合格にする。それがカカシの基準になっていた。それもまたカカシが、自分の作ったルールに従っているだけになってしまっているのか? きちんとチームワークを判断できているのか? 

 

 自らを(いまし)める言葉は、尽きることがない。

 

 やはり担当上忍など向いていないのではないか? 自分が下忍を受け持って、大丈夫なのか? 彼らを正しく導くことができるのか? 

 

(オレは……)

 

 どうすれば、いいのか。思考はぐるぐると回る。堂々めぐりだ。結論が、出せない。

 

 やがて────

 

「たまーに、あんな子もいたなあ、くらいで思い出してもらえてたら嬉しいですね、きっと」

 

 ──ふと、そんな。のんびりとした声を思い出した。まあ彼女とは昨日も会って、今日もこれから会うことになるのだから……それでだろうか。

 

 カカシは、オビトとリンのことを一生忘れない。彼らのその言葉も。忘れられるわけがない。

 

 だが。しかし。それでも。

 

 自分のためではなく、彼らのために。彼らに縋ってばかりではいないように。

 

(たまには。自分のことを……自分の判断も、信じてみるか)

 

 ────新たな仲間となるかもしれない子ども達へとこれから下す、判断を。

 

 

 ようやくカカシは顔を上げる。もう随分と日が高い。どう見ても集合時間を過ぎている。

 

 慰霊碑から姿がはみ出ないよう、そっと丸太のある方を伺う。ナルト、サスケ、サクラ、カタナ……4人とももちろん揃っていた。演習場内を歩き回った様子もない。きちんとカカシを待っていたのだろう。

 

 ナルトとサクラはイラつきを隠そうともせず。昨日は常に涼しい顔をしていたサスケも明らかに顔をしかめているし、カタナの浮かべる笑顔も引きつっている。

 

 ずっと前から集合場所にはいたんだ、という言い訳は──いや、言い訳ではなく事実ではあるのだが──通用しそうになかった。どのみち彼らが待たされたということに変わりはないのだし。

 

 仕方ない、遅刻魔の汚名を甘んじて受けよう。そう決意したカカシはとりあえず鞄から弁当を3つ取り出して慰霊碑の上に置く。そして無駄に高度な瞬身の術で音も出さずに演習場の入り口まで戻り、ついでに影分身を4体出して子ども達それぞれを陰から見張らせてから。ゆっくりと彼らの前まで歩いて行った。

 

「やぁ、諸君。おはよう!」

 

「「「おっそ────い!!!」」」

 

 のんびりと挨拶したカカシはサスケ以外の3人から罵倒された。当然である。

 

 目ざまし時計をセットするカカシを見て、4人ともが不思議そうな顔をしていた。どうやら演習内容については情報を得ていないらしい。自分が現れるまでは何の話をしていたのやら、とカカシの好奇心が首をもたげたが、まあいいかと演習の話を進めることにした。

 

「ここにスズが3つある……これをオレから昼までに奪い取ることが課題だ」

 

 4人いるのにスズは3つだけしかない。仲間割れを誘うために仕組んだ演習内容だ。まずここで、互いを攻撃しあって数を減らすなんて馬鹿な真似をしようなら即失格。

 

 1人ずつ攻撃してきたら様子見。共闘しようとしていたら待っていてあげる。そんな感じにしようとカカシは決めている。

 

「課題不達成の奴は昼メシ抜き!」

 

 さらに丸太に縛りつける、と言おうとしてカカシはとどまった。

 

 例え4人が協力してカカシのスズを奪いに来たとしても、そこで合格にしてあげるつもりはない。次の試練がある。1人だけ弁当抜きの仲間がいて、そいつに食べさせたら不合格だというルールを突きつけられて、それでも弁当を分け与えることができるか。つまりルールを破ってでも仲間を大切にできるか。これこそがカカシなりのチームワークの判断材料である。

 

 つまり何らかのいちゃもんをつけて誰か1人は弁当抜きにしなければならない。できれば4人の中で一番弁当を分けてもらえなさそうな人物、あるいはルールを一番遵守しそうな人物。前者はナルト、後者はカタナだろう。まあ後者はサクラでもいいが……カタナの方が3人と会ってから日が浅い。

 

 そうなると演習の状況次第でナルトかカタナに適当な理由をつけることになるわけだが……流石のカカシも一回り下の少女を丸太に縛りつけるのは遠慮したい。いやまあ必要であれば行うが、ぶっちゃけ縛るのは別になくても大丈夫である。丸太はナシで行こう、とカカシは決めた。

 

「スズは一人1つでいい。で、スズを取れない奴は任務失敗ってことで失格だ! つまりこの中で最低でも一人は学校へ戻ってもらうことになるわけだ……」

 

 そうは言っているものの、実際には班員全員が合格か全員不合格かの2択であり……不合格者の中には忍を諦める者も多い。とはいえその2択に当てはまらない例外も存在する。例えば暗部へのスカウト。他にも暗号部やら結界班やらの部署も、よほどの才能を見せればという但し書きはつくものの一足飛びに入れることもあると聞く。

 

 もしかしたらサスケも、一族が今のような状況でなければここで暗部にスカウトされていた可能性だってある。兄であるイタチが暗部に入ったのは今のサスケよりも若い11歳の時。そして暗部部隊長になったのはわずか13歳の時なのだ。まあ、サスケがおそらく写輪眼を開眼していない以上は難しいかもしれないが。

 

「手裏剣を使ってもいいぞ。オレを殺すつもりで来ないと取れないからな」 

 

 その言葉に大人しく頷くカタナ。使っていいと言うなら使おうとホルスターを確認するサスケ。カカシを心配する声をかけるサクラ。そして本当に殺しちまうってばよ、と強がって笑うナルト。

 

「世間じゃさぁ、実力のない奴にかぎってホエたがる。ま……ドベはほっといてよーいスタートの合図で──」

 

 とりあえずカカシが軽く挑発してみると、ナルトはわかりやすく激高して襲いかかってきた。しかしまだ下忍未満のアカデミー生、しかも成績最下位のナルトの攻撃である。

 

「そう慌てんなよ。まだスタートは言ってないだろ」

 

 当然、赤子の手をひねるが如く対処できる。

 

 そうしてナルトを取り押さえるカカシへと、わりと平然とした態度のカタナは手を挙げながら質問を投げかけてきた。4人の中では彼女が一番『上忍』という役職の実力というものを知っているからだろう。

 

「先生、起爆札は使ってもよろしいでしょうか?」

 

「え……」

 

 カカシは考え込む。いや、彼女以外ならいいのだ、起爆札を使おうが別に。しかしそれがカタナとなると話はちょっと異なる。

 

 普通の忍は大規模な罠を仕掛ける場合を除いてそう起爆札を持ち歩かない。というより、そんなに枚数を持ち歩けない。起爆札は使えばなくなってしまう消耗品であって、個人でたくさん購入するのは金銭的にキツいからだ。でもカタナにはそんなの関係ない。何せ自分で作ることすらできるのだから。カカシも彼女が札を書くところを見たことがあるが、異様なスピードだった。写輪眼を用いれば筆跡のコピーもできるとはいえ、あまり好んでやりたいとは思えないほどだ。なんかこう、腱鞘炎とかになりそうで。

 

 まあ、つまり。カタナが何枚起爆札を持っているかはわからないが、おそらくこの演習場を丸ごと破壊できるくらいは持っているだろう。それはちょっと困る。直すのはカカシなのだ。地面や川くらいであれば土遁や水遁でいくらでも直せるが、森をやられると……後輩の木遁使いに頼む必要が出てくる。昨日あんなやり取りをしたばかりであるし、あと単純に頼みに行くのが面倒くさい。

 

「いいけど、あんま演習場破壊しないようにな。いやほんとお願いね」

 

「わかりました!」

 

 いい笑顔で頷かれる。本当にわかってもらえたのか怪しいが、まあそこは信じようとカカシは思った。最悪、彼女を監視している影分身が止めるはずだ。

 

 子ども達4人の一人ひとりの見張りをさせている影分身は、この演習自体に参加させる気はない。そもそもカカシと子ども達では実力の差が開きすぎているので、高等忍術を戦闘で使う気はないのである。まあ、今のところは。

 

 影分身の術を使って監視しているのはカカシ1人で万が一見落としがあってもいけないからだ。残念ながら影分身はリアルタイムでの情報共有はできないので、午前の演習が終わった後に術を解いてその得た情報とチャクラを本体に還元する形になる予定である。

 

 と、いうわけで。カカシはゆっくりと子ども達の顔を見回し。

 

「……よーい……スタート!!!」

 

 演習開始の合図を、かけた。

 

 

 ◆

 

 

 

「忍たる者──基本は気配を消し隠れるべし」

 

 ナルトを担当する影分身(カカシ)はカカシの言葉にウンウンと頷いた。サスケほど上手くはないが、ナルトも一応、拙いながらも木の裏に隠れ、きちんと隠形をして────

 

「いざ尋常に勝~~~〜負!!」

 

 ──いた。過去形になってしまった。その忍なのに侍なんだかよくわからない口上に影分身(カカシ)は頭を抱えた。

 

 なぜせっかく隠れていたのに、わざわざカカシの前へと姿を現したのか。理解できない。

 

「あのさァ……お前ちっとズレとるのォ……」

 

 カカシの方も戸惑いが大きいのか微妙に口調が変わっていた。ナルトの調子に引きずられたのかもしれない。自来也さんみたいな台詞になってるぞ、と影分身(カカシ)はカカシにツッコミを入れた。

 

 そしてイチャパラの中巻を続きから読み出したカカシを羨ましく思った。本体は後から影分身の記憶を得ることができるが、その逆はないのである。

 

 イチャパラのテーマは、愛。娯楽としての楽しみの他に、忍者として必要な何かが根底に流れているような気がしてならない。影分身(カカシ)はそう思っている。何度読んでもイチャパラはやはりいいものだ。

 

 片手で本を読むカカシへと攻撃を仕掛けるナルトの体術はやはりお粗末なものと言わざるを得なかった。激高していることもあってかひどく動きが大振りだ。

 

 そして簡単に後ろを取られる。これが単に実力を見るだけの試験であるなら、カカシはとっくのとうにナルトを落としているに違いない。

 

「ナルト────! はやく逃げなさいって、アンタ死ぬわよォ!!」

 

 寅の印の手の構えをするカカシを見てサクラが叫ぶ。自らの居場所が割れることも厭わずに仲間を助けようとする姿勢。この場で一番チームワークの素質があるのは彼女かもしれない。

 

 だがしかし、よく見てほしい。カカシはイチャパラを掌に挟みこんで持っている。いくらなんでもあれで他の印を結ぶのは無理だ。あと影分身(カカシ)も流石にこの試験で死人を出すなんてことにはさせないし、そこまでひどい怪我を負わせる気もない。

 

 カカシがナルトへと繰り出した技は千年殺し。サクモから教わった、木ノ葉隠れ秘伝体術奥義。

 

「なによ……ただのもの凄いカンチョーじゃない……」

 

 奥義ったら奥義なのである。

 

 

 ◆

 

 

 

 

 カタナ担当の影分身(カカシ)は驚かされた。演習開始直後、カカシから最も距離をとったのはカタナであり……隠形がおそらく一番上手いのもまた、彼女であった。サスケと同レベルといったところか。おそらくはアカデミーでの演習経験の長さの差だろう。

 

 すぐにナルトの声が聞こえ、カカシと交戦中と判断した彼女が森の中を音を立てずに移動するその速度はそこそこに速かった。アカデミーのお手本になれそうな感じの模範的な動きである。

 

 しかし。ここで影分身(カカシ)は迷った、彼女を止めるべきか否か。なぜならカタナは起爆札を仕掛けながら走っていたのである。わりと大量に。

 

 演習場を直したくはないが、試験の邪魔をしたくもない。軍配は試験の方に上がった。まあたぶん、全部を爆発させることはないだろうという、希望的観測もあって。彼女が仕掛けるお札はまだチャクラが籠もっていなかった。おそらく他の子ども達が引っかかることを恐れたのだろう。確かにサスケなんかはともかくナルトあたりは普通に気づかずに触っちゃいそうである。

 

 やがて戦闘音が止むとカタナはサクラのいる方へと向かっていた。悲鳴が上がっていたので場所はわかりやすい。倒れているサクラの様子から影分身(カカシ)はカカシに幻術をかけられたのか、とすぐにわかった。が、そうとは知らないカタナは起こしたサクラの変な様子に戸惑いつつも、共に激しい戦闘音が聞こえた辺り──サスケの方に移動していた。

 

 カカシの土遁 心中斬首の術で地面に埋まってしまったサスケをサクラが掘り起こし、カタナはその間周囲の警戒をしていた。……試験開始前からずっと影分身(カカシ)によって監視されているのであるが、気づく様子はない。仕方ないだろう、上忍それも元暗部のカカシの隠形である。

 

 カタナは2人に協力しようと持ちかけていた。ナルトと合流してからにしないのは、その方がやりやすいからだろう。頭脳明晰なこの2人に比べるとナルトは単純明快だ。上手く口車に乗せるだけで協力に応じそうである。さらに言うとカタナ本人は気づいていないだろうが、タイミング的にも間一髪だった。カカシがこちらに近づいて来て様子を伺っていたため、協力の申し出が遅ければ襲撃されていた可能性が高い。チームワークを見たいカカシは流石に子ども達が協力しようと話し合っているところを邪魔する気はないようだった。そこまでしたら試験の難易度はうなぎのぼりだろうし。

 

 話はカタナとサスケの一騎打ちといった様子になっていた。兵糧丸の譲渡。これは腹の減っている彼らにとってありがたいに違いない。それに人間、腹が減っている時より満たされている時の方が機嫌がいいものだ。話もしやすくなる。

 

 札についての言及。協力しない、となると起爆札がそこらにあるというのは脅しにもなる。それにカタナとしても協力できないと間違えて当ててしまうことになったり勝手に罠に引っかかったりしそうでやりづらいのだし、相手側にも同じことが言える。

 

 捨て身での特攻。つまり……殺す気でかかるということは本来ならば逆に殺される心配もしなくてはならないが、これは演習。教師と生徒という立場でもあるのだから、子ども達が殺す気でかかってもカカシが彼らを必要以上に痛めつけることはない。上忍という格上との戦いなのだからそこを突きたい、というのはわかるが……おそらくこれはカタナがカカシと以前から交流があるからこその発想だろう。子どもの甘え、とも言える。まあ確かに捨て身での攻撃が前提ならば人手があっても足手まといになることはまずない。

 

 しかし。全て、理詰めだ。チームワークの欠片もない。カタナはなぜスズが人数に比べて1つ足りないか、という点に関して考えることをしていない。まあそれは他の子も一緒であるのだが。彼女はそう上忍に言われた以上、素直にこの試験はそういうものとして認識しているのだろう。あるいは特例で班に4人いるのだから1人落として3人に戻すのは普通だと思っているのかもしれない。

 

 加えてカタナは一つ、意図的に話さないで勢いで乗り切ってることがある。スズを奪った後にどうするか、ということだ。2人からそう問われれば「取ってから考えましょう」という辺りで濁すのだろうが……影分身(カカシ)の見立てでは彼女自身、スズさえ取れればどうにかなると思っている節があると見ている。スズを取った後に話がどう転んでも、他の子ども達を言いくるめたり力づくで奪うこともできると。

 

 まあ、どんな思惑があれどとりあえず共闘するだけでもいいことだろう。真にチームワークがあるかどうかは次の試練で測ることができる。

 

「フン。無様だな」

 

 ナルトの下へ着いた3人は協力してカカシを倒そうと話す。サスケにいつも通り文句を言おうとしたナルトの口にカタナが兵糧丸を入れていた。完全に子ども扱いだ、と影分身(カカシ)はそれを見て思う。

 

 作戦を話し合っている彼らの様子は、まだまだ未熟だが熱意とやる気は感じられた。やがて作戦を決め終わると、ナルトが元気に声を上げた。

 

「そういえばさ! あの石の上、弁当あるんだけどさ! あれ何かわかる?」

 

「ホントだ。私は知らないけど……でもよく食べなかったわね、ナルト」

 

「へへ、朝待ってる時カタナちゃんが兵糧丸持ってるって言ってたし。それにオレが食べちゃうとみんなの分なくなっちゃうもんな」

 

 ナルトがちらっとカタナとサクラを見る。どちらかというとカタナへの比率の方が多い。昨日の黒板消しの一件で責められはせずとも悲しげな瞳を向けられたのが心に残っていたのだろう。

 

「そうですね……ちゃんと置いておいてくださってありがとうございます、ナルト君。ええと、それであの石は慰霊碑ですよ。任務で亡くなった方のお名前が刻まれています」

 

「あ、こんなところにあったのね。知らなかったわ」

 

「……なぜアイツは弁当をあんなところに置いたんだ?」

 

「それは……何ででしょうね」

 

「カカシ先生も慰霊碑って知らなかったとか!」

 

 その言葉にカタナは首を傾げた。サクラも苦笑する。

 

「流石にそれはないんじゃない? ま、とりあえずお弁当はスズを奪ってからね」

 

 コクリと皆頷き合う。

 

 4人が打倒カカシを誓いあって駆けて行くのを、影分身(カカシ)はそっと眺めていた。

 

 

 

 

 

 イチャパラを読むカカシに、ナルトと影分身が攻撃を喰らわせようと飛びかかる。影分身の数が多い。禁術指定されている多重影分身、とわかった影分身(カカシ)は先日の騒動を思い出した。アカデミー教師であったミズキがナルトを唆し、初代火影が編纂した封印の書を持ち出させた一件。あの中にあった術を覚えたのだろう。

 

 ナルトの単調な攻撃。合間にカタナが投げたクナイも含め本を片手に躱している。こうして客観的に見ると舐め腐った態度だな、と影分身(カカシ)は考えた。

 

 起爆札が爆発する。煙の中、サクラが変化したサスケが迫る。木の上にいる本物のサスケを隠し通す作戦らしい。

 

 ナルトの影分身も攻め立て、流石に本を閉まったカカシがじりじりと移動して。カタナが札で発動した土遁・土流壁に囲まれた。カカシを襲撃する前にチャクラを込めて地面に隠していた札だ。家業だからだろうが随分と札の扱いに慣れている、と影分身(カカシ)は思った。いやまあ、ナルトの多重影分身であったり既に火遁を使えるサスケの方が色々と規格外ではあるが。

 

 本来の作戦ならばここで囚われたカカシに上からサスケが火遁を放って蒸し焼きにするつもりだったらしい。なかなかに殺意が高い。

 

 しかしカカシは土壁を蹴って平然と抜け出した。サスケの火遁も、襲いかかるナルトや女子2人の投げるクナイもあっさり避ける。

 

 匂いを嗅ぎ取ったのだろう。こちらへと向かってくるカカシに、カタナは影分身と入れ替わり。そして影分身の持つ起爆札が爆発して。

 

 時計が、鳴った。演習終了だ。

 

 影分身(カカシ)は術を解いて本体へと記憶を還元した。

 

 

 ◆

 

 

 4人それぞれを監視していた影分身から情報を得たカカシは、とりあえず次なる試練を彼らに課すことにした。

 

「挑戦する気のある者だけ弁当を食え。ただしカタナには食わせるな。年長者としての責任、そして許可は出ていない兵糧丸を勝手に使ったことへの罰だ。もし誰か一口でも食わせたら、ソイツはその時点で不合格とする…………わかったか? ここでは、オレがルールだ」

 

 お弁当を、1人だけ食べさせない。そんなルールを守るか、破って仲間を取るか。

 

 配布したプリントでは別に兵糧丸は持ち込み不可ではなかったし、推奨する物になかっただけで許可が出ていないわけではない。だが子ども達も今ここでそれをいちいち指摘してはこないだろう。そんな精神状態ではない。

 

 カカシは立ち去ったように見せかけると、隠形して木の裏から子ども達を伺った。素直にカカシの言うことを聞いて3人だけで食べるか、それとも────

 

 

「……やる」

 

 プライドの高いサスケが真っ先に弁当を差し出し。

 

「そうだってばよ! カタナちゃん、サスケのじゃなくてオレの分を食え。どうせオレは卒業試験、本当は落ちてたんだからバレようが気にしないってばよ!!」

 

 あれほど忍者になりたいと主張していたナルトも続いて。

 

「私が午前、一番役に立ってなかった。だから私のためと思って、これ、食べて!」

 

 サスケを一番に優先させていたサクラは、一番積極的に箸をカタナの口元へと運ばせようとしていた。

 

 そして、はじめは固辞していたカタナも恐る恐る弁当を口にする。

 

(オビト、見えているか? リン、ミナト先生、2人にも見ていて欲しかった……)

 

 

「お前らぁぁあああ!!」

 

 嬉しさのあまり派手に忍術を炸裂させながらカカシは子ども達──いや、新しい仲間達の方へと駆け寄った。

 

 全員が全員、ひどく驚いている。いなくなったと思っていた人物が突如出現したのだから当然だろう。

 

 抜け目なく臨戦態勢に入るサスケ。大声を上げて後ずさりするナルト。金切り声を出してしりもちをつくサクラ。慌てて口元を隠すカタナ。

 

 カカシは彼らへと心からの笑顔を向けた。

 

「ごーかっく♡」

 

(約束するよ……もう、オレの仲間は絶対に殺させやしないと)

 

 そして、鞄からもう1つ弁当を出す。午後からも働いてもらわねばならないのだ。

 

 合格に喜ぶ第7班の仲間へと、新たな任務を告げる。

 

「……カタナが演習場に置いた呪符を、全部回収すること。いいね?」

 

 カカシの影分身は見ていた。彼女が頑張っていっぱい設置してるのを。

 

 ついでに木も何本か倒れているのだが、どうしようか。カカシは少し遠い目になった。

 

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