木ノ葉のお札屋さん 作:乙欄
ゴロツキ、チンピラ的な。ならず者のほうが語感が好きで使っています。
ガトーの手下=ならず者 って感じです
倒れたカカシ先生をタズナさんが頑張って運んでくださり、やっとたどり着いたタズナさんの家は……何と言いますか、みすぼら、いえ、風情のある建物でした。
カカシ先生は写輪眼の使いすぎで1週間ほど動けないそうです。強い力にはデメリットも伴うものなのですね。うーん、でも、つまりはあと1週間はわたしたちは波の国に滞在することになる、というわけでして。要は任務続行ですね、ええ。
「暗部、かぁ」
「うー、なんなんだってばよ! あのザブザが、あんなガキに!」
「……チッ」
先生はあの少年のことを霧隠れの暗部で追い忍の特殊部隊と言っていました。同年代であろう少年の力量と、その業務内容にみな思うところがあるようです。
「まあ、もう彼に会うこともないでしょうし、あまり気にし過ぎない方がいいかと。世の中、強い人はいるものですよ。それより……」
4人で集まってコショコショ話を始めます。とはいえせま、いえ、こじんまりとした家である以上、タズナさんもその娘のツナミさんも同じ部屋にいるのですが、まあいいでしょう。
「本来であればわたしたちはここで帰るわけでしたし、カカシ先生は倒れてしまっています。よって、とりあえずタズナさんたちに食費と言いますか、そのあたりを渡したいのですが、みなさんはいかがでしょう?」
正直に言いましょう。わたしはお金を出せばいいご飯が食べられるなら、お金を出したいです。こういう時のためにお金はあります。特にカカシ先生には滋養にいいものが必要でしょうし。
任務に出せるお金がない、というのが本当なことは見てすぐにわかりました。そこに食べざかりの子どもが4人プラス療養が必要な大人1人。まだ見ていませんがお孫さんもいるそうですし、食費があって困ることはないでしょう。
みなOKを出してくれたので、わたしたちはこそこそ財布をあさります。集まったお金をツナミさんに差し出すと、最初は遠慮されていましたが……あまり四の五の言える状況ではないのでしょう。最終的には受け取ってくださいました。
ついでにお水もいただこうとすると、ツナミさんはお茶を淹れてくださいました。ありがたいです。
ふと目をやると、奥には破れた写真が飾られていて、タズナさんとツナミさん、お孫さんらしき少年が仲良く写されています。破れたところは男性のようですし、ツナミさんの夫さんでしょうか? うーん、ツナミさんに聞くのはちょっとデリカシーに欠けますよね。タズナさんにでもあとでお聞きしてみましょう。
「あら。カカシ先生起きたの?」
先生は起きあがったものの何か考え込んでいる様子でした。そっとお茶を差し出すと、みなが注目する中、カカシ先生はあっさりと空の湯呑を返してきました。
飲むの、はやいです。何も見えませんでした。
「どうしたんだってばよ! 先生?」
「ん? ああ……死体処理班ってのは殺した者の死体はすぐその場で処理するものなんだ……」
「つまりあの場で処理せずに、死体を持って帰ったのは不自然、ということですか?」
「そう。殺した証拠なら首だけ持ち帰れば事足りる。それと問題は追い忍の少年が再不斬を殺したあの武器だ……」
あの首を貫いたのはただの千本でした。ツボ治療などにも用いられますね。少年が医療忍者だったということでしょうか? でも、医療忍者が追い忍になるのは少々不自然ですし、確かによく考えるとなぜクナイや手裏剣ではなくわざわざ千本を使ったのかという疑問が湧いてきます。
「……まさか…………」
サスケ君も思い至ったようでした。
「あーあ……そのまさかだな」
「再不斬が生きている可能性がある、ということですか。あの少年が、追い忍などではなく再不斬の味方だったかもしれない、と」
カカシ先生は静かに頷きました。はぁ……次は再不斬プラスあの少年と戦うことになるかもしれないと思うと気が重くなるどころじゃありません。再不斬だけでも手いっぱいでしたのに……あの少年の身のこなし、樹上にいたのに気づかれない隠形。彼もまた実力者に違いないのです。
「どーゆーことだってばよ!?」
「カカシ先生 アイツが死んだのちゃんと確認したじゃない!!」
「確かに確認はしたが……あれはおそらく、仮死状態にしただけだろう……」
人を、仮死に至らしめる。再不斬は目をかっぴろげて首に千本が突き刺さっていて、明らかに死んでいると思っていたのですが、仮死状態とは。人体って奥深いのですね。それも医療忍術なのでしょうか?
「…………超考えすぎじゃないのか? 追い忍は抜け忍を狩るもんじゃろ!」
「いえ、でも、追い忍が抜け忍になることもあるでしょうし、追い忍というのも嘘かもしれませんし、それも考えておかなければいけないかと。他の忍びも雇っているやもしれません……ただ、綺麗な死体での回収を命じられていたり、何らかの理由で霧隠れが生きたままの回収を望んでいた可能性もあるとは思います」
「そうだな。ま! クサイとあたりをつけたのなら出遅れる前に準備しておく……それも忍の鉄則!」
こうして。カカシ先生がわたしたちに修業をつけてくださる運びになったのです。
「では、これから修業を始める!」
「押忍!!」
ナルト君の意気込みがすごいです。お孫さんのイナリ君に「帰って欲しい」と言われたことが気になっているのでしょうか。
森の中。まだ上手く身体を動かせないカカシ先生は松葉杖での移動でした。
「……と、その前に。お前らにはまずチャクラについて話そう」
「? あのさ! あのさ! チャクラってなんだったっけ?」
え……? ナルト君、そんなんでよく多重影分身とか使えますね……? 感覚派なのでしょうか。しかしなるほど、成績がビリだったというのは真実のようです。さっきの作戦立案とかはとっても良かったと思うので、地頭はいいと思うのですが。
サクラちゃんのわかりやすい説明でも、ナルト君は理解できないようでした。うーん、勉強すること自体が嫌いになっちゃってるのかもしれませんね。
チャクラとは忍が「術」を使うのに必要とするエネルギーのことです。おおまかに、人間の身体の細胞一つ一つから取り出す「身体エネルギー」と、修行や経験による「精神エネルギー」の2種類。この2つのエネルギーを練り上げ(これを「チャクラを練る」といいます)、術者の意志である「印を結ぶ」というプロセスを経て、「術」が発動されるというわけですね。
そしてお札を使うときはこの「印を結ぶ」というプロセスと性質変化が飛ばせるのが利点なわけです。その分、術者の細かい意志は反映されず、画一の効果しか生み出せないという欠点もあるんですが。あと「術」の起点が術者ではなくお札のところになるのもメリットデメリットありますよね。
そしてそのチャクラを効率よく使うためのコントロールが必要だと先生はおっしゃいました。
それは──
「木登り……!」
カカシ先生はスタスタと足だけでの木登りを実演しました。微量なチャクラを、チャクラを集めにくい部位である足の裏に集めるというコントロール力を身につけること。そして、そのチャクラをそのまま維持できるようにすること。それが、この木登り修業の目的だそうです。
先生のように歩いてではなく、初めは走って勢いで登っていいそうですが……これ、落ちたら痛そうです。クッションとか敷いてやっちゃ駄目ですかね。
んー、影分身を出して下で受け止め係をやってもらうとかはどうでしょう。
「先生っ!」
「ん? どうした、カタナ」
「影分身を出しても修業に支障はないでしょうか?」
「ああ、影分身を使って修業するってこと? 分身体の経験したコトは術を解けばオリジナルに戻る……よく知ってたね」
……
…………?
確かに影分身の術を解くと、分身の経験もわたしに蓄積されます。もしかして、お札を書くときに影分身を使っているわたしはそのぶんだけ上達もはやかったんでしょうか? まったく意識はしていなかったのですが……なるほど、道理で父が影分身だけははやく身につけさせようとしてきたわけです。単純に労働力を2倍にしたいだけだと思っていたのですが、そんなメリットもあったんですね。
修業に使うという発想は驚きでしたが、確かにいいやもしれません。
「はい。いつもお札を作る時は影分身を使っていたので」
「なるほどね。……ま! いいでしょ。やってみなよ」
「わかりました!」
「先生先生! オレはオレは? オレも影分身したいってばよ!」
「ナルトはだーめ」
「がっくし。何でだってばよ……」
意気込んだわたしは木を走り……途中で弾かれて落ちました。着地はできましたけど、ちょっと手足にじーんと来ました。わたしの方は慌てていてクナイで目印をつけられなかったのですが、もう1人の
他を見やるとサスケ君はわたしよりも低いところですがきちんとクナイで木に目印をつけています。木の跡からして、わたしと同じくチャクラが多くなり過ぎたのでしょう。ナルト君の方は、地面とごっつんこしたらしく頭を抱えています。大丈夫でしょうか? 音からして、全然登れなかったようです。おそらくチャクラが弱くなり過ぎて木に吸着できなかったのでしょうね。
そしてサクラちゃんはというと……
「案外カンタンね!」
すごい……まだ1回目なのに、かなり上の方にある枝に座っています。チャクラコントロールの達人ですね。コツとか教えてほしいです。
カカシ先生もサクラちゃんを褒め、ナルト君ものっかり。当のサクラちゃんはというと、不満そうに顔を背けるサスケ君を見てがっくりしていました。普通にもっと誇っていいことだと思うのですが。
そのままニコニコと、カカシ先生はサクラちゃんを褒め──
「この分だと……火影に一番近いのはサクラかなァ。誰かさんとは違ってね」
煽る。
「それに、うちは一族ってのも案外たいしたことないのね」
煽る煽る。なんか先生、楽しそうです。
まあ、おかげでナルト君もサスケ君もかなりやる気は湧いたようですが。
「カタナは……影分身は解いた方がいいな。力み過ぎだ」
「は、はい」
あ、煽られませんでした……何を言われるかドキドキしていたのですが。アドバイスをいただけたのは嬉しいものの、なんかちょっと物足りないような気がしてしまいます。
影分身を解き、もう一度落ち着いて登ってみると。先ほどよりも高くまで登れ、印を刻むこともできました。やはり気持ちの問題なんですかね。
経験値2倍!とちょっと浮かれすぎていたのかもしれません。それを言うと、挑発されたナルト君とサスケ君はますます不利になってしまうことになるのですが……いえ、カカシ先生には何かお考えがあるのでしょう。きっと。
サクラちゃんはと見ると、やはりするすると登れているようです。見ているだけだと簡単そうに見えるのですが、実際にやるとなるとなかなか難しいものですね。嗚呼、あの枝が、遠いです……。
「サクラちゃん、すごいですね。わたしはそこまで高く登れません……コントロールのコツなどがあるのでしょうか? もしよろしければ、教えていただけたらなと」
お願いします、と言うとサクラちゃんは快く教えてくれました。優しいです。
「カタナもほとんどできてると思うけど……精神エネルギーを使うから、リラックスして木に集中すんの!」
「なるほど……ありがとうございます! やってみますね」
リラックス。一度目を閉じて、深呼吸でもしましょう。よし、帰ったらツナミさんの美味しいご飯が待っています。早く帰るためにも、ここで頑張らねば……って、あまり余計なことを考えてはいけませんね。
身体エネルギーと精神エネルギーを合わせて、足の裏に一定量集めて────集中して走り切る!
先ほどまでとは少し、違う感覚。
タタタタ、と軽快な音を鳴らしながらわたしはなんとか木の枝に到達することができました。3回目にて成功ですか……まあ、一応年上の面目は保たれそうです。アドバイスをいただけたおかげですね。
「サクラちゃんのおかげで登れました。ありがとうございます!」
わたしがそう言うと、サクラちゃんはサスケ君をちらちらと見ていました。……サスケ君はこちらを気にするそぶりも見せません。一緒に修行したいようですが、難しいと思います。かなりプライドが高いようですし、さっき煽られたのが効いているようですから。
「サスケ君が疲れてきた頃にこそっとコツを言うとか、ナルト君に教えるフリをして大きめの声で言うとかすれば、気の利く子だと思われるんじゃないですかね?」
「っ! カタナって……いい人よね……!」
サクラちゃんの中ではサスケ君を狙わない女子はいい人と判断されるようです。わりといると思うのですが、サスケ君は忍者学校でそんなに人気だったんですかね? クラスを覗いてみたことはありますけれども……どうだったでしょうか。昔のことなのでいまいち記憶にありませんが、ナルト君となにか話していたようななかったような……わかりませんね。
結局あのあと何回も木登りに挑戦して、わたしとサクラちゃんはかなりヘトヘトになりました。が、サスケ君とナルト君はわりと元気そうでした。男の子って元気ですね。ただ、2人ともまだ木登り修業を終えることはできず……でもすぐにできるようになるのではと思います。ナルト君がサクラちゃんにコツを聞いた時、サスケ君にも聞こえるような声で話してあげてましたし。カカシ先生の煽りが効いていただけで落ち着いてやればできるようになると思います。きっと。
先生から修業を終えていいとお墨付きをいただき、明日はわたしとサクラちゃんがタズナさんの護衛を務めることになりました。
……そう、わたしたちは護衛任務をしていたんですよね。修業に熱中してしまって完全に頭から抜け落ちてました。みんな打倒再不斬に燃えているのですが、お仕事はタズナさんを守ることで……ま、まあとりあえずタズナさんが無事でよかったです……ごめんなさいタズナさん。次からはきっちり護衛を頑張りましょう。
さて。明日は波の国に来て初めて町中を歩く、ということでサクラちゃんと2人でキャッキャと興奮しています。できれば帰る時には何かお土産とかもあれば買いたいですよね。
「……ところで! ねえねえ、カタナって好きな人とかいないの?」
「好きな人、ですか……」
サクラちゃんほどわかりやすい人もなかなかいませんよね。一途でいいと思います。ナルト君がちょっと、いえ、かなり可哀想なのですけれども。
「そうですね……今のところいませんが、玉の輿には憧れます」
「えっ……」
「あ、うちはを狙っているとかはないのでご安心ください。どちらかというと年上の男性に憧れますので」
「そうなんだぁ」
すっごく安心していただけました。何よりです。サクラちゃんとサスケ君はしっかりしているので時々忘れてしまいそうになるのですが、2つも年下ですからね。ナルト君は……年相応でいいと思います、はい。カカシ先生も最近はだらっとしたお姿をよく目撃するようになって、貴方大人ですよね?と思うことが増えています。とりあえず遅刻はやめていただきたいのですが……。
それにしても、うちはって名家ですけど内容が不透明ですよね。財産とかあるんでしょうか……いえ、あるんでしょうけれども。普段の生活を察するにナルト君の方が心配ですね。食生活も含めて。
「はい。そうですね……莫大な財産を持つ余命僅かな方に『残り少ない時を……君と過ごしたいんだ……君とは年が釣り合わないと、わかっているが……』とか言われるとキュンと来ますね」
「それでキュンと来ていいの!? ただの財産狙いの後妻じゃない……!」
「大丈夫ですよ。きっとそのうち信頼関係も芽生えるものです」
「財産狙い認めたぁ!」
失礼な。半分冗談ですのに。
……でも、どのみち。いくら愛し合っているように見える人たちでも、裏切られることはあるのです。だったら初めからお金目当てだとか、家のための結婚だとか、そういう目的があって嫁いだ方が幸せかもしれないと、そう思ってしまうのです。前世の記憶で、
「まあ、冗談はさておき。そういえばわたし、サスケ君のことで一つずっと気になることがあるんですよ」
「サスケくんの? なになに?」
「サスケ君って、どういう意味で『ウスラトンカチ』と言ってるんだろうな、と」
あとサクラちゃんのしゃーんなろーの意味も気になりますけど、あれはたぶん気分というか気合というか掛け声ですよね。聞いても意味ない気がします。
ウスラトンカチは辞書的には反応の鈍い人、役に立たない人ですけど、そこまで言ってはないような……おバカさん、くらいの印象を受けるのですが、どうもわたしはまだこの班員たちの関係性を完璧に理解できてはいないんですよね。サクラちゃんがなぜサスケ君を好きなのか、ナルト君がなぜサクラちゃんを好きなのか、サスケ君がなぜいつもスカ、いえ、カッコつけているのか。学校で一緒ではなかった分、これからお互いを知って仲良くできたらとは思うのですが。
「あー。ナルトにいつも言ってるヤツね」
「はい。おバカさん、とかあたりですかね?」
「そうなんじゃない? あの2人、アカデミーでもいつもあんな感じだったもん。ナルトがサスケくんにつっかかってさぁ。班の顔合わせの日なんてサスケくんのファーストキスを奪ったのよ! キッスを!」
ほんっと嫌なヤツ!と言うサクラちゃんでしたが、初めに会った時よりはナルト君に甘くなった、と言いますか仲間として認めてはいる感じがします。
……あと、ファーストキスってどういうことでしょうか? 班員の新たな情報に少々戸惑いが隠せません。まさか、ナルト君がサクラちゃんを好きだというのはフェイクで、実はサスケ君のことが好きなナルト君は恋のライバルを舞台から降ろそうとしているとかでしょうか。いえ、邪推はよくないですね。たぶんただの事故でしょう。
「それはお気の毒です……でも、同性はノーカウントでいいんじゃないですか? 今度サクラちゃんがサスケ君とキスしたら、それがファーストキスということでいいと思いますよ」
「さ、サスケくんとキス!? う、うん、そうよね。そうよね! 次は私が奪えば万事解決よね!!」
「その意気です。わたしはサクラちゃんを応援していますよ」
「カタナぁ……ほんっとカタナっていい人だわ。私も、カタナの玉の輿、応援はしないけど見守るわね!」
「応援はしてくれないんですね……」
ちょっと残念です。
印を結ぶ→基本の印は子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥という十二支の名前。よくあるニンニンみたいな手の形とか色々とある。
描写は飛ばしているけど忍術を使うときはたいてい印を結んでいるのです……。
なんでカタナは3回で木登りできたの?
→アカデミーで2年余計に学んだぶん、チャクラコントロールについてもある程度学んでいるから。よってそうでないにも関わらずあっさりできたサクラちゃんの方が明らかにコントロール力が上。