木ノ葉のお札屋さん   作:乙欄

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誤字報告、ありがとうございます。


6枚目

「ふぁ〜〜。ね、カタナ……ひまじゃない?」

 

「ええ、まあ、否定することはできませんが……警戒も必要は必要ですし」

 

 タズナさんたちが作っている橋は近くで見ると余計に大きく見えました。かなり立派な橋です。その作業も専門的でお手伝いの余地はほとんどありませんでした。まあ、護衛である以上工事の手伝いをしてはいけないのでしょうけれども。

 

 はじめの頃はきっちりと警戒していたのですが、こうも何もないと手持ち無沙汰に感じてしまい──読書やお札作りなんかをしたいなあという考えがちらちらと頭に浮かんでしまいます。

 

「なんかこうしてると任務前の時間を思い出すわよね」

 

「そうですね……カカシ先生、平気で3時間くらい遅れてきますからね。困ったものです」

 

「カタナってもとからの知り合いなんでしょ? なんかこう、ガツンと言ってくれない?」

 

「一応、苦言は呈しましたよ。ただ、相手が上忍なので秘密任務とかあったりする可能性もあると思うとあまり強くは言えないんですよ」

 

「えー。任務前に任務が入るってあるの?」

 

「さあ……?」

 

 店に他の上忍の方が来ることもありますけど、何をしているかはよく知りませんし。いえ、知っていたら問題ですけど。情報漏洩ですからね。

 

「でもカタナが口寄せできるようになってからはマシになったわ」

 

「本来の使い方からはだいぶ外れてますけどね……まあ、あの時間を札作りに当てられるようになったのは幸いでした」

 

 口寄せの術。本来なら契約した動物等々を呼び出すものですが、同じ原理の封入・開封の術では忍具なんかを取り出すこともできます。わたしはそれで巻物から机やら椅子やらを出して空き時間にお札作りに励むことにしたわけです。だって暇ですし、ノルマもありますし……そしてついでにこの時間を使ってあることを試みました。多重影分身の術を得意とするナルト君がお札を作れたらすっごく効率がいいのではと考えて、ちょっと札作りの基礎的なやり方を教えてみようとしたのです、が……結論としてナルト君には向いていないことが判明しました。まずじっとしているのが苦手のようですし、文字を同じように書き写すことも、書き方を記憶することも難しいようで──どうもナルト君は自分の興味のあること以外は集中力がすぐ切れてしまうらしく、何回か一緒にやったもののわたしは泣く泣く諦めたのでした。本人も飽きちゃったっぽかったですし……いいアイデアだと思ったんですけどね……。

 

 巻物には本等も入れているのでみんなの本棚とも化しています。ときどきみんなで仲良く読書することもあり……時空間忍術を教えてくれたテンテンには感謝ですね。よくお札を買ってくださいますし、わたしの1コ下と年は違えどよく助けになってくれる、本当にいいお友達です。

 

「あ! 今もしかして何か持ってたりするの?」

 

「いくばくかは持ってきましたけど、カカシ先生に預かっていただいています。落としても嫌ですし」

 

「そっか。そうよね……」

 

「ごめんなさい。お家へ行ったら、本とか出しますね」

 

「ありがとう! お願いね」

 

 よし、帰ったら巻物を出しましょう。今までは色々と疲れていてお札を作る気力も湧かなかったんですよね。そろそろ書きませんと。あ、あとタズナさんに写真のことをお尋ねし忘れていましたね。

 

 そろそろお昼ですし、お家に帰ることになります。となると聞きづらいので……帰り道、お昼ごはんの材料を買う時に聞きましょうか。

 

「ちょっといいか……タズナ」

 

 作業をしていた人の一人が声をかけ、今日は終わりなのかなと腰を浮かしたわたしたちでしたが、違いました。タズナさんの昔なじみであるらしいこの方──ギイチさんは橋作りを辞めたいと、ガトーに命を取られると、そう訴えたのです。ずっと一緒に頑張っていらした人ですら橋作りをやめてしまうのでしょうか。2人ともとても悲痛な声で話しています。

 

 こうして、タズナさんの協力者は一人また一人と消えて行ってしまったのだろうなと簡単に想像することができました。でもギイチさんも橋作りを本当は手伝いたいこと、タズナさんのことを心から心配しているのは伝わってきて……だからタズナさんは静かに受け入れて「もう来なくていい」と言ってあげたのでしょう。その背中は、ひどく寂しそうに感じられます。

 

 そんなタズナさんに何も声をかけることができないまま、わたしたちは波の国の町へと足を踏み入れました。

 

 町は……町と呼んでいいのか、と思うような有様でした。建物は基本的にボロボロで、行き交う人は多いもののみんな暗い顔をしています。仕事を求める人や、物乞いをする子ども。誰もがうつむいています。

 

 八百屋には商品がほとんど無く、わたしは自分の浅慮を恥じました。ツナミさんがお金を受け取ろうとしなかったのは遠慮などではなくお金を持っていてもあまり意味がないからだったのやもしれません。並んでいる数少ない野菜でさえ状態が悪いのが見て直ぐにわかります。……帰ったら、巻物から非常食を出しましょう。

 

 店内には人はわずかでした。食料を買うお金もない、ということなのでしょうか。店員さんも商品とレジの金を守るという固い意志が見られ、客商売の意識があるかは微妙なラインです。「いらっしゃい」も適当でしたし。こんな現状ではやる気が出ないのも理解できますけれども。

 

 そして。コソコソと近づく気配が背後にありますね。流石に相手が同業者でなければすぐに気付けるようになってきたものです。

 

「……どうかしましたか?」

 

 振り返ってジロリと男を睨むと、客を装った男はそそくさと店を去ろうとしました。

 

「い、いや、な、なんでもないよっ」

 

 わたしのポーチに手を伸ばしていたことから、金目当てのスリだろうなとは検討がつきます。が、捕まえてもどうにもならないでしょう。未遂になりましたし。

 

「どうかしたかの?」

 

「いえ。大丈夫です、タズナさん。ありがとうございます。……それでサクラちゃん、手荷物には気をつけてください」

 

「わかったけど、ポシェットにもたいしたものは入ってないわよ?」

 

「ええ。でも、どうもこの辺りではわたしたちの服は目立つようです。金目の物を持っている可能性があると思われていそうですね」

 

 実際、その通りのようでした。店を出て歩いてもスリらしき人がちらほらと見受けられます。こちらが気づいたことがわかると寄っては来ませんが……タズナさんが国を憂う気持ちもわかりますね。

 

 あ、そういえばそうです。

 

「タズナさん」

 

「なんだ?」

 

「あの、食卓の壁に飾ってあった破れた写真なんですけど、どなたが写っていたのかお聞きしてもいいですか?」

 

「それ私も気になってた! イナリくんがよく見てるヤツよね」

 

「そうか…………」

 

 気分を害したかな、と思いましたが、そうではなかったようです。わたしの勘違いかもしれませんが、誰かに聞いてほしかったようにも感じました。

 

 タズナさんは破れた写真に本来写っていた人物について、悲しそうに語り始めてくださいました。

 

 イナリ君の血の繋がらない父親。ツナミさんの夫。……町の、英雄。

 

 3年前、イナリ君が悪ガキに海に落とされた際に助けてくれた男で、カイザという国外から来た漁師だったそうです。豪雨で町が全滅しかけたときには激流に入って堰を止めたんだとか。

 

 しかしそんな英雄視される彼を邪魔に思ったガトーが、テロの容疑をかけてカイザさんの公開処刑を行ったそうです。町のみんなの、そしてイナリ君の、目の前で。

 

 それ以来、イナリ君は変わってしまい、笑わなくなり。町のみんなからも『勇気』が奪い取られてしまった、と。

 

 カイザさん……そんな、イナリ君にそんなことがあったなんて──

 

「うっ…………んくっ」

 

「え、ちょ、カタナの目に涙がっ!?」

 

「す、すまん、嬢ちゃん、泣かせる気はなかったんだが……」

 

 こういう胸を締め付けられるような話には弱いんですよわたしはっ! 泣いてはないです。ちょっとうるっときただけです。

 

 でも駄目ですね。忍の心得第25項。忍びはどのような状況においても感情を表に出すべからず。任務を第一とし何ごとにも涙を見せぬ心を持つべし、ですのに。

 

 ええい、全部ガトーカンパニーのせいです。許すまじ。けちょんけちょんにしてやりましょうとも。

 

 

 

「……と、いうわけでして!」

 

「え? ……うん、話はわかったけどね。だからってガトーのところへ行く必要ある?」

 

 修業していたナルト君とサスケ君にも休憩しようと言ってカイザさんとイナリ君のことを話してあげた後、カカシ先生にも同じ話をしてガトーの調査をしたい旨を伝えると……あまり感触はよくありませんでした。わたしは護衛をして、その影分身は調査を頑張るというのはいいアイデアだと思うのですが。それにガトーカンパニーを潰すのも必要でしょう。公開処刑だなんて横暴する輩をのさばらせるわけにはいきません!

 

「攻撃は最大の防御です! もちろんガトー本人には手を出さず、諜報のみに力を注ぎますから……! それに、影分身の持続時間もチャクラも問題ないと思います」

 

 わたしたちは忍者学校で諜報のやり方も学んでいます。あとこう言っては失礼かもしれませんが、波の国のレベルからして諜報活動に問題があるとは思えませんでした。

 

 影分身は我が家にとってはお札量産のための手段ですが、本来は諜報に使うものですし。影分身もちゃんとしたやり方で使ってやった方が喜ぶでしょう、きっと。

 

「……うーん……」

 

「お願いします……!」

 

 じっと瞳を見つめられたのを、こちらも見返します。少しのせめぎ合いの後、先生はやがて根負けしたように視線を外してため息をつきました。聞き分けの悪い教え子で申し訳ないです。

 

「……わかった。ただし、やりすぎないように気をつけること。あんまり刺激してあちらさんに動かれるとむしろこっちが困っちゃうでしょ。いいね?」

 

「わかりました! ありがとうございます!!」

 

「ハイハイ……まったく、ナルトにみんな影響されちゃった? 一番依頼に乗り気じゃなかったカタナがこんな積極的になるなんて……」

 

「うぅ、手の平返しがはやいと言われてしまうと何も言えないのですが……はい、ナルト君を見ていて引っ張られた部分は大きいと思います。サクラちゃんも、サスケ君もそうですし……先生だって、この依頼を引き受けたのは少なからずナルト君の影響がありますよね?」

 

 再不斬を倒せたのもナルト君の勇気があってこそです。ときどき空回りもしちゃってますけど、彼の明るさに7班は助けられていると思います。時々困りもしますけども、まあ。

 

「……そうだね。でも褒めるならナルトに直接言ってやって。アイツきっと喜ぶから」

 

「はい! でも、カカシ先生からおっしゃってくださった方がきっと喜ばれますよ。わたしを含めみんな先生のことを尊敬していますから……基本的には」

 

「……だらしない先生でごめんね」

 

「いえ。ただ、報告書を回してくるのは控えてほいただけたらなあ、と……」

 

 任務の報告書を書くのは、先生が3割でわたしが6割、あと他の人にわたしが書き方を教えながらが1割ってくらいになってるんですよね。書き物は慣れてるのでいいんですけど、ああいうのって普通、上忍のお仕事な気がします……実際、報告書のカカシ先生のサインが必要なところ、先生がつかまらなくて何度か自分で書こうかと悩みましたし。ご自分でやるか、サインを書く前に消えないでいただきたいのです。

 

「んー……だって書くの速くてキレイなんだもん。報告書、オレが書くより評判いいよ」

 

「あ、ありがとうございます。それはよかったです」

 

「うん、ということで今回もよろしくね。頼りにしてるよ」

 

 この長期任務の……報告書、ですか。いえ、やりますけど。確かにカカシ先生は療養中ですし、ゆっくりしていただきたいですけども。

 

「わかりました。でもどう書けば……そのまま書いちゃうと駄目ですよね?」

 

「そうだな……いや、カタナは本当のこと書いといてよ。あとの判断はオレがするからさ」

 

 まあ、わたしが嘘を書こうとしても経験が浅いので上手く書けませんからね。本当のことは火影様だけにこっそり報告、とかになるんでしょうか。

 

 もちろん今はタズナさんを守ることが優先ですけど、橋ができて帰ったらどうするのか……ガトーカンパニーの隠し財産とかあれば奪って依頼料の補填に当てればいいんですかね。でもわたしたちは忍者であって盗賊ではないですし……ガトーを脅す? けど裏社会に通じてるらしいガトーには効かなさそうですよねぇ。むむむ……。

 

「大丈夫。子どもは難しいこと考えないでそーゆーのは先生に任せときなさい。責任は全部オレが取るよ」

 

 ポンポンと頭を叩かれます。普段の行動を鑑みるにちょっとばかり心配になるんですけれども……いえ、先生は上忍。情報戦でもプロフェッショナルでしょうし、信じましょう。……だ、大丈夫ですよね?

 

 

 

 

 

 

「どうでしょうか? 町に紛れられそうですかね?」

 

 タズナさんの護衛ならいいのですが、諜報となるといつもの服で目立ってしまってのは避けたいです。故に、ツナミさんの服をお借りしているのですが……やはりちょっとぶかぶかですね。でも流石にイナリ君の服は入りませんし、タズナさんの服はもっと大きいので、ツナミさんにお借りするのが一番でしょう。

 

「ええ、大丈夫よ。よかったわ、ちょっと大きすぎるかと思っていたけれど……よく似合ってるわよ」

 

「ありがとうございます! では、行ってきます」

 

 気をつけてね!という言葉を背に、影分身(わたし)は町へと足を急がせました。まずはガトーの周りの洗いだしです。地道に足で探し出しましょう。

 

 ガトーの配下がいれば町中ではかなり目立つと思います……ツナミさんに太鼓判を押していただきましたし、影分身(わたし)の方は上手く紛れていると信じています。前のように視線を感じることもありませんし。町は変わりなく活気のない様子で、どんよりと暗雲が立ち込めている風にすら感じられます。影分身(わたし)もどんよりオーラを出して歩きます。どんより。

 

 ガトーカンパニーが流通を握っているということなので、その流れを辿っていくと社員をあっさりと見つけることができました。危険を考えて接触は控えていますが、どうも話を盗み聞く限りではガトーは吝嗇家かつ性格も悪いので社員からも好かれてはいないようです。

 

 波の国におけるガトーの行動についてもなんとなくわかってきました。まず、ガトーはいつも配下のならず者にボディーガードをさせています。命を狙われる立場だということをわかっているのでしょう。ざっと50人以上と大量にいて、侍崩れっぽいのも混じっていたりして流石にあれを突破するのは難しそうです。例え先生が万全でも厳しいんじゃあないでしょうか。

 

 ガトーの波の国における支配力ですが、少なくとも賛同している人はいないようです。まあ虐げられていますし、当然のことでしょう。大名たちも抵抗したくともお金がなく、細々とタズナさんの支援をする人がいるくらいで、奉行所は犯罪発生率の多さにてんやわんやでガトーという巨悪を裁くような余力はなさそうでした。みんなガトーに従いたくはないものの、やむを得ず諦めているような現状のようです。

 

 そんな人々に対してガトーはというと、どうせ波の国からは出られないのだからと完全に舐め腐っているといいますか、窮地に陥る人々を見て楽しむような醜悪さを見せつけています。なにか波の国に恨みでもあるのでしょうか。

 

 運送業の方は表向きクリーンと言いますか、一応表の人間がやっているようで、波の国の現状に眉をひそめつつも雇われ人であるからと社員は淡々と仕事をこなしている感じです。こちらの会社の方にガトーが足を運ぶことがないことからするに、経営は別の人物がやっているのでしょう。ガトー本人は自宅で豪遊していたり船で別の国に行ってることが多いようです。忍びやボディーガードとの契約書がある可能性も一番高いですが、警備が固く秘密裏の侵入は困難を極めるでしょう。うーん、残念ですがひとまず諦めます。

 

 

 

 実はもう1つガトーの手下に警備されている家を発見しまして、そちらは一見普通の家という感じでした。別荘でしょうか? それにしてはこじんまりとしてますし、ガトー宅とも距離も近いんですよね。……愛人が住んでる、とか。ありそうです。あとは何かを隠した倉庫の可能性もありますね。中身はさておき、こちらでしたらガトー宅よりは警備も甘く、人の出入りもほとんどないので侵入が容易そうなのです。夜になると手下が集まって酒盛りしていて、流石ならず者と言いますか、勤務態度が不真面目です。

 

 ──突入、しますか。わたしは影分身なので攻撃を食らっても消えるだけで、本体にダメージがいくこともありませんし。ただ、本体か影分身が術を解く前に消えてしまうと影分身の記憶は残らないんですよね。影分身はちょっとダメージがあっただけですぐ消えてしまいますし……でも、躊躇っていては何も始まりませんよね。

 

 よし、1階でならず者たちが酒盛りしている今、2階の窓から行きましょう。みんな酔ってるし騒いでいますし、外から見える範囲では2階に人はいません。

 

 チャクラ紙を燃やして窓ガラスを炙ります。数秒後、パキッという音ともにガラスが割れました。よしよし。下の様子は……特に誰も気づいた様子はなさそうです。ガハハと響く笑い声やカチャカチャとした食器の音で聞こえなかったのでしょう。

 

 そーっと、そーっと侵入します。入った部屋は空き部屋なのか、特に何も置いてない部屋です。見ていた限りではこの部屋には人が入って来ることもなかったので侵入には気づかれにくいとは思いますが、さっさと行きませんと。

 

 音を立てないようにドアを開け、そっと廊下を覗きますが……特に誰も見えませんね。同業者がいたらわかりませんが。下への階段と、あといくつか部屋があります。

 

 向かいの部屋だけ鍵がありますが、それ以外は特に鍵はありませんでした。……とりあえず、鍵のない部屋を先に見ておきましょう。

 

 入って来た部屋以外は空き部屋ではなく衣服や食料品、日用品などが乱雑に置かれていました。特にめぼしいものはありません。金庫や書類などを期待していたのですが、残念です。まあ、あったら鍵をかけますよね。

 

 そろそろ2階に上がって来る人も現れるかもと警戒しながら進みますが、特に何もなく向かいの部屋のドアに辿り着きます。よく見ると、部屋の中ではなくこちら側から鍵がかかっていますね……あと、家の外から見る限りではこの部屋の位置には窓もなかったのです。

 

 つまり、この部屋は中から開けさせたくなく、外からも見えないようにしたいということです。確かに今思えば警備の方法も、この家に人が近づかないようにして、この家から人を出さないようにして、という感じの動きでした。ドアに耳を近づけると誰かが動いているような音がします……やはり、誰かがここに監禁されているということでしょうか。

 

 まさかガトーが失敗した罰として再不斬を入れてる、なんてありませんよね……? 奴は死んでいると、そう思いたいのですが。まあ、考えていても仕方ありません。

 

 静かに、手早く鍵を操作して……よし、開きました!  バッと行ってバッと制圧しましょう。

 

 いち、にの……さんっ!

 

 部屋のドアを開き中に入ると、そこには────

 

「? 夕食ですか? いつもと時間が……」

 

 背の高い、ひょろっとした感じの中年男性がいました。スーツを着ていて、身なりは整っています。椅子に座って何やら書類に書いているようでした。これは……ガトーの手下の一人ということなのでしょうか?

 

 再不斬とか忍びではなくてほっとしましたが、この人の立場が読めません。普通に聞いてみましょうか、ええ。

 

「お静かに。質問に正直に答えてくだされば、悪いようにはしません。質問以外のことを話そうとしたりすれば……わかりますね?」

 

 そっとクナイを首筋にあてると、男性は顔を青くしながら必死にこくこくと頷いてくださいました。話が早くてとてもありがたいです。

 

「ここは、何の施設ですか?」

 

「わ、私が波の国で住むためにとガトーが提供した家だっ」

 

「貴方の名前、ガトーとの関係は?」

 

「私はザッハ。ガトーカンパニーの副社長で、表側の仕事を取り仕切っている。そしてガトーの友人……だった」

 

 ザッハさんがビクつきながらも話してくれた内容をまとめますと────

 

 ガトーカンパニーは波の国出身のガトーと、その友人ザッハによって海運会社として設立された。社交の上手いガトーが社長となり、ザッハは主に実務面からサポートしていた。2人は仲良くやっていたのだが、ある日、ザッハはガトーカンパニーの仕事にただの海運会社のもの以外のものが含まれていることに気づいてしまう。ガトーを問い詰めると、裏社会を利用してあくどい商売をやっていることを白状した。ザッハの見ていたガトーカンパニーは表向きのものだけだったのである。そんなことはやめろと訴えるザッハを、ガトーは「昔のよしみだから殺さないでやる。その代わり今まで通り私のために働け」と言って監禁。波の国にもガトーとともに移動させられ、今に至る、と。

 

 …………

 

 ………………わかっては、わかってはいましたけど。ガトーってかなりの悪党ですよね。ここにも被害者がいるとは。

 

「────ありがとうございます。ところで、夕食が来るのはいつなのですか?」

 

「いつも通りならあと30分後だ」

 

 なるほど。ではその時にバレることのないように鍵も元通りにしませんと。急ぎましょう。

 

「では手短に。ザッハさん、わたしはガトーカンパニーを潰したいと思っているのですが……ご協力いただけませんか?」

 

「それは、脅しか……? いや、脅しでもいいか。もちろん、喜んで協力するさ。私はガトーを止めないとと考えながらも、彼が怖くてこの部屋で怯えているだけの人間だったんだ。この際、君が誰であろうと、どんな思惑があろうと……こんな悪行を止めさせられるなら私は何だってやるよ」

 

 ザッハさんの瞳は決意に燃えていました。あの再不斬襲撃の時のタズナさんと同じです。実を言うとザッハさんのことはまだ少し、疑っていたのですが……その瞳を、彼を、信用しましょう。

 

「交渉成立ですね」

 

 影分身(わたし)はクナイを仕舞いました。

 

「ところで再不斬という名前はご存知ではありませんか?」

 

「ああ。下の連中が何やら話していたような……あんな偉そうにしてたくせに大怪我しちまってざまーみろ、だとか」

 

「……それ、最近のことですか?」

 

「昨日の話だ」

 

 あー、先生、大当たりでしたね……再不斬、生きてます……とりあえず帰ったらご報告しなければ。

 

 部屋に人が訪れる時間等々を聞いて、また明日訪ねる時間を決め──影分身(わたし)は部屋を出て鍵をかけなおしてから、術を解除しました。

 

 

 

 

 

「おはようございます、ザッハさん」

 

「おはよう」

 

 監禁部屋に来るのもすっかり手慣れてきました。特に誰にも気づかれてないとのことで、ほっとします。影分身(わたし)の侵入がバレてザッハさんがなにかされないかといつも心配になるのです。ガトーとしてもザッハさんは必要な人材なので殺されることはないとは言っていますが……世の中、何が起こるかわからないものですから。

 

 ザッハさんはかなり優秀な人らしく……監禁されてもなお仕事が回ってきているようで、影分身(わたし)が来た時もずっと書類から目を離しません。毎日書類が運び込まれては会社に戻されていくそうです。ガトーは……社長のくせに、何の仕事をしているのでしょうか……? まあ、裏社会のアレコレですかね、ええ。

 

 ザッハさんからは会社を潰したい気持ちはわかるけど、社員たちはどうするんだ?と言われ、ガトーを社長の椅子から引きずり下ろす方針になりました。ガトーのサインを私が真似て書くことで、会社の全権がザッハさんに委任されたという書類を作る、という方策だそうで……確かに文字をそのまま写すのは得意ですけど……偽造文書ですよね、それ。まあ人助けと思えばいいのでしょうか。うーん……。

 

 ガトーカンパニーの社長でなくなったガトーには、裏社会を利用できるような影響力はなくなるとのこと。乗っ取られている国や会社も、前の体制は残ったままではあるので、ガトーがいなくなればやがては正常化できるだろうということです。ただ、ガトーの連れてきた裏社会の連中はボスが消えてもどう動くかはわからないのでそれは課題だそうです。早々に手を引いてくれればいいのですが──そこはもう、祈るしかありませんね。

 

「それと、一つ。君の話を聞いて考えたことがあるんだ。木ノ葉の忍である君に言うべきかは迷ったんだが……」

 

 あくまでも自分の想像だ、と前置きしてからザッハさんは話しました。

 

 タズナさんが木ノ葉まで来れたのは、ガトーが見逃していたからじゃないか、と。抜け忍である再不斬とわたしたちを戦わせることで疲弊させ、再不斬が勝とうが負けようが殺すことで金を払わなくてよくするのだ、と。

 

 実際、抜け忍をガトーが雇ってもいつの間にか消えているらしく…………と言いますか、ツケ払いを踏み倒しているんですかね、ガトー。この予想ですと。悪人レベルがどんどん上がっていきます。

 

「そうだとしたら余計に許せませんね。忍びをなんだと思っているのでしょうか」

 

「ああ。たぶんアイツは……本来は自分よりも強い者である忍が自身の手で殺されることを見て楽しむ。そういうことをする人間に……堕ちちまったんだ。想像できるよ、残念なことに」

 

 

 ザッハさんは次、襲撃があった時は囮にしてくれ、と言ってきました。自分が逃げればガトーは必ず追ってくるから、と。それと再不斬にも申し訳ないので、直接話して自分が最後の命綱として隠し持っている宝石―――ガトーの目を誤魔化すため糸をつけて歯にかけて飲み込んでいたのだとか。今は取り出して部屋に隠しているそうです―――渡すことでなんとか穏便に帰ってもらいたいそうです。

 

 まあ、確かにガトーを引っ張りださないことにはどうしようもないですからね。ザッハさんを社長にするという偽造文書だけあっても、ガトーがいればみなガトーの指示に従ってしまうでしょうし。ガトーを排除する方法については考えがある、とのことでした。詳しくは言ってくださらず……何か脅迫手段でもあるのかもしれません。

 

 襲撃があったら影分身を解いて本体が迎えに来る、という話に決まり──後はザッハさんは黙々と書類を作っていました。本当にお疲れさまです。

 

 

 

 




……といいますか、班員の皆様、ろくな趣味をお持ち合わせでないのでは? わたしの方からみんなに読書の素晴らしさでもお伝えするべきなのでしょうか……。
→「巻物には本等も入れているのでみんなの本棚とも化しています。ときどきみんなで仲良く読書することもあり……」有言実行した。たぶんサクラとは恋愛小説とかを一緒に読んだりして、サスケには兵法書とか忍術書とか、ナルトには冒険譚とか渡しているイメージ。

「え、ちょ、カタナの目に涙がっ!?」
→わりと涙もろい。が、今回の忍以外の一般人の話だからであって、任務とか忍の生死に関しては判断はわりとシビア。

影分身は諜報のためのもの
→カカシ先生がナルトへ言ったこと。正確には「本来この術は危険な場所への偵察や敵アジトに潜入して情報収集に使う術でもあるからな」
影分身はただの分身と違っていわば自分のコピー人間を生み出す便利な術だが、戦闘で使おうとするとチャクラが等分されてしまうため持続時間等の問題があること、一撃入ると消えてしまう耐久性がネック。しかし消えるタイミングはまちまちなので術の熟練度が上がるとある程度のダメージには耐えきれる模様。ただしそれでも数撃で消える。
ナルトとカカシの修業の際、ナルトが影分身の分身体が消えた際にはその経験値が本体に蓄積されることをわかっていなかったこと、痛みのフィードバックの描写がないこと、影分身の術を解いた場合はチャクラが本体に戻ってくるが消された場合はチャクラが消えることから、「自らの意思でなく消されると痛みや経験は入らないため、攻撃を受けたりしても痛みはフィードバックされない。自らの意思で影分身を解除して消すと本体にその経験とチャクラが戻る。」と独自設定。
この経験値還元を利用しての修業方法をカカシが思いつくのは本来二部での話であったが、前話でカカシが既に思いついている感じなのはカタナがナルトに多重影分身をさせてお札作りをさせようとしたものの失敗した、という話をしたから。でもナルトにその修業方法をやらせないのはまだそこまでの基礎がなってないからやらせてもほぼ意味がないため。
ナルトが戦闘で多重影分身を使えるのはチャクラ量が規格外だから影分身を消されてチャクラが減っても問題ないからであり、カカシが影分身を戦闘で使えるのは使い方が巧みだからであって、カタナは戦闘で影分身を使うことはたぶんない。スズ取り演習時は演習だったからと残り時間も差し迫っていたため使用。なお、カタナがこの経験値還元に気づいていなかったのは分身体もお札作ってるだけで本体とほぼ変わらない経験をしていたから。

ガトーカンパニー→独自設定。あのならず者たちが真面目に運送業やってるとは思えないし社員もちゃんといるんじゃないかなあ、と。

奉行所→アニオリだと小国でもいたのでたぶん波の国にもいるのだろうと思い設置。警察的な組織。行政や裁判所も兼ねているらしい。
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