ド葛本社。
それは四人の『家族』
これはその最後の一人がやってくるお話。

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恩讐 その5

「・・・ちょっと大人気なくないすか」

「知ってるか。弱い奴が負けるんだよなぁ」

 

ひまわりとのゲームは次第に父、社築を巻き込むものとなっていた。

バトロワゲームから格闘ゲームにシフトした対戦の場はこの空間にいる男性二人による大決戦となる。

 

「それは・・・見え見えです」

 

この短時間でコマンドを覚えきって放たれた吸血鬼必殺のスーパーコンボ。だがその技モーションを社は見切り、全てをブロッキングした。

 

「は? ガードされた⁉︎」

「そして・・・はい。これでまた俺の勝ち」

「くそがぁぁぁぁ!!」

「あはははははは!!」

 

またも敗北し頭を掻きむしるサーシャの隣で高笑いをする社築。敗者を見下す彼はニヤニヤと意地の悪い顔をする。どう見てもいい歳した成人男性がして良い顔では無い。ここまで十戦十敗のサーシャはコントローラーを投げ出すと床に突っ伏した。

 

「いっこも勝てねぇ・・・。俺、弱ぇ!!」

「だはははははは!!」

 

それを聞いて高笑いをもう一つ飛ばした家長は満足げにコントローラーをひまわりに返す。

この屋根の下で一番ゲームが上手いのは勿論、社築だ。それは彼が幼少の頃から足繁くゲームセンターに通い、幾多の強豪たちと競い合ってきたから。

何度も何度も勝って負けてを繰り返して、その果てに得たのはこの力。

ゲームなら、負けはしない。

これもひとつの『社築の強さ』であった。

 

「ほんまに弱いなぁ」

「今日初めてやるゲームで負けた奴に言う台詞じゃないっすよね⁉︎」

「でも負けたのは事実やろ?」

「ッ・・・言い返せねぇぇぇ」

 

社家におけるゲーマーコンビの片割れは容赦無く彼を追い詰める。その言葉に為すすべなく這いつくばるは真祖の吸血鬼。長い銀髪は床につき広がる。

その姿は数時間前とは意味こそ違うがプライドの欠片も無かった。

 

「ほな第二ラウンド、行こか」

「鬼だ・・・鬼しかいねぇ」

 

言い得て妙だった。

事実この空間には四人の鬼がいる。

ゲーマーの鬼、その一『社築』

ゲーマーの鬼、その二『本間ひまわり』

この場で最強、戦闘の鬼、『ドーラ』

そして吸血鬼、『アレクサンドル・ラグーザ』

狙って言ったわけではないのだろうが見事な台詞チョイス。

そんな事も知らず、もはや逃げられぬ事を悟った吸血鬼は震える手でコントローラーを掴む。

 

「せめて・・・せめて一勝を」

 

負けてばかりではいられない鬼のサーシャは目が血走る。

 

 

「おつかれ」

 

座った社の前にお茶が差し出された。微笑みながら隣に座るドーラは前方で遊ぶ娘と青年に目をやる。

それを横目で見ながら父は新たに淹れられた緑茶を啜る。甘い茶葉の香りが口中に広がっていった。

 

『上手くなったなぁ』

 

家に来た頃、彼女が初めて淹れたお茶は茶葉を大量にポットへぶち込んで自身の熱で煮立てた、謎の液体だったのを思い出す。マグマかと思う程にグツグツと音を立てるアレは決してお茶の生産者の方々へ見せてはいけなかった。申し訳が立たない代物だ。

過去を懐かしんでいると視線を感じた。いつの間にかドーラが自分を見つめている。赤い瞳は今日も光り輝き、とても綺麗。最近は少しだけ慣れたとはいえ、この距離はやはり破壊力が凄い。長年女性には縁の少なかったオタクには毒だ。猛毒である。

 

「い・・・いかがなさいました?」

 

思わず丁寧な口調になる。同時にちょっとだけ仰け反ってしまう。彼女の事が嫌いなわけではない。ただ耐性が無いだけである。

挙動不審な彼にドーラはにっこりとした。

 

「のう築。お願いがあるのじゃが」

「な・・・なんですかい?」

 

またもや口調がおかしくなる社築。そんな可愛い反応をする彼にドーラは買い物用のバッグを突きつけた。

 

「夕飯の買い物をお願い出来るか?」

 

時刻は夕刻。そろそろ夕ご飯を作り始める時間だ。それを見越して彼女は続ける。

 

「買って来て欲しいものはメモをとってあるからの。宜しく頼むぞ」

「もちろんですぜ親分」

 

何故か下っ端口調で答える社は鍵と財布とスマホを手に取るとリビングを出て行こうとする。扉を通る瞬間、立ち止まるとドーラに振り返った。

 

「すぐ戻る」

「あぁわかっとるよ。大丈夫じゃ」

 

その答えでドーラは自分の考えが伝わっている事を感じた。短い付き合いだが、彼の理解力の高さは理解している。あえて口には出さなかった自分の思いを的確に汲み取ったからこそ言ったのだろう。

さっきの言葉には聞こえない続きが込められていた。

 

『大丈夫だと思うが?』

 

だからドーラも返したのだ。

 

『でも万が一のためにな』

 

と。

言葉は少なに伝わり合う二人は片やどこか困った様に、片や真剣に頷き合う。

いつもなら買い物に行くのはドーラの役目だ。でもあえてそれを彼に頼んだ。それこそが吸血鬼に対する信頼の差額。彼と直接話した社と、話を伝え聞いたドーラの差。

絶対的な信用など彼女は持ち得る事が出来ない。

 

「頼んだぞ、築」

「・・・あぁ」

 

エコバックと財布を手にリビングを出て行く夫を見送るドーラの視線は鋭い。

社築は優しい。それは彼の美徳であり、同時に甘さでもある。それはいつか彼に牙を剥く。ドーラはそう考えていた。

だからこそ。彼女はその抑止になろうと気を尖らせている。

現在の懸念事項。

 

真祖の吸血鬼。

 

弱体化しているとはいえども総合的な戦闘力は自身に匹敵する存在がこのリビングにいる。彼女にはそれだけで充分だった。

目の前で娘と共にゲームに興じる姿はそれこそ年相応の少年。しかしその実態は伝説の存在なのである。

 

『わしは、この平穏を壊す輩を許すわけにはいかん』

 

暗い洞窟の奥で価値もよくわからない宝物と生きていた頃には感じられなかった想い。その頃はたった一人でいるのが当たり前だと思っていた。

だが偶然行き着いた夢酒場の店主に、初めて飲んだ酒に酔った結果、ふと溢した己すら知らなかった本心で全てが変わった。

 

『家族が、欲しい。もう一人きりは嫌なんだ』

 

店主はその願いを聞き届け、渡りをつけた。

そして出会ったのが社。そして彼の娘、ひまわりだ。紆余曲折あった後、二人と『家族』になった時に彼女は世界が変わったのがわかった。この世界は狭い洞窟が全てなのではなく、何処までも限り無く広がっているのを感じた。

 

だから。

ドーラはそれを壊すものをゆるさない。

自分の家族に害なすものをゆるさない。

だから。

目の前に現れ、娘を傷つけた吸血鬼をゆるせないのだ。

 

 

「ほい。ひまの勝ち〜」

「あぁぁぁ‼︎」

 

勝ち名乗りを上げるひまわりと本日何度目か崩れ落ちる吸血鬼。突っ伏したまま動きを止めた彼を満足そうに見下ろしたひまわりはコントローラーを置くと立ち上がった。

 

「ママ。ひまもお茶飲みたい!」

「はいはい」

 

可愛い娘の願いに急須に新たな茶葉を入れるとポットのお湯を注いだ。この家に来て何度も行うようになったその一連の動きを繰り返す。ニコニコ顔で隣に座る娘の湯呑みに緑茶を入れてやる。息をかけて少し冷ましたそれを一口飲んだ彼女は笑顔のままだ。

 

「美味しい!」

「そりゃよかった」

 

嬉しそうな娘の姿にドーラの表情も緩んだ。何度も息を吹きかけながら、自分の淹れたお茶を飲む我が娘。ドーラにはそれが眩しかった。人の姿を真似ているとはいえども、自分の本性はファイアードレイクであり、人では無い。そんな自分に寄り添い、『家族』と言ってくれる少女が本間ひまわり。社の話によれば、かつてはこの明るさを持っていなかったという。渋る社から話は聴きだしたが、それは熱い茶に息を吹きかけながらも笑顔を絶やさない今の彼女からは想像が出来ない。

だからこそ護りたい。

その言葉がドーラの全てだ。

 

 

「何呑気に茶ァ飲んでんすか! リベンジマッチっすよ!」

「お。まだ負け足りないんか?」

「今度は勝つ!」

 

サーシャの言葉にひまわりは再度彼の隣に腰を下ろすと父譲りの煽り笑顔を浮かべる。

 

「じゃあ負けたら、罰ゲームな?」

「え?」

「ひまが勝ったら、一つ言う事聞いてもらおかな」

「・・・やってやらぁ!」

 

 

 

「ただいま。遅くなった」

「おかえり。大丈夫じゃよ」

 

社が買い物袋を掲げながらリビングに入ると、出迎えてくれた妻。そして勝ち名乗りを上げる娘と倒れ伏した吸血鬼。

 

「なにこれ」

「ん? あやつが弱いのが露呈しただけじゃよ」

 

そう一言、緑茶を啜ったドーラは夫に笑いかけるのだった。




葛葉さん、YouTube登録者数100万人おめでとうございます。

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