無限の転生~今世でついに人間卒業!? こんな人生こりごりだとは言ったけど、人間辞めたいとは言ってない~   作:ねむ鯛

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第??羽 人ノ刻 Ⅱ その2

 

 彼女もまた理不尽な事を言いつけるのだろう。そう思っていた私は呆気にとられた。

 

「私の演武ですか? なぜ?」

 

 はっきり言って私は強くありません。槍に関するスキルを持っている訳でも無いので、見るようなものはないでしょう。そう思っての質問だったのですが、なぜか彼女は恥ずかしそうに目線を逸らしてから口を開きました。

 

「えっと……授業の時、貴女が槍を扱う姿がとってもきれいだったから……」

 

「……へ? ……ふふっ」

 

 何を言われたのか飲み込むのに数秒かかりました。まさか、そんなことを言ってくれる人がいるなんて思いもしなかったから。心なしか焦っているような、そんな彼女を見ればきっと嘘はついていないと思います。

 本心から言ってくれたのだ。その事実は乾いた心に()みいるようで。

 

「笑われた……」

 

 思わず笑ってしまえば、ガックシと肩を落とす彼女。

 

「いえ、そんなこと言われたのは初めてなので。良いですよ、私なんかの演武でよければ」

 

「っ!! 是非!」

 

 身を乗り出して目を輝かせる彼女に苦笑して、演武の為に距離を取った。構え、呼吸を整える。先ずはゆっくりと―――――

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

「……ふう。どうでしたか?」

 

「すごかったよ!! ふわっとしてるのに、こうビュン!スパンッ!って感じで!! なんて言ったら良いのかわからないけど、とってもきれいだった!!」

 

「あ、あはは……。っ!?」

 

 矢継ぎ早に感想を口にする彼女。ブンブンと振られる犬の尻尾を幻視するほどの圧に押されて後ろに下がればなにかに躓いてしまう。

 

「わわっ!?」

 

 体勢を崩して尻餅を付いてしまい、釣られてクラリオンさんも倒れ込んでくる。

 

「いたた……。ぁ……」

 

 顔を上げれば。

 そこにはブロンドのカーテンがフワリと広がり、目の前にはハッとするようなきれいなお顔が。中でも一際輝く二つのサファイアに目が吸い寄せられた。

 

 何秒でしょうか?きっと短い間でしょう。思わず見つめていたものの我に返る。

 

「あの……クラリオンさん? 大丈夫ですか?」

 

「ぁ……。うん!!全然大丈夫だよ!?」

 

 声をかければ俊敏な動きで立ち上がり、なにやら手をワタワタと振り回し始めたクラリオンさん。ふふ、変な人ですね。

 私が立ち上がるころには彼女は胸に手を当てて呼吸を整えていた。転けたので驚いてしまったのでしょうか?

 

「ねえ、また見に来ても良いかな?」

 

 不安そうにそう問いかけてくる彼女に、もちろんと答えそうになって。

 

「クラリオン嬢!どこにいる?」

 

 彼女を呼ぶ男性の声に我に返った。

 

「あ、トラペッタ様!忘れてた!」

 

 トラペッタ様。クラリオンさんを呼ぶ彼は様付けされている事から分かるように私達貴族とは格が違う。

 

 ――――王族トラペッタ家、その嫡男。文字通りの第一王子、それがユークリウス・トラペッタ。『王令(S)』・『剣豪(A)』・『魔導(A)』のスキルを持ち、才色兼備、頭脳明晰な歴代最高と名高いこの国の時期国王だ。

 他にも大貴族のご子息様がクラリオンさんの人柄をかなり気に入っているらしい。噂に過ぎないだろうと思っていたけれど、きっと事実。私もこの短時間で絆されそうになってしまった。

 

「クラリオンさん」

 

「あ、はい」

 

「もう私の演武は見に来ないで下さい」

 

「ぇ……」

 

 断られるとは思っていなかったのでしょう。呆然とした様子に胸がチクリと痛む。前言撤回しそうになるのを押し殺した。

 

「ご、ごめんなさい、さっき押し倒しちゃったの怒ってるんですよね。ちゃんと謝りますので、そんなこと言わないで……」

 

「違います」

 

 努めて笑顔を維持する彼女に首を振る。

 

「私のスキルは知っていますか?」

 

「あ、うん。その……」

 

「―――最下位のその下。Exランク」

 

「っ! それは……」

 

「対して貴女は最高のSランクのスキルを持っています。私と貴女は住む世界が違うのですよ。私といると貴女まで無用な反感を買ってしまうでしょう。私とはもう関わらない方が良いです。この場所が気に入ったのなら私が消えましょう」

 

「そんなの……」

 

「ですのでもう見に来ないで―――――「嫌です!!!!」 ぅえ?」

 

 私の言葉は彼女の大声に遮られた。思わず目を見開く。……今日は驚くのが多い日ですね。

 

「わたしが見に来るのは迷惑ですか?」

 

「いえ、そんなことは……」

 

「なら、また見せて下さい」

 

「ですから私は落ちこぼれのExランクだから……」

 

「そんなの……、そんなの関係ない! スキルなんて関係なく、ホルンさんの槍捌きが見たいんです!!」

 

 まるで駄々を捏ねる子供のようで。元平民とは言え、貴族にはあるまじき醜態。でもなぜだか私は嫌いになれませんでした。

 

「わたし、この前までスキルがなかったの。村では皆にスキル無しって馬鹿にされてて、『キセキ』が使えるようになったら急に皆持ち上げ始めて。まるで私じゃなくて『キセキ』を見てるみたいで。わたしとホルンさんの状況は違うけど、似てるかなってそれで……、えっと」

 

 考えていることを上手く言葉に出来ないのでしょう。あちこちに視線を彷徨わせて何かを探しているような素振りを見せていましたが、数秒後痺れを切らしたのかビシッとこちらを指さして宣言した。

 

「あの!!また見に来るから覚悟しておいて下さい!」

 

「あっ」

 

 声をかける前に逃げるように走って行ってしまった。伸ばした手が空を掴む。

 

「変な人……」

 

 握った手を胸に引き寄せ、思わず呟いた。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

 

 

 その後も彼女は私の演武を見に現れた。余った時間でたわいもない話をして、笑い合って。私には提供できるような話題は無かったのでもっぱら聞いているばかりでしたが。

 

 本当なら私は場所を移して、彼女を遠ざけるべきだった。でも、彼女の笑顔が向けられるのが心地よくて。今世で誰からも愛されていなかった私は既に、砂漠で貰った一杯の水のように遠ざけることが出来なくなっていたのだ。

 

「こんな所にいたのか……」

 

「殿下……!!」

 

「トラペッタ様!」

 

 今日もまた、クラリオンさんに演武を披露したところだった。何事も無く終わる――――事はなく。

 現れたのは王子、トラペッタ様と3人の男性。視界に入ってすぐ膝を曲げてカーテシー、最敬礼の姿勢を取る。下手な真似をすれば不敬罪で死刑です。

 

 先頭を堂々と歩く金髪の男性が「王令(S)」・「剣豪(A)」・「魔導(A)」を有する、ユークリウス・トラペッタ王子。

 逞しい体格で黒い髪をワイルドに束ねた方が「剣王(S)」・「金剛体(S)」を有する、ザンクス・オーボエ様。

 眼鏡をかけ深い知性を感じさせる方が「魔導王(S)」・「神算鬼謀(S)」を有する、ミストロイ・フールート様。

 気を抜けば見失ってしまいそうになるほど影の薄い方が「暗影(S)」・「近接戦闘(A)」を有し、もう一つスキルを隠しているとされる、シェイド・トロン様。

 なぜか同学年に集まった鬼才、黄金世代と名高い方々。この国の未来を担う次世代のホープ。そんな方々が現れたのは横のクラリオンさんを探しての事でしょう。

 

「顔を上げてくれ」

 

「「はい」」

 

「クラリオン嬢、俺達を放っておいて随分と面白い物を見ていたようだな」

 

「う……」

 

「それで、君、名は?」

 

「はい、私は……」

 

「トラペッタ様! わたしがホルンさんに無理を言ったんです!!」

 

「……クラリオン嬢」

 

「っ! はい!」

 

「王族の話を遮るのは減点だ。人目がある場所では罰を与えざるを得ない。気を付けてくれ」

 

「うぐ……。申し訳ありません」

 

「今は口外する者などいないから問題ないがな。……そうだろう?」

 

 そう言った王子の目線で射貫かれ、私は口をつぐんだまま首をブンブン縦に振って頷いた。あの目は言っていた。バラしたら殺す、と。

 

「それにしても驚いたな。君があのホルン家のご令嬢か」

 

 ”あの”は絶対良くない話ですねわかります。

 

「さっきの槍捌きはかなりのものだと思ったのだが……本当に訓練で負け続きなのか。ザンクス、どうだ?」

 

「ああ、かなりのものだ。これで槍のスキルを持っていないなんて信じられんな」

 

「なるほど……、シェイド?」

 

「爆発力のある不思議な技を使うが、パターンが一定。初期こそ勝ち星を挙げていたものの、現在の訓練での勝率は一割。手を抜いている様子はなし」

 

 うぐ。と言うか見てたのですか?

 

「一割……。ミストロイ、どう見る?」

 

「お二人の発言を鑑みるに……、戦闘の駆け引き、もしくは運び方が下手なのかと。槍の腕から逆算すると……、ど素人レベルになるのですが」

 

 ど、ど素人……。その評価を聞いて、クラリオンさんを含めて全員の目が残念なものを見る目に変わった。……なんで私、王族と上位貴族に囲まれて酷評されているのですか?なにか悪いことでもしました?

 

「Exランク相応と言うことか。勿体ないな……。まあそんなものか。クラリオン嬢、今日は予定が入っていると言っただろう」

 

「あっ……。忘れてました」

 

「全く。ホルン嬢、お騒がせしました。このお騒がせ娘は連れて行きますので、それでは失礼」

 

「お、お騒がせ娘……!? あ、ホルンさん、今日は急にごめんなさい。またね」

 

「あ、はい」

 

 こうして、彼らは嵐のように現れて、嵐の様に去って行った。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

 

 

「ホルン嬢、手合わせをお願いしたい」

 

「せっかくだ。Exランクとやらを観察させて貰うとするか」

 

「ホルンさん! 頑張って!」

 

 まさかその日から、ちょくちょく来るようになるとは思いもしなかったけれど。

 

 お腹痛い……。

 

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