【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】   作:ねむ鯛

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第12羽 進化して

 

 進化。

 

 そう言われてぱっと思いつくのが、ポケットなやつとかデジタルなやつなのは、あの世界で毒されすぎたからでしょうか。厳密に言えばあれは進化ではないのですがこの進化も意味合いとしては同じでしょう。

 

 わかりやすく言うなら「姿が変化して劇的につよくなる」。

 

 私は今からそれができるようなのですが、はっきり言って詳しいことは全くわかりません。

 なにせ今まで進化したことがないので。いや、皆そうだとは思うんですが、なにぶん今まで長らく生き死にを繰り返してきても目の当たりにしたことのない状態ですので、少し新鮮なのですよ。

 

 等と言っていても何も始まらないので確認しましょうか。

 

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 現在:スモールキッズバーディオン

 

 →スモールバーディオン:D

 →キッズバーディオン:E+

 →キッズパラキード:E+

 

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 ……ええ、残念なお知らせがあるのですが、これ以上の情報開示がありません。もう少し親切設計でも良いと思うのですが……。

 現在の種族と進化先がおそらく三つあることと、後ろの英字。わかるのはそれだけですね。

 英字は恐らく強さの指標でしょうか。どちらが上かはわかりませんが。……鑑定系の能力がないことが本当に悔やまれますね。魔物が文字を読めるかと言われると、無理だろうと思いますので詮無きことなのだとはわかるのですが愚痴は出てしまうものです。

 

 ともあれ愚痴っていても何にもならないので考察をしましょうか。

 最初はスモールバーディオンとキッズバーディオンの比較ですね。

 前者がDで後者がE+と。

 小鳥と子鳥。小鳥が小さいサイズの大人の鳥、子鳥が普通サイズの子供の鳥といったところでしょうか。

 大人と子供。強いのが前者で将来性があるのが後者でしょうか。となると英字が上であるほど強いと言うことでしょうか。……確かなことが何一つ言えてないですが、所詮推測なのでしょうがないと割り切りましょう。

 パラキードはインコの事だった筈なのでキッズパラキードは子供のインコですね。

 

 さて。この三つの中から選ぶのは……。かなり迷いますがキッズバーディオンですね。

 スモールとキッズであればキッズの方が将来性がありそうですし、バーディオンとパラキードでもバーディオンの方が将来性はあるでしょう。鳥全体を表しているだろうバーディオンと、インコ。進化の分岐先が多いのはバーディオンの方でしょうし、進化先の傾向を決めるのは後で良いでしょう。

 

 それではさっそく……ポチッとな!!

 

 うん……?なんだか、眠気が……。

 

 

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『ゆっくり眠ると良い』

 

 夜の帳が降りきった頃、息子と娘達を寝かしつけた天帝ヴィルゾナーダ。

 安らかに眠る子供達に母としての優しげな表情を向けるが、その表情はすぐに険しい物になる。

 理由は必然。ここにいないバカ娘について考えていたためだった。

 

 あの日。

 蛇が襲いかかってくる前、ヴィルゾナーダは戦っていたのだ。

 人間の娘を連れてくる時に傍らにいた男と。

 最初に見たときは我が目を疑った。

 前の邂逅ではあまりにも弱々しい力しか感じなかった。だからここまでやってくる事はないと思っていたし、それをやろうとしたところで途中で力尽きるのがオチだとも思っていた。

 驚くヴィルゾナーダを尻目に男は言葉を紡ぐ。

 

 曰く、人間の娘を連れて行ったことは耐えがたいことだったが命を助けて貰った。感謝している。だが人間の娘は返して欲しいと。

 もちろん断った。我がただの人間の意見を聞き入れる義理もなし。我が娘もあの人間の娘にはご執心の様だったしな。飯も美味い。手放す理由はなかった。

 ……まあ、我が娘がもう少し育って頼み込んできたら逃がしてやったかも知れんが。

 

 当然のように交渉は決裂。男も予想はしていたようで特に残念そうな素振りは見せなかった。

 適当に追い払って終わりにしようと思っていた。だがそんなものは巨大な斬撃の前に散り散りに切り裂かれた。

 

 避けることもできずに命中。

 格下であるはずの人間に攻撃を当てられ、ダメージとしてはそこまで大した物ではなかったが、あまつさえ手傷を負わされた。

 油断はしていた。慢心もしていた。だがそもそも「帝種」に傷を負わせられる存在(・・・・・・・・・・)など、まともな人間にいるはずがないのだ。過去人類の歴史においてどうしようもない災害として認定された魔物。それが「帝種」。人間との差など月とスッポン。比べるべくもない差。

 

 だがそれを乗り越えてくる例外も存在する。

 

「英雄級」。

 人の身でありながら種族の差を踏み越えてくる化け物。どうしようもない災害である「帝種」を討伐した者もいるイレギュラー。ここに来てヴィルゾナーダは男への認識を大幅に改めた。自らを殺すこともできる存在だと。

 

 そこからは一進一退の攻防。魔物は純然たる力で。人間は類い希なる剣技で。相手を打ち倒すべくぶつかり合った。

 戦況はヴィルゾナーダが優勢だった。

 このままでは不味いと思ったのだろう。男は切り札を切るべく魔力を高め、それを真正面から叩き潰さんとヴィルゾナーダも力を集約させる。

 そしてそれが打ち出されそうになったその時。空に光の花が散った。

 

 何事かと訝しむ男。しかしすぐさま気を取り直し、練り上げた魔力を剣に乗せ、突きとして発射した。

 ヴィルゾナーダも集めた力を使い、嵐を束ねたような風は蛇のように大地を抉り吹き曝す。

 僅かな時間それは拮抗し、魔力の突きは上空へ、風は地面へと逸れることになった。

 結果、轟音が鳴り響き砂塵がもうもうと舞い上がる事で視界が遮られることになる。

 男は見えない視界の中、どこから攻撃が来ても対処できるようにジリジリと警戒心を上げていく。

 だが砂塵が晴れた頃にはヴィルゾナーダはそこにはいなかった。

 

 なぜなら合図を見た瞬間からヴィルゾナーダはすぐさま方針を変え、合流することを最優先にしたからだ。砂埃が舞い、視界が遮られている間にすぐさま巣に飛んで帰ったのである。

 

 そこからは知っての通り。二匹を相手に手間取る情けない自分のために、バカ娘は森の奥へと消えていった。

 

 大した時間をかけることもなく大蛇を始末することはできた。

 弱っていても世界の頂点に位置する存在だ。一匹相手取ることなど造作もない。逆に巣を巻き込まないための加減が大変だったのだ。

 だがそれで終わりではなかった。見計らったかの様なタイミングで更に一匹襲いかかってきた。もちろん時間はかけなかったが、手間取らされた苛立ちで少々力みすぎてしまったが。

 

『大丈夫か?お前達』

 

 すぐさま巣に降り立ち我が子の安否を確認した。

 

 子供達はそれには答えずに全く別のことを口にしていた。

 メルシュナーダが蛇を一匹引きつけて飛び出してしまったから早く追いかけて欲しいということ。

 そして人間の娘が似たような姿の生き物に連れて行かれたこと。

 

『やはりそうか……』

 

 大蛇の始末が遅れたのは何も弱っていたからだけではない。男の警戒もしていた為だ。

 戦闘中、男がある程度の距離まで近づいていることに気づいた。常に注意を向けていたし、牽制だってしていた。実際問題、蛇よりも男の方が厄介だった。

 

 だがそれもバカ娘が飛び出していくまでだった。少しの逡巡の後、男の方から注意を外したのだ。これは事態の収束の早さを求めてのことだった。

 不安要素はあったが賭に出た。男が子供達を傷つけることなく、人間の娘だけを連れ出す可能性に。

 仮にも我を見つけて不意打ちをすることなく対話を求めた人間だ。その確率は高いと踏んだ。

 

 だがもしこの予想が外れていたら、ヴィルゾナーダは何をしていたかわからない。

 怒りの身を任せ、帝種としての力で災害をもたらし人の国を滅ぼしに行くのか。それとも残った娘を目にして共に過ごすのか。

 

 ともあれそのようなことにはならず、ヴィルゾナーダの希望的観測通りに事は運んだ。

 

 だが少し遅かったようだ。今、娘は手の届かない場所へと行こうとしている。

 既に探知の魔法は使った。対象が生き物である場合、反応があるということは生きていると言うことだ。それは喜ばしい事。

 だがあの娘はみるみる離れて行っている。飛んでいる訳ではない。速すぎる。恐らく川だろう。

 今すぐに追いかけたいところだがそれは……無理だ。

 

 巣が襲われた。次がないと言い切れるだろうか。もし追いかけて、その間に巣が襲われていたら……。

 我が弱っていることは周りの魔物にも伝わるだろう。そうすれば馬鹿が襲いかかってくることは想像に難くない。せめてもう少し我が回復するか、子供達が強くなるか。そうでなければ巣を離れることなど無理だ。

 

 あのバカ娘がいれば話は違ったのだがな。

 そうして諦念の中、あの娘の反応は場所が探知可能な範囲の中から消えてしまった。

 場所はわからなくなったが反応は返ってくる。まだ、生きている。

 

 

 後は信じることしかできなかった。あの娘は強い。だから大丈夫だと。

 

 それにしても、と。

 あの蛇共は本来群れるはずはないのだが。

 

 僅かな違和感と共に天帝は微睡みに身を任せた。

 


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