無限の転生~今世でついに人間卒業!? こんな人生こりごりだとは言ったけど、人間辞めたいとは言ってない~   作:ねむ鯛

153 / 207
第四十一羽 乱入者

 

 ゴブリンの打倒を確認したミルが心配そうにこちらへと駆けてくる。

 

「メルちゃん、大丈夫?」

 

「結構あれなので早く帰りましょう……」

 

「うん」

 

 笑顔を浮かべたものの自分の眉間が痙攣しているのが感じ取れたので、いよいよ限界なのかもしれません。ゆっくりと一歩踏み出した所でガサガサと茂みが揺れる音が耳に入ってきて、「まだなにかあるのですか!?」と視界が思わず滲んでしまった。

 

「もう……! なんなんですか! こっちはもうお腹いっぱいなんですよ!」 

 

「確かに色んな意味でね……」

 

「うるさいですよ!?」

 

 私のお腹に視線を向けて揶揄(やゆ)したミルに、思わず反応してしまう。うう……、ミルがいじめてくる……!!

 

 現れたのはゴブリンでした。しかも怒り心頭の。見れば体が濡れているよう。もしかして……。

 

「あれって……最初のですか?」

 

「た、たぶん……?」

 

 視界に見える範囲で倒れているゴブリンは四匹。最初に仲間を呼び出したヤツの姿だけ見えず、こいつが水に濡れていることから当たりだと考えられます。

 

「すぐに倒すよ……!!」

 

 杖を構え、戦闘態勢を取ったミル。そこに割って入る人影があった。

 

「え?」

 

「お嬢さん方、この俺が助けてやろう。見るに苦戦している様じゃないか」

 

 そう言って華美なマントを翻して振り向いた男性は、装飾の多い高級そうな服装に身を包んでいる。少し長めの金髪を後ろで束ねており、その表情は自信に満ち溢れたもの。あと失礼ながら微妙に軽薄そうな印象を受けてしまった。側には柔らかな深緑の髪を揺らす美人なエルフのメイドさんが静かに控えている。

 見た目と立ち振る舞いからして貴族の方……でしょうか……?

 

「刮目せよ。この俺……、ルイス・アルム・ベルトナーの初陣を目にできるとはお前たちは実に幸運だ」

 

 あ、初心者の方ですか。だ、大丈夫でしょうか……? 声を潜めてミルに話しかけた。

 

「ど、どうしますか?」

 

「貴族様だし下手に刺激しない方が良いかも……」

 

 ミルは困ったように形の良い眉を下げている。

 うう……何でも良いから早くしてください。切実な願いを抱いている私を余所に、貴族コンビは急かしたくなるほどマイペースに話を進めていく。

 

「ルイス様、相手はゴブリンですが? あなた様が話を聞いて飛び出したのは獅子の体をもち、鷲の頭と翼で大空を(かけ)るグリフォンでは?」

 

「そうだとも。俺はグリフォンを倒したくてたまらないが、しかし困っている女性を放っておくわけにはいくまい」

 

「なるほど。意気揚々と飛び出したかと思えば、街の近くでウロウロし始めたときは「何も考えずにかっこつけようとしてイキって途中で怖くなったけれど帰るに帰れないチキン野郎」だと思ったのですが……。わたくし、ルイス様のお心に感服いたしました。ええ、本当に」

 

「ふっ……面白いことを言うではないか」

 

 ジトリとバカにするような色が含まれた流し目を男性に向けたメイドさん。それを受けた男性は笑みを溢したあと……全力でいきり立った。

 

「……クビだっ!! お前はクビっ!!」

 

「そ、そんな……!!」

 

 突然の解雇通知にエルフなメイドさんは愕然とする。……表情を変えないまま。あれはピンチだとは一ミリも思ってない顔です。私にはわかります。

 

「ヨヨヨ、わたくしこのまま路頭に迷ってしまうのですね。こんなに美人で有能なわたくしはどこでも目立ちすぎるあまり見初められ、路地裏であんなことやこんなことを……。これも全てわたくしを捨てたルイス様のせい……」

 

 目元に手を持って行った彼女はわざとらしい泣き真似をした後、自尊心たっぷりの呪詛を吐いた。聞く人によっては胃もたれしそうですね。

 

「オイ待て。ここはそんなに治安は悪くないぞ。誤解を招くようなことは言うな」

 

「しかしわたくしはしがない有能なだけの一メイドに過ぎません。あなた様に逆らうようなことはとてもとても……。わかりました。わたくしはお(いとま)させていただきますのでお屋敷にはお一人でお帰り下さいませ」

 

 男性の言葉など丸っきり無視して話し終えたメイドさん。

 顔を上げたメイドさんの目元にはもちろん涙の後などあるはずもなく。しかし貴族の男性の方は顔色を悪くしていた。

 

「……待て、俺を一人で返す気か? 自慢じゃないが俺は道に迷う自信がある!」

 

「本当に自慢ではありませんよ」

 

「お前は主人が困ってもそれで良いのか?」

 

 その言葉にメイドさんは心底不思議そうに首を傾げた。

 

「別に?」

 

 その声色は正真正銘の本音だとわかるもので。男性はすぐに白旗を上げた。

 

「わ、わかった! クビは取り消そう!」

 

 男性の慌てた弁明に、しかしメイドさんも然る者。首を反対に傾げたかと思えば「そう言えば……」と何かを思い出したように人差し指を口元にあてがった。

 

「……ルイス様、この前王都で高級なお菓子を手に入れていましたよね。たしか……予約に三年かかるとか……?」

 

「わ、わかった。それもお前に一つやろう!」

 

「……一つ?」

 

「だあっ!! 全部やるよ! これで良いだろ!?」

 

「……しょうがないですね。それで手を打ちましょう」

 

「……なんてえらそうなヤツだ……!!」

 

 悔しそうな男性にホクホク顔のメイドさん。ここに格付けは完了しました。

 

「いやいつの間にか主従逆転していませんか?」

 

「情けない人だっ……!!」

 

 ちなみにゴブリンは会話の最中メイドさんがナイフでずっといなしていました。

 あの……倒してくれて良いんですよ? それか譲るので帰っても良いですか? ダメ?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。