無限の転生~今世でついに人間卒業!? こんな人生こりごりだとは言ったけど、人間辞めたいとは言ってない~   作:ねむ鯛

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本日2話目です。


第??話 獣ノ刻 その4

 

 息を整えている目の前で、倒れていた森のヌシが身を起こし始める。

 

「まだ……!? そろそろいい加減にして―――」

 

 結構な有効打を叩き込んだ筈だったのに、未だ健在なあまりのタフさにウンザリして思わず愚痴がこぼれる。けれどその姿に、違和感が走った。

 

「紫電が……全身に……?」

 

 ヌシとの戦いの中で幾度となく目にした紫色の電撃のような何か。角に纏っていただけのはずの紫電が、全身にも波及している。まるで―――ここからが本番だと言わんばかりに。

 

 身を起こしたヌシと目が合った。同時、嫌な予感が膨れ上がる。

 

 身を深く沈め、突進の構えを取ったヌシが弾かれるように前に飛び出した。また突進ですか。嬉しくないですね。それ避けるの大変なんですよ……。

 

 どうにかして回避しなければと駆けだした。そこで目を疑う光景を見た。

 

「なッ!?」

 

 なんとヌシは紫電を纏った角を、深く下ろして地面を抉りながら高速移動してきたのです。もう地面への回避は許さないと言った所でしょうか。

 そのままさらに強く地を蹴って加速したかと思ったら脚を畳み、重力を無視したように巨体が滑空する。全てをなぎ倒しながらさらに加速して砲弾の様に突っ込んで来たのです。

 

 それはあっという間の出来事で。

 

 私に出来たのは駆け出していた脚に力を込め直して咄嗟に飛び退く事だけだった。

 

 予想外のスピードに不意を突かれたこともあって、一歩遅れた回避。その一瞬は致命的で。

 

 そのツケは、馬車に跳ね飛ばされる路傍の石ころのように空を舞うことで清算されることになる。視界はグルグルと回り、あまりの速さにぼやけて像を結ぶ事はない。幼子に振り回される人形の如く、上も下もわからなくて。勢いのまま地面を転がって、体のあちこちをぶつけるとようやく止まった。

 

「グ……あぁッ!?」

 

 真っ先に襲ってきたのは、左の脇腹から腰にかけての焼ける様な痛み。

 

 見なくても分かります。角に抉られて大きな風穴でも空いているのでしょう。風が傷を撫でるだけで視界が明滅し、意識が吹き飛びそうになる。

 

「うっ……、く、うぅ……ッッ!!!」

 

 自然と涙が浮かび、叫んでのたうち回りそうになるのを体を丸めることで無理矢理押さえつける。『吸血鬼』の力を強く意識して自己再生を促し、自分の血にぬかるむ地面でふらつきながらもどうにか立ち上がった。地面を転がって体が千切れなかったのを幸運だと思いましょう。そうでないとやってられません。

 

 暗い森の中、一直線に光が射しているのが見える。抉れた地面がその下に続いている。ヌシが駆け抜けて乱立する木々を根こそぎひっくり返した痕跡です。こんなときになんですが農家の方が、牛に器具をつけて畑を耕している光景を思い出した。

 道の先で佇んでいたヌシが、のっそりと振り返る。

 

「いっそ畑でも耕していてくださいよ……!!」

 

 食いしばった歯の奥から恨み言を漏らす。一息でこれだけ進められるなら農家の人にはきっと喜ばれるでしょうね。私はこれを見せられてもぜんぜん嬉しくないですけど。

 まっすぐ立っていることもままならない現状から目を逸らすため、現実逃避気味にそう考える。血を流しすぎたせいかぐらりと傾いた体。側にあった木に手をついて倒れることは免れた。こびり着いた血で手が滑ってしまいそうです……。

 

「ゲホッ、ゴホッ……!? はぁ……!! はぁ……!!」

 

 咳き込むたびに口から血が零れて息苦しさが増す。呼吸を整えようと肩で息をしている間にヌシが天職に就きに行くような超展開はなく、文句を言ったぶん損だったかもしれません。

 その間にもヌシは紫電をまとった角をこちらに向ける。逃さないと言わんばかりだ。

 

 本当に―――嫌になる。戦況をたった一手で覆されてしまう、そんな自分の弱さが。

 さっきまで優勢に戦いを進めていたはずなのに一瞬でひっくり返されてしまった。

 

 その事実がまるで、これまで積み上げてきたもの全てが無駄だったと突きつけられているように感じる。

 目元が熱くなる。

 

 私は――――誰よりも長い時間を鍛え続けてきた。それでも、どんなに高みをめざしても、その上にいる誰かには届かない。

 

 私は昔より強くなりました。それは事実です。昔の私と今の私、比べるべくもありません。だけど、本当の強者から見れば私は――――弱い。

 

 この世は弱肉強食で、強者は天井知らず。あらゆる世界に私より強い生き物など、どこにだっている。

 

 ……見てくださいよ。

 

 四肢は強靱で、角は強固で雄大。筋力は人とは比べるのもおこがましく、生命力は無尽蔵。まともにぶつかって体格で勝る生き物など少なく、その上特殊な魔法のようなもの規格外。

 

 対して私はといえば。矮小な体躯に、非力な細腕。すぐに息切れを起こす、貧弱なスタミナ。

 

 その両者がぶつかった結果がこれ。差をこれでもかというほど思い知らされている。

 

 体が重く。頭が重く。

 

 空気ですら私をあざ笑うように体にのしかかってくる。まるで頭を垂れるように地面に伏せてしまいそう。今の私はそれに抗うので精一杯。まさに虫の息。

 

 ――羨ましい。ああも強くあれたら、どれだけ良かったでしょう。

 

 強い生き物は生まれたときから強い。強く生まれ、強いままに世を謳歌する。きっとこの生き物は鍛えた事なんて無いのでしょうね。元から強かったこのヌシは生きるだけでその身をさらに高みへと押し上げていく。生きているだけで、鍛えているはずの私との差は歴然と開いていく。

 

 ――――最初から。

 

 私は最初に生を受けたときから弱かった。

 

 名のある武家に生まれ、血筋にも恵まれていたはずなのに――――才能はなかった。

 兄弟姉妹達は存分にその力を発揮していたのに、私だけ取り残されていた。戦撃すらまともに使うことができなかったのは私だけだった。

 

『運動音痴の獣人は存在しなかった』『破門も(むべ)なるかな。当然のことよ』

 

 ぐらつく頭の中で師匠の言葉が何度もリフレインする。

 

 ――またです。私は結局何も変わっていません。

 

 ――やはり才能がないと強くなれないのでしょうか。

 

 ――やはり私なんかじゃ……師匠に誇ってもらえるような弟子にはなれないのでしょうか。

 

 才ある人が羨ましい。燦然と輝くそのあり方が羨ましい。期待を裏切らないその力が眩しくてしょうがない。

 

 私はただ見上げるだけ。高みで輝く星に手を伸ばすことも許されないのでしょうか。

 

 

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