無限の転生~今世でついに人間卒業!? こんな人生こりごりだとは言ったけど、人間辞めたいとは言ってない~   作:ねむ鯛

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第68羽 指名依頼

 風が耳元で唸りをあげ、白い雲がすぐ横を一瞬で通り抜けていく。

 ここは陸より遥か上方、私は鳥の姿になって空を飛んでいた。

 

 それも全速力で。

 

『急がないと……!!』

 

 眼下に目を凝らしながら翼で空を叩く。

 こうなった経緯は少し時を遡る。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「錬金術……ですか……」

 

「……なんだい。その顔は聞いたことがあったのかい?」

 

「あ、いえ、おとぎ話のようなものだと……」

 

「……ふうん? そういう形で残っていることもあるもんかね」

 

 ラトラさんは納得してくれたようで、胸を撫で下ろした。

 実際には別の世界でも存在はしていましたからね……。まあ、技術の中身に関しては秘匿されていたので知らないのですが……。

 

 結合させる魔力……というよりも、結合と分解をする魔力と言ったほうが正しいでしょうね。主な性質が結合で、制御できるようになると、結合をさせない――――発展して結合を崩すことができるようになるんでしょうね。

 この世界では魔力が要因。他の世界ではどうだったんでしょうか……。

 

「でもすごいよ! 木を金に変えられるなんて……! 習得できたらあたし達一生お金に困らないよ!」

 

 ミルの目がキラキラと輝いている。まるで宝の山を見つけた子供のように。

 

「…………」

 

「…………」

 

 はしゃぐミルとは対象的に、私とラトラさんは渋い顔をしている。

 

「……娘っ子。これからあんたの魔力と錬金術について色々な技術を教えるが、同時に心得も教える。あたしが師になったからには、絶対従ってもらうよ」

 

「えっと、危ないこととかじゃなければ逆らう気はないけど……」

 

「そりゃぁ良い、これは身を守るための心得だよ。――――金塊を作って売るのは禁止だ」

 

「ええっ!? なんで!?」

 

 ミルの声が驚きで跳ねた。

 

「なんでもなにも、カモにされるからだよ。文字通り金のなる木にされちまう」

 

 そこまで言ったところで、ミルはハッと気づいたようで。

 

「それって……」

 

「金塊なんて何度も売っぱらってたら、いらぬところに目をつけられるよ。金鉱脈でも見つけたのかって後をつけられて、錬金術がバレて(しま)いさね。芋づる式にここまで……、なんてあたしゃごめんだよ」

 

「確かに……、ありそうだね……」

 

 ミルの声がしょんぼりと小さくなった。

 

「みすみすミルさんを奪われるつもりはありませんが、わざわざ目をつけられるようなことをする必要はありません。今まで通り慎ましく働いていきましょう。どうしてもお金が必要になったらラトラさんに相談したらいいですし」

 

「メル……そうだね、わかったよ」

 

「……言うじゃないか、メル。ま、それも娘っ子が魔力を制御できるようになったからの話だよ」

 

「取らぬたぬきのなんとやら……ですね」

 

「そういうことさね。……ところでメル、あんた冒険者ランクはいくつだい?」

 

「私ですか? Bランクです」

 

「……へえ、そりゃあ都合が良い。指名依頼が出せるじゃないか」

 

「指名依頼……。それは特定の冒険者に依頼をする制度ですか?」

 

 不特定多数に依頼するのが通常で、頼みたい人を指定する依頼ということですかね。

 そう問いかけたらラトラさん頷いた。

 予想通りだったみたいです。まあ、似たような制度は他の世界でもありましたからね。

 

「娘っ子が魔力制御の修練をする間、あんたには素材の収集を頼みたい。次の段階で、本格的に錬金術の修練をする際に使うからね。あとで正式に冒険者ギルドに、依頼しておくよ」

 

 ラトラさんがどこからともなく紙を取り出して机においた。紙の上に手を置くと、インクも垂らしていないのにじんわりと文字が浮かび上がってくる。

 

「……これも錬金術ですか。便利ですね」

 

「生活の知恵ってやつさね。文字なんて書いてたら日が暮れちまう」

 

「走りつづけないと死ぬタイプなんですか……?」

 

 かなりせっかちな質だと思った最初の印象は、間違っていなかったようですね……。

 それにしても……。

 

「その……要求される素材がかなり多くないですか……?」

 

 ラトラさんが取り出したのはA4サイズくらいの紙。そのはずが、浮かびあがる素材名に合わせてどんどん伸びていき、垂れ下がった紙はついに床にたどり着いた。まるでスーパーで買い貯めをしたときに出てくる劇長のレシートみたいだ。

 

 ここで錬金術のデモンストレーションはしなくてもいいんですよ?

 

「あの……あたしはここから出られないんだよね……? この量をメル1人でってこと……? そんな……悪いよ……」

 

 困ったように眉を下げるミル。

 

「悪い、だなんて思う必要はありませんよ。ミルが錬金術を使えるようになれば心強いですから。これはいうなれば未来への投資です」

 

「メル……!!」

 

 感激したように手を握ってくるミル。しかし現実はそう甘くはない。

 私は困ったように頭をかいて苦笑した。

 

「でもこの量は物理的に難しいかもしれませんね……」

 

「そうだよね……」

 

 ガクリと肩を落としてうなだれるミルと、なんとかならないかと頭を捻る私。

 そんな様子を見てラトラさんは笑っていた。

 

「おやおや、娘っ子を守るんじゃなかったのかい? ……この量はさすがに無理だったかね。口ではなんとでも言えやするが、実力が伴ってないなら無理だと見切りをつけて逃げ出すもんさ。一端の口を利いてもそんなもんかね……」

 

 ラトラさんが挑発的に笑っている。

 

「やすい挑発ですが……、良いでしょう。……その依頼、受けて立ちます……!!」

 

「ほう……? この量をこなせると……?」

 

 ラトラさんが持ち上げた紙に書かれている文字は、見ただけで頭が痛くなるほどに膨れ上がっていた。

 

「失敗しても失うものはありません。当たって砕けろです」

 

「……随分後ろ向きな覚悟だね」

 

 ラトラさんは若干の呆れを含んだため息をついた。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 ――――そして今。

 

 私がこうして飛んでいるのは全力で素材集めに奔走しているためです! ラトラさんが言うには魔力の制御は大体1週間ほどでできるようになるということ。その後、錬金術の練習を行うために今集めている素材を使うそうです。

 つまり……タイムリミットは一週間。それまでにすべて集め終わって、ラトラさんの鼻をあかして見せます!

 

 素材集め以外やってる時間はありません。

 『鷹の目[+遠視]』で目を皿のようにして、地面をひたすら地上をひたすら観察する。

 

「きゃあああぁぁぁああ!?」

 

 素材採集の途中ですが悲鳴です。時間がもったいないですが、さすがに無視はできません。素材集め以外やってる時間はないって言ってるでしょう!?

 

 音の方を探ってみると、倒れた馬車が。

 そこに猿とゴリラを足して2で割ったような魔物がぐるりと取り囲んでいた。あれは巣から放り出されてすぐに接敵したサルゴリラ、その群れじゃないですか。

 その輪の中心には、焦りをにじませた集団。

 剣で威嚇している騎士のような年若い少年。横には老練な執事が細剣を構えている。

 後ろには恐怖で見を縮こまらせたメイドの女の子と、それに寄り添う明らかに高級だとわかる服を着た幼い女の子。

 高貴な生まれですよと、全力で主張しています。

 

 …………。

 ……………………。

 …………………………。

 

 ちゃんと! まともな!! 護衛くらい!!! つけてください!!!!

 

 内心で怒りを撒き散らしながら、『急降下』を発動。一気に加速して地面を目指す。目指すのは、サルゴリラの群れ……、ではなく馬車に乗っていたと思われる面々。

 そんな私に最初に気づいたのは執事の男性だった。

 

「皆様! 伏せてくださいッ!!」

 

 緊迫した男性の声で、ようやく危険を察知した人が急いで地面に伏せる。

 

 ……ナイスアシストですよ。

 通常、頭上から空襲されたら、身を隠そうとする。そして襲われそうになっているのは人間だけ。サルゴリラは警戒はしても対処は後回しにするでしょう。

 

 身を低くした人間と、体が大きな魔物。

 明暗を分けたのはそれだけだった。

 

 輪の中心で急停止した私は、脚に集めていた闘気を開放して戦撃を発動した。

 

 ――【円月(えんげつ)

 

 『飄風友誼(シュトラーゼン)』・『蹴撃』・『蒼気硬化』の乗った回し蹴り。

 超高速の風の斬撃が360度全方位を蹂躙する。その一撃でサルゴリラの群れの過半数が切り飛ばされた。

 

「エテコングの群れが……一瞬で……」

 

 伏せたままの騎士姿の少年が、驚愕したように呟く。ですが私には時間がありません。未だ戦意の衰えないエテコングと呼ばれた魔物へと襲いかかる。

 数匹続けてしばき倒せば、戦意を失って散り散りになっていった。

 あなた達に用はないんですよ! 素材に入っていないので!

 

「こいつ……噂の蒼い鳥じゃ……」

 

「まさか……助けてくれたのですかな……?」

 

 そこへ、メイドの女の子と高貴そうな女の子が駆け寄ってきた。

 

「あなた、噂の蒼い鳥ね!? あたくしは――――」

 

 おっと長くなりそうですね。私は魔物ですので人間の礼儀なんて知ったこっちゃありません。

 じゃあ急いでるので失礼!

 私は全速力でその場から飛び去った。

 

「行っちゃった……」

 

「行ってしまいましたな……」

 

「行ってしまったな……」

 

「お……」

 

 自己紹介をしようと胸に手を当てたまま固まった女の子が、プルプルと震えながらポツリと呟いた。

 

「「「お?」」」

 

「お礼くらい言わせてよおッ!!!」

 

 




『第67羽 失伝した古代の技術』に追加修正をしてます。
大して変わっていませんが、ラトラさん家にカンヅメされることに対して、ミルが納得する流れを追加しました。
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