無限の転生~今世でついに人間卒業!? こんな人生こりごりだとは言ったけど、人間辞めたいとは言ってない~   作:ねむ鯛

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第72羽 それはフラグ

 魔物の進化には、レベルが一定値以上に到達していることと、進化に必要なエネルギーを保持している必要があります。そして進化する瞬間は無防備になり、体が変化するのに時間を要する。

 

 そのため基本的に魔物は、安全な寝床で眠っている最中に進化を行う。

 

 それが戦闘中に進化を行った。

 できるか出来ないかはともかく、これは実際かなり危険な行為である。

 戦っている相手に無防備な隙を晒すことになるし、戦闘でエネルギーを使うのに、それを進化に使ってしまう。まさに背水の陣。

 

 死中に活を求める、最後の手段とも言えるでしょう。

 

 そしてお母様の言っていた踏破越到(リープオーバー)は更に極まっている。

 

 曰く、すでにユニーク種になっているものだけに起こる。

 格上の戦闘中にしか起きない。

 戦闘中に望んだ方向性の能力を得る。

 帝種はみなこれが起こったものである。

 

 つまりそんな極限状態において、ごく一部の魔物が、逃走ではなく勝利を求めたときだけに起こると言うことなのだ。

 

 ――そう考えるとお母様の言っていた情報とは違いがありすぎますね……。

 

 まずガブリザードはユニーク種ではない。爬虫類種としてそれなりに生息している魔物である。

 

 そして少年3人が格上かと言われると、難しいですね。確かに彼らは強いですが、それでも確かな連携あってのもの。一対一では勝つのは難しいでしょう。パーティー単位で格上と考えるかは、人によるかもしれませんね。

 

 そして戦闘中に望んだ方向性の能力を得たかといえば……、否でしょう。ガブリザードが進化したのは、これまた広く知られているガジリザード。ガブリザードより強力で、数も少ないものの広く分布する種である。通常の進化系列にある種に進化するのを、望んだ方向性の力を得たとするのはちょっと違う気がします。

 

 以上のことから、これは踏破越到(リープオーバー)ではない可能性が高いでしょう。

 

 しかし青髪メガネくんが言っていたように、基本……というよりほぼ確実に、魔物は戦闘中に進化なんてしません。先に言ったようにリスクが高すぎるためですね。

 まあ誰だって嫌ですよ。進化なんて、ただでさえ目が覚めたら猛烈にお腹が空いているのに、お腹が空いたまま戦い続けなければいけないなんて。隙を見て逃げますよ、普通。

 私もそうします。

 

 つまり、ガブリザードが進化したのは踏破越到(リープオーバー)ではないものの、通常ありえない異常事態ではあるということです。

 

 ――ガブリザードは進化前から異様な雰囲気を発していました。いったい何が起こっているのでしょうか……。

 

 私が思考を巡らせている間にも、戦場では小さな影がガジリザードへと迫っていた。

 

「……おいバカ! まともじゃない相手に無策で突撃するバカがあるか!」

 

「さっきは脳筋って言ったけど、意思まで筋肉に乗っ取られたのかな……」

 

「ごたごたうるせえ! 進化しようが関係ねぇだろ。俺達がそれより強ければな!」

 

 そんな異様な状態の魔物へも赤髪くんは果敢に攻撃を仕掛ける。

 魔物の方も目は血走り、息も荒く、ヨダレを垂らしながら応戦。進化したことで能力が上がったためか、先程までよりも動きが素早く力強い。

 剣と長い爪が激突し、火花が踊る。衝撃で後ろへと押し返された赤髪の少年は、剣を構え直し不敵に笑った。

 

「よし、さっきより強くなってるな!」

 

「なんで嬉しそうなんだ……」「なんで嬉しそうなの……」

 

 ――なんで嬉しそうなんですか……?

 

「さっきまでは弱ってて気が引けたけど、強くなったなら気にする必要はねぇからな!」

 

「まだ弱ったままだけどね」

 

「くらえ!」

 

「……もう聞いてないぞ」

 

「うん、見たらわかるよ……」

 

「……仕方ない。一度戦ってみよう。ガジリザードは僕達より格上だが、今は弱っている様子だ。撤退するにしても何かしら理由を作っておいたほうが、ギルドへの心象も良くなるはずだ」

 

「……まあ今さら止めても止まらないだろうし、やるしかないか……」

 

「だな。無茶なリーダーを持つとメンバーは苦労する」

 

「だね」

 

 仕方ないといった風に笑った2人も本格的に戦闘に加わった。

 赤髪の少年が魔物と激突している中心に、銛のように太い鉄の矢と氷の槍が飛来する。

 

「おせーぞ!」

 

「悪い。ものを考えていた分遅くなった」

 

「考えなしだって言いたいのか!?」

 

「そりゃそうでしょ」

 

 呆れたように嘆息する緑髪くんが放つ鉄の矢が赤髪くんを狙うガジリザードの顔面に次々と突き刺さる。強固な鱗の前にそのダメージは浅い。しかし着実に痛みを与えるそれが、魔物の攻撃を妨害していた。

 赤髪くんと緑髪くんが攻撃を続けるそばで、時間をかけて魔力をためた青髪メガネくんの大魔法が完成する。

 

 赤髪くんが前線を支え、緑髪くんが全体を見てサポート、その隙に青髪メガネくんが大技を決める。それがこのパーティーの基本的な連携スタイルみたいですね。 

 

 ガジリザードの方も黙っているわけではありません。

 進化前の鋭い爪での攻撃や尾を利用した薙ぎ払い、発達した大顎を使った噛みつき突進などの攻撃に加え、魔力を使った地面からの攻撃が追加されたせいで戦いはより苛烈になった。

 

 ガジリザードが尾を地面に叩きつけると、その衝撃波に呼応するように地面から鋭い岩の槍が次々と突き出してくる。赤髪くんそれをものともせずに打ち砕いて突き進む。

 メガネくんは氷の盾で攻撃を逸らして回避、緑髪くんは身軽に跳躍して回避した。

 

 そうして進化した魔物に対しても、優勢に戦闘を進めることができた3人組。

 しかし弱っているはずの魔物も粘り強く、無傷とはいかない。傷を負い、土に汚れながらも少しづつガジリザードを追い詰めていった。

 

「おらぁッ!!」

 

 そうしてついに決定的な一撃。赤髪くんの全力の振り下ろしが、魔物の頭部を地面に叩きつけた。

 まともに受けたガジリザードが脚を折り、巨体が地面に崩れ落ちる。

 

「やったか!?」

 

 ――!? それは言っちゃだめですよ!?

 

 メガネくんの声が響いた途端、身動ぎ1つしていなかった魔物がピクリと震えたかと思うと、手足を振り乱しデタラメに暴れ始めた。

 

「まだなのかよ!?」

 

 魔物の暴れようをトレースしたかのように魔法も不規則に発動して、地面からあちこちに柱やトゲが突き出したり、巨大な穴が空いたりしている。

 そして突如、大地に噛みついたかと思えば、それを頬張り飲み込んだ。

 

 ――――ゴクリ。

 

 途端、魔物を包み込むように地面が盛り上がり、蕾のような繭を形成する。先程より歪で、禍々しさを覚える不完全な繭。しかしそれが何を意味しているかは明白だった。

 

「嘘だろ……!?」

 

「まさか……!?」

 

 すこし前の出来事がデジャブのように思い起こされる。あの壊れてしまったものを無理やり叩き直しているような、生理的な恐怖を感じさせる鈍い音が響き渡る。

 

 一瞬の静寂の後、繭が内から弾け、砕け飛んだ。

 そこから姿を現したのは、さらに強大になった魔物だった。

 細かった前足は太くなり、長かった爪が僅かに短くなり完全な四足歩行に変化。鱗は金属質の光沢を帯びており、生半可な攻撃を受け付けない予感を生む。

 見た目が前に戦った地竜とほとんど同じだ。

 

「こいつは……! ランドラークだと……!? ここまで来るともう竜種だぞ!?」

 

 青髪くんが見上げる魔物の血走った目は、焦点を結んでいない。あの魔物、極限状態で我を失っている!?

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 震える手で剣を全力で振り抜く。

 

「ぐうっ!?」

 

 これまでは打ち合えていたはずの前足の攻撃に、あっけなく吹き飛ばされた。これが本来の実力差か……。

 

 倒れたと思っていた魔物が復活して、更に強くなった。

 字面にするとこれだけで終わるが、状況は絶望的だ。

 

 二度目の進化をしてからの魔物の動きが格段に鋭い。

 疲れや痛みから鈍っていた動きが、外れたリミッターによって本来の動きを取り戻したって話だ。

 

 そうなれば戦況が逆転するのは一瞬。

 もともとも弱ってたから、なんとかなっっていた戦いだ。

 これまでのスピードがお遊びに思える突進で、全員が避けるまもなく跳ね飛ばされた。

 

 俺だってかろうじて動けているだけ。残りの2人は、もうまともに戦えるような状況じゃない。撤退のタイミングを逃し、逃げることすらすでに不可能。冒険者にはよくある話だ。

 

 冒険者になって追い詰められたことはなんどかあったが、ここまで死を近くに感じたのは初めてだな。

 

「……逃げろ。お前一人じゃ無理だ」

 

「……ぼく達は自分でなんとかするから、助けを呼んできてくれる?」

 

 そばで倒れている2人の声。それは嫌になるほど同じことを言ってやがった。

 杖代わりにしていた剣を構え直し、竜となった魔物に向ける。……剣先が震えるのは御愛嬌ってな。

 

「……俺はバカだけど、ここで引いたらどうなるかくらいわかるぜ」

 

「立つだけで精一杯のやつが何言ってるんだ!」

 

「……そうそう。大きな声が傷に響くから早く離れてほしいんだよね」

 

 こんな時までいつもの変わらない様子に思わず口の端から笑いがこぼれる。

 

「お前らを冒険者に誘ったとき誓っただろ。――――3人ででっかいやつになろうってよ」

 

 村でよくやるごっこ遊び。ガキの頃そこで誓っただけの、思い出話。

 それでも俺はずっとそれを目標にこいつらとここまで来たんだ。

 

「……それは」「そんな昔の話今更……!!」

 

「誰一人欠けたって、それは叶わないんだ」

 

「バカ野郎……!!」「……!!」

 

 迫る巨大な顎。避ける力なんて残ってない。それでも――

 

「……こいつらはお前にはやれねぇ……!!」

 

 山が押しつぶそうと迫ってくる。そんな圧迫感。それに向け、残った全力で剣を振り上げた。

 ……ここで止めて見せる……!

 

 不退転の覚悟で腕に力を込めた瞬間。

 

 ――視界に青い閃光が走った。

 

 決して大きくない蒼い影が、俺と竜の間に滑り込んだ。風を纏った小さな体が、絶望的だった竜の巨体を弾き飛ばす。

 

「蒼い……鳥……?」

 

 そこには脚を振り抜いた姿勢の鳥の魔物が静かに佇んでいた。

 

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