無限の転生~今世でついに人間卒業!? こんな人生こりごりだとは言ったけど、人間辞めたいとは言ってない~   作:ねむ鯛

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第76羽 サバのオペラ

 眼の前にはいつもニヒルな笑みを浮かべていたラトラさんが、ぽかんと口を開けて呆けている。やがて頭痛を抑えるように眉間をもみ始めた。

 

「……すまないね。まだまだ現役だと思っていたが、どうやらアタシも歳みたいだ。耳が遠くなっていけない。もう一度言ってくれるかい?」

 

「はい! 指定された素材、すべて集め終わりました!」

 

「…………は?」

 

「? 指定された素材、すべて集め終わりました」

 

「……本気で言ってるのかい?」

 

 先ほどと同じように呆けた様子で聞き返すラトラさんに、こちらも同じく言い直す。

 今度は怪訝な顔。どういうことでしょうか。

 本気でって……、ああ、そういうことですか。

 一人、得心がいった私は大きく息を吸い込んだ。声を張り上げてもう一度。

 

「指定された素材!!!!! すべて集め終わりました!!!!!!」

 

「うっさいよ!!」

 

「!!?!?」

 

 突如としてラトラさんの手が稲妻のように伸びてきて、私の顔を鷲掴みにしたかと思えば、全力で締め上げてきた。アイアンクローだ。

 

「いだだだだ!?!? なにするんですか!!?」

 

「耳が遠くて聞き返しているわけじゃないんだよ!! このスットコドッコイ!」

 

「ええ!? さっき耳が遠いって自分で言ってたじゃないですか!」

 

「あたしゃまだまだ現役だよ!」

 

「さっきと言ってることが違う!?」

 

 掴み上げられたまま足をばたつかせていると、家の奥の扉が開いて呆れた表情のミルが顔をのぞかせた。

 

「何やってるの2人とも……。ほら、お茶用意したから、そんなとこで立ってないで早く入って」

 

「……ふん、あんたもさっさと入ってきな」

 

 それを聞いたラトラさんは私をぺいっと無造作に投げ捨てて、お茶を取りに向かっていった。

 

 た、助かりました。もう少しで顔がチベットスナギツネみたいになってしまうところでした。ミルには感謝ですね。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 温かなお茶を飲んで一息ついたところで、コップを置いたラトラさんが胡乱げにこちらへと目を向けた。

 

「……それで、素材を集め終わったって本当かい……?」

 

「はい。大変でしたがなんとか」

 

 答えを聞いたラトラさんは、何かを思い悩むように目を瞑ったあと静かにこぼした。

 

「……それで……どれだけの金額を注ぎ込んだんだい?」

 

「お金に物言わせたわけじゃないですよ! 失礼ですね! きちんと自力で集めました!」

 

「……そうかい」

 

 頷いたラトラさんは慈愛に満ちた表情で続けた。

 

「もう……良いんだ。あたしが悪かった。少し、無理を言い過ぎた。だから全部吐き出して、楽になっておしまい。ないものはない、……そうだろう?」

 

「見栄張ってるわけでもありませんよ!!! ほら、全部は嵩張るので無理ですけど一部の素材なら見せられますから」

 

 アイテムストレージから依頼された素材取り出し、机に並べていく。

 見つけづらかったり、強いとされている魔物の素材を並べていくと、ラトラさんの表情がじわじわと驚愕に染まっていった。

 

「本当に……全部集め終わったのかい。1ヶ月以上はかかるものを……」

 

「だからそう言って――――1ヶ月……?」

 

 今なんて言いました?

 素材を並べていた手がピタリを止まる。

 

「……おっと」

 

「なんで目を逸らすんですか!? 今聞き間違えじゃなかったら、1ヶ月って聞こえたんですが!? 最初は1週間って言ってましたよね!?」

 

「……おおかた聞き間違えたんだろうさ」

 

「それで『私も耳が遠くなったのが移ったんでしょうか』って納得すると思いますか!?」

 

「あたしゃまだ現役だよ」

 

「それはもういいですっ! いいから答えてください!」

 

師匠(マスター)、本当なの?」

 

 身を乗り出してラトラさんに問いただす。

 ミルも参戦すると、観念したようにため息をついた。

 

「……言ったよ、1ヶ月ってね。あれだけの素材を一週間で集めるなんて無理さね。半分集められれば十分な代物だ。残りの半分は、手に入りにくいから一ヶ月はかかるよ。……全部あつめるなんてありえないんだよ」

 

「でもでも、メルだから出来ても不思議じゃないよ」

 

「なんであんたが得意げなんだい」

 

 胸を張るミルに突っ込む余裕もなく、ぽひゅっと口から魂が抜け出した。体から力が抜けて、ぐでっと椅子にもたれかかってしまう。

 

「そんな……。私、3日寝ずに頑張ったのに……」

 

「……うわぁ」

 

「……だから微妙にテンションが高かったんだね」

 

「1週間が1ヶ月半ってサバ読んでるどころじゃないですよ……」

 

「確かに。……サバがたくさん並んでいい声出してそう。……オペラかな?」

 

「おだまり」

 

「どうしてそんな嘘ついたんですかぁ……」

 

 息も絶え絶えな私を見たラトラさんはバツが悪そうに頭をかいた。

 

「……悪かったね。錬金術は狙われると危険だって言っただろう? 守るなんて口先だけも言える。何にも知らない子どもが大口叩いてるだけって思ったのさ。無理難題を与えて真贋を見極めようとしたんだ。無謀だとわかっていても、全力で素材を集め続けられる根性もないなら論外だからね。……まさか全部集めるなんて想定外だよ」

 

「メルはすぐ逃げるけど、すごく強いんだよ」

 

「一言で矛盾するんじゃないよ」

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