無限の転生~今世でついに人間卒業!? こんな人生こりごりだとは言ったけど、人間辞めたいとは言ってない~   作:ねむ鯛

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第77羽 錬金術はだいたいチート

「それでメル、体調は大丈夫なの?」

 

「う~ん……、ちょっとダルさがありますが目は冴えてますね」

 

 頭はぼんやりと重く、肩から背中にかけて鉛が入っているみたいだ。それなのに、妙に神経だけが張り詰めている。

 

「典型的な徹夜明けの状態だね……。あたしも昔はよくやってママやリヒトに怒られたなぁ……」

 

「あんたは一昨日やったけどね」

 

「その前にもやりましたよね?」

 

「あれぇ? そうだったかなぁ……?」

 

 差し込まれたツッコミにミルがすっとぼけた顔で目を逸らした。その横顔に『都合の悪いことは忘れました』と書いてある。

 

「全く……、類は友を呼ぶって言うのかね。変なところは似るもんじゃないよ。……ほら、これでも飲みな」

 

 気づけば、目の前に温かなカップが差し出されていた。

 

「これは……」

 

 ラトラさんから差し出されたのは、温かな湯気の立ち上るカップだった。ほのかに甘い香りが漂ってくる。

 ……さっきまではなにもなかったはず。いつの間に用意したんでしょう?

 

「安眠と疲労回復の効果がある薬草を、煎じて調合したお茶だよ。薬にしたときほどの強さはないが目の冴えくらいは取れるだろう」

 

「……ありがとうございます。いただきますね」

 

 何事もないかのように言うラトラさんに背を押されてカップを取った。

 口元に運んで、一口。

 

 甘さが、舌に優しく広がった。と同時に、鼻を抜ける独特の香り。薬草特有の苦みを僅かに感じるものの、それが逆にアクセントになり、味に深みを与えている。

 喉を通り抜け胃に落ちる。そこからぽかぽかと労るような温かさがじんわりと広がっていく。意識のどこかにあった強張りが、ゆっくりと解きほぐされるのがなんとなくわかった。

 体が求めるままに一気に半分ほどあおり、ほぅ……と息を吐いた。

 

「おいしいです……。とっても優しい味……」

 

「……ふん、このあたしが直々に錬金術で淹れたんだ。当然だろう」

 

「え? これにも錬金術を使っているんですか?」

 

 思わずラトラさんの顔とカップに視線を行き来させる。すると彼女はミルに向けて顎をしゃくった。

 

「そうさね……。あんたの問いに答える前に……、娘っ子、錬金術の基礎を説明してやりな」

 

「はい師匠(マスター)!」

 

 呼びかけに元気よく応じたミルが、先生に当てられたように挙手をする。まるで優等生のようだ。

 私の疑問にはどうやら彼女が答えてくれるらしい。

 

「錬金術には4つの基本骨子があるの。まずは結合と分離だね。これを合わせて『錬成』って呼んでるよ」

 

「錬成……、ミルさんの服が木に変わってしまった事象ですよね」

 

 あの時は布を木材に変化させてしまうだけでしたが、使いようによっては生き物を植物に変えてしまうこともできる、恐ろしい可能性を持つ特性。ミルが半ば軟禁状態になっている原因ですね。

 

「そのとおり。あのときは歩いてる途中で固まったから、変なところを痛めちゃったんだよね……。おっと、脱線しちゃった。……コホン。次は物質の形態変化だね」

 

「形態変化というと……、水や土、氷の魔法が得意なやつですか?」

 

 水魔法なら波にしたり、球体にしたり。土なら壁にしたり、トゲにしたりと、すでにあるもの、もしくは発生させたものの形を変える特性ですね。

 

「そうだよ。錬金術ではすべての物質に適用可能ってところが差別点かな。3つ目が創造。他の魔法でも火や水なんかを創り出すことはできるけど、錬金術では何でも創れる。ただし!」

 

 そこでミルが人差し指を立てた。

 

「物質の構成について理解しておく必要があるの。それが4つ目。そして錬金術の基礎にして、奥義。物質の構造理解」

 

「構造理解……」

 

「構造がわかっていない物質に対しては、錬金術はほとんど力を発揮できなくなっちゃう。創造は不可能だし、錬成と形態変化も夢の中で歩いているみたいに全然言うことを聞かないんだ」

 

「なるほど。どんなに技術を磨いたとしても、知らないものには力を発揮できない」

 

「うん、故に構造理解が基礎にして奥義、だね。合ってるよね、師匠(マスター)?」

 

「……その軽そうな頭が想定より詰まってるようで安心したよ」

 

「やった! 満点だって、メル!」

 

 今の満点って言ってたんです……?

 

「良かったですね……?」

 

 私が曖昧に頷くと、ラトラさんが呆れたように息を吐いた。

 

「変な意訳をするんじゃないよ」

 

 ああ、……やっぱり違うんですね。

 

師匠(マスター)の照れ隠しは置いといて、錬金術に関してはそんな感じかな。……あだっ!?」

 

 どこからともなく降ってきた本の背表紙が、ミルの頭頂部へと激突した。

 あれは痛い……。

 

「ともかく」

 

 ラトラさんが何事もなかったかのように話を続けた。

 

「今娘っ子が説明した錬金術の基礎を使えば、あんたに出したお茶を用意するのに時間をかける必要はないってことさね」

 

「……ということは」

 

 手元のカップに目を落とす。

 温かな湯気が、まだゆらゆらと立ち上っていた。

 

「さっきは錬金術で完成品を”創造”したんですね」

 

 私がそう納得していると「厳密には違うね」とラトラさんは首を振った。

 

「さっきも言った通り、錬金術で茶を”淹れた”のさ。保管してあった薬草を形態変化で分解、煎じた状態で再構築。さらに水を形態変化で熱湯に変え、両者を混ぜ合わせる」

 

 ラトラさんが淡々と説明を続ける。

 

「そして薬草の味と成分が染み出した完成形に形態変化させた。それを瞬時に完了させ、用意したのがあんたの飲んだ茶だよ」

 

師匠(マスター)は、お茶を淹れるのに必要な手間と時間を”形態変化”で省略した、ってことだね」

 

「それは……とんでもないことをしているのでは?」

 

 言っていることが事実なら、薬を作るのに手間もかからなければ、熱したり冷ましたりの待ち時間も必要ない。材料さえあれば、ノーコスト・ノータイムで完成品を作り出せる。

 

 それはもう、量産工場を1人でやっているようなものだ。

 世界の情勢すら変えかねない能力だ。

 

 ラトラさんが言っていた通り、不用意に能力をさらせば狙われるのは避けられないでしょうね。

 

「慣れれば手慰みのようなものさ。まあ、普段はあまり使わないがね。薬は手で作るに限るよ」

 

 手慰み——そんな軽い言葉で片付けられる代物じゃない。

 知識前提の能力とはいえ、やってることが無法じみてる。

 錬金術はチートの類ですね……。

 

 でも——そう考えると。

 

 能力として知識の重要性が桁違いですが、魔術や薬草学が得意なミルにピッタリと言えるんじゃないでしょうか。

 

「ま、あんたが早く素材を集めてきてくれて助かったよ。娘っ子の修行に詰まりそうだったからね」

 

 あれ? 私の記憶違いでしょうか?

 依頼されたとき、魔力の制御訓練に素材は必要ないっていってませんでしたっけ?




お久しぶりです。早いもので前回の更新から2ヶ月経ってしまいました。
お待ち頂いてた皆さん申し訳ありません……。
何をしていたかって……、寝てたんですよね。仕事から帰ったらすぐ。
最近はなかったんですが、学生の頃からいくら寝ても眠いってことがひたすら続く時期がありました。日中は大丈夫なんですが、プライベートの時間になるとどうしても耐えられなくて……。寝落ちするような強い眠気ではなく、なにもせずに寝たいって感じのやつです。頑張れば起きてられます。
作者の名前である『ねむ鯛』はそれが由来です。
まだ眠いのは続いてますが、頑張れば起きてられるので、頑張って書きます!! 更新速度は前のときから落ちるとは思いますが、ご容赦ください……。
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