無限の転生~今世でついに人間卒業!? こんな人生こりごりだとは言ったけど、人間辞めたいとは言ってない~ 作:ねむ鯛
『娘っ子が魔力制御の修練をする間、あんたには素材の収集を頼みたい。次の段階で、本格的に錬金術の修練をする際に使うからね』
出発直前の言葉を思い返してみたが、ラトラさんはそう言っていた。魔力制御に素材が必要だなんてこと、一欠片だって匂わされてもなかった。
「どういうことですか? 魔力の制御訓練に素材必要だとは思っていなかったんですけど……」
もしや何かの事情で、また事実と違うことを教えられていたのでしょうか。そんな疑念が湧き上がったとき、ラトラさんは首を振った。
「いや、あんたの想像通りさ。魔力制御に素材は必要ない」
ますますわからなくなってきました。
思わず首をかしげる。
ならなんで今から素材が必要だっていったのでしょう?
「でもさっきは――」
そこでふと思いついた。
「――まさか!?」
弾かれたように隣へ顔を向ける。
するとミルは満面の笑みでピースサインを作っていた。
「ふっふっふ、その顔は答えにたどり着いたみたいだね」
ミルが得意げに胸を張る。
「メルの想像通り、実はもう魔力の制御には成功してるんだ! 昨日
「まだ及第点だけどね」
カップを口元に運んでいたラトラさんが、釘を指すように付け加える。
「でも1週間って言われていたものを4日ってすごいですよ」
思わず手を合わせて身を乗り出す。
すると――2人分のジト目が突き刺さった。
「メルがそれを言うの?」「あんたがそれを言うのかい」
2人の顔には、『1ヶ月かかるものを5日で終わらせておいて何を言ってるんだ』とでも書いてあった。
私は慌てて椅子に座り直し、目を逸らして咳払いをした。
そんな私を尻目にラトラさんは追加で爆弾を落とす。
「娘っ子の魔力制御も、一週間じゃなく本当は10日で見てたんだがね」
「えぇ……、あたしも……?」
「余裕ってものを知らないんですか??」
どれだけ時間にシビアなんですか……。
「ちんたらやってたらお迎えが来ちまうよ」
ラトラさんが肩をすくめる。
「時間なんてケツ蹴っ飛ばすくらいで良いのさ。あんたらには必要なかったみたいだけどね」
「まあ……確かに時間は大切ですけど……」
ラトラさんはお歳を召されている方なので、時間は大切にしたいのかもしれません。
残る時間が減っていくのを実感すると、焦りが出てしまうのもわかります。私も似たような体験はしたことありますし……。
そんなことを考えた束の間、ラトラさんの目がギロリと向けられる。
「あたしゃまだ現役だよ」
「心を読むのやめてください……」
勘の良さに目を逸らした。……もしかして本当に人の心でも読んだりしてませんよね……?
そんなことを真剣に疑っていると――ふと、視界がぼんやりと霞んだ。
……あれ? 目蓋が重い……。
うぅ……、ここにきて一気に眠気が……。
「……目の冴えは無事に取れたみたいだね」
ラトラさんの声が、どこか少し遠い。
「お茶のおかげですね……。これ以上はお邪魔になってしまいますし、私はお
「えぇ!?」
襲いかかってきた眠気をこらえ、ふらりと席を立ったところでミルが素頓狂な声を上げた。
どしたんでしょうか?
「眠気で頭が回ってないみたいだね。その状態で帰らせるわけないだろうに」
「そうだよ。その状態で外をうろつくと危ないよ!
「無駄に広くて悪かったね……」
ラトラさんが不服そうな声を漏らす。
「しかし……」
迷惑をかけるわけには……と言いかけた瞬間。
「疲れてるんでしょ? いいからほら……」
ミルが正面に回り込み、肩に手を当ててきた。
そのまま優しく、けれど有無を言わさぬ力で席に押し戻される。
そして隣に座ったかと思うを優しく手を引いてきて。
その手に導かれるまま、体が傾いていく。
気づけば視界には部屋の天井と――――優しく微笑むミルの顔が広がっていた。
「あの……ミルさん? ……これは?」
「どうしたの急にかしこまって。ただの――――膝枕だよ」
膝枕。
その言葉で、ようやく状況を理解した。
ミルの太ももの柔らかさが、頭を通して伝わってくる。
「いえ、しかし……少々気恥ずかしいというか……」
「そうかな……、友達なんだし気にしなくても……」
ミルがふいと視線を背け、考えるように小さく唸る。
そして、ちらりとこちらを見た。
「改めてそう言われると……ちょっと恥ずかしい……かも?」
僅かに頬を赤らめて、照れたようにはにかんだ。
もっと恥ずかしくなったんですけど!?
そんな私の心情を他所に、ミルが照れ隠しのつもりなのか、そっぽを向いたまま指で髪を梳いてきた。
「……メルの髪ってサラサラだね」
指先が、髪の間をゆっくりとすべっていく。
「指の間をすって抜けていって、まるで上等な絹みたい」
「そ、そうでしょうか……」
ミルの声が、優しく降ってくる。
「うん。それに夜を溶かしたような色がとっても綺麗。見ていると落ち着く色。優しくてとっても好き」
「……ん」
そんなミルの撫でる手が心地よくて。
身を任せているうちに……だんだんと……意識が……。
「……すぅ」
「……メル?」
返事はない。
膝の上の少女は、すっかり力を抜いて眠っていた。
呼びかけに返ってくるのは規則正しい穏やかな寝息のみ。
「……ふふ、寝ちゃった」
疲れていたんだろう。なにせ3徹もしたのだし。
半ば
膨大な数があった素材集めの依頼、しかしメルは悩むことなく引き受けてくれた。
申し訳なさと嬉しさがブレンドされて、浮ついた心がどうにも座りが悪い。
誤魔化すようにメルの髪に手を伸ばす。
そこにあったのは、なんとなく寄りかかってしまっていた頼りがいのある姿とは大きくかけ離れたものだった。……もちろん、ちょっと残念な姿もたまに見せるけどそれも含めてメルだし、それは今は置いといて。
――なんだか幼く見えた。
穏やかに眠る寝顔は年相応で、こうしてみると普段のイメージよりはずっと幼く見えた。
……違う。普段が大人びて見えていただけで、こっちの方が素なんだ。
その姿に今一度心に誓う。
メルの協力に報いるためにも、これまでの恩を返すためにも。
――そしてリヒトを見返すためにも。
もっと頑張って錬金術をものにしなければ。
決意を新たにしたところで、反対の椅子から声がかけられた。
「……気が済んだら客室のベッドにでも連れて行ってやりな」
「ぉわっ!?」
心臓が跳ね上がった。メルが膝の上で寝ていなければ、体ごと飛び上がっていたに違いない。
それくらいびっくりした。
「随分熱心に見ていたねぇ」
「そっ!?」
気にしてませんって顔するくらいなら放っといてよ!
「か、感謝の念を送ってただけだよ!?」
「……大声を出していいのかい? 起こしてしまうかもしれないよ」
せっかくの安眠を妨害してしまったかもしれない。
恐る恐る下を見ると、メルは変わらず穏やかに寝息を立てていた。
ほっと一安心して大きく息を吐く。いつの間にか息を止めちゃってたみたい。
安心したところで、不服な感情が再燃する。
ぐぬぬと
「
――コンコンコン。
不意に、玄関がノックされる。
「お客さん?」
「……今日は来客が多いね。……あんたはそのままでいいよ」
「あ、うん」
手で制した
「お邪魔するよラトラ」
「ああ、あんたかい。もうそんな時期か」