【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】 作:ねむ鯛
「あの、リヒト」
「なんだい?ミル」
深い森の中、二人の男女が歩いていた。少し前までヴィルゾナーダの巣で餌付けしていたミルと、その幼なじみである少年、リヒトの二人組だ。
少年の方は自然体だったが、少女の方は距離を測りかねているような様子があった。
「あの、お礼を言いたくて。ありがとう。あたしを助けに来てくれて」
「ああ、そのことか。もう良いって言っただろ?当たり前だって」
申し訳なさそうに笑う少女に少年はどこまでも明るい笑顔を見せる。
助けるのが当たり前だと心の底から思っている笑顔だった。
そんな少年は一瞬も周囲を警戒することを止めていない。
中心部かなり離れたとは言え、ヴィルゾナーダから逃げ出した以上追ってくる可能性もある。何より、深部からはぐれた危険な魔物がいる可能性もある。
「雰囲気ちょっと変わったし、前まではこんなに……」
「強くなかった?」
「あ、……うん」
途中で言葉を濁したミルの言葉を続けるリヒト。ますます申し訳なさそうにした幼なじみに、ちょっぴり苦笑いを溢して言葉を探し始めた。
巣から逃げるさなか、行く手に立ちふさがった巨大な蛇をこの幼なじみは一刀のもとに斬り伏せたのだ。あの大蛇にミルが詳しくはないとはいえ、離れたときの幼なじみの実力では、申し訳無いが無理だった。
万全の状態でも、時間稼ぎがせいぜいだろう。それが、今のボロボロの状態で一撃なのだから、何があったのだろうと思ってしまうのは仕方のない事だ。
「そうだね、少し……思い出しただけさ。あのときと同じように助けられなかった事をね」
「え?」
後悔を滲ませ下を向くリヒト。
そんな彼に疑問が生まれる。そんなことあっただろうか?と。
ミルとリヒトはずっと同じ村で育った。そんな事があれば知らないはずはないと思うのだが。だが、嘘でも何でもなく、握りしめられた拳には実感がこもっていた。
「ほら、帰ってきたよ。僕らが拠点にしている街だ」
疑問を口にしようと思ったとき、目の前が開け遠目に街の城壁が目に入った。
安堵と疲労に疑問は吹き飛び、忘れてしまった。そして余裕の生まれた心にするりと入り込んできたのはこんな疑問だった。
――メル、大丈夫かな?ううん、あの子は強いから、きっと大丈夫だよね。
思わず振り返り、祈るように両手をギュッと握ると、帰るべき場所に足を向けた。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
「それで首尾は?教祖様?」
光の差さない薄暗い部屋で人影が二つ。
「まずまずと言ったところか。世界樹に関してはまだ無理だろうが、他はしっかり進んでいる」
「しかしすげーよな。
「それに関しては、三体ほど他の存在に倒されてしまったからな」
思い出すのは、生まれたばかりの子鳥と突然現れた人間の男だ。
魔法攻撃の低減くらいしか特殊能力を持たないが故、純粋なスペックは高めだった筈。
それを生まれたばかりの子鳥が二体、男が一体倒したのだ。全部天帝に当てていたらこれからの計画も楽だったのだが……。
まあ大蛇は人間にとっては強い方だろうが、たいしたことのない捨て駒だ。
「あれに関してはしばらく様子を見る。お前はジャシン教の幹部として他の計画を進めてくれ」
「へいへい」
「それと他の幹部にもよろしく言っておいてくれ」
「……あいつら協調性ないからなぁ」
嫌そうな顔をしてひとり消えた。
「ああ、ジャシン様。早くお会いしたい」