【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】   作:ねむ鯛

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注意、過去話につき鬱展開注意。
長かったので分割。


第??羽 吸血鬼ノ刻

 

 鬼として死んでから、何度か人として転生した。そして転生というものの存在を知った。

 

 当然の様に私は自分の殻に閉じこもった。人が怖かったから。

 人付き合いは最低限。生きるために最低限の稼ぎだけを手に入れ、人の記憶に残ることもなくいつの間にか死んでいました。

 

 吸血鬼として転生した時も変わらない人生を送るんだろうと思っていました。

 他ならぬこの姉が現れるまでは。

 

「どーん!お姉ちゃんだゾ☆」

 

「ごふッ!!?」

 

 ドアが開いて姉が現れたと思うと突然抱きついてくる。

 屋敷の自室に引きこもる私に、毎日襲い……ではなく、顔を見に来てくれました。

 

 公爵級の吸血鬼の一家の末娘として生まれた私。

 広義で魔族とされる私の家は、能力の高さがあって魔族の国ではかなりの立場を持っていました。

 何不自由なく育ち、そして両親に愛されていたとも思います。人間不信のままでしたので、確信は持っていませんでしたが。

 

 そして両親は人間との戦いのさなかで殺されました。

 

 どうやら人類勢力と魔族は長年争っているらしく、戦争のさなか殺されてしまったそうです。

 

 吸血鬼として堕落を貪って約100年。変わることのないと思っていたいつもの光景は突如としてなくなってしまった。

 当主の交代。そのゴタゴタに巻き込まれる事はついぞありませんでした。姉が全て自分で終わらせてしまったから。

 姉はその時から凄かったのです。吸血鬼として若く、そして女。舐められる事も多かったはず。

 その悉くを力や知略でねじ伏せました。やがて魔族の中で一目置かれるようになり、名を知らぬものはいなくなりました。

 

 私とは真逆です。

 私は穀潰し以外の何物でもないはずだったはず。それなのに毎日毎日、邪魔でしかない私の様子を見に来てくれる。

 

 それでもあの光景が忘れられない。鬼として過ごしていた村での突然の悪意が忘れられない。

 目の前で一人、何度も体を無残に突き刺された。

 目の前で一人、哄笑と共に切り刻まれた。

 目の前で一人、止めてと叫ぶ声を無視して袋だたきにされた。

 目の前で一人、一人、一人……、何人も苦しんで死んだ。人の悪意で。

 その度に、目から光が消えゴムの様にグニャグニャと重力に引かれる体が、乱雑に積み上がられた。

 その光のない目が、お前のせいだと責めている。力なく垂れた指が地面に倒れる私を指さしている。

 

 何度転生したって、悪夢はいつでも側にあった。

 人はどこにだっていて心が安らぐ場所はなかった。人のいない場所にはそもそも危険しかなかったからすぐに死んだ。どこにも行けなかった。居場所はなかった。

 そして死んでも終わりはなかった。すぐに転生するから。

 

 

 その日は忙しいはずの姉が、起床の時珍しく家にいた日でした。悪夢を見て錯乱し、只管謝罪を繰り返している私の元に飛んできた姉。抱きしめて背中を撫でて大丈夫だと慰めてくれた。

 それなのに私はその大丈夫だという言葉が心に引っかかり、グチャグチャになった感情のあまり理不尽な言葉をぶつけてしまった。

 

「うるさい!うるさい!大丈夫なんかじゃない!!何一つ大丈夫なことなんてない!!私じゃなかったら大丈夫だった!私だったから大丈夫じゃなかった!!貴女だって疎ましく思っているんでしょう!!?私なんていない方が良いと思っているんでしょう!!家族だなんて思ってなくて、ただ血がつながっているから家に置いているだけなんでしょう!!?」

 

 あの場にいたのが、前世の兄だったら、父だったら。他の誰かが転生していたら、きっと違う結果になっていた。意味不明で支離滅裂な言動をする私をそれでも姉は抱きしめてくれた。

 

「そんなことない!世界にたった一人だけの、かけがえのない妹だって思ってるよ」

 

「この……!嘘つき!!」

 

 怖くて怖くて信じることなんてできない。

 枕元にあった護身用のナイフ。手放すことのできなかったそれをいつの間にか振りかぶっていた。

 

 姉は強い。先祖返りの真祖だった。タダの公爵級の私とは隔絶した力の差がある。

 我に返ってもナイフは止まらない。しかしこの程度の攻撃がまともに効くはずもない。完全に防がれて終わりだろう。傷つけることはないという僅かな安堵と共に、殺される。そうも思った。

 

「なんで……」

 

 震えた言葉が零れ落ちた。返ってきたのはただの抱擁。

 痛いはずだ。いくら真祖の再生能力があるとしても傷つけば痛みがある。それなのに突き刺したナイフの上から、私が痛いくらいにギュッと抱きしめてくれた。

 そして涙で濡れ惚けた顔の私に、笑顔で言うのだ。

 

「だってお姉ちゃんはお姉ちゃんだからね!!」

 

「ごめんなさい……、ごめんなさい……!!」

 

「ううん、良いよ」

 

 この時私は姉と家族になれる気がしました。

 

 それからはゆっくりですが外に出ることを増やしていきました。

 何せ吸血鬼です。時間はいくらでもあります。

 そして幾ばくかの時間がたった折り。

 

「どーん!お姉ちゃんだゾ☆」

 

「ぐふッ!!?……お姉様、それ止めてくださいって言ってるじゃないですか。真祖の力でされると痛いんですよ」

 

「え、嫌だった?」

 

「別に……」

 

 嫌だなんて思うわけがない。それでも恥ずかしさから認めることなんてできずに顔を背けてしまう。

 

「もう!かわいいなぁ!」

 

「いだだだだだ!?」

 

 真祖の全力の抱擁。痛い。それでも私は止めることはありませんでした。

 何せ吸血鬼です。治せますから。

 

 

「勇者の邪魔をする……」

 

 魔族の王、魔王。吸血鬼の始祖。現在活動している最強の吸血鬼。

 私が最近外に出ていることを聞きつけた魔王が、公爵級吸血鬼の戦力を遊ばせておくのはもったいないと指令を出してきたそうなのです。

 

 軍属は全力で姉が退けてくれたようで、遊撃の様な扱いになったそうです。助かりました。

 魔族とはいえ大量の人の中にいるのはまだ辛いです。

 

 勇者とは人類側の切り札。突然現れる世界の愛し子。人類最強の存在。

 それが各地で魔王軍の邪魔をしている。それをさらに邪魔をしろと。

 

 魔族に与するものとして、勇者と戦う。邪魔をする。

 人間のいる場所に行く。人間の敵として。

 

「辛いならやらなくて良いよ?」

 

 姉の言葉に首を振る。

 

「やります。お姉様のお手伝いをさせてください」

 

 こんな私でも姉の役に立てるのなら、なんだってやってやる。

 相手は人間です。遠慮なんていらないでしょう。

 


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