【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】   作:ねむ鯛

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第??羽 吸血鬼ノ刻②

 部屋に立てかけてあった武器を手に取る。引きこもっていても振り回していたそれを。

 一種の精神安定剤のようなものでしたからね。これを振るっている間は全部忘れることができました。

 

 吸血鬼は空を飛べます。日が出ていない時しか行動はできませんが、隠密行動が可能です。

 そのおかげで色々と工作をしかけることができます。

 一応武家の娘でもあったので、軍略もある程度知っています。

 食料が大事な事や、死人よりも怪我人を抱えた方が大変な事を。

 

 なので勇者一行の行方を追いながら、軍の食料を焼いたり、怪我人を増やしたりもしました。

 

 何故か殺意の少ない勇者一行に直接挑むこともありました。普通に逃げ帰りましたが。多対一は卑怯では?

 吸血鬼のスペックでそこそこ戦えはしますが、やっぱり私は弱かった。

 またお前かといった目を向けられるくらいの付き合いになったとき。それは起こりました。

 

 衝撃、轟音。そして、山そのものが滑り落ちてきたのではないかと思う規模の土砂崩れ。

 勇者の指示によって勇者の仲間は逃げ出すことができましたが、勇者と切り結んでいた私の二人はそれに巻き込まれました。

 私と勇者の二人で張った結界のおかげで押しつぶされることは免れましたが、抜け出すことはできない状況。下手に土砂をどけようと思えば自体が悪化することも考えられます。救助を待つしかありませんでした。

 

 逃げることのできない場所にニンゲンと2人。自然と呼吸が早まっていく。

 

「おい、大丈夫か……?」

 

「いやっ!来ないでください!!」

 

 勇者は善意で心配をしてくれたのでしょう。しかし私は彼が近づくことを拒絶しました。

 結界の隅に逃げ震えることしかできない。あのときの記憶がフラッシュバックしてきたためです。

 

「君は……人間が……怖いのか……?魔族なのに?」

 

 しばらく時間が経って、私は落ち着くとそんな疑問を投げかけられました。

 することはなくて暇ですし、相手は人間です。多少の齟齬があったところで関係ないだろうと、前世であることを隠して鬼の人生の話をしました。そして、今の姉に救って貰い、役に立ちたいと思っていることも。

 

「人が信じられないのはわかった。だから今は信じなくてもいい。でも見ててくれないか?君と出会って思ったんだ。魔族も根っからの悪人ばかりじゃない。人と共存できるんじゃないかって。でも……今の魔王はだめだ。だから魔王を倒したら、共存する道を模索したいって思ってる」

 

 夢物語だ。素直にそう思いました。既にどちらも多数の人が死んでいます。

 停戦ぐらいなら可能でしょうが、共存なんて夢のまた夢。

 結界の隅で三角座りをしたまま、自分の膝に顔を埋めたままポツリと呟きました。

 

「……私は、あなたの邪魔をしますよ」

 

「良いよ、それで」

 

 勇者は満足げに笑って言うのでした。

 

「どーん!お姉ちゃんだゾ☆大丈夫だった!?」

 

 それからやって来た姉が土砂を全て吹き飛ばし、助けに来てくれました。どうやって状況を知ったのかはわかりませんが、流石お姉様です。

 すると勇者が一言二言話すと、姉を連れて離れていきました。

 ナンパですか?姉は世界で一番かわいくて綺麗ですが、貴方にはあげませんよ。

 ジリジリと焦がれるように待っていると二人が戻ってきました。

 

「さ、帰ろっか?」

 

「はい、お姉様」

 

 そして姉の転移の魔法で家に帰りました。どこか満足げな姉は、話の内容は秘密だと教えてくれませんでした。

 

 

 今日は月も出ない新月の夜。闇が世界を支配する夜。

 王座の前で1人、魔王と対峙する。

 

「答えてください。貴方が私達の両親を殺したのですか、魔王」

 

「そうだ」

 

 答えた魔王は口元を吊り上げて笑った。

 こうなった経緯は勇者の一言が発端でした。

 

「なあ、最近魔族の情勢についても調べているんだが、その、君の両親を魔王が殺したって本当なのか?」

 

「え……?」

 

 頭が真っ白になりました。そんなこと知らない。でも勇者が今更そんな嘘をつくとも思えませんでした。

 

 だから私は直接問いただすことにしたのです。愚か。あまりにも短慮。しかし気が動転していた私は後ろで声を荒げる勇者を置いて飛び立ちました。

 

 王座に気怠げに座った魔王が深紅の瞳で私をまっすぐに貫く。

 

「貴様の姉は知っていたが貴様のために堪え忍んでいたのだ」

 

「オレサマが貴様らの両親を始末したのにな」

 

「オレサマの心臓を喰らい、始祖の力に至れる存在だった。危険だ。しかし殺すのは惜しい。あれは有能だ。独力でオレサマの事にたどり着いた」

 

「首輪はあった。貴様の事だ。オレサマとあいつが戦えばオレサマが勝つ。そうなれば貴様はどうなるだろうなぁ?」

 

「土砂崩れに貴様が巻き込まれたときは実に面倒だった。まあすぐに黙らせたが」

 

 私が首輪。私がお姉様の邪魔をしていた。愕然とした。

 何度も転生したのに。何も知らない子供のままだった。大して成長していなかった。役に立とうとしたのに、いるだけで邪魔になっていた。それが、それがたまらなく悔しい。

 

 唇を噛み締め、感情を振り払うように向かっていく私を魔王はあざ笑った。

 

「ふん、馬鹿め」

 

 瞬殺、そう表現するのが正しいでしょう。椅子から立ち上がる事もなく、一方的に嬲《なぶ》られた。

 

 そもそも私は真祖のお姉様にも敵わない。なのにお姉様よりも強い始祖のこいつに勝てるはずもない。

 手足の骨が折れ、立ち上がることもできない私を、血葬で作り出した剣で地面に縫い付けようとする。

 

「そこで暫く寝ていろ」

 

 飛んできた剣は、しかし弾かれた。顔を上げれば何度も見慣れた背中が見える。苦痛ですら流れなかった涙が思わず零れた。

 

「……お姉様?」

 

「そう!お姉ちゃんだよ!!」

 

 何故か勇者一行と現れたお姉様。転移の魔法を使ったのでしょう。

 

「ごめんなさいお姉様。役に立ちたかったのに私は……!!貴女の足枷でしかありませんでした……!!」

 

 両親を殺されたことを知ってこいつに従うのはどれほどの苦痛だったのだろう。想像の一端はできる。私の両親でもあるから。でもその期間はきっととても長い。両親が亡くなってからもう百年以上が経ってるから。

 私だったらきっと耐えられない。それなのに姉は責めなかった。

 

「そんなことはないよ。貴女がお姉ちゃんの支えだったの。貴女がいなかったらお姉ちゃんは短慮に走ってきっと死んでいた。姉妹だからね、やることは一緒だよ」

 

 それどころか姉は抱きしめてくれた。こんな出来損ないに笑いかけてくれた。

 どうしたらこの恩を返せるのだろうか。

 

「ここで待ってて」

 

「……話は終わったか?」

 

 魔王は血葬で作り出した剣をつまらなそうに弄んでいた。

 それには答えずお姉様は勇者の横に並び立って不敵に笑う。

 

「勇者くん、着いてこれるよね?」

 

「もちろん!」

 

 戦いは苛烈を極めた。

 姉と勇者の連続攻撃と、パーティーメンバーの援護に遂に魔王は立ち上がらざるを得なくなった。

 魔王は力を解放するように徐々にギアを上げていった。

 そしてついて行けるのは勇者をお姉様だけになった。勇者は見違えるようだった。私と戦っているときが嘘のように強かった。そして戦いのさなかどんどん強くなっていった。もう彼が一人でも私は勝てないでしょう。

 

 しかしそれでも魔王は強かった。有利なのは魔王。しかし天秤はどちらにでも傾くレベルだった。

 そして傾いたのはやはり魔王の方へだった。

 

 勇者は吹き飛ばされ、姉は地面から突然突きだした血葬の剣山に捕らわれ身動きできない。

 

「貴様を殺すのは惜しいが……、勇者を連れてきたのは明確な反逆行為だ。故に死ね」

 

 血葬で鋭く伸ばした爪の先を確かめるように眺めた後、動けない姉の心臓に向け狙いを定めた。

 吸血鬼といえど心臓を壊されれば再生できない。そのまま死ぬ。

 誰も間に合わない。――――私以外は。

 戦撃のスピードならまだ間に合う。

 

 姉に向かう爪の先を光を纏った一撃で弾く。

 

「ふん」

 

 お姉様の叫び声が遠くに聞こえる。私は……心臓を貫かれていた。

 首輪としての役目もなくなったから生かす必要も無いと言うことでしょう。

 私はもう死ぬ。始祖の目には興味も関心もなかった。しかしそこに油断はあった。

 飛びそうになる意識を食らいついて離さない。動けるはずのない私の体は、しかし勝手に二撃目を放つ。意識があるのなら戦撃は続く。その油断が命取りです。私から意識を反らした魔王の左足を地面に縫い止めた。

 

「貴様ァ!!」

 

「お姉様……やって……!!」

 

 すぐさま激昂する魔王。無視して、剣山から逃れたお姉様に水音混じりの声を掛ける。

 

「ッ!!!」

 

 魔王の右腕は私の胸を貫き、左足は地面に固定されている。隙だらけだ。

 顔をクシャクシャに歪めた姉が心臓をえぐり出し、投げたそれを飛び込んできた勇者が真っ二つにした。

 

「馬鹿な……」

 

 そんな言葉を残して魔王は灰になって消えた。もう誰もそれを見ていなかった。

 

 地面に崩れ落ちる私に姉と、なんと勇者が駆けつけてくれた。ふふ、貴方が優しくしてくれた理由は最後まで分かりませんでしたね。

 

「僕の夢はまだ終わっていないぞ!見ててくれるんじゃなかったのか!!?」

 

「起きて!お願い!置いてかないで……!!1人にしないで……!!」

 

「コフッ……。ご……め……。あり……が……ぉ」

 

 ――こんな私を大切に思ってくれて。幸せ……でした。

 


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