【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】 作:ねむ鯛
意識がゆっくりと浮上してくる。夢を見ていました。
1人残してしまったお姉様。恩も返すこともできなかった。私がいなくても幸せになってくれることを願うことしかできません。会いたいな……。
そして勇者。明確な約束はしていませんでしたが、彼の目標を最後まで見届けることができませんでした。それが心残りです。でも、彼ならきっとなんとかできるでしょう。お姉様もきっと助けてくれるでしょうから。
まあ、それはそれとして。
――良い匂いがしますっ!!!!
浮上する意識が加速した。
「あ、起きた」
目の前にはボウルに入った暖かそうなスープとそれに着いている女の子が。
あ、違いました。女の子がボウルに入った暖かそうなスープを持ってくれています。
「これ、欲しいの?」
「グルルルル……」
「え、今の腹が鳴った音か!?」
「マジか、威嚇かと思ったんだな。こわ……」
失礼な男が2人。見向きもせず、翼を降るって『射出』すると、羽が飛び出し額に一本ずつサクッと突き刺さった。デリカシーがない男はモテませんよ。
「「いってぇ!?」」
「何やってんのさあんた達……。うん?」
のたうち回る男二人に呆れたようにため息をつく女の子。そんな状況でもスープに目が釘付けです。
そんな私に気がつくと優しい目になって頷きました。
「もしかして待ってるのか?……良いよ、お食べ」
では遠慮なく、いただきます!!!
こ、これは……!!
絶妙な甘さとクリーミーな深いコクが全身にとろりと染み渡ってくる優しいコーンスープ!!
旅のための粉ものなのか、コーンの食感がないのが寂しいですが私の舌が喜びのあまり踊っています!!
「あんたうまそうに食う……え、泣いてる……」
おいしい、おいしいよぉ。
コーンスープを心底味わい尽くし、ごちそうさまでした。ありがとうございます。
さて……。ここはどこですか?
空には燦然と輝く太陽。
深かったはずの森は、疎らに木々が生える林になっている。早い話が迷子。
きっとこの人達が親切心で森の中から連れてきてくれたのでしょうが、帰り道がわからないのは困りますね。
「うーん、ログ。こいつやっぱりスワロー種なんだな」
「ああ、まあこいつらは羽毛が青いのが特徴だかすぐわかる」
これからどうしようか歩きながら考えているとそんな会話が耳に入ってきました。
ふと自分の翼を見てみると、純白だったそれが紺碧のそれに。……色が変わってしまったんですね。
自分の翼を眺めていると「なあ」と真横にしゃがみ込んだ女の子に声を掛けられました。
燃えるような赤毛が特徴な、ぱっちりした目元が勝ち気そうなかわいい女の子です。
「あんたは森の中で倒れてたんだ。人間に害がある種じゃないから保護したんだけど、なんか変な奴にでも襲われたのか?」
私の疲労と怪我の原因は地竜です。あれは変な奴と言うよりもヤバい奴と言うべきなので、違うでしょう。首を横に振りました。
「へえ、こいつやっぱり言葉がわかるみたいだぜ、フレイ」
「今はあたい達の調査対象の情報を集めるべきだろうに、ログ」
赤毛のフレイと呼ばれた女の子と同じようにしゃがんで興味深そうに見つめてくる、のっぽのログさん。
素直に返事をしてしまったのは悪手だったかも知れませんが、そこまで困るような事ではありません。どうせこの後別れます。
赤毛の女の子はフレイさん。のっぽな男の人ががログさんで、体格の良い男の人がターフさんですね。覚えました。
「な、そろそろ警戒を解いてくれても良いんじゃないか?」
脳裏に名前と顔を刻み込んでいるとフレイさんにそんな言葉を掛けられました。
…………。
「あんた、フラフラ歩いているように見せかけて位置を変えてただろ?あたい達全員が目に入る位置に」
「しかも一挙手一投足見逃さないようにしていただろ?」
この人達の言うとおりです。
現在は日中。吸血鬼の能力も使えませんし、初対面の相手です。警戒して然るべきです。
「言葉がわかるなら理解できると思うんだけど、あんたをどうにかするつもりなら寝てる間にやってるって。わざわざ助けて飯を食わせる必要もないだろ?」
……その通りです。なので警戒は最低限にしていたつもりなんですが、バレてしまったようですね。思ったよりも観察力が高い。皆さん武器を地面に置いて手の平を見せてくれました。
スッと彼女たちに対する警戒を解きました。
「お、警戒を解いてもらえたんだな」
「良かった良かった。スープをなかなか飲み込まなかったからね。警戒されて毒味しているのかと思ったんだよ」
そそそ、その通りです毒味ですいくらお腹が空いていたとは言え初対面の人から施されたものを何も考えずに楽しむような事はあり得ませんよ!!
「この子普通に味わっていただけだと思うんだな」
お黙りください。
サクッ。「いった!?」
荷物の上で座ったまま額の痛みにもだえるターフさんをよそに、フレイさんの目がなんだか残念なものを見るように変わっていく。解せぬです。
「ッ!フレイ!」
その緩んだ空気につけ込むように、草むらから突如飛び出した狼の魔物がフレイさんに背後から飛びかかった。
ターフさんは少し離れた場所で荷物の上に座っている。ログさんはフレイさんの正面にいて素手。フレイさんは未だ振り返ろうとしています。
このままだとログさんが飛び出して身代わりになって怪我をするか、間に合わずフレイさんが大怪我にすることになるでしょう。
なので私がやります。この状況は私が原因みたいなところがありますから。
空中の狼に向かって翼を振るい『射出』。さっきまでのお遊びのものではなくしっかりと攻撃として。結果、大量の羽を全身にプレゼントされた狼は勢いを殺され失速。地面に落ちたところをログさんが、ターフさんに投げ渡された槍で仕留めました。
キョトンとした表情のフレイさんがこちらを見つめています。
「まだ来るんだな!!」
最初の狼を皮切りに続きがゾロゾロと姿を現す。さて、とっとと片付けましょうか。
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五体ほど倒した所で無理だとさとったのか、狼は引いていきました。
皆さんお強くて『射出』しているだけで勝てちゃいました。強い人がいると楽で良いです。
そんなことを考えているとフレイさんがじっとこちらを見つめているのに気づきました。
何でしょう?
そしてフレイさんはコクリと頷くとこう宣言しました。
「良し決めたよ。この子飼うから」
「「は?」」
――は?