【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】 作:ねむ鯛
そもそも闘気とは、高密度のエネルギーの塊です。
生命力と魔力を練り合わせて生成されますが、実はここにもう一つ、呼吸の存在が不可欠になっています。
私も知らなかったのですが、空気中には『魔素』なるエネルギーが存在しているそうなのです。私達の魔力が回復するのはこれがあるおかげで、普段は呼吸と共に吸い込んで体内で魔力に変換します。
ですがこの魔素、体内に取り込みすぎると毒になります。
意識の混濁から始まり、熱や嘔吐感、体の痛みに倦怠感など、危険な症状が発生し、最後には死んでしまいます。この状態で動けるのは生命体としておかしいので、まずいないでしょう。
そうならないように体が量をセーブして、時間を掛けて魔力に変換します。
師匠が言っていたのですが、私が使う闘気にはこの魔素が使われているらしいのです。魔素は魔力に変換する前からかなりのエネルギーを持っている上に、空気中にいくらでも存在しています。
空気中に石油が存在しているようなものです。しかし先ほど言ったように私達のエンジンにこの石油をそのままぶち込むと、エンジンが壊れて死にます。コワイですね。
闘気を精製する際は、生命体と魔力、そして呼吸から取り込まれた魔素をすぐさま練り合わせます。そうすることで魔素は、無害な闘気に変換され、体内に残ることがないので中毒症状が起こらないのだとか。
更にここでネックになってくるのが戦闘中での呼吸の扱いです。
通常、攻撃をする際などは息を止めます。単純に息を止めた方が力が入るからです。そうすると動き回っている際は、闘気は生成できないことになります。
できるのは戦撃を使う前にタメの一瞬ぐらいでしょう。一応呼吸なしでも闘気は生成できますが、魔素が負担していたエネルギーの分を自前で払わないといけない訳なので、かなりの効率の悪さになります。おまけに魔素のも単純なエネルギーとして取り込んでいる訳では無いようで、闘気としての質がかなり落ちます。
どうしても呼吸ができないとき以外は、やらない方が賢明です。
そして新たな呼吸を会得した私なのですが、常に息を吸っていると感じたのは誇張では無いようで、常に魔素を取り込む呼吸ができます。酸素を取り込んで息切れがないだけでなく、激しく戦っている際も魔素の取り込みが切れることがない。
つまり私は、私だけが、常に闘気を生み出すことができるのです。闘気における魔素の含有量が上がったおかげなのか、質もかなり上がりました。
最初に言いましたが闘気は高密度のエネルギーです。これからは闘気を纏った私の戦撃も通常の攻撃も、今までとは一線を画したものになるでしょう。
これも翼竜のおかげです。彼が戦おうと言い出したときは本当に嫌でしたが、彼との高高度での戦闘がなければ気づくことはなかったかも知れません。普通に飛んでいて息苦しくなれば、きっと高度を下げるだけでしょうから。気絶しかけるまで飛んでるはずもありません。どんなマゾですが、それは。
ともかく戦おうと言い出した翼竜にはこの力を示すことで感謝としましょう。
さあ、勝負です!
『……う』
――う?
『うわ~ん、われの鱗が~』
――は?
突然泣き始めた。何故?え、本当に何で?
あまりの困惑に纏っていた闘気が消え去りました。
『覚えてろ!父上に言いつけてやる!!』
ええ……。
そう言葉を残すと背中を向けて飛び去っていきました。貴方が戦いたくないのなら私は別に良いのですが、この釈然としない気持ちをどうしたら良いのでしょうか。
さっき貴方のことをべた褒めしたんですよ。私のこの賞賛を返してもらえませんか??
『前の大陸でのリベンジができると思ったのに~!!』
――は?ちょ、ちょっと待ちなさい!!
既に豆粒ほどの大きさになった翼竜から聞き捨てならない言葉が聞こえました。前の大陸ってどう言う事ですか!?まさかここが別の大陸とでも言うんですか!?答えてから行ってくれません!?
『うわ~ん』
そのまま空の彼方へ。もう流石に追いつけません。
え、本当にどう言う事なの……?
一羽ポツンと上空に取り残された私。ヒュウゥとなんだかもの寂しい風が吹いてきてわびしくなってしまいました。
このまま黄昏れていても何の解決にもならないので、下から見上げていたフレイさん達の元へ降り立ちます。
すると駆け寄ってきたフレイさんに抱きしめられました。
「あんた凄いじゃないか!あのグレーターワイバーンを撃退するなんて!ありがとう、助かったよ」
なんだか熱が籠もったような瞳のフレイさんに、首をゆっくりと振ります。
――そもそも私と勝負をするために脅されたようなものです。フレイさん達だけだったらきっと何事もなかった可能性が高いですので。
言葉は伝えることができなかったですが、言いたいことは何となく伝わったでしょう。
何故か優しげに微笑むフレイさん。スッと顔を逸らしました。
「まあ何にせよあんたが居てあたいは良かったよ。ありがとう、メル」
――あれ?私の名前?
何故知っているのでしょうか。問うように首を傾げれば答えてくれました。
「さっきのグレーターワイバーンが呼んでたからね。違った?」
――なるほど、そういう理由ですか。
間違っていない事を伝えるように首を振ると「じゃあ、あんたはこれからメルだね」と、確かめるように呟いた。
「それにしてもあんた別大陸から来たんだね」
――そう!それです!!
物珍しいものを見る目のフレイさんにブンブンブンブンと首を全力で横に振ります。
「え?違う?」
ブンブンブンブンともう一度。
「え?じゃあ、別大陸から来たの?」
もう一回どん。ブンブンブンブン!
「どう言う事……?」
フレイさんの頭上に疑問符がたくさん現れましたが、そう答えることしかできません。言葉を伝えられないのが辛いです……。
やがて得心がいったのか人差し指をピンと立てたフレイさんが顔を近づけてきました。
「もしかして別大陸から来たことを知らない?」
――その通り!大正解です!!
首を縦にブンブンブンブン!
瞳の熱が薄くなり、心なしか残念なものを見る目に。
「じゃあ、あんたが行くべきだって言ってた所はどこかわかるの?」
最早赤べこになった気分です。もちろん首を横に振ります。うふふ、なんだか楽しくなってきました。ヘドバンしている人の気持ちがわかるような気さえします。縦ではなく横ですが。
「じゃあ……、一緒に行こうか?」
コクリと流石に頷きました。ここが私が今までいた大陸と別物である可能性が出てきた以上、情報収集が必要です。そんなことができる場所は人の街くらいでしょう。
ここはフレイさん達についていって調べるのが今できる最善です。
――お母様、もうしばらく待っていてください。私は必ず帰って見せます。
「こ、こいつさらっと良いとこ持ってったぞ……!!」
「悪女過ぎて末恐ろしいんだな……」
何故かログさんとターフさんはフレイさんに向けて戦慄の視線を向けていた。
Tips
鳥の肺の構造が特殊だと言いましたが、実はトカゲも似たような構造をしているらしいです。
そう考えると爬虫類の一種だと考えられるドラゴンって凄いですよね。
上空を飛んでも困らない心肺機能を持っているわけですから。
昔の人は鳥の肺の構造が高所での行動に適しているとか知らない筈なのに、驚くほどドラゴンの体が完成されていると思いませんか?まるでホントに居たみたいですよね。そう考えると夢が広がります。
まあ、本当にいたら夢は広がっても寿命は縮みますが。