【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】   作:ねむ鯛

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第34羽 パルクナット その4 冒険者ランク・魔法と魔術の違い

 

「にしても最近はAランク以上の冒険者がほとんど別の場所に出払ってるからな。俺ら含め、良いとこBランクぐらいしか街にいないのもあって調査がなかなか進まない」

 

「なんでも白蛇聖教が割の良い依頼を高ランクの冒険者に指名で出しているみたいなんだな」

 

 そんな愚痴を溢しながらログさんが槍を突き出し、ターフさんが戦槌を振り下ろす。向かう先に居るのは緑色の肌をした小鬼のような魔物、ゴブリン。いろいろな世界に居るメジャーな魔物ですが、この世界のゴブリンは特に強くない、最弱の魔物の部類です。

 

「それのおかげでこうやって調査してるだけで結構良い報酬がギルドから払われるんだ。そう悪くはないだろう?」

 

 棍棒を大きく振りかぶったゴブリンに、素早く接近したフレイさんが首に押し付けた右手のナイフを軽い動作で振り抜いた。絶命するゴブリンに目もくれず、僅かに位置取りし直して左手の短杖《ワンド》を別のゴブリンに向ける。

 

「《バースト》」

 

 細い光線状の炎がゴブリンの脳天を貫き、物言わぬ骸に変えた。

 

 この世界の冒険者は熟した実績からランク付けをされています。最高ランクがSで、最低がE。更に番外として英雄級というのがいるらしいです。SランクとAランクの間には大きな隔たりがあり、Sランクと英雄級の間には越えられない壁が存在しているそうです。

 

「お、終わったのか?」

 

 アヘくんの影に隠れていたジョンさんがヒョッコリと顔を出す。やっぱり貴方、戦わないんですね……。そんなにカッコつけてるのに……。

 

 このジョンさんは相棒のアヘくんの能力を活かして、配達や採取、調査系の依頼を多く熟して、討伐系の依頼は全くやっていないそうです。アヘくんはBランク上位くらいの実力があるらしいのですが、件のジョンさんの戦闘力は皆無なので冒険者ランクはCに落ち着いているそうです。

 アヘくんは子供の頃にジョンさんが拾ってきたらしく、最初はハウンド系列の犬の魔物だと思っていたらしいんですが、育ってみてびっくり。高ランクの魔狼だったと。

 だから自分よりも弱いジョンさんと仲良くしているわけですね。狼は総じてプライドが高く、自分より弱いものには例外を除いて従わないので。アヘくんが念話を使えるのはジョンさんと話そうとした結果だとか。……なんで私は使えないのか。……才能が無いからですよね、わかってますよそれくらい。

 

 フレイさん達はBランクです。一芸に特化したジョンさんはともかく、ここら辺のランクになってくると、かなりの実績と信用がいるらしいです。皆さん頼りになるので納得のランクです。

 

 それとあの泣き虫翼竜はAランクの実力がないと、単独では対処できない様なので私はAランク程と考えて良いのかも知れません。

 

「1、2、3……7?あれ、一匹足りなく無いか?」

 

 そんなジョンさんの背後にゆっくりと忍び寄る影が一つ。コソコソと回り込んでいたゴブリンが、手の小さな杖を掲げると紫色の球体を発射した。

 

 気づいていないジョンさんに直撃コースの球体を闘気を纏って蹴り飛ばし、闘気を込めた『射出』をするとゴブリンの頭が消し飛んだ。……やり過ぎました。

 

「メル!!……なんともないのかい?」

 

 ―――はい?どうしたんですか?

 

 心配そうな声で駆け寄ってきたフレイさんに首を傾げる。するとターフさんが補足を入れてくました。

 

「今のはゴブリンシャーマンの《カース》なんだな。弱い人間だったら死んじゃうこともあるんだな」

 

「強くても体調ぐらいは悪くなるし、数日は続くぞ。お前……、ホントになんともないのか?」

 

 体が重くなったり気分が悪くなったりもしてないので問題ないでしょう。大丈夫であることをアピールしておきます。

 

「なら良いんだけど……」

 

 ほっとした表情を浮かべるフレイさん。

 これは最近復活した魂源輪廻《ウロボロス》の『限定解放(呪人)』のおかげですね。この前起きたら戻ってました。なんで?

 

 ともかく、呪人族は基本的に通常の人族とほぼ変わらないんですが、唯一違うのが『呪力《しゅりょく》』を生成できる臓器を持っていることです。

 

 ・限定解放(呪人)

 解放能力 [+呪術適正・呪術耐性・占術・魔術適正]

 

「呪術」呪力を使って呪《のろ》いや呪《なじな》いを扱える能力です。私はもっぱら呪《まじな》いばかりを使っていたので呪《のろ》いの方は全然ですね。呪《のろ》いそのものが嫌いだったのもありますが何より呪《のろ》いは失敗すると倍になって自分に返ってくるので、リスクとリターンが合っていません。

 これとは別に呪法というものがあるのですが私は苦手でしたのでスキルにはなりませんでした。

 

 魔法と魔術の明確な違いがありまして、これの差が呪法と呪術の違いにもなります。

 魔力での説明になりますがそれぞれメリットがあり、魔法は応用力と自由度、魔術は簡略化と速度になります。

 まず魔法はその場で魔力を操って形を作ります。魔力を自分の感覚に従ってこねくり回し、それを自分が望む形にするので、どんな場面でも効果に困る事は無いのですが、如何せん戦闘中になると魔力の操作にまで気を取られてしまい、私には難しい魔法を使うことができません。《ウィンド》なども簡単な上に、鳥としてほぼ無意識に飛行の補助に使えるレベルで適性があるから使えているに過ぎず、これ以上になるとほぼ無理です。その分使いこなせれば万能なんて目ではなくなるのですが、私には才能がありませんでした。

 

 反面、魔術は比較的簡単にできています。最初に魔術としての雛形を作っておき、そこに魔力を流し込むだけで効果が発動する仕様になっています。発動が簡単で即座に起動できるのが強みですが、作ってない魔術は使うことができず、既にある魔術も既定の効果しか現れないので、融通が利きません。

 

 呪法と呪術は魔力ではなく、これの呪力バージョンになります。

 

 魔法が苦手だった私は魔力の運用を諦め、戦撃にだけ使う決意をしていたのですが、師匠のおかげで魔術として使えるようになりました。

 師匠は才能の化け物で、魔術に手を加えた変数型の魔術を使っていました。この変数型魔術と言うのが、魔術の雛形に流す魔力の比率を、流す場所によって変えることで効果を変化させるというものになります。

 ここで重要なのが量ではなく比率と言うところです。

 

 いやそれができないから魔術使ってるんですが??

 一応いくつかの変数型魔術は受け継ぎましたが、使いこなせる気が全くしません。

 普通に魔力を流したら火球になる雛形が、比率を弄って発動すると水の槍になって出てくるんですよ?

 訳がわからないよ……。白い猫みたいなヤバい奴もきっとそう言うはずです。

 

 呪人族になる前の人生で師匠に会えていたので良かったですが、そうでなければまともに呪法を扱えない私はこの能力を使いこなせないまま人生を終えていたでしょう。

 

 と、ここまで沢山説明しましたが私は今魔術が使えません。なぜなら私の技術では魔術を形作るのに手が必須からです。魔術は魔法と違い、体の外で形を作ります。その際、手から放出した魔力で魔術陣を描く、と言うよりも固めるのですが私は握り込む動作が必須になります。

 

 優れた術者はなんの動作も必要なく、また手だけでなく全身から放出した魔力で魔術陣を固めることができるのですが、私は手から出した魔力かつ、握り込む動作がいります。これも魔力を扱うのに想像力がどうしても必要になるためです。足で箸が持てないように、私は手でしか魔力を扱えないのです。このへたくそぉ……。

 

 ちなみにお察しの通り師匠は軽々とこれをこなせます。これだから天才は……!!

 

 


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