【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】 作:ねむ鯛
――くッ!!
その時首を切り落としていた事もあり、チャンスと考えた冒険者が何人か近づいていた。そこにニョキニョキ生えてきた2本の首が避ける隙を与えず麻痺のブレスを吐きだしたのです。石化と毒のブレスも吐こうとしていたので全力で阻止。麻痺ブレスも片方止めたのですが、もう一つは間に合いませんでした。増えた方の首の麻痺ブレスが不用意に近づいていた冒険者を包み込み、痙攣するだけの姿に変えてしまった。
今はヒドラがそちらに近寄らないように全力押しとどめているところです……!!
「おい!帰還の種は!?」
「もう二個しかないって知ってるだろ!足りないんだよ!!」
「良いから誰かに使ってとっととギルドに送り返せ!残りは担いでどかす!!」
冒険者が小さな結晶のようなものを痙攣したままの冒険者に握り込ませると、その姿がかき消えた。
なるほど、今の結晶は冒険者ギルドへの瞬間移動の魔法が込められた道具みたいですね。今までは麻痺した人をこれで送り返してなんとかしのいでいたのでしょう。しかし使いすぎたのか、なくなってしまったと。
ヒドラの4つに増えた首の攻撃を捌きながら考察する。
ともかく今の私の仕事は、動けなくなった冒険者が安全圏に避難できるように守り切ることです。
文字通り四面楚歌な状況、背後には未だ避難できない冒険者。担いで移動している以上ブレスが吐かれれば犠牲者が増えて詰み。そして前衛の冒険者が近づけなくなったので、ヒドラの全ての注目が集まっている状況。
難易度はハードを通り越してルナティックですがやり通して見せましょう。元々ブレスは吐かせない筈だったんです。その尻ぬぐいくらいして見せます。呼吸を深く、深くしていけば、闘気の朱にも深さが増していく。
広場から避難が済むまで約一分と言ったところでしょうか……。少しキツいですがギアを上げていきますよ。
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「すげぇ」
誰が呟いたのかポツリと言葉がもれる。ヒドラに対抗するスワロー種の攻防は芸術的と言えるほどだった。
4つの首が襲いかかる中、どれ1つとしてまともに攻撃をくらっていない。まるで嵐の中にある台風の目のようだった。それどころか反撃すらしている。
噛みついてきた首に、赤い光をまとった強烈な一撃で返り討ちにしたかと思えば、弾かれたその首がブレスを吐こうとしていた別の首に激突してその行動を止めた。かと思えば、2つの首が受けた衝撃で体がぶれ、三つ目の首の攻撃がスワロー種が移動するまでもなく頭上を通過するように外れる。四つ目の首は、スワロー種が真下に隠れる形になった三つ目の首に、攻撃ルートを遮られ止まらざるを得なくされた。そしてまた、光をまとった一撃。三つ目と四つ目の首が同時に弾かれた。
恐ろしいのはこれが一度だけではないと言うことだ。何度も起こっている。それも意図的に。場当たり的な戦い方ではなく、自ら誘導し計算して理詰めで動いてる。
そう――――まるで詰め将棋の様に。
悔しいがここの誰が今あの場に割ってはいても邪魔にしかならないことぐらいはわかった。例え、避難の手伝いをした冒険者が戻ってきたところで。
「メル、あんたは凄いよ……」
「これなら、このまま倒せるんじゃ……」
冒険者の誰かが放った言葉はフレイも思ったものだった。小さな姿で、強大な存在に立ち向かう。
それはフレイにとって特別な思いをもたらすものだったから。しかし――――
「いや、このまだとマズいかもしれない」
「なにか知っているのかジョン!?」
「あの子の口元を見てみろ。動いてるときは見えないが、止まっているときなら見えるはずだ」
「なに……?口元の景色が揺らめいている?あれはなんだ?」
「ああ、昔、鳥系の魔物は汗をかかないという論文を読んだことがある。生き物は汗をかくことで熱を逃がすんだが、鳥は口から呼気と一緒に熱を逃がすんだ」
「ならあの揺らめいてるのは熱なのか!?」
「ああ、あれほどの熱だ。かなり無理をしているのかもしれない……!!」
「なんだって!?」
フレイにとってあの幸運の青い鳥は強さの象徴のような存在だった。食べるのが大好きで、警戒していた癖にすぐに懐いて、ちょっと抜けていて放っておけなくて。
でも、強い。少なくとも並大抵のことでは届かないと思わせる、その強さがフレイの目を眩ませていた。
――小さくても強くならなくてはいけなかったということではないか。
と言うことに。
――あたいは馬鹿か!!そのぐらいのこと知ってたはずだろうに!!
申し訳なさと僅かな焦りが普段よりも多くの魔法を使わせた。
そして空気を焦がすほどの魔法が、4つのうちの1つの首に着弾する直前、予想外の形で状況が動いた。
件の鳥の空気を揺らすほどの一撃が、その首を切り落としたことで。
「メル!?」
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ヒドラ。
異世界で似たような名前、似たような姿の生き物を相手にしたことがありますが……、総じて厄介なのが首を切ると増えて生えてくるということです。
できれば伝えたいのですが……話せないんですよ私。首を切ったら増えるって、この戦闘中にどうやってジェスチャーすれば良いと??
とはいえ増える首に対処する方法も大体一緒でした。
炎です。首を切り、そこを炎で焼くことで再生できなくなります。
ですが残念なことに私には風しか使えません。なので待つしかありませんでした。
ゲラークさんに先を越されてしまいましたが。
そして今。多種多様な風、氷、地面、雷の魔法が飛んでくる中、首の断面を焼き焦がせるほどの魔法がくるのを只管待ちます。
そしてそれは願いの通りに来ました。
――流石です。フレイさん!!
フレイさんお得意の強力な炎の魔法が発動された。首の位置を誘導し、闘気を鬼気を爆発させ【鬼伐《きばつ》】を発動。完璧なタイミングで首を切断することに成功した。タイミングを合わせるために炎を少し食らってしまったが必要な事だった。ちょっと翼が焦げちゃいましたね。
「メ、メル!?ごめん、大丈夫!?」
――大丈夫ですよー。
痛みにもだえるヒドラを背景に、無事を伝えるために翼をフリフリする。そこで、1人の冒険者が気づいたように叫んだ。
「見ろ!首が生えてこないぞ!!」
「火だ!傷口を焼けば再生できなくなる!!」
冒険者の一団が喜びの声を上げる中、フレイさんの目が徐々につり上がっていく。私を見る形相はそれはもう恐ろしいものだった。
――あ、あれ?私なにかやっちゃいました……?し、知らないっと。
メルには知りようのないことだが少し前までのフレイだったら、他の冒険者と一緒に喜んでいただろう。
しかし今は強さよりも小ささに目が行っていたので、心配が勝っていた。そのタイミングで普段より強めに使った魔法に巻き込んでしまい青ざめていたところに、あれは無茶をしてわざと飛び込んで行ったのだと気づいた。
心配がそれ以上の怒りに変わるのも仕方がないと言える。
悪寒と共にお説教が確定したのだった。
「やるじゃねえか、鳥!!」
――ゲラークさん、その呼び方なんとかなりません?
タイミング良く避難させるため離れてていた冒険者が戻ってきた。
「悪かったな鳥、俺のせいで苦労をかけた」
――いえ、知らないのならしかたありませんよ。
「へへ、ありがとよ!お前ら見たな!首を切ってすぐに焼けよ!!今からは炎系の魔法だけ使え!!」
そこからは速かった。私がブレスの発動を押さえつけ、冒険者が攻撃を加える最初の動きに戻り、ヒドラは何もできないまま消耗していくことになる。
私が2つ、ゲラークさんが1つ首を落とし、タイミングを合わせて断面を焼き焦がした。
そして――
「首が全部無くなっても動いてるぞ!!」
「こいつ……、不死身か……!?」
首がなくなってもヒドラはまだ死んでいなかった。流石の生命力です。しかし
――これで終わりです。
痛みにのたうつ蛇の上空へ跳躍し狙いを付ける。
――【奈落回《ならくまわ》し】!!
重力と遠心力がたっぷり乗った踵落しが胴体のど真ん中の鱗を割り砕き、その下の地面にクレーター築きあげた。
それを最後にヒドラは遂に完全に沈黙することになる。
「動かない……」「終わったのか……?」
未だ信じられないように様子を窺っているが、冒険者の理解が徐々に追いついてくる。
「勝ったぞ!!」「やった!」「あのスワロー種のおかげだ!」「あいつすげーな!!」
「凄いじゃないかメル!あんたのおかげだよ」
地面に降りたって一息ついた私にフレイさんが駆け寄って抱き上げてきました。
――火が使えない私だけでは倒せなかった。冒険者の皆さんのおかげです。
そこでフレイさんがニコリと笑って言った。目が笑っていない。
心なしか抱き上げている腕の力も強い。あの……フレイさん……?
「でも後で話があるから……ね?」
――は、はいぃぃ……!!
「あ~あ、最悪じゃない」
そんな祝勝ムードの中、へばりつくような悪意が舞い降りた。
もし「展開が熱い!」「続きが読みたい!」「頑張ってる主人公がカッコイイ」「フレイさんばぶみ」「まるで将棋だな」「知ってるのか〇電!?」「私何かやっちゃいました?」と思って頂けたのなら、ぜひ!お気に入りと評価をお願いします!!
まだまだ不穏な空気は終わらんぜ……?