【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】   作:ねむ鯛

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幼い頃両親と宿屋を経営して過ごしていたフレイ。両親は元冒険者で、自分も冒険者になりたいと思っていた。そんなある日、町に爆発音。険しい表情をした両親はフレイを守るために地下室に押し込めた。泣き疲れて眠った後、起きると扉の鍵が開いていた。出てみると町なんてどこにも無い。途方に暮れて歩いていると、声が聞こえた。父の声だ。走って行けば、バケモノが父の首を掴んでいた。
バケモノは両親や他の冒険者を殺すとこういった。「面白そうだから生かしてやる。復讐でもしに来てみれば」と。そして、フレイは孤児院に預けられることになり、力を求めてやがて冒険者になった。




第41羽 悪逆非道

 

――危なかった。もう少しで本当に死ぬところでした。

 

『血葬』を翼と足にまとわせ、コアイマが振るう剣と打ち合いながら思う。

 

霞む視界の中、ソウルボードを操作してメインに吸血鬼を設定したタイミングはギリギリ。夜になるのがあとちょっと遅くても、急所を避けきれず心臓を貫かれていても私は死んでいました。

 

『高速再生』を意識して急いで背中まで貫通した傷を修復。背を向け油断していたコアイマの首筋に、嘴で『つつく』を使って血液を回収して、蹴り飛ばした。

 

正直な所、今尚剣を振り回して攻撃を加え続けてくるこのコアイマという存在は強い。苦手な徒手空拳でリーチで劣る剣を相手しなければいけないというのもそれを助長しているでしょう。

巨大な魔物相手であれば懐に潜り込めば戦撃を使う隙もありました。でもこの人型のコアイマは、そもそも懐に潜り込むことが難しい。そして被弾面積が小さいので戦撃を不用意に使えば避けられてしまうリスクが高くなっている。

 

元々私は対人戦の方が得意なのですが、武器が使えない今は逆に巨大な魔物相手の方が楽です。

『血葬』を翼にまとい、手のように扱うことも考えました。手足のように使えるとはいえ、あくまでそれは例え。武器を「持つ」事はできても「使いこなす」事はできません。それならまだ素手の方がマシです。

 

さらにもう一つ。夜になり吸血鬼の力が私の能力に上乗せされ、『血葬』のおかげで翼でも打ち合えるようになったがそれでもまだ問題がある。

 

――――血の効果が薄い。

 

吸血鬼という種族はその特性上吸血によって能力が強化されます。吸血とは文字通り血を吸うだけではなく、血に含まれている生命力を、吸血という一種の『儀式』によって増幅させ体内に取り込む行為です。

 

ここまで強いコアイマから吸い取れる生命力が非常に少ない。感じる強さと生命力が釣り合っていません。不思議でしょうがないですがそれは考えても仕方ないので置いておきましょう。

 

重要なのは吸血による強化時間がそう長くは続かないと言うことです。

 

もう一度吸血したいですが懐に潜り込む事すら難しい相手です。それよりも密着しなくてはならない吸血が果たしてできるでしょうか。

戦撃すら避ける相手です。地竜同様そんな致命的な隙を晒す事はおそらくないでしょう。

そう考えていると唐突にコアイマがニンマリと悪魔のような笑みを浮かべた。

 

「じゃあこれなら……どうかしら?」

 

突如として魔力を固めた球体を明後日の方向に発射した。……なにを?

視線を向ければ向かう先には――――倒れ伏した冒険者。

 

――っ!?このッ!!

 

冒険者の正面に一息に移動して、血葬と闘気をまとったまま魔力球を蹴り上げれば、弧を描くように背後に飛んでいき城壁に激突した。轟音と共に城壁の一部が崩れ落ちる。傷ついた今の状況で冒険者が魔力球を食らっていたらおそらく死んでいた。なんて悪辣なッ……!!

背後から風切り音がしたと思えば背中に熱を感じて地面を転がされる。斬られた。

 

「あは、あなた魔物のくせに人間を優先するのね?奇妙だけど私にとっては……願ったりよ?」

 

私の血が付いた刃先を撫でながらコアイマが笑う。マズいですね。この状況で冒険者を守りながら戦うのは……!!

 

その時倒れていた冒険者のうちの一人が震えながらも体を起こす。

 

「ゲラーク!!」

 

「ゲホッ、おめえら見ただろ。動けない奴らを全力でこの場から運び出すぞ」

 

拳を握りしめ、歯を食いしばって続ける。

 

「俺らは、邪魔でしかねえ……!!」

 

「ゲラーク……」

 

ゲラークさんの悲痛な宣言に恐怖に固まっていた冒険者が恐る恐る動き出す。

恐怖はまだあった。それでも動き出せたのはゲラークの震える声と申し訳なさからだった。

 

「させると思う?」

 

怪我人を担いだ冒険者にためらうことなく放った、コアイマの魔力を必死に蹴り飛ばす。

 

「おめえら急ぐぞ!このままじゃあ、鳥が持たねえ!!」

 

自分の怪我だって痛いだろうにゲラークさんは両脇に怪我人を抱えている。もう少し自分を労ってください。

 

「次よ。防いで見せなさい?」

 

この期に及んで遊んでいるのか、魔力球は私が全力でギリギリで迎撃すれば間に合う速度とタイミングでしか襲ってこない。

少しでも私が速度を緩めれば、少しでも手違いをすれば。誰かが死ぬ。

そうなれば私が折れてしまうかもしれない。私のことを大して知りもしないくせに、息を吸うようにそれを半ばわかった上でやっている。悪魔の様な才能だ。

 

でもそれは同時に慢心でもある。勝機は必ずある……!!

只管発射される魔力を弾いていく。全力で動くことを強制されるために、一度落ち着いた熱が再び籠もってくる。落ち着け。焦るな。冷静に……!!

 

そして倒れていた冒険者の約半数が運び出された。もっと早くに私が堕ちると思っていたのだろう。予想外に粘り、目に見えて冒険者の量が減って焦れたコアイマが遂にミスを犯した。

僅かに早いタイミングで、私に余裕のあるタイミングで、魔力球が放たれたのだ。

 

――【側刀《そばがたな》】!!

 

タイミングを逃さず、戦撃で加速し魔力球をコアイマに向けて蹴り返した。上手く予想をずらしたおかげで、未だ次の魔力球は発射されていない。

 

「くっ!!」

 

そして迫る魔力球に回避を強制させられる。その間に地面を蹴り全力で駆け出す。

一歩。

猶予を与えない。避けられないうちに血と闘気をまとった羽を複数『射出』。威力を高め受けることを選択させず、剣を振るうことで防がせる。

二歩。

地面に落ちた羽に付着していた血液を操作して、鋭く長い針のように伸ばして攻撃。避けさせる。

三歩。目の前!

 

「チィ……!!」

 

牽制されるように振るわれる剣を――――体で受け止める。

 

――ぐぅッ!!

 

「なっ!?」

 

剣で切り裂かれることに構わず前進する。肉を切らせて骨を断つ。こんなもの時間が経てば勝手に直ります……!!

 

驚愕に固まるコアイマに次々と血葬と闘気をまとった翼を叩きつけ、蹴りを見舞っていく。

 

――ひるんだ!ここです、【昇陽《のぼりび》】!!

 

サマーソルトで水月を蹴り上げ、くの字になった体を無理矢理浮かせる。

 

――【降月《おりつき》】!!

 

痛みに固まったコアイマの頭に、ムーンサルトキックを繰り出し地面に叩きつける。

 

――【貪刻《どんこく》】!!

 

地面にバウンドして僅かに浮かび上がったそこに横蹴りを抉り込んだ。

 

「グボォ……!!」

 

口から汚い体液を吐き出して吹き飛んだコアイマを追いかけ一気に距離を詰める。

腹を押さえて起き上がったコアイマの苦し紛れの魔力球の射線上に、誰も居ないことを確認して回避と同時に《ウィンド》を放つ。

 

「そんな子供だましみたいな魔法で……なに!?」

 

魔法はコアイマの目の前の地面に当たり、砂礫を巻き上げた。効きもしないであろうそれから反射的に顔を庇う。

視線を戻せば――姿がない。

 

ヒュルヒュルという風切り音に咄嗟に顔を上げる。

 

「上――――」

 

時既に遅し。見上げたそこには既に足があった。

 

――【奈落回《ならくまわ》し】!!

 

顔面に踵がめり込み、後頭部から地面に叩きつけ小規模なクレーターを作り上げた。

 

――追撃を!!

 

その時、倒れ伏したコアイマから急激な魔力の高まりを感じた。最初の時と同じように。

 

爆発。

 

咄嗟に血葬で小規模なシールドを作り出し、事なきを得たが衝撃で距離を開けられてしまった。

 

――マズい!!

 

相手に余裕を与えればさっきの焼き増しです。急いで距離を詰めようとするがもうコアイマは立ち上がっていた。

 

最初から縦に裂けていた瞳孔は鋭さを増し、口元は凶悪に吊り上げられている。怒り心頭だ。

 

「このクソ魔物が!!」

 

遊びを捨て、魔力球をやたらめったら放つ。もちろん先には避難中の多数の冒険者。

そしてコアイマ自身も剣を手に駆けだした。その先には、なんとか落ち着いたのか怪我をした冒険者に肩を貸して避難していく――――フレイさんの姿が。

 

目を見開きまるで選べとでも言うように口元を吊り上げるコアイマ。

 

私は迷うことなく……多数の冒険者の方へと駆けだした。意外だという風に視線を切ってそのまま駆けていくコアイマを一端無視する。

『天の息吹』を限界を越えて使用し、最大速度で動く。多数の魔力球を殴り、蹴り飛ばし、時には体で受け止め、その全てを無理矢理処理した。

 

そして――――

 

「フレイ!」

 

ゲラークが叫ぶと同時にフレイの背中に衝撃が走り――――地面に倒れ込んだ。

 

バランスを崩したのだ。何が起こったのかわからないうちに背後からズブリと生々しい音が聞こえた。とても、とても嫌な予感がした。

 

「あら、あなたは自分を捨てたのね」

 

愉快でたまらないという世界で一番聞きたくない声が聞こえた。

おそるおそる振り返ればメルが背後からコアイマの剣に貫かれていた。あたいを……庇った……?

血を流しながらも抜け出そうと藻掻くメルの翼にコアイマの手が伸びる。

悲痛な悲鳴が響き渡った。コアイマに掴まれた両翼が曲がるはずがない方へと無理矢理曲げられていく。

 

「あっはっは!!いい気味よ!!苦しんで死ね!!」

 

遅れて――――ボキリという嫌な音が響いた。

 

へし折られた骨。響く鈍い音。

 

その姿がフレイの中で父と重なった。


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