【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】 作:ねむ鯛
「さて次はここだよ」
武器屋を出てフレイさんに連れられてきたのは「魔導具専門店マグー」と看板が出た店だった。
「魔導具ですか?」
「そう、数日後にはマンドラゴラを取りに行くだろ?人数分持って帰ってくるには入れ物が必要だから、マジックバックでも買った方が良いんじゃないかと思ってね」
マジックバック。確か、空間魔法が付与されていて、入れ物のサイズとは裏腹に収納できる量がものすごく多い魔導具。便利そうなのでそれは良いのですが……。
「まだ私が霊峰ラーゲンに行くと決まったわけではないですよ?」
「なに?負けるつもり?」
心底不思議そうに聞き返してきたフレイさんは、私が負けるだなんて欠片も考えていない様で。
「いえ……」
その信頼に思わず顔を逸らしてしまう。
「照れてるの?顔が赤いよ?」
ニヤニヤ笑いながらフレイさんが私の頬をツンツンつついてくる。
「もう!ふざけてないで入りますよ!!」
北の大陸は寒いはずなのになんでこんなに熱いんですか!
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「モーク、来たよ」
後ろから入ってきたフレイさんが中に呼びかける。どうやらここも知り合いのお店のようですね。
「フレイか!?」
出てきたのは男性の方。
「重ね重ね言うが、妻と娘をありがとう……!!」
「もうそれは良いって……。助けたのあたいじゃないし」
ため息をついてうんざりとした様子を隠そうともしない。本当に何度も言われたんでしょうね。それだけ奥さんと娘さんが大事だということの裏返しでもあります。
「ここに来たって事はこの子が……!?」
「そうだよ、あんたの救世主さ」
バッと振り向いたモークさんに、面倒くさいのが離れて良かったいう表情のフレイさん。嫌な予感が……。
「ありがとう!!!!」
「わっ!?」
ガバリと抱きついて感謝の言葉を伝えてきた。
「俺はモークだ!君のおかげで逃げ遅れていた妻と娘が助かった!なんとお礼を言ったら良いか……!!」
な、泣いてる……!!なるほど、ヒドラに襲われていた女の子とそのお母さんらしき人は、この人の家族だったと言うわけですね。それは良いのですが……。
「わ、私はメルと呼ばれています。わ、わかりましたから……!!離れて……!!」
ひたすら感謝をしている相手に手荒なまねをするのもはばかられなかなか振り解けない。無駄に力が強い……!!
グイグイと顔を押しのけていると、不意に入店を知らせる音が。そして店内の温度がピシリと氷点下になる。さ、寒気が……!!
「あらあら、あなたったら……」
「ま、待ってくれ……!これには訳が……!!」
ドアを開けたままなのは、ヒドラの時に助けた二人だった。
母親は頬に手を当て、はんなりと微笑んでいる筈なのに背後に吹雪が暴れ、修羅が見えるのは何故……!?
そして女の子の方はウゲッとした表情で父親に言い放った。
「パパ、ばっちい……」
「グフッ!?」
あ、これはオーバーキル……。
力が抜けたモークさんを地面にベシャリと放置する。いきなり抱きついてきたんですからこれくらい良いですよね。
近づいてきた母親の方が視線を合わせて微笑んだ。
「あなたがメルちゃんですね?私はルミナ、この子はルナ」
「ルナはルナだよ!!」
「はい、メルと呼ばれています。よろしくお願いしますね、ルミナさん、ルナちゃん」
銀髪のかわいらしい母娘に名乗りを返す。あの時は気づきませんでしたが、綺麗な髪から覗く耳が長い。恐らくエルフでしょうか。
「フレイから話は伺ってます。あの時はありがとうございます。本当に死んだかと思いました」
「気にしないでください。死人を見るのはもうこりごりなので」
想像以上に人は強く、そして簡単に死ぬ。自分の大切な人が居なくなるのは身が切られるように辛い。他人とは誰かにとっての『大切な人』なのだ。それを見殺しにするなんて、私にはもうできない。
「お礼と言っては何ですが、お店から好きな物を持って行ってください。わたし達にはこれくらいしかできないので」
「そ、そんな、悪いですよ。私は別に――――」
そこまで言ったとき頭にポンと手が置かれた。フレイさんだ。
「あんたは感謝してる相手にお礼すらさせてくれないのかい?あんたは命を救ったんだ。礼くらいさせてくらなきゃ落ち着けないのさ」
見ればルミナさんはなんだか悲しそうで。
「うぐ……」
その言い方はずるいですよ……。
「わかりました……。ですが無料はダメです。せめて半額でお願いします……」
これ以上は私の罪悪感が……。
「わかりました。メルちゃんがそう言うのなら」
良かった。
その時後ろからクイクイと手を引っ張られた。振り向けばクリクリした瞳を輝かせたルナちゃんが。
「あなたが鳥さんなの?」
「ええ、そうですよ」
折角なので元の姿に戻りましょうか。
フレイさんに槍を預かって貰い「重……」、鳥の姿に変化する。
「わあ!ホントに鳥さんだ!!助けてくれてありがとう!!」
――おっと。
感激したように抱きついてきたルナちゃんを抱き留める。ちっちゃいので軽い。
「ふわふわ~」
ルナちゃんが抱きついたままに、顔を埋めてすりすりしてきた。ん、くすぐったいです。
「それにしても、魔導具作るために二人して夜更かしして逃げ遅れるなんて洒落にならないからね?」
「面目ありません……。二人して凝り性なものでして」
ここの魔導具はお二人が作った物だったんですね。お店を出せるほどの物を作れるなんて凄い。
「あ、メル。勘違いしてるしてるかも知れないけど、作ってるのは基本ルナだよ。ルミナはその仕上げ」
――え゛
「うちの子は天才なので……」
そう言ったルミナさんは誇らしげだった。
いつの間にか私の背中に乗って抱きついてはしゃいでいるルナちゃんが。
この子も才能があるのか……!!この天才児め……!!天才なんてなかなかいないって言いますけどアレは嘘です。私が断言します。
フレイさんが言うには冒険者が使っていた『帰還の種』もルナちゃんが作ってギルドに降ろしているようです。帰還の種を作れる魔導具作成者は限られているらしく、おかげでこの街は帰還の種の在庫ががたくさん在ったよう。そうでなければ、死者が出ていたとも。
もっとも帰還の種は作るのにかなり時間がかかるらしいですが。
なにげにこの幼女、死者ゼロの立役者ですよ。
「あんたも立役者の幼女の1人だよ」
うるさいですね……。ちっさいって言わないでください。……今なにげに心読みました?
視線を向けてもフレイさんは何かを吟味していてこちらを見ていない。
「ねえねえ、鳥さん。羽を一枚貰ってもいい?」
背中のルナちゃんに翼をねだられた。う~ん、一枚ですし問題ないでしょう。ヨシ!
頷けば嬉しそうに一枚引っこ抜いていきました。ちょっと痛かったです……。
「メル、こっち向いて」
呼ばれ何かをごそごそと探していたフレイさんに、ルナちゃんを背中に乗せたまま向き直る。すると手が伸びてきて、額に何か付けられた。何でしょうか?
「うん、似合ってるね。ほら」
そうして見せられた手鏡には、私の頭に付けられた淡い赤のかわいらしい髪留めが。
「モーク、これとこれお会計して」
「……わかった」
未だ再起動していなかったモークさんを起こして、フレイさんがお金を払う。あの、これは?
「あたいからのお礼さ。まだ全部じゃないけど、これで一つね」
さっきの今で断ることができない……。もしや狙ったのでは……?
なんだか満足げなフレイさんを見て思う。
「あ!それはね、危なくなったらバリアーしてくれるんだよ!一回だけだけどね!」
……なにげに凄いのでは?私は訝しんだ。
その後、鳥形態になっても邪魔にならない、腰に付けるポーチタイプのマジックバックと、料理をするための簡易コンロ、フライパンと鍋を購入した。
――あれ?
店を出るとき、ふと気づいた。フレイさんの髪にも暗めの青の髪留めが。ここに来るまではなかったはず……。私がしている髪留めと似てます。お揃いっぽいですね。……まあ、似合ってるし良いか。
「待て誤解だ」 ???「男の人っていつもそうですよね!」
「フレイさん……『卑しか女杯』に出られるのでは?」
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