【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】   作:ねむ鯛

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第54羽 霊峰ラーゲン

 

風が後ろに流れていく。羽毛がなければきっと凍えるような寒さだったでしょう。思わず羽毛が膨らんでしまいます。

 

――着きました。

 

目の前には視界全部を覆ってしまう様な連なる山々が。天に向かって伸びていき、途中から黒い雲に覆われた最北端の山脈、霊峰ラーゲンだ。

 

パルクナットを出て直ぐ、既に巨大なこの山の威容は見えていました。しかしここまで来るのにそれから約6時間、ひたすら飛びっぱなしでした。鳥なので視力は良いせいもあるのかもしれませんが、飛んでも飛んでもたどり着かず誰かに空間魔法をかけられているのか幻覚でも見せられているのかと疑ったほどです。

 

フレイさん達に聞かされたマンドラゴラについての話を思い出します。マンドラゴラは周辺にある魔力が豊富な場所に発生する。数少ない記録によればマンドラゴラが発見されたのは霊峰ラーゲンのかなりの高高度だったと。

 

現高度が8000メートルと言った所でしょうか。世界によっては最高高度の山が存在するレベルです。

できればこのまま山頂まで行きたいのですがこれ以上飛んで接近するのは無理です。いくら鳥とは言え空気が薄いのもありますが、翼での飛行が安定しません。できるようになるとしても、もっと成長してからでしょう。

 

何よりも問題なのは山脈を覆うように存在している雷雲です。時折外に向けて雷を放っていて大変危険です。霊峰には龍帝の他にも竜種はいるはずなのですが彼らはどうやって移動しているのでしょう。

 

雷雲からは強い魔力も感じます。龍帝のものでしょうか。

マンドラゴラは龍帝から溢れた魔力によって生じているのかも知れませんね。そう考えるととりあえずのプランは山頂に向かうことでしょうか。龍帝は山頂付近にいるでしょうし。

 

とりあえず見てみた感じでは山を歩いて行けば雷に接触することはなさそうです。上空から接近させないのも龍帝が言う試練の一つでしょうか?……単純に住処に他の生き物を上空から近づけたくないだけの気もしますが。

 

雷に打たれない高度で山に降りましょうか。そこからマンドラゴラの姿を探しつつ、山頂を目指しましょう。

 

鳥としての呼吸が上手く作用する様になったために今の段階では息苦しさは感じないですが、戦闘が続けば流石に厳しいかもしれません。しかしこれも高所の低酸素トレーニングだと思えば有意義な時間に思えるのが不思議ですね。

 

それにしても飛びにくい。空気が少ないと言うことは空気抵抗が少ないということ。ジェットエンジンでもあれば話は別なのでしょうが、羽ばたいて飛ぶ鳥には空気抵抗が少ないことはかなりのハンデです。

普段よりも強く羽ばたかなければまともに飛ぶことができません。

 

空気抵抗が少なくなったことで、心なしか落下速度が上がった気がする滑空で地面に降り立つ。

 

と同時に何かが急速に接近してきました。飛び退るのと同時に人の姿をとり、マジックバックから槍を取り出す。

目の前を通り過ぎていったのは巨大なイノシシ。

数メートルそのまま進んだイノシシを油断なく見据える。急停止したイノシシは私に向けて方向転換すると手を緩めることなく突進。私は一歩横に避け、足と頭に一撃をいれ転がした後、【一閃《いっせん》】でトドメを刺した。

構えを解くと体が震え出す。思わず肩を抱いた。

 

「さ、寒い」

 

私が人化したときに現れる服はバトルドレスのようなもの。防寒性は期待できません。

ここの環境はもしかしたら、川に流されてたどり着いた山よりキツいものかも知れません。

 

数秒考えた後、私は鳥の姿に戻りました。

 

――しばらくはこれで行きましょう。

 

人の姿では寒さがキツいです。鳥の姿の方が体力は温存できるでしょう。

そこで倒れるイノシシが目に入った。人の姿になる。

 

――これを食べてから行きましょう。

 

鳥の姿では調理できない。そういうことになった。


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