【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】   作:ねむ鯛

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第55羽 高山の洗礼

 

「ごちそうさまでした」

 

調理も終わり、身の丈を越えるイノシシ鍋を食べたことで腹八分。調子も抜群です。

とはいっても寒いので食べ終わったら人化を解除します。羽毛があったかいですぅ。

 

さて。

目指すべき山頂を見やれば未だ遠く。どうにも途中から吹雪いているように見える。ここにも疎らに雪が残っています。

この山、登るだけでも死ぬ可能性があるのに強力な魔物までいる。人が登ろうとしないのは当たり前ですね。

 

今の私ではまともに飛べないため歩いて行くしかありません。マンドラゴラと情報の為、頑張りますよー!

 

 

■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

――【側刀《そばがたな》】

 

「キャイン!?」

 

飛びかかってきた狼のような魔物をカウンターで吹き飛ばせば、実力差を悟ったのか逃げ去っていった。

食べないなら殺す必要もないですからね。

度々襲いかかってくる魔物を適当に撃退しつつ、既に数時間。空が完全に雷雲に覆われてしまった。山にドームの様に覆い被さっているため登れば登るだけ青空は見えなくなっていく。

 

太陽の光は届かず、周囲は薄らと暗い。

 

――これなら使えるかも?

 

ソウルボードのメインの部分に吸血鬼を設定する。数秒待っても太陽に焼かれる痛みはない。

 

――よし、大丈夫みたいですね。

 

吸血鬼が持つ能力は高い。これならもっとハイペースで探索ができそうです。

 

吸血鬼の『空間把握』の能力もあって奇襲を受けることもなくなり、探索は順調です。マンドラゴラは見つかりませんが、魔物からちょくちょく血液を貰いつつストックしていきます。

 

さくりさくりと足下が音を立てる。

そこそこ雪が深くなってきました。未だに上空を覆う雷雲のせいか、私が知る山より雪が少ない。

なにより既に標高はとうに1万メートルを超えている。それでもまだまだ先があるという事実。とんでもないですね。

普通の人間だったらまともに活動もできない世界。この世界の人間には魔力があるのでまだなんとかなるかも知れませんが、それでも苦しいはず。

やはりワールさんでなく私が来たのは正解だったかも知れません。

 

と、ここで頭上に影が咄嗟に飛び退けば、暴風と共に巨大な体躯が足下の雪を巻き上げる。

 

強靱な四肢に、薄暗い中でも輝く鱗。背中には巨大な皮膜の翼が。

ドラゴンだ。サイズは僅かにヒドラより大きい。

 

――また鱗ですか!もういい加減にして下さい!!

 

偶然ここに降り立っただけ、という自分でもちょっと無理がある願いは虚しく裏切られ、挨拶とばかりに開幕のブレス。

 

地面を蹴って横に避ける。顔の横を通り過ぎるブレスに目もくれず接近。近づく私めがけて振り下ろされた鋭い爪を加速し懐に潜り込む事で回避。

 

――【貪刻(どんこく)】!!

 

フルパワーの吸血鬼の力もあって胸元の鱗をけり砕く。

 

――グオオオォォォォオオ!!

 

痛みに仰け反ったドラゴンは翼を使い後ろに飛び退いた。

 

――逃がしませんよ。

 

いつもの感覚で空へ飛び出せば、翼が空を掻く。空気抵抗が少なく、上手く加速できない。

 

――しまった!!

 

急いで魔力を巡らし、風の補助を強めるが遅かった。

目の前には既に視界いっぱいに広がるドラゴンの巨体。滑空しての空中タックルだ。

 

――ぐうぅっ!!

 

反射的に【血葬《けっそう》】を盾のように使いガード。それでもあの巨体です。盾の上から衝撃を貰い吹き飛ばされる。二回、三回と雪を吹き飛ばしながら弾み、柔らかい雪に受け止められてようやく止まる。

すぐさま風を爆発させ周りの雪を吹き飛ばして飛び退く。今までいた場所に、ズン!という音と共にドラゴンが墜ちてきた。あんなのに潰されたら前進骨折どころかミンチです。

 

泣きっ面に蜂。悪いことは重なるもので。

タックルのダメージがようやく治ってきたと思ったら。

 

――ヒュウウウゥゥゥ

 

急に風が強くなり出し、視界に舞う程度だった雪が殺意をもって横殴りに襲いかかってきた。

 

――吹雪が……!!

 

羽毛の体に風が襲いかかり、攫われそうになる。

 

――いくら私の羽毛がもふもふで暖かくて魅力的といえどこの吹雪では流石に凍えてしまいます。どこか風をしのげる場所を探さなくては。

 

それにこの吹雪。は虫類は変温動物。寒さには弱いはず。

 

その仲間であるであるドラゴンも戦いを止めるはず……。

 

そう思ってドラゴンを見やれば、そこには絶望が。

 

体に叩きつけられる雪は瞬時に解け蒸発し、足下は水たまりとなり地面が露出している。

 

こんな現象が起こる理由は一つ。体温が高いのだ。

 

竜種は爬虫類なのに体温が高い。冬眠でもしてしまうのではと思ったが尻尾をフリフリ、翼をバサバサ、首を巡らせ咆哮を一つ。

実に元気そう。あら、微笑ましいですね。

 

嘘ですが??

微笑ましいとか全然嘘ですが??

憎たらしいくらいですが??

 

――戦闘中は雪が解けてるかどうかなんて見逃していましたが―――――全然問題なさそうですね……。

 

死ぬほど不利な状況で戦闘が開始した。

 


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