【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】 作:ねむ鯛
ちなみにこの話めちゃくちゃ難産でした。雪崩の上で戦闘とか誰が考えたの??バカでしょ??難しすぎ……。
「くっ!?」
上から押しつぶすような攻撃に必死に抵抗する。雪崩に叩き落とされれば待っているのは凍死。
弾かれ回る視界の中、風の魔法と翼を使って全力で体を持ち上げる。すぐ下で鳴り止まない轟音が濁流のように手をこまねいていて。
未だ空気抵抗の少なさから来る飛びにくさは健在。翼を広げて無心で空気を掴もうとすれば、今度は吹雪の暴風が邪魔をする。
さながら風に弄ばれる木の葉のよう。
ドラゴンは下が雪崩な事や吹雪な事はなんのその。全て持ち前の能力で対処可能。気にもしていません。この種族チートめ……!!
せめて少し距離が取れれば良いのですが、ドラゴンはそれを許してくれない。風すら敵になった中、竜の猛攻からひたすらに身を守り続ける。
……いや、守っていても埒があきません。一度ここで攻めます。
周囲の情報量が多いので一瞬ですが……呼吸を整え蒼の闘気をまとう。
迫る竜爪のルートを見据え、脇腹が抉られ血が吹き出すのも構わず前に進む。血のストックはまだまだあります。肉を切らせて骨を断つ!!
両手で槍をギリギリと握りしめれば、黄色の魔術陣が槍の先端に纏わり付き雷を散らし始め―――――構える。
「はああああ!!【黄陣血葬《おうじんけっそう》:剛破槍《ごうはそう》】!!」
ねじった体をバネのように弾けさせ力の限り槍を突き出す。雷電を散らす穂先は竜の強固な鱗に止められることなく貫通、貫いた。
それだけには留まらない。
穂先から血葬の槍が伸び、体内を雷で焼き痺れさせながら背中から飛び出す。深紅の槍は吹雪の中に雪のない道を作り上げ、しばらく伸びると消えていった。ドラゴンの胸元から背中までを貫通する絶大なダメージ。だが、
―――――決定打になっていない……!!
急所を外れている。技の直前になってまた風に体をずらされてしまった。思い通りに動くことができていない。風が本当に邪魔だ。
「ならもう一度……!!」
維持の限界に達した
「そう来るなら上空に……」
逃げる。そう思った時には見上げた先に既に竜がいた。しかも絶妙に距離を維持している。
どうやっているかはわかりませんが好き勝手加速して……!!
警戒を強めたのか、大振りな一撃ではなく、ブレスを絡めた牽制のような攻撃。ジワジワと上空から雪崩に押し込められていく。
マズい……!!その時。スッと、意識することもなく、ドラゴン牽制をくぐり抜け懐に入っていた。
「ッ!!【
訳がわからなかった。それでも意識の空白は僅か。とっさに戦撃を発動し、ドラゴンを押し返すことに成功する。
なんでしょうか、今のは。
「風が……背中を押した?」
そこでハッと気づく。
風が邪魔?違う。私が風を使いこなせていない、いや、乗りこなせていないだけだ。
既に勝利へのチケットは存在していました。私がそれに気づいていなかっただけ。
風の魔法を使って制御するのではない。薄く広げ、周りの風を読み取り、流れに少しだけ手を加え、戦闘プランに組み込む。風によって移動できる場所、それを攻撃、回避、防御に混ぜ合わせ自分の手札にする。
風を感じ取ることができる今世の私ならできるはず……!!
忘れないうちに今の感覚を掴む必要があります。
風を強く感じる。それには人の姿よりも空気抵抗の多い鳥の姿の方が良い。
すぐさま槍をマジックバックにしまい、元の姿に戻る。
しようとしてすぐできることではない。私は才能がないのだから。それでもここで成功できないと、逃げることもできそうにない。
鳥の姿で上空のドラゴンの動き攻撃を捌けば、再び徐々に雪崩に押し込められていく。風に上手く乗れず、傷もかなり負ったが治せば大丈夫だ。
焦るな。冷静さを失った人から死んでいく。フレイさんの言葉を胸に、正面のドラゴンと背後の雪崩のプレッシャーに負けないように心を強く保つ。
風の流れを意識する。どこから吹いて、どこに流れていくのか。完全でなくてもいい。少しずつ慣れればきっとなんとかなる。
深く深く風に意識を向けていけば徐々に雑音はかき消え、頭にあるのはは風の流れと自分への影響だけ。すでにドラゴンさえ眼中になかった。傷を負う痛みも雪の冷たさもどこか遠い。ゾーンに入っていた。
そして―――――それは集中と努力、そして運。どれが欠けていても成功しなかっただろう。
ドラゴンの正面。
そこに横殴りの風が来る。広げた意識に電撃が走った。風に乗ると確信した。これは―――――成功する。魔法を使い、僅かに手を加え風のルートを思い描く完璧なものにすれば、回り込むようにドラゴンの背中に。風に手伝って貰った、まるで空中で行う
それに成功する。
――【
「風の道」の加速と『急降下』を合わせた、全力のローリングソバット。翼の付け根に芯を捉えた攻撃がクリーンヒットした。鱗を軽々とけり砕き、衝撃の余波で雪はドーム状の空白地帯を作り出すことになる。
それらの全てを一身に受けたドラゴンは悲鳴と共に墜落し、雪崩に巻き込まれた。
また出てくるのを警戒をして、一秒、二秒、……三十秒。眼下の雪崩は既に過ぎ去り、叩き落としたドラゴンが戻ってくる気配もない。
――今回はなぜか雪崩から逃れられなかったようですね。理由は……痛みとか?
考えても答えはわかりませんが何とかなって良かったです。
今の風を捉え、乗りこなす感覚。成功は偶然だ。それでもできた。なら訓練して自分のものにするのみ。
――ありがとうございます。おかげでまた強くなれそうです。
最初は厄介ごとでしかないと思っていたドラゴンに礼を送る。きっと死んではいないでしょうから。
安心したその時ズン!と背後で衝撃音が。恐る恐る振り返ればドラゴンが。しかも傷跡がない上、大きさも微妙に違う。2体目だ。
良かった、最初のがもう戻って来たとかではなくて。いや、そうじゃない。
流石に冷や汗を垂らして言った。
――あの、私お腹いっぱいなのでおかわりは要りませんよ?
あ、今声出ませんね。
返事は咆哮だった。