【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】   作:ねむ鯛

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第62羽 怒濤

突きだした槍を引き戻し地面に着地するとドラゴンも地面に落下するところだった。

目を回したのかヨロヨロしながら起き上がったドラゴンがまたなにか言っている。

 

『た、多少はやるようだが俺の鱗は貫けていない。貴様に決定打はないぞ』

 

は?ありますが?

何もできずに吹き飛んだくせに余裕そうな顔がむかつきます。すぐに泣きっ面に変えてあげますよ。

地面を蹴り飛ばし一気に接近していく。

 

火球が飛んでくる。

牽制のブレスをジグザグにステップすることで避ける。間合いに入れば振り下ろされた竜爪を受け流し、懐に入り込むと渾身の力で槍を突きだした。迫る槍を見ても自身の鱗に自信があるのかドラゴンの余裕の表情は崩れない。

確かにこのドラゴンは大きさに見合う力強さと鱗の硬さを持っている。でも――――この攻撃の前では関係ない。

 

先ほどは衝撃を与えるだけで貫けなかった鱗。しかし今回は私の槍が鱗など関係ないとばかりに貫き、その下の肉まで傷つけた。

 

予想外のダメージに悲鳴の咆哮を上げる。

 

全身に叩きつけられるような咆哮を浴びながら攻撃することを止めない。なにせただの悲鳴ですから。

それ以上に隙だらけ。次々に槍を突き刺していく。持ち直したドラゴンの苦し紛れの攻撃を受け流し、避け、ステップで場所を変え、それでも攻撃の手を緩めることはない。

また一つ、ドラゴンの鱗に穴を穿てば苦痛の籠もった声を送ってきた。

 

『なぜそんな攻撃で俺の鱗に傷を付けることができる!?』

 

「さあ?なぜでしょうね」

 

こいつに教えるつもりはありませんが実はちょっとした秘密があります。最近たくさんのドラゴンと戦っているときに気づきました。

私のスキルにある『つつく』。これくちばしでつつく時に補助が乗るスキルなんですが、槍での攻撃にも適用できるんですよ。なにせ、くちばしだろうと指だろうとつつくはつつくです。なら槍だってつつくになり得ます。これのおかげで『貫通力強化』の能力が突きに追加されるわけです。

 

確かにこのドラゴンは強い。素の能力ならコアイマと同じか、それ以上でしょう。ですが私が彼から感じる強さはフィジカル面それだけです。技も策もない彼の攻撃にはなんの脅威も感じない。

格下には有効だったんでしょうが私も日々成長し、対抗できる程度にはなっています。フィジカル面で負けてはいますが、圧倒的でもありません。『魂源輪廻(ウロボロス)』込みとはいえ、技で埋められる程度。

なら負ける気はしません。

力比べにまともに取り合わず、スルスルと戦っているとドラゴンが面白いことを言ってきた。

 

『うろちょろするな!!体で全部受け止めて戦え!!』

 

「悪いですがあなたと違って紙装甲なのでそれは無理ですが……こんなのはどうでしょう?」

 

四方から襲いかかる竜爪に対処するのを止め、振り下ろされるそれを待ち構える。

 

右足を軸に、左足を体に引き付ける。槍を両手で握りしめた――――まるでバットの様に。

 

「【鬼気壊々《ききかいかい》】!!」

 

鬼気が噴出し、一本足の状態から一歩踏み出す。全体重を乗せたフルスイングが力で勝るはずのドラゴンを受け止めた。

 

否。

 

ドラゴンの体重を受け、地面に足が沈み込む。それでも力を込めることを止めない。押し返す……!!

 

「はあぁぁぁッ!!!!」

 

拮抗していた攻撃がジリジリと進み始め、一瞬で加速。槍は振り抜かれ、自慢の力も打ち破られたドラゴンが宙を舞った。

……そうだ、良いことを思いつきました。

 

「《紫陣:加速》」

 

空中のドラゴンを正面に手を握りしめ、紫の魔術陣を設置する。そこに『つつく』を意識して翼をはためかせ『射出』すれば。

 

――――ドドドドドドドドドドッ!!!!

 

まるで機関銃でも打ち込まれたような衝撃がドラゴンに襲いかかった。いや、それ以上かもしれません。少なくとも貫通力に関してはこちらの方が上です。威力も申し分なく、遠距離攻撃に最適でしょう。

加速した『射出』の威力に押し出され、ここをぐるりと囲っている岩の一つに押しつけられたドラゴン。それでも『射出』を止めず打ち据えていく。岩が崩れ砂埃が上がる中から飛び出した影が一つ。

 

体中に羽根飾りを取り付けたドラゴンだ。

 

「見栄えが良くなりましたね。煙に隠れてお着替えでもしてたんですか?」

 

『ほざけ!!』

 

顎門の前に多量の炎が集っていく。多大な熱量を伴った火球は怒鳴り声と共に落とされた。

迫るそれを前に風の力を全開にして足に集めていく。

 

「お返し……」

 

飛び上がり足で受け止める。風を貫通して熱が足を焼くのも構わず力の向きを変えていく。球状のものを巻き取るなら槍でやるより足の方が簡単です。それにこの程度、高速再生で治る。

 

「します……!!」

 

私の動きに合わせ、空中でグルンと向きを変えた火球は意図通りにドラゴンに向かっていった。

 

『馬鹿な……!?』

 

予想のしていない光景に反応できなかったのか、ドラゴンが四肢で火球を受け止めた。

 

『ぬおおお!?』

 

流石にドラゴンなのか熱でダメージを受けている様子はありませんが、徐々に押し込まれていく。このまま再び、岩に激突するのかと思われたが……

 

瞬間。ドラゴンを中心に風が爆発する。

いや、これはもう竜巻と呼ぶべきだろうか。強力な風の力によって火球は簡単に消し去られてしまった。

 

『もう手加減せんぞ!!』

 

「できないの間違いでは?」

 

それにドラゴンは答えず、風を伴ってドラゴンが突進してきた。さっきより動きが素早い。

 

横に飛んで避ければドラゴンは地面に手をついてアンカーにし、空中で身を捻って方向転換。怒りに燃える瞳をこちらに向けた。風が爆発すると急加速し、再び突っ込んでくる。

なるほど、私よりも風の力は強い。

おそらくこれが彼の本気なのでしょう。ですが慢心せず最初からそうするべきでしたね。

 

竜である事による驕りと、お母様を低く見たツケ。

その身で受け止めろ。

 

速度を上げながら迫り来る彼の突進に対し、体を沈めジャンプして僅かに高度を取る。迫るドラゴンの軌道を見据え、加速。

 

「【側刀(そばがたな)】」

 

斜め上から『急降下』を発動して加速。振り抜いた足がドラゴンの表面を削り、突進の威力を落としていく。地面に降り立てばすぐさま重心を深く下ろし次の攻撃のバネに。

 

「【昇陽(のぼりび)】」

 

通り過ぎる時間を与えず腹のど真ん中を蹴り上げる。背中まで貫く衝撃に、【側刀《そばがたな》】で削られていた速度が完全に消し飛ばされた。

 

「【鬼気壊々(ききかいかい)】」

 

息が詰まって動きが止まったドラゴンに、手にした槍でフルスイング。真上に打ち上げた。

 

「【紫陣:加速・魔喰牙《ばくうが》】」

 

魔術陣を頭上に作り出し、戦撃の加速を更に加速。立て直すことも許さずに追いつき、槍をドラゴンの体に突き立てる。ボロボロの鱗はもはや役割を果たすこともせず、槍の威力を素通ししてしまった。

怒りの咆哮と共に体重の乗った爪撃での反撃を槍を使って上手く逸らしつつ、足を体に引き付ける。

 

「【貪刻《どんこく》】」

 

ドラゴンの攻撃の慣性と相殺するように顔面に蹴りをたたき込む。彼は吹き飛ぶことなくその場でダメージを全て受け止めた。上手く行きました。また追いかけるのは面倒ですからね。

 

「【降月(おりつき)】」

 

威力の全てを顔面で受け止めたためか、動きの止まったドラゴンに追撃を見舞う。後頭部に綺麗に決まった蹴りが空中に留まることを許さず地面に引きずり下ろした。

 

地面に激突したドラゴンはそれでもまだ起き上がる。顔を上げて私を見ようとした瞬間。

 

「【奈落回し(ならくまわし)】」

 

風切り音と共に『急降下』の威力が乗った踵落しが後頭部に沈み込んだ。あげようとした頭は地面に沈め込まれクレーターを深く刻み、反対に胴体は浮かび上がらせた。

 

無意識か、そうでないのか。ドラゴンが防御行動を取った。

 

それ以上の攻撃を拒否するようにドラゴンから暴風が吹き荒れる。私との距離を遠ざけるためにそれを選択したのでしょう。怒濤の攻撃を止めるという意味では正解です。――――私がこの山を登る前だったら。

 

『風靡』の助けを借りてドラゴンを中心に発生した風を乗りこなす。距離が離れることはない。逆に攻撃の威力を上げる加速として活用する。悪いですがとことん相性が悪かったようですね。戦闘でも、人となりでも。

風のベールを突破し、戦撃の蒼いオーラに包まれたまま攻撃に移る。高速の三連突き。次いでなぎ払いを放ったところでドラゴンが反撃をしてきた。振り下ろされた右の竜爪に反対の薙ぎを合わせ弾く。さらに襲いかかってきた左に竜爪にそのまま一回転した重い薙ぎをぶつけ上体ごと弾いた。正面から180度の軌道で背面に叩きつけるすくい上げで、上体の浮いたドラゴンの顎をカチあげた。上手く脳震盪が発生し、ドラゴンは逃げられない。背後にある穂先をもう一度のなぎ払いで足に叩きつけ、前に戻す。

両手で握りしめた槍でドラゴンを突き刺し、そして――――

 

「【告死矛槍《こくしむそう》】」

 

重低音を伴った片手突き。

一歩踏み込み、全力で振りかぶって溜めた力を解放したそれは、死に体だったドラゴンを吹っ飛ばすと、岩山を三つほど貫通させてようやく止まった。

 

もはや動き出す気配はない。

 

……最後の一撃の『つつく』は解除しました。でないと本当に死んでいましたから。本気で殺すつもりはありません。まだ、なにもされていないので。何かあったとしても流石に龍帝がストッパーになってくれるでしょう。

なにより。

 

「私にすら勝てないあなたがお母様に勝てるわけもないでしょう。思い上がりも甚だしいですよ」

 

そう吐き捨てて龍帝に向き直った。

 

「私の勝ちで良いですか?」

 

『あ、ああ。試合は終わりだ。お主そっくりだな』

 

龍帝はちょっと引いていた。なぜ?




ご報告が。体力的な問題で更新速度を下げます。毎日から二日に一回に。流石にちょっとキツいなと。
カルトにゲリラってるんで気にしないでください。
体力が回復したら毎日に戻すかも。

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