【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】   作:ねむ鯛

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第65羽 リン……リン……

 

起き上がれば体に着いていた鍾乳石の瓦礫がパラパラと落下していく。鍾乳洞のきれいな景観を崩してしまいました。しかしそんなことを言ってもいられません。おそらくはもっと壊してしまうでしょうから。

 

「帰れば見逃すよ?」

 

「申し訳無いですが危険物を放置して帰るわけには行きません」

 

「そう……。なら無理矢理帰ってもらう」

 

構え直したメリィさんからベルの音がリンと鳴る。

重厚な拳を大きく振りかぶって突っ込んできた。その拳を外に弾き、隙をついて突きを放つ。その攻撃にあっさりと対応したメリィさんは脇から殴りつけてくるものの、槍を巡らせ石突きで叩くことで防ぐことができた。

 

石突きを突きだしたままの姿勢で一歩踏み込む。

 

「【上弦月(じょうげんげつ)】」

 

闘気をまとった槍が前方180度を大きくなぎ払う。メリィさんはガントレットでガードしていましたが戦撃の威力は受け止めることはできずに後ろに押し飛ばされた。地面を削っていくメリィさんに距離を詰めながらそこに羽を『射出』して牽制していけば、横っ飛びに避けた彼女が鍾乳石の影に隠れた。

ならばと『射出』を止めて一気に駆け寄れば、鍾乳石が爆発してこちらに向かって飛んできた。速度を僅かに落とし対応。小さな破片は風で吹き飛ばし、大きなものを槍で弾いていく。一際大きな鍾乳石を力を込めて吹き飛ばした時、その影から人が現れた。ガントレットの拳を握りしめたメリィさんです。

 

「しま――ッ!?」

 

「お返し」

 

なぎ払った槍を引き戻そうとしたけれども間に合わない。意識が一瞬大きく明滅する。がら空きの腹部に重い一撃を食らってしまった。体がくの字に折れ曲がり、鍾乳石をへし折った末に天井に叩きつけられた。

 

「くぅっ!!」

 

痛みをこらえて横に飛び出せばさっきまでいた場所に何かが突っ込んだ。そこからベルの音が聞こえる。もちろん正体はメリィさんだ。さらに天井を蹴って空中にいる私に追撃をしかけてくる。翼のある私にそれはさすがにそれは舐めすぎです……!!

 

彼女の拳と私の槍が接触する。天井を蹴った加速と重力、ガントレットの重さまで追加された彼女の拳は重い。しかし私はそれを空中で優しく受け流しました。背後に回り込んで防備な背中に戦撃を発動する。

 

「【双爪《そうそう》】!!」

 

「うぐ!?」

 

高速の二連撃が背中を叩きつけ地面に落下させた。飛べない相手に空中で負けるわけありません。飛びにくいのは確かですが。

 

メリィさんが地面に叩きつけられたことで発生した砂埃を油断なく見つめながら考える。

 

戦撃は……あまり使わない方が良いですね。体が重くなっている。魔素のせいです。

この場に存在する大量の魔素のせいで闘気を生成する際、魔素が消費しきれず体内に残ってしまっています。摂取する魔素が過剰すぎるから。そのせいで中毒症状がもう出始めている。

 

砂ボコリが晴れ、メリィさんの姿が現れる。もちろんピンピンしている。あれだけで倒れてくれるとは思っていません。

 

「ごめんね。ちょっと甘く見てた」

 

謝った彼女は眠そうな目のまま、気合いを入れるようにガントレットの拳を打ち合わせた。ベルの音がなる。

 

「真面目にやる」

 

宣言した彼女から凍えるような冷気が這いだしてくる。鍾乳石には霜がこびりつき、水たまりは凍りついた。息が白くなる。結界のおかげか寒さが抑えられていた洞窟の空気が凍えていくのがわかった。

 

対抗するように槍を握りしめ魔術を発動。

 

「《赤陣:付加》」

 

「あ、ズル」

 

ズルではありません。

槍から溢れた炎の熱が体を温めてくれる。それでも寒いですがマシにはなりました。攻撃したときの火傷くらいは我慢してもらいましょう。

 

「いいもんね」

 

表情は変わっていないはずなのにむすっとした雰囲気を出したメリィさんが鬱憤をぶつけるように殴りかかってきた。これは……なんて厄介な!!

槍で防いでいくも拳が振るわれる度に冷気の波が襲いかかってくる。その度に体の動きが鈍ってく。冷気から守ってくれるはずの炎も威力で負けてぶつかる度に弱まっている。

 

これを戦撃を抑えて相手するのですか……!!

 

風を爆発させ彼女が踏ん張った隙に後ろに飛び退って距離を取る。『射出』を使って牽制することも忘れない。

 

「《赤陣:火鳥(ひどり)》」

 

「あ、またズル」

 

だからズルではありません。

魔術陣から生み出された鳥が直ぐ側を旋回して冷えた体を温めてくれる。長く接近していると危険ですね。体温がすぐに奪われてしまう。その都度こうやって体を温めた方が良いでしょう。

相手が許してくれるとは限りませんが……!!こんな風にね……!!

 

ガントレットと槍がぶつかる金属音にベルの音が混じる。

どうしましょう。距離を取るか、このまま応戦するか……!!戦闘中なのに思考に迷いが生じる。その一瞬の隙を突かれてしまった。

 

「遅いよ」

 

「足が……!?」

 

メリィさんから冷気が溢れ、右足が地面に凍り付けにされた。体重移動ができず槍がうまく振れない。途端に錆び付いたようの動きがぎこちなくなった。

そのせいで防ぎきれなかった拳がまたもや腹部に突き刺さる。しかも今度は冷気付き。衝撃で足の氷は割れましたが、体の動きが一気に鈍る。体が思うように動かない……!!

 

未だ残っていた《火鳥》をメリィさんに向かわせ、距離を取る。

 

「げほっ……!!」

 

痛む腹部を手で押える。

完全に彼女のペースだ。戦いの流れを上手く運ぶことができない。メリィさんにかき消されてしまった《火鳥》を再び発動する。メリィさんが接近するまでの間に少しでも体を温める。このままでは押し切られてしまう。なにか打開策を……!!

 

考えてもなにも浮かばない。うまく考えがまとまらない焦りをもったまま、殴りかかってきたメリィさんに対応した。

 

■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

「はあ……、ふう……」

 

その後も応戦するなかメリィさんの攻撃に対応できない場面が増えてきた。傷は既に治っていますが何度も怪我を負わされてしまった。

 

頭の芯に鉛でも埋め込まれたかのように重い。さっきから普段しないような判断ミスが目立つ。

 

流石におかしい。

 

上でドラゴンと戦いましたがそこまで疲労するようなものでもありませんでした。魔素の中毒症状のせいだと思っていましたがなにかが違う。

 

頭が重くなったまま、メリィさんの拳を辛うじて防ぐ。

 

「ぐう……!!」

 

衝撃でメリィさんのベルが鳴った。頭が重い。

 

……待った。今のです、ようやく気づきました!!

ベルの音だ……!!メリィさんはベルの音で眠気を誘っている……!!

だから思考速度が普段より遅い。考えに迷いが生じる。うまく戦いの流れを運べない……!!

 

「そのベルの音、眠気を誘ってますね」

 

「良くわかったね。鳥さんなかなか寝ないからバレちゃった」

 

「私の火に散々ズルとか言っておいて、それ貴女の方がズルじゃないですか!!」

 

「ズルじゃないもん」

 

この……!!ベルの睡眠誘導とでも言うべき効果は寒さとの相乗効果でかなりの威力です。『呪術耐性』と『頑強』がなければとっくの昔に眠ってしまっていたでしょう。辿る未来はそのまま凍死です。

メリィさんと初めて出会った洞窟で眠ってしまったのも、龍帝達が眠ったのもこれの影響ですね。気を張っていないときにこれを使われてしまうと、防げる気がしません。龍帝が眠ってしまったのも油断していたからでしょう。

 

なら――――

 

「づッ……!!」

 

槍を思いっきり振り上げて、足の甲に突き刺した。痛みに歯を食いしばれば、眠気が払拭され思考がクリアになる。

 

「自傷……?意味無いよ。また眠くなるから」

 

「いいえ。そのベルの音はもう聞きませんから」

 

槍を手放し、両方の手の平に風を集めると自分の耳に向かって叩きつけた。ぱんっ!!という音と共に平衡感覚が乱される。

 

「う……」

 

ショックでふらふらとたたらを踏み、顔を上げたときには静寂が周囲を包み込んでいた。当たり前だ。自分で鼓膜を破ったのだから。耳から暖かいものがトロリとこぼれた。痛い……。

正面に驚いた顔をしたメリィさんが見える。ずっと眠そうな半目の表情だったのでなんだか新鮮です。

 

足の甲から槍を引き抜き構え直す。さあ、第2ラウンドです。


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