【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】 作:ねむ鯛
そろそろ南の大陸に帰れるよ!!長ぇわ……。
思わず目に入ったミルに向かって駆け出しそうになるのを我慢する。
腰に届きそうな黄金色の髪を作業の邪魔にならないように縛っている。視線は真剣でとても横から声をかけられるようなものでもない。
……彼女は今薬を作るのに集中しているようです。邪魔しないでおきましょう。
「どうかしたのか?」
ここで声をかけてきたのがログさん。その気遣いセンスで私の僅かな異変にも気づいたよう。でも今はうれしくないです。
「いえ、なんでもないですよ」
「そうか?」
「…………」
とっさに嘘をついてしまった。自分でもどうしてかはわかりません。訝かしげな様子ながらも視線を前に戻し、静かに薬を作っている様子を見守っています。
ここにいる全員が固唾をのんで視線を集中させている。それはそうでしょう。人の生死が関わっているのですから。
一拍おいて思考に冷静さが戻る。そもそもここで声をかけるのが間違いなのではないでしょうか。
通常、人は人として人生を送った方が幸せです。彼女は元々お母様に連れ去られて私達の巣にやって来ました。命が助かったとは言え、決して望ましい状態ではなかったはず。
彼女は無事に人間の文化圏に戻って来れたのです。怪我があるわけでも、辛そうでもありません。ならば余計な事はすべきではない。寂しいですがこれが本来の姿。それに縁があるのならまた会えます。一度巣に帰れば、その後は人間の文化圏を巡るつもりなので。その時に声をかければ良いでしょう。
なぜ彼女が巣から出られているのか、この大陸にいるのか。わからない事だらけですが、声をかけないと決めた以上彼女の口から聞くことはできません。
しかし、彼女が単独で人の住む場所までたどり着くことは不可能です。少なくとも私と対峙したときはそうでした。お母様か、はたまた他の誰かが手を貸したのか。ともかく無事で良かった。お母様も生きていることは確定しています。
弟妹達も無事だと文句なしですね。お母様がいるのでそこまで不安視していませんが、荒れ狂っているという事実は気になります。ミルがここにいることに関係があるのでしょうか。しかしお母様には「失せ物探し」なる魔法があったはず。見失うとは思えません。
でも私は探しに来て貰えていませんし……。効果範囲があるのでしょうか?前にも思いましたが見捨てられたのだったら泣いてしまうかも知れません……。
そんなとりとめもないことを考えているうちにも作業は進んでいく。
それにしてもミルはこの状況で薬を作るのを任されるほどの腕前だったのですね。お手伝いさんにテキパキと指示を出して手際が良い。彼女は村のおばあさんに教えられたと言っていました。彼女の才能と努力とその教えのおかげでしょうね。
「できた!!」
そこでミルの喜びの声が響いた。どうやら完成して用です。
近くのベットに寝かされているガードさんに今完成したばかりの薬を持っていく。灰色になって固まってしまった肌が悲壮感を煽る。しかしそれもこれまで。薬が効くのなら治ります。
ミルが立った反対には祈るように女性と小さな男の子が。ガードさんの奥さんと子供です。事件があった初日は悲しみに暮れていたそうです。私が目覚めてお見舞いに行ったときもその場にいました。
それほどに家族に愛されていたガードさん。その彼の額に、ミルが作った薬が一滴。
真剣な表情で推移を見守るミル。伴って空気が張り詰める。
そして――――薬が落ちた場所から肌色が広がっていった。
「すごい……!!」「これは……!!」「いけるか!?」
肌色が全身に広がって目が開く。
「あれ……?ここは……?」
「あなた!!」「パパ!!」
「おまえたちか?どうしたんだ?」
「体は!?なんともない!?」
奥さんの言葉にベットの上で体を確かめるように動かす。
「あ、ああ。全く問題ないが?」
未だ状況が良くわかっていないガードさんはそう答えた。
これは……成功だ!!ぱっと見、後遺症もなさそうです。文句なしの大成功。見守っていた冒険者の方達も喜びに沸いています。
「やった!!」「上手くいたぞ!!」「すげえな嬢ちゃん!!」
「よかったぁ……」
当の本人は胸をなで下ろしています。緊張していたのでしょう。よくぞやってくれました。
「良くやってくれたの。これで石になったもの達を元に戻せるわい。ありがとう」
報告を受けてやって来たのか、ギルドマスターがミルに労いの言葉をかけています。後はギルドマスターが上手くやってくれるでしょう。
家族の再会に水を差すのもなんです。私は邪魔しないでおきましょう。
喜びに沸く皆を背に私は退出した。
「ふう……」
ドアを閉めれば部屋の中の喧噪が嘘のように静かになった。業務に必要最低限の人数を除いて全員があの場に集まっていたのでしょうね。
誰もいない廊下を歩いて行く。
良かった。ガードさんはちゃんと元の戻りましたしミルも無事で、薬師として腕を振るっていた。ミルの姿が見られたのは偶然でしたが一つ悩みが消えました。石になった人たちは皆元に戻るでしょう。
もうこの街で思い残すことはありませんね。
「なあ……」
そこで正面から歩いて来ていた少年から声をかけられました。歳はミルと同じくらいでしょうか?目鼻立ちは整っていて髪は焦げ茶色。瞳はきれいな黒です。
「どこかで会ったことないか?」
「え~と、あなたは?」
「あ、悪い。俺はリヒト」
「私はメルと呼ばれています」
う~ん。リヒトという名前に心当たりはありません。彼の容姿は幼さを若干残しながらも結構目立つ方なので、一度話したらなかなか忘れられるものではありません。なのに私は覚えてない。従って私と彼は会ったことがないということ。つまり……。
「これは……ナンパというやつですか?」
「ぶっ!?ち、違うって!!ホントに既視感があったから!!」
会ったことがないのに「会ったことある?」と聞くのは私の知識の中では該当するのがこれしかなかったので。驚いて吹き出してしまった様子からナンパの意図は本当になさそうですが……。
う~ん……。そう言われれば既視感があるような気がしなくもない……、まあ気のせいですね。
「今会ったのが初めてだと思います。ほら」
そう言って背中から翼を出す。
「これ、見たことないでしょう?」
「……確かにそんなきれいな翼見たことない」
すぐに翼をしまってジトッとした目を彼に送った。
「ホントにナンパじゃないんですか?」
「ち、違うって!!今のはつい……!!」
ワタワタと慌てている彼を見てため息をこぼす。嘘はついていない様子。ついと言うことは本心と言うこと。まあ――
「褒められて悪い気はしません。ありがとうございます」
感謝を伝えれば彼はピシリと固まって、「俺用事があるんでッ!!」といって私が来た方へ風の様に駆けていってしまった。何だったんでしょうか……。
彼が消えていった方を呆然と見ていると今度は別の人がやって来た。
「メル!!」
「フ、フレイさん!?」
それは必死な形相のフレイさんだった。どうしたのでしょうか……?まさか、ガードさんになにか!?
私が焦燥感に駆られている間にガシリと肩を掴まれた。
「酷いじゃないか!なにも言わずに出て行こうとするなんて!」
「へ?」
「……ん?」
「…………」
「…………」
予想外の言葉に思わず声をもらせば、フレイさんもなにか違和感に気づいた様子。顔を見合わせ双方が疑問符を浮かべている。
つまり……どういうことだってばよ?
執筆速度が遅い……。ごめんな。なんか24時間ずっと眠いんです。
だから作者の名前がねむ鯛なんです……。←どうでもいい