無限の転生~今世でついに人間卒業!? こんな人生こりごりだとは言ったけど、人間辞めたいとは言ってない~   作:ねむ鯛

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第77羽 幼女に誘われて

 

 アモーレちゃんの表情が一瞬陰る。しかしそれは一瞬のことで見間違いかと思うほどだった。次の瞬間には元気いっぱいな彼女の顔がそこに。

 

「ねえ、メルちゃん。皆がやってるような遊びを知ってる?」

 

 皆がやっているような遊び……。子供の頃、友達とやっているような遊びのことでしょうか。

 

「ええ、知っていますよ」

 

「なら教えて? それで一緒に遊ぼ?」

 

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

 

 大聖女。

 それが大聖堂の一角にある長い塔の上に住まうわたしに与えられた称号だった。

 

 物心ついた頃にはわたしはここにいた。他の聖女の子はもっと成長してから最高司祭様に連れてこられるから、わたしはもしかしたら捨て子だったのかも知れない。

 

 普通だったらのたれ死んでいる所を助けて貰った。それには感謝しかないけれど、もう少し自由が欲しかったとも思う。

 

 塔での生活では人とのふれあいがとても少ない。

 ご飯の時に持ってきてくれる人。勉強を教えてくれる人。それとたまに様子を見に来る最高司祭様と十二鱗光(ディカグラム)の人くらいだ。

 

 皆わたしが聖女だからって敬って扱ってくる。……もっと仲良くして欲しいのに距離がとっても遠いのだ。最高司祭様は普通の接し方だけど、あの人はそもそも雰囲気が近寄りがたいから。

 

 ……大聖女なんかじゃなかったら良かったのに。

 

 誰もいないときはわたしは本を読んで過ごしている。本の中だったらどこにだって行けたから。

 

 風が吹く草原。人の往来の盛んな大きな街。吹雪く雪原に、雷の降る山。

 なんど読んでなんど想像しただろう。その景色を。そこに立っている自分を。

 

 でも実際のわたしは塔の中。どこまでいってもそれは想像でしかなかった。

 

 ふと窓の外を見上げた時に思うんだ。

 わたしが鳥だったらどこまでも飛んでいけるのかなって。

 本の中でしか見たことのない鳥。飛んでいる姿を想像したことはあるけれど、見たことは一度だってない。ここでは鳥が飛ぶ事なんて許されていないから。

 島の中に鳥はいないし、外から来たら打ち落とされてしまう。

 

 きっとわたしは飛んでいる鳥を見ることはないだろうな。漫然とそう思っていた。

 

 いつのも通りの朝が来て。いつも通りご飯を食べた。今日は7日に一度あるお休みの日。お勉強はないけれど、人と会うこともなくなってしまう。

 

 きっと今日もいつも通りなにもない1日になるんだろうな。漫然とそう思っていた。

 

 ふかふかのお布団の上に寝っ転がって本を開く。今日もまた空想の世界に逃げるのだ。

 

 そしてしばらく経ってふと気づけば外がなんだか騒がしいことに気づいた。この騒がしさは外から島に魔物が近づいてくるときの騒がしさだ。でもいつも通りエルフの射手であるフィオさんが打ち落としておしまい。

 また、いつも通りだ。そう考えてわたしは外の騒がしさに興味をなくし、本に視線を戻した。

 

 しばらくして突然ドサリと言う音がバルコニーから聞こえてきた。驚きで体がビクリと跳ねて、本が布団の上にポスリと落ちた。

 

 今のは何の音……?なにか飛んで来たのかな。でもそんなこと初めてだ。

 

 布団を顔まで引き上げてバルコニーに続く窓をジッと見つめ続ける。ベランダで音をさせたなにかが今にも窓を壊して襲ってくるかも知れない。そんな怖さから引き上げた布団をギュッと握りしめた。

 

 ―――コアイマが襲いに来たのかな。でもわかるはずだから違うかな。

 

 息を潜めてしばらく。どれほどの時間窓を見つめていただろう。危惧していた様なことはなにも起こらなかった。それどころか何の音沙汰もない。

 

 そうするとじわじわと好奇心が首をもたげてくる。

 

 さっきの音は何だったんだろうと。

 

 ―――いつも通りじゃないことが起きたんだから、いつの通りじゃないことをしても大丈夫だよね?

 

 わたしは布団から出ると、抜き足、差し足、忍び足。音を立てないようにゆっくりとバルコニーに向かっていった。

 

 ―――そうして息を潜めて窓を開けたわたしの目に入ったのは目も覚めるような蒼だった。

 

 美しさに息を飲む。一生見ることがないだろうと思っていた生きて動いている鳥がそこにいた。警戒しているのかこちらをジッと見つめてくるその蒼い鳥はよく見れば怪我をしているようだった。

 

 ―――この子が今朝の騒がしさの原因かな。フィオさんの射撃から逃げ出せるなんて運が良かったのかな?

 

 鳥の魔物は特に強そうには見えなかったからそんな感想を抱いた。

 

 ちなみにアモーレは空を埋め尽くすほどバリスタの矢が放たれることを知らない。エルフの射手、フィオが打ち落としているということしか聞いたことがないし、実物を見たこともないからだ。そうでなければ、もっと警戒していた可能性があった。

 今にも飛び立とうとしていた蒼い鳥に対して声をかけることができたのも、さして外を知らなかったからというのは少々皮肉かも知れないが。

 

「怪我してるから……治す……よ?」

 

 その時のわたしには鳥さんを治すことしか頭になかった。

 

 とっても綺麗な蒼い翼が赤く滲んでいるのを見て放っておけなかったから。

 

 わたしにとって鳥は自由の象徴。

 

 その翼が怪我しているのはなんだか嫌だったから。

 

 わたしの言葉が伝わったようで鳥さんは少しの間逡巡していたようだったけど、治すことを許してくれた。この時ばかりはわたしが聖女で心底良かったって思った。聖女は傷を治す魔法が得意だからね。

 

 魔法で傷を治していく。十数秒もすれば魔法は役目を終え、鳥さんは具合を確かめるように翼を動かし始めた。よかった、上手く行ったみたい。

 律儀にペコリとお辞儀をして飛び立とうとした時。「あっ……」と声を上げてしまったのはなんでだろう。わたしも一緒に行きたかったのかな。

 

 ともかく、なぜか鳥さんが飛んでいかないでくれて、それで転けそうになったわたしを人の姿になって抱き留めてくれたのにはとってもびっくりしたけど。

 その後はあれよあれよという間にお友達になっていた。翼は蒼いけれどまるで天使みたいな姿で、お名前はメルちゃんって言うんだって。とってもかわいい名前だ。

 初めてのお友達で浮かれていたら、次の言葉で一気に頭が真っ白になってしまった。解毒の魔法を無意識でメルちゃんがくれたスープに使っていたのを気づかれていたからだ。そのときは嫌われるんじゃないかととっても怖くなったけど、メルちゃんは嫌いになんかならないって慰めてくれたから落ち着くことができた。

 ギュッと抱きしめてくれた暖かさが嘘なんかじゃないって信じられたから。

 

 人の姿になったメルちゃんはわたしとおんなじくらいの大きさなのに、なんだかすごく頼もしく感じられた。さっき会ったばっかりなのにずっと昔から知り合いだったみたいに感じるのは変かな。でも別に嫌じゃないし、むしろうれしいくらい。

 そんなメルちゃんだからこそ普段は言えないようなことをたくさん話すことができたんだと思う。

 

 メルちゃんにもお話を聞いた。ここに来るまでの旅のお話を。

 はぐれてしまった家族に会うためにどんな強敵も打ち倒して、時に仲間に助けられて、そして時には助けて。まるで今まで読んできた本のような冒険のお話。とっても面白くて気づけば引き込まれていた。

 

 ―――そしてちょっぴり悲しくなった。

 

 メルちゃんの旅の目的は家族の元へ戻ること。だから彼女はここから出て行ってしまう。それがわかってしまったから。

 

 引き止めたい。ここにいて欲しい。初めてのお友達だから離れたくなんてない。今までの『いつも通り』が、横にメルちゃんがいる『いつも通り』になる。想像するだけで夢のような心地になる。

 

 彼女にわたしの住む塔に居てもらって、かごの中の鳥にする。それはちょっぴり魅力的に思えて。

 

 でもきっと。彼女は大空で羽ばたく方が美しい。空よりも深い蒼の翼で、空の青を切り裂く様はきっとどんな芸術作品よりも価値あるものだって思えるから。

 

 わたしにとって鳥は自由の象徴。

 

 だから彼女には広い大空を飛んでいて欲しい。わたしはもう二度も引き止めてしまった。三度目はダメだよね。

 お友達とお別れするのは悲しいけれど、なによりお友達だからこそ彼女の力になりたい。今のわたしがメルちゃんにできることはないから、せめて邪魔はしたくない。

 

 ……でも少しならわがままを言っても許されるよね?

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 

 

 

 アモーレちゃんに請われるがままに、童心に戻って子供のように遊んだ。私は遊んでいた時間よりも修行をしていた時間の方が多かったので、楽しませることができるのかちょっと不安だったのですが杞憂だったようです。もちろんアモーレちゃんと遊ぶに当たって力は制限しています。戦闘をしたことのない一般人くらいの能力です。

 アモーレちゃんはころころとよく笑い、気づけば釣られて楽しんでいました。

 

 かくれんぼ。鬼ごっこ。だるまさんが転んだ。マルバツゲーム。けんけんぱなど。私が思いつく限りの遊びをひたすら2人で続けました。

 

「あでっ!?」

 

「あはは。メルちゃん、自分の足に引っかかって転けちゃったの?」

 

「ふ、不覚……!!」

 

 元々私の目的は休息だったはずなのに疲れてしまった程。……別にこれは私が幼い訳ではありません。せっかく二人で遊んでいるのに片方が楽しんでないと台無しではないですか。なのでこれは普通のことです。

 

「大聖女さま、お昼ご飯をお持ちいたしました。入ってもよろしいですか?」

 

 そんな風に遊んでいるとお昼ご飯を給仕の人が持ってきて私が慌てて隠れる一幕も。

 

「あ!?メルちゃん早く隠れて!」「わわっ!?」

 

 咄嗟の事だったので直ぐ側にあった大きなクローゼットに飛び込み、アモーレちゃんに給仕の人の対応を任せました。その間、中にあった服から漂うアモーレちゃんの甘い香りになんだかものすごくイケナイ事をしているような感覚に襲われてしまいましたが、私は無罪です。はい。

 

「大聖女さま? 今日はいつもと様子が違う様な気がするのですがなにかあったのですか?」

 

「え!? 何でもないですよ!?」

 

「……そうですか?」

 

 アモーレちゃんがお昼ご飯を受け取って給仕の人が帰った後は、休憩も兼ねてお昼ご飯にしました。といっても給仕の人が持ってきたご飯は1人分なので私はマジックバックにしまってある携帯食料を食べることになりました。調味料や粉末にしたスープなど長期保存できるものは入っていますが、さすがに料理は入っていないので。

 

 これが最高級品である時間停止の魔法がかかったマジックバックだったら話は違うのですが、魔導具作りの天才幼女ルナさんでもまだ無理みたいです。まあいずれ作れようにはなるんでしょうけど。

 

「メルちゃん、あ~ん」

 

 お世辞にも絶品とは言いがたい携帯食料をもそもそ咀嚼していると、アモーレちゃんが良い匂いがするお肉を突き刺したフォークをこちらに向けてきました。最初は遠慮したのですが、本で読んだ「あ~ん」を友達ができたらやってみたかったと、キラキラと期待を滲ませた目で見つめられれば断ることなどできるはずもなく。

 

「あ、あ~ん」

 

「どう!? 美味しい!?」

 

「ええ、とっても美味しいですよ」

 

「ほんと!? じゃあじゃあ! わたしも! あ~んして?」

 

「えっとこの携帯食料、美味しくないですよ?」

 

「いいの!! 早く!!」

 

「あ、あ~ん」

 

「あむっ!!」

 

 嬉々として携帯食料を口に入れたアモーレちゃんはにこにこ笑顔でもぐもぐしていました。美味しくないはずなのに私から貰ったからと、とびっきりの笑顔で。

 貴女が天使か。

 

 結局押し切られてアモーレちゃんの為に用意されたご飯の半分近くを食べてしまいました。私があげたのは携帯食料。……これは有罪では??

 

 ご飯を食べ終わった後はうつらうつらし始めた彼女を抱えて寝室のベットに寝かせました。お昼寝の時間です。私も向こうのソファーで仮眠を取ろうと背を向けたとき袖をそっと引かれました。

 

「どこいくの……?」

 

「ソファーですよ。私も休もうかと」

 

「なら、いっしょにいて?」

 

「えっと……」

 

「…………」ぽすぽす

 

「ふふ、しかたないですね」

 

 寝ぼけまなこのアモーレちゃんは早く来てとばかりに布団を叩いている。私が布団に入らなければしばらくこの子はねばるでしょう。苦笑を一つ溢して布団に潜り込むと、すぐさま抱きついてきたアモーレちゃん。そっとシルクの髪を手で撫でて私も眠りに落ちた。

 

 部屋にだれかが近づいて私が飛び起きるような事態になることもなく。

 

 目が覚めたのは三時間後。目が覚めてから今度はゆったりとした時間を過ごしました。

 アモーレちゃんがいつも読んでいる本を見せてもらってどこがお気に入りかを教えてもらったり、読んでみて感想を言い合ったり。

 

「わたしも行ってみたいなぁ」

 

 羨望を滲ませて開いた本の話をしているアモーレちゃんを見て思う。

 

 こんなにも良い子なのに、友達が私しかいないなんてそんなのおかしいですよ。きっと彼女の事を好きになってくれる人はいるはずです。

 

「ねえアモーレちゃん。ここに仲良くなれそうな人はいないのですか?」

 

「……皆わたしのことを”大聖女さま”って呼んで、なんだか遠いんだ」

 

 確かにさっきの給仕の人も「大聖女さま」呼びでしたね。ですが給仕の人はなんだかんだでアモーレちゃんの様子が普段と違うことにも気がついていました。アモーレちゃんのことをちゃんと見てくれている証拠です。

 

 アモーレちゃんに友達ができない理由は大聖女としての身分。決して嫌われている訳ではないので、それさえなんとかできれば彼女の周りはもっと暖かくなるはず。

 

 身分差で下の者から踏み出すのはリスクがいる行為。かなりの勇気が必要です。つまり今の状況を打開するには、アモーレちゃんが恐れずに一歩踏み出さなければいけません。

 

「アモーレちゃん、さっきの給仕の人のお名前を知ってますか?」

 

「……うん、マールさんって言うんだって。初めて会った時に言ってた」

 

「ご飯をもらったときにお礼は言ってましたね……。なら次は名前も一緒に呼んでください」

 

「それはいいけど……なんで?」

 

「アモーレちゃんは人と仲良くなりたいんですよね?」

 

「……うん」

 

「アモーレちゃんは大聖女です。身分が上の人に下の人が親しく接するのはとっても難しいのです。だからアモーレちゃんから「あなたと仲良くしたいです」ってアピールをしないといけません。名前を呼ぶとちょっとだけ距離が縮まります。仲良くなる第一歩を踏み出してみてください」

 

「でも……ホントは嫌われてたら……」

 

 不安そうに瞳を揺らすアモーレちゃんの手をとって、安心できるように微笑みかけた。

 

「アモーレちゃん、貴女は見ず知らずの私の怪我を治してくれました。私はそんな貴女の優しさが、そんな貴女のことがことが大好きです。きっと大丈夫、貴女のことを好きになってくれる人はたくさんいます」

 

「わたしは―――」

 

 その時、廊下に続く扉からノックをする音が聞こえた。

 

 

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