無限の転生~今世でついに人間卒業!? こんな人生こりごりだとは言ったけど、人間辞めたいとは言ってない~   作:ねむ鯛

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第8羽 畏れよ

 

 鎌首をもたげた新手の蛇がシューシューと鳴き声を出す中、絶望がこの場を支配していった。

 目の前には電車すら小さく見える巨大な大蛇。そして下には、私が蹴り落としたもう一匹の大蛇。

 

 そこの場にいるのは疲弊した私と、魔法が使えるミル、そして怯えている弟妹達。……お母様の助力は未だ期待できそうにありません。

 

 この状況は絶望的。

 

 ここは空高い木の上。上に逃げ場は無く、下には落ちていったもう一匹の蛇が居る。逃げ道はない。

 せめて一匹なら私がおとりになって皆を逃がすこともできたのですけれど……。

 

 けれど時間は待ってくれない。

 無情にも大蛇はその長大な尾をゆっくりと持ち上げ、振り下ろした。

 狙いはミルと弟妹達。強張った表情の彼女たちに避けるすべも、防ぐすべもない。

 

 だったら、私が防ぐしかないでしょう……!!

 

 視界が白熱するほどの集中により世界がスローモーションに変わる。私は迫り来る尾の下へ、決死の覚悟で体を滑り込ませた。

 

 ――【側刀《そばがたな》】!!

 

 動きの鈍い体の底から闘気を絞り出し、脇差しを振り抜くような横蹴りを放つ。

 放った戦撃の光は不調を訴えるかのようにチカチカと点滅していた。

 嫌な予感を覚えながらも、既に技は止められない段階に入っている。まあ退路なんてないんですけどね。

 

 振り抜かれた戦撃が尾を捉える。闘気の光と鱗が擦れ合い、ギャリギャリと金属が削れる様な音を響かせた。

 

 ――戦撃が……止まりそうに……ッ!!

 

 今にも脚から(ほど)けそうな闘気を必死で繋ぎ止め、失われそうな加速を手繰り寄せる。

 そのかいあって軌道を逸らすことになんとか成功したものの、しかし技が不完全だったためか私もまた吹き飛ばされる事となった。

 

 轟音、振動、何かが壊れる音。

 尾の一撃はミルたちには届かなかったけれど、下にあった巣は別だった。

 ……巣は直せます。誰も怪我していない、それだけで十分です。

 

 けれど、大蛇は自らの行動が邪魔されたのが酷く気にくわなかったらしく、尾を引き戻すとすぐさま私に目を付けたようです。

 

 しかし力を使い果たして倒れ伏した私にできることなど何もなく。

 私に意識が向いている今のうちにミル達が逃げ出してくれることを願うしかありませんでした。

 このまま死んだら過去最弱を更新ですね、なんて冗談を考えながら。

 

 そんな私の元にふと、影が差した。

 顔を上げると構えた杖を握りしめ、涙をこらえて大蛇を睨むミルの姿があった。

 横に並んで、翼を広げて威嚇している妹ちゃんの姿があった。そして直ぐ側には他の弟妹達が姦しく集っている。みんな怯えながらも、目の中に覚悟が見えた。

 

 どうして……。

 

「ごめんね、メル。きっとあなたは逃げろって言うんだろうけど……、あたしは納得できなかったから。怖くても……、置いてなんて行けない。わがままでごめんね。それにこの子たちも一緒みたい」

 

 薄く微笑んだミルの足下では、弟妹達が抗議するようにピヨピヨと鳴いている。

 

 「あたしだって……戦えるよ。《アクアランサー》」

 

 口元を引き結んだミルが、魔法で作られた水槍を側に浮かべ大蛇を気丈に睨みつける。

 

 彼女がどうしてそこまでするのかはわからない。

 彼女は人間で私は魔物。ここにいるのは拉致されたような……、と言うよりも拉致そのもの。

 弟妹達だってそんなに長く過ごしたわけでもない。

 

 わからない。

 

 でも――――はっきりしているのは彼女達が、私のために命を懸けようとしている。私のために誰かが死んでしまう。

 

 そんなこと――――まったく許容できない。

 

 守れなかった人がいる。間に合わなかった人がいる。見落としてしまった人がいる。

 

 転生するたび、後悔も悲しみも、私は断ち切って生きてきた。過去になんて戻れないから、そうしないと、私には重たすぎて立ち上がれなくなってしまうから。

 

 だからこそ私は『今』の人生を精一杯生きて。

 だからこそ私は『今』の人生を楽しいものにする。

 だからこそ私は『今』を大切にしたい。壊されたくない。守りたい。

 

 私に 『次』 はいくらでもあるけれど、皆にはないから……!!

 だから誰かが私に命をかけることなんて許せない。他ならぬ私自身が。

 

 だから――――

 

 絶対にここで諦めるわけにはいかないんですよ……ッ!!

 

 転生なんて懲り懲りだけど、……投げ出して、後悔だけはしたくないから……!!

 

 私の『これまで』はこんなときに無茶無謀を押し通すためにある!! 修行不足だとか、体力がなくなったとか、そんな言い訳は……生まれる前に捨ててきた!!

 

 まだ目は開く! 音は聞こえる! 息をしている! 立ち上がることだって……できる!! 立ち上がれるなら……勝利だって掴み取れる! 生きてるなら、何度だって立ち向かって見せる!!

 

 私をかばうように前に出たミルと弟妹たち。それを押しのけてもう一度前に出る。

 

 「メル!?」「ぴっ!?」

 

 ミルと弟妹たちの悲鳴のような声を背に受けながら、鎌首をもたげるヘビを睨みつけた。

 たとえここが死地だったとて、喉元に食らいついてでも私の全霊でお前を屠る……!!

 

 そのとき――――

 

 体の奥底、心よりももっと深い部分でなにかが応えた。

 何かが弾けたように力が溢れてくる――――否、戻ってくる。

 

 それは――――

 

 遙か昔から人が恐れ、怖れ、畏れてきたもの。

 恐ろしいものの代名詞として用いられることもある、それほどの存在。怪力を持ち、時には天候さえ操るとされ、神として崇められるほどの怪異。

 

 ”鬼”――――その力。

 

 過去で培ったその力の一端がこの身に舞い戻る。感慨を抱くこともなく、応える力のままに体へと輝きを纏う。純粋な光ではなく目も覚めるほどの紅。

 

 この戦撃は闘気だけでなく、妖怪《あやかし》としての力、『妖気』さえ混ぜ合わせ通常の戦撃の域を超えたオリジナルの技。

 突然の事態に警戒する大蛇にそれを向ける。

 

 ――朝飯前だと思いましたか? お生憎様、喰われるのは……お前です!!

 

 ――【崩鬼星《ほうきぼし》】!!!

 

 目にも留まらぬスピードをもって流星が大蛇の喉元を抉り抜いた。

 

 

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