人間らしく、人間らしい   作:雨宮彩織

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本話は新聞記事を利用した書簡体形式となっております。そうした上で、『人間らしく、人間らしい』──その物語の冒頭を、どうぞお楽しみくださいませ。


──旧版──
錦心繍口


文學界新人賞 最年少記録更新

京都府在住の中学生 文学史に名を刻むか

 

京都府在住の中学二年生、葉月葵さんが今期の文學界新人賞を受賞した。十五歳での受賞は史上最年少となり、前記録保持者の指原一二三氏の十八歳を三年も上回る快挙となった。文學界新人賞は石原慎太郎氏など多くの大作家を生み出した文芸誌で、芥川賞受賞への近道とも言われている。また、文章としての芸術性を重んじる純文学というジャンルに特化した新人賞のうちの一つである。新潮新人賞・群像新人文学賞・すばる文学賞・文藝賞と合わせて、五大文学新人賞と呼ばれている。

葉月葵さん著の『夢想夏郷』は、田舎の夏を舞台にした物語だ。自らの理想とする夏を追い求める文学少年が、田舎の地で夏の断片を探していく。けれども彼が本当に見つけたい夏は、なかなか見つからず──。「自分の思う夏の美しさを最大限に追究しました」と後書きで葉月葵さんは語った。

 

葉月葵さんについて今後の展開で注目されるのは、史上最年少記録を更新した実力もさることながら、それ故に、芥川賞の受賞候補に名が上がるかという点だろう。容易ならぬ道だが吉報を期待したい。

(五月一日 日本文藝新聞社)

 

 

 

芥川賞受賞候補 葉月葵さんも

史上最年少記録更新の壁 次なる大快挙

 

先日、文學界新人賞を史上最年少で受賞した中学生作家・葉月葵さんが、芥川賞の受賞候補のうちに入っていることが判明した。他には新潮新人賞を受賞した土井清治氏や、すばる文学賞の森山明日香氏など葉月葵さんに勝るとも劣らない若手実力者や、杉丸太夫氏や清見漢三氏などを始めとした大ベテランに至るまで、錚々(そうそう)たる面々が並べられている。いずれも葉月葵さんにとっては強敵だ。

(六月二十九日 日本文藝新聞社)

 

 

 

葉月葵さん 史上最年少芥川賞受賞

諸君、脱帽せよ これが天才だ

史上最年少の芥川賞受賞 現実に

 

文學界新人賞を史上最年少で受賞した葉月葵さんの『夢想夏郷』が、次いで芥川賞をも史上最年少で受賞した。文学史上に類を見ない大快挙、平成文学界の神童の誕生を目の当たりにしている。芥川賞に於けるこれまでの最年少記録保持者は綺月明暒氏の十九歳で、十五歳の葉月葵さんは大幅に四年もの差をつけた。神童による数百年に一度の大快挙は、文学界を大いに沸かせることとなった。翌日に予定している受賞会見で、神童は何を語るだろうか。

(七月十四日 日本文藝新聞社)

 

 

 

史上最年少芥川賞作家の葉月葵さん 突如の執筆休止を受賞会見で宣言

告白された神童の正体 露わに

 

「当方・葉月葵は、この名誉ある芥川賞を受賞させていただきましたことを切っ掛けに、皆々様がご期待なさっていたであろう、今後に於ける執筆活動の休止を、この場をお借りして宣言申し上げます」

昨日、史上最年少で芥川賞を受賞した葉月葵さんが、受賞会見にて、今後に於ける執筆活動の休止を宣言した。その理由は詳しく語られていない。その代わりと言うように、列島を震撼させるほどの衝撃的な事実が、握られたマイク越しに語られた。

 

「今から皆々様に申し上げるお話は、前々から決心していたことで、受賞をしたらその機会に、落選をしたらそのまま黙り通そうと考えておりました。実のことを申し上げますと、ペンネームとしても使用していた自分の本名は、葉月葵ではございません。まったくの偽名です。まずはこの事実をお伝え申し上げたいと同時に、深くお詫び申し上げる所存でございます。当方の本名は、綺月彩佳(きげつさいか)と申します」

 

綺月という苗字を知らない人は居ないだろう。必ず一度は教科書などで耳にしているはずだ──夏目漱石や森鴎外と同時期に活躍した明治の大文豪であり、彼等とともに近代日本文学の礎を築いた、綺月彩雲という人物を。葉月葵あらため綺月彩佳さんは、淡々とした口調で次のように言葉を続けた。

 

「恐らく皆々様ご推察の通りかと存じますが、自分は綺月彩雲の玄孫(やしゃご)、綺月明暒(めいせい)の孫でございます」

 

綺月彩雲は前述の通り、近代日本文学史に於いて非常に高名な人物だ。幼少期から漢学の教養に優れ、四書五経に親しんでいたといわれる。そうした経緯から漢詩や漢文調小説など数多くの作品を残しており、後世に大きな影響を与えた。処女作である『彩雲』をはじめ、『山麓』など在るがままを尊重する自然主義を追究してきたが、晩年はエゴイズムに代表される人間の本質を追究するようになる。『硝子窓に翳る』『胸臆』『鏡鑑の前に立つ』など。

 

綺月明暒氏は現役の芥川賞作家だ。病床で書き上げた『黎明』は当時十九歳の史上最年少受賞を果たし、ベストセラーとなっている。生と死・エゴイズムといった観念に美麗さを見出した明暒氏は、それを鮮鋭に表現した。「誰にも看取られず祝福されず、生まれ死にゆく美しさ」という書き出しは、非常によく知られている。近年は推理小説の『京都左京のホームズ』、将棋を題材にした『八十一の大海』など、純文学に限らず幅広い創作活動を続けている。

 

「自分がこうした文芸創作を始めたことには、高祖父や祖父への憧憬というものが裡面にありました。そうして、挑戦してみたくなったのです。今の自分が何処まで通用するのか──そのためには、綺月家の人間だということを隠し通し、祖父や父による宣伝広告を禁止するしかありませんでした。ですから偽名を用いまして、二人には固く釘を刺しました」

 

そう語る彩佳さんの顔には、無事に計画が済んだことに対する安堵と充足感が、ありありと見て取れた。そうして、正体を秘しておかなければならなかった理由を聞いて、綺月彩佳という芸術家の本気を目の当たりにさせられた。無いとは思いたいが、仮に大文豪の系譜である綺月家の人間が受賞の候補に残ったところで、選考委員の無意識的な忖度の可能性も大いに見受けられた。それを嫌ったのだろう。

 

「そうして有難いことに、文學界新人賞と芥川賞という名誉を、自分のような若輩者が、僭越ながら戴くことができました。かねてより設定していました一つの目標を、ここで達成できたことから、この区切りの良い今日只今、一度ここで筆を置いてみよう──と、そう思った次第です。来るべき先を見据えての断案となります。当方の独善をお許しください」

 

慇懃にお辞儀をしてから、彩佳さんは受賞会見の場を後にした。『来るべき先』とは何だろうか。現在十五歳の中学三年生という立場を鑑みると、ちょうど来年に高校受験が迫っている。そうした準備のために、執筆活動の休止を宣言したのだろうか。

(七月十五日 日本文藝新聞社)

 

 

 

綺月彩佳さん 初の顔出し テレビ出演

神童の見た、来るべき先とは

 

対談形式の番組『トークトーク』にゲストとして招かれた彩佳さんは、今回がテレビ初出演となった。薄灰色の男着物に濃紺の羽織り姿でスタジオに現れると、「本日はどうぞ宜しくお願い致します」と緊張気味に笑いながら頭を下げた。乳白色の髪と藍白の瞳、真っ白な雪肌が特徴的で、アンティーク調の丸眼鏡が着物姿によく似合っている。最初の話題は、そんな彩佳さんの特異な風貌から始まった。

 

「先天性色素欠乏症──通称ではアルビノと呼ばれる病気ですが、自分はまさにそのアルビノです。生まれつき色素が少ないので、髪の色も瞳の色も、こういう具合に薄くなるんです。紫外線に弱い体質ですから、外出の際には日傘などで対策をしないと、そこそこ大変なことになってしまうんですよね」

 

二万人に一人の割合で生まれるとされるアルビノは、メラニン色素を作り出す遺伝子が異常をきたす奇病だ。彩佳さんの説明の通り、アルビノは生まれつきの色素が少ない。そのため白色に近い白銀や白金の髪をして生まれることが多く、瞳の色については、奥の毛細血管が透けて赤く見えることもある。

 

「ところで、その眼鏡はアクセサリーなんですか? 何だか話を聞いてると、そういう風に見えなくなってきちゃったけど」という問いに、彩佳さんは「うーん、まぁ、身体の一部ですかね」と快活に笑った。「アルビノの人って大抵が視力が低くて、目も紫外線に弱いですから、眼鏡で対策しなければいけないんですよ。自分は軽度の近視なので、その矯正と、紫外線カットのレンズを入れています」

 

「自分の外見は気にしてるの?」という問いに対しては、彩佳さんは淡々とした口調で、同時に中学生らしからぬ前向きな人生観を教えてくれた。次のような言葉は、自分自身について悩む人々の、空へ空へと伸びるための頼もしい支えとなってくれるだろう。

「自分がこの風貌をしていることに、特に自分自身は、何らの感情も抱いておりません。これを病気だと悲観的になるよりも、むしろ個性だと楽観視した方が、この先を生きるのに楽だと思うんです。人間はひとたび悲観してしまうと、歯止めが効かなくなって、とことん悲観してしまう一面もありますので、何事に対しても楽観的に捉えるのが宜しいかと」

 

しばらくして話題は、彩佳さんの進路の話に移っていった。受賞会見の際に告げた『来るべき先』とは何なのか? その断片を聞き出そうと躍起になる。

「実は既に、自分の進路の方針については決定してあります。それはまた時期が来たら、会見で説明を申し上げようと思います。かなり注目してくださっているな──ということは、重々承知しておりますが」

穏和な雰囲気を醸し出しながら、毅然とした口調で、彩佳さんは現時点での結論を伝えてくれた。執筆活動の休止を宣言したことを考えても、卒業後にすぐ再開するとは思えにくい。どうやら進学をする方針のようだ。彩佳さんの学力に関して中学校へと取材をしたところ、彩佳さんは科目ごとに学習の優先度を決めていて、自分でレベルを調整しているらしい。国語は既に大学生相応とあることから、海外の大学に飛び級で留学する可能性も現れてきた。

 

天才の文学少年は、その先にどんな可能性を見ているのだろうか。往々にして自分の進路を軽率に語らないその姿勢を、今はただ見届けていることしかできない。会見は、来年の三月には開かれるようだ。

(十一月三十日 日本文藝新聞社)

 

 

 

綺月彩佳さん 待望の会見を明日に

満を持して語られる 神童の先

 

昨年の十一月末、テレビ初出演となる番組で語られた、彩佳さんの進路について──。往々にして寡黙だったその現実が、ついに目前に控えている。彩佳さんの故郷、京都府の京都市左京区にあるコンサートホールが会見の会場だ。大手民放各局、地方に至るまでの新聞社が一同に集結するのを見越してか、席数に余裕のある会場が選ばれていた。果たして、何が語られるのか。日本文藝新聞社は模様を生中継する。

(三月十九日 日本文藝新聞社)




皆様、お初にお目にかかります。綺月銀華(あやつきしろは)と申します。緋弾のアリアの二次創作『人間らしく、人間らしい』を投稿させていただくこととなりました。今後とも、本作含めどうぞ宜しくお願い申し上げます。

次回は彩佳の開いた会見から始まります。本話は新聞記事の形をとった書簡体形式ですので、少々つまらなかったでしょうか。次話は三人称視点での描写となります。本編に入りますと、彩佳による一人称視点でのお話となります。

本編に至るまでは、今しばらくお待ちくださいませ。次話の次が本編となります。どうぞお楽しみに! お気に入りや評価、感想などお待ちしております。それでは、また次回でお会いしましょう。
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