みんな!みんな!集まって!集まって!
オベロン様の新しいお話だよ!
聞かせて!聞かせて!

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 ……はあ、前書きってのは嫌いなんだ。
 今から物語を消費しますって宣言しているようなものだろ、こんなの。

 第一、俺が話をするっていうことがそもそも間違っているんだ。
 口を回すのも、筆を執るのも、どっちも世界一くそったれな俺の親父殿たちの仕事だろ。

 あ?じゃあなんで話をするのかって?

 そうだな。いうなれば、同族嫌悪。

 目的も方向性もまるっきり違っているが、奴は間違いなく俺と同類だ。反吐が出るね。

 それもあろうことか、俺の他に誰も気付いていやしない。

 千里を見通す目を持っていようが、王としての高みに達していようが、それだけじゃ奴の本性は見破れない。己が眼力を過信して見誤るのがオチさ。

 その二つを兼ね備えているような奴だったら、て感じだけど、そんな奴は俺が知る限り一人しかいないし、もし知ってもそいつなら面白そうに眺めているだけだろうよ。最高の道化だなんだと言ってな。

 現状、俺しか奴の正体を知らない。
 だから、俺が話すのはただの消去法だ。
 それを語れるのが俺だけだった。
 それだけさ。

 まあ、嫌いな奴の隠し事を暴くってのも、悪くはない。

 まあお前らにとっては大したことのない小話だ。あまり期待せず聞いてくれ。

 さて、それではこれより劇を始めよう。
 これより語るは誰も知らない物語。
 今まで物語として消費すらされない。誰にも認識されていなかった幕間の出来事。
 人にも、王にも、神にも、魔術王にも異星の神にも、世界のどこにも記録されていない物語。
 とあるプリテンダーのお話である。

 前口上はこれくらいで十分だろ?

 あ?タイトルはなんだって?
 いやお前……それを確認してからわざわざこんな所まで来たんじゃないの?それすら忘れるとか脳味噌虫以下なの?

 まあいいや。タイトルは『プリテンダー 真名:■■■■■■■』。またの名を――

 ――卵が先か鶏が先か。



プリテンダー 真名:■■■■■■■

 燃え盛るビル群。轟轟と巻き上がる炎。

 生者は絶え、既に死んだ街の真ん中で、自分はぽつんと立っている。

 

 酸素は絶えず消費され、見ているだけで息が苦しい。

 赤い光は夜を照らし、微かな星の光さえ空から奪っていた。

 

 今、遠い宇宙からこの星を観測している存在が居るのなら、青い星に浮かぶ小さな赤い点が見えているのだろうか。見えていたとして、それに一体、何を思うのだろうか。

 

 

 さて、思考を宇宙スケールに広げて問題点を有耶無耶にせんとしていたが、現実逃避はそろそろ辞めよう。自分には何より直視しなければならないモノがある。

 見上げてた視線を下げる。

 道のど真ん中にたつ己の足元には、一つの遺体。

 

 見覚えのある服を着た、何よりも見た記憶のある顔が、死んだように眠っていた。

 間違えた。眠るように死んでいた。

 

 とはいえ、それが眠った時の顔なんて流石に知らないんだから、間違えたのも無理はないだろう。

 なにせ、自分の顔なんだから。

 

「そっかぁ、死んじゃってたのかぁ」

 

 理由は分かるというか、思い出したというか。

 

 この街の名前は、日本のとある地方都市が一つ、冬木市。

 カルデアが観測した最初の特異点である。

 爆破テロのいざこざの際、自分はその特異点にレイシフトされ――そのまま死んでしまったのだろう。

 

 多分、元々のレイシフト適正は味噌っかすだったのだ。

 レイシフトを行った衝撃で死んだのか、それとも死んでから――というより殺されてからレイシフトされたのかは判別が付きにくいところだが、まあ些細な違いだろう。

 

 結局のところ、自分はこの時この瞬間に死んでしまった。

 重要なのはその一点で、大事なのはこれからの行動だ。

 

 さて、自分は一体何をしたいのだろう。

 

 するべきことは分かる。だがそれは果たして自分がやりたいことなのかどうか。

 

 整理するためにも言っておくが、自分は目の前の死体から現れた魂とか残留思念とか、そういう類のものではない。

 さらに言えば、自分は今この世の何者からも認識されていない。

 感覚的に分かる。人間にも、王様にも、神様にも、ゲーティアにも所――地球大統領にも、世界にすらも認識されていない。

 世界が認識しているのは目の前の死体だけで、その傍で管を巻いている自分の存在など視界の隅にすら入っていないだろう。

 したがって、自分がここに居るのは、誰かに召喚されたからではない。ここに来なくちゃいけないから、『自分』から送られてきただけだ。

 

 このあとのシナリオは分かっている。

 まず後輩に起こされて、マスターとして戦いこの街を脱出し――紆余曲折を経て、世界を救うための大冒険を繰り広げるのだ。

 

 だからこそ、目の前の自分が死んだままというのは、あまりにまずい。

 世界から見て死んだ人間が、脈絡もなく息を吹き返す。

 結果的に(・・・・)そう見える現象を起こす必要があり、そのために必要なのが自分なのである。

 

 それこそが自分がするべきことだ。

 だがそれは、自分がやりたいことなのか。

 

 ――つまりは、自分は世界を救いたいのか。

 

 思ったままを口に出すとしたら、答えは『どうでもいい』だ。

 

 

 

 視線を切り、炎上する冬木市をぼうっと見てると、不意に自分が経験した旅の光景が思いを過ぎる。

 始まりはまさに今の冬木と同じ状況。そこから始まった人理焼却を解決するために行われたグランドオーダー。

 七つの特異点を超え、悲劇を乗り越えた先にあった未来を手に入れ。

 未来は数年足らずのうちに、人理漂白という形で洗い流された。

 自分は未来を再び取り戻すため、七つの異聞帯に立ち向かい――

 

 結果として、自分は七つの人理事件を解決した。

 数多の神話伝説にて予言された人類の結末への抵抗、人理終末。

 分岐した種としての人類同士による霊長の奪い合い、人理淘汰。

 人類と吸血種がアラヤとガイアの代理として争った、人理紛争。

 アルティメットワン達から渡された、人類への沙汰、人理裁判。

 人類は間違っていたと遠い未来から告げられた決定、人理異存。

 

 人理を守るための戦い。その全てに、自分は勝利した。

 幾度も滅びの淵に立たされた人理を、人類を自分は守り切ったのだ。

 

 自分の活躍は魔術師たち裏の世界だけではなく、表の世界でも広く伝わったようだ。

 詳細はもちろん不明のままだが、世界を救ったことは知られていた。

 

 何も知らぬ民衆からも、詳細を知る魔術師たちの中からも、全ての人から称賛された。

 誰が呼んだか、『グランドマスター』だと。

 誰が呼んだか――『救世主』だと。

 

 

 まったくもって良い気なものだ。

 幾度も世界を救おうが、何度も滅びに直面し、呆気なく消え去って、また救う破目になる。

 

 人の苦労など知らぬような口で、また誰かが自分を称えた。

 滅んだことを気にも留めず、どうせ次も『救世主』が助けてくれると、何の気なしに言葉にしてる。

 

 自らの生き死にを、生殺与奪の権利を、『救世主』などという胡乱な者に預けた者たちが、そこにいた。

 

 救っても救っても掬っても、大事なものが零れるばかり。

 命懸けで救った価値が、そこにあったとは、口が裂けても言えはせず。

 

 そんな本心はひた隠し、なお人理を救い続けた。

 救う価値がそこにはあると、口を裂いても言い切って。

 

 大事な者たちと一緒に滅びに立ち向かい、失って、それでもなお立ち上がる。

 自分しかいないのだと。自分は彼らの『救世主』なのだから、と己に言い聞かせた。

 

 

 閑話休題。思考を戻そう。

 詰まるところ、人類が滅ぼうが救われようが、自分にとってはどうでもいいのだ。

 自分の秤では多勢の人類より、少数の大事な者たちの重い。決して釣り合いは取れない。

 だからといって、人類が滅ぼしたいわけではない。要は優先順位の話だ。

 

 ――大事な者たちを消費しなければならない人類何て知らない。救われるのも滅ぶのも、自分たちでどうにかしろ。

 

 人理を救う旅の途中、自分の秤はそう結論を付けた。それは今も変わらない。

 じゃあ、なぜ自分は救い続けたのか?『救世主』なんてモノを演じ続けていたのか。

 

 思い浮かべるのは、自分にとって、とても大切な人たち。

 その中でも、自分を先輩と慕ってくれた、一人の女の子。

 

 そうだった。自分の秤はもう人類を選ばなかった。

 だからあの時、自分は別の秤で、人類で測った。

 

 人類の未来に希望を持つ彼女の秤によって、自分は『救世主』としての道を選んだのだ。

 

 それに気付き、不覚にも笑いが漏れる。

 なんと可笑しな話だ

 他人の秤で行動を決めていた自分が、どうして今更、自身がしたいことなど決めようとしているのか。

 なんということはない。大勢の人たち(どうでもいい人たち)からの期待だけじゃなく、大切な人達からの願いを受けて、自分は『救世主』を演じていたのだ。

 

 ああ、なるほど。

 だからこのクラスなのか。余りにも妥当だ。むしろこれ以外成れるものはないだろう。

 人類を、大事な人達を、世界を、自分すらも騙しつづけていたのだから。

 

 

 結局のところ、今までと何も変わらない。

 したいことではなく、やらなきゃいけないことをするだけ。そしてひたすらに騙し続けるだけ。

 

 問題はない。生涯通してやり抜いたことだ。今更なんの問題があろうか。

 

 

 

「自分は世界を、人類を救いたい」

 

 まるでその気もないのに、言葉に載せる。

 そうするだけで、自分はそれに成れるのだ。

 

 さあ、役を羽織ろう。

 

 求められるままに、無意識のままに、自分は世界を救うだろう。そのために奔走するだろう。

 

「自分の名前と性別は――どうでもいいか」

 

 名前?性別?面倒くさい。

 そんなもの、いちいちこちらが決めなくてもいいだろう。

 

 キザな男の名前か、惚れた女の名前か。

 憧れた人の名前でも、嫌いな奴の名前でも。

 どう呼ぶかなんて、どんな奴かなんて、外野が勝手に決めるがいい。

 これはそんな物語。

 定義されるはただ一つ。

 

「自分は何の力も持たない、ただの普通の人間だ」

 

 霊基が書き換えられる。

 サーヴァントとしてのそれではなく、ただの人間としてのモノにスケールダウンしていく。

 それに伴い、過去を捨て、記憶を失い、知識を消した。戦闘力など端からもたない。

 

 これは普通の人間が、普通のまま、救世主になるお話だ。

 自分の役はただ一つ。世界を救う救世主、その雛だ。

 だったらいらない。世界を救った過去も記憶も経験も、まだ救世主じゃないのなら無用の長物。

 余分な荷物(大事な思い出)を投げ捨てて、一人の俺/私となって、人理を救う。

 

 魂が抜けた死体。

 余分なものが付いてない普通の人間(サーヴァント)の魂。

 あとは単純。これら二つを組み合わせるだけ。

 

 人も、王も、神も、魔術王も異星の神も、世界にすらも知らない、最初の嘘を吐く。

 

 魂が肉体に溶け込んでいく。

 全ての者が見間違え、全ての者が見たいものをこの身に映すことだろう。

 生前と何も変わらない。上手く行くことも下手を打つこともない、酷く退屈な冒険が、俺/私を待っている。

 

 最後に残った余分なモノ(人格・思考)が消え去る前に、ふと思う。

 

 果たして、最初に世界を救った俺/私は、居るのだろうか、と。

 

 

 

 

 こうして、偽りの魂を贄とし、一人の人間が復活する。

 名前も、性別も、個人を表す全てがあやふやで、けれど誰も疑問に思わない。

 その魂は求められるがままに変容し、その瞳は求められるがまま色を変える。

 嘘ではない。ただ求めるものが見たいようなものに自然と姿を変えている(無意識に演じている)だけ。

 誰かが求める人間()のまま、誰かが求める言葉(台詞)を口にし、誰かが求めるまま行動(演技)する。

 誰も彼も気づかぬままに。

 プリテンダー 真名:■■■■■■■は、己が役目を演じ切る――我すら忘れて。

 

 




 これにて、とあるプリテンダーのお話はおしまいおしまい。
 あとは皆知っている通り、人理焼却やら人理編纂やらを解決して、堂々のハッピーエンドさ。

 は?結局こいつの名前は何て言うのか、だって?そんなの知らないよ。

 むしろお前らの方が知っているんじゃないか。好きなように名付けて、好きなように動かして、好きなように物語を楽しんでいるんだから。

 俺たちは役を羽織る者(プリテンダー)。羽織った役を全力で演じるしかない道化さ。

 唯一俺と違うのは、奴は最終的に自ら役を選んだ。それだけさ。

 真似したいとは思わないけどな。自分からあんな役を選ぶなんて、酔狂が過ぎる。

 大事なモノのために自分から役に没頭するなんて、バカじゃなきゃできやしない。

 だから嫌いなんだけどな。

 別にどうでもいいだろ。ただ単にお前らが楽しむ物語の間に、ちょっとした小話があった程度のことなんだから。

 いままで気にせず知りもせず、消費すらされなかった誰かの話だ。

 どうかこれからもその物語を楽しんで(消費して)くれよ。
 
 ん?この話は本当にあったことか?

 ……そんなわけないだろ。

 こんなものは真夏の夜の夢、いや舞台的には、真冬の夜の夢か。

 俺が語り部の時点で、こんな話は信じるに値しないよ。


 ――なんたって俺は、大嘘吐きなんだから。


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