女神を訪ねて
まったく整備のされていない荒れた道を辿り、峠を越え、石段を登れば、朱色塗の鳥居が出迎える。
幻想郷の中心、博麗神社。外界から守矢神社がやってくるまでは、幻想郷唯一の神社だったらしい。だが、その割には境内には人気が一切ない。まだ日中だというのにだ。
これも神社を管理する巫女のいい加減さ故なのだろうか。そんなことを考えながら、創一はひとまず社の方へと歩いていき、設置されている賽銭箱の前で足を止めた。
懐をあさり、引き当てた財布から一円札を取り出し、
「――そこまでです! 賽銭泥棒は許しませんよ!」
突如として目の前に現れた緑色のもふもふの声に、創一は手を止めた。
モップみたいな毛量の髪に、頭頂部に生える角、特徴的な耳、ヒスイ色の瞳、纏う服はアロハシャツのよう。どう見たって普通の人間では無い。
面倒なことになったものだと、創一は内心でため息をついた。魂魄妖夢の一件といい、自分はどうやら何か誤解されやすいたちらしい。外に居たときもそういう気配はあるにはあったのだが、この郷においてはそれが一層顕著だ。
幻想郷の住人が、どこか排他的な気質があることにも起因するのかもしれない。
「私は神仏の守護者――高麗野あうん、私の目が黒いうちは、この神社での不貞は許しません!」
お前の目は緑色じゃねえか。
話が拗れるので、口にはしない。
創一は年齢の割に処世術というものを心得ていた。
思い込みの強い相手に、ひとりでにしゃべらせては不味い。勝手に自己解決されて犯人だと決めつけられては面倒だと、創一は弁解を試みることにした。
「君は何か誤解をしている。俺はただ賽銭を入れようとしていただけで」
「え、そうなんですか?」
きょとんと、目を丸くして少女は停止する。
意外とチョロい奴なのかもしれなかった。
だが、彼女はすぐにぶんぶんと首を横に振り(濡れた犬が水気を飛ばすような動作だった)、
「いいえ、騙されませんよ! 私の嗅覚と直感が告げています! 貴方はとても極悪だと! とても強い邪気を感じます……たまに神社に侵入してくる、飲んだくれの小鬼よりも酷いです!」
思った以上に不味いことになっているかもしれない。
初めて創一の中に確かな焦りが生まれた瞬間だった。神仏の守護者という語りは伊達ではないようである。
元といえど、神仏の破壊者であった自分と、守護者が対面している場面だ。もう少し慎重になるべきだった。そんな後悔が創一の中に生まれている中、高麗野がすんと鼻を鳴らし、困ったような表情を浮かべた。
「……あれ? でもなんだろう……邪悪だけど、高貴? 神様の加護……それもとても強い……いや、これは強すぎでは? 貴方、一体何ですか!? ただの賽銭泥棒じゃない?」
「だから、違うって。そんなケチな真似はしない。これでも昔は、神様の使いをやっていたんだ」
指に挟んだ札をひらひらと弄んで、創一は言った。その言葉を信じられないのか、まだ高麗野は悩んだ表情をしていたが、その視線はすぐに創一の手元へとくぎ付けになった。
「ちょっ! それ、よく見たら一円札じゃないですか‼ そんなモノ、うちの神社の賽銭箱にあるはずがっ!!!」
今日一番の驚きようだった。明治時代の一円は現代換算で約二万円ほどの価値だっただろうか。確かに、賽銭に投入する額ではない。
「言っただろ、賽銭を入れようとしただけだと」
創一の手から離れた札が賽銭箱へと吸収されてゆく。高麗野はそれを絶句したまま見守っていた。
「う、嘘……間違えたんですか? 言っておきますが、お賽銭を返せというのは無しですよ? あ、もしかして外来人の方で、価値が分かっていないとか?」
「外来人なのは合っているが、価値は大体知っているし、間違えてもない。好きに使ってくれと、博麗に言っておいてくれ」
「はい、お兄さん、霊夢さんのお知り合いなんですか? きっと喜ぶと思いますけど……でも、意外と霊夢さんってガードが堅いですよ?」
「お前は一体何の話をしているんだ」
金で女をなびかせようとしている男だと思われたのなら、かなりの心外だ。大体、発想が突飛すぎる。
「あ、違うんですね……お兄さんモテそうですし、普通に飽きて、変わり種を攻略しようとでもしているのかと……」
「それは俺だけじゃなく、博麗にも失礼なんじゃないか? 君と博麗の関係はよく知らないが……たぶん、この神社の狛犬なんだろう?」
「お、よくわかりましたね。そうです、別にこの神社専門というわけでもないのですが……今は此処を守らせて頂いています」
専門では無いのか。不思議な狛犬だ。しかし、狛犬に変わり種扱いされる巫女というのも不憫……でもないのか。
祀る神を知らんと宣った件の少女を創一は脳裏に浮かべた。
「それで、お兄さんは何故この神社に? 霊夢さんに用ですか? それとも一円札を投入するほどに深刻な悩みとか?」
「いやまぁ、悩みはあるが……参拝はついでだ。人探しで来た。博麗への用ではない」
「人探し? 一体どういう……」
首を傾げる高麗野。事情を説明しようと創一が口を開きかけたとき、高麗野の背後に見える家屋、居住スペースとみられる神社の離れの戸がガラリと開かれた。
首を掻き、呑気にあくびなんかをしながら、巫女服姿の少女が姿を現した。
「ふぁ~あ、こうも涼しいと、ついついお昼寝しすぎちゃうわ……で、一体騒いでどうしたの、あうん?」
とてとてとゆったりした足取りでこちらに歩みゆる少女、その視線が高麗野の背後にいる創一を捉えた。
「あら、珍しい客ね。素敵なお賽銭箱はそこよ」
「まず第一にそれか。恐れ入るな……賽銭ならもう入れた」
「え、マジで……あんた、意外と良い奴なの?」
信じられないものを見るような目を、巫女――博麗霊夢は向ける。
「それも聞いてください霊夢さん! なんと一円札ですよ!」
「はぁ!? 一円!? 賽銭箱に? 嘘でしょう!!?」
眠気の残った顔が真剣なものへと変わり、霊夢は素っ頓狂な声を上げながら賽銭箱へと縋り付いてその中を覗く。
「よく見えない……ん、いやなんか確かに紙幣っぽいものが! 本当に一円札を……私夢でも見てるのかしら? あうん、ちょっとあなた自分の頬をつねってみてくれる?」
「はい! お任せください! うん、ちゃんと痛いです!!」
「……俺は突っ込まんぞ」
ただただ無駄に痛い目に合っている不憫な狛犬をしり目に、創一はあきれ果てた顔で霊夢の姿を眺める。
「俺は人に説教をするたちでは無いが、お前ちょっとそれはどうなんだ? 巫女として……」
あまりに現金すぎるのではないだろうか。というか、人前で自制しようという気にならないのか。
創一の指摘に、霊夢がじとりと睨み返す。
「余計なお世話よ。大体あんた、普通に口うるさいでしょうが……初対面のときのアレは説教じゃなかったわけ?」
黒霧異変の勃発時、神社で会ったときのことが思い出される。なるほど、それを言われれば創一に返す言葉は無かった。
「あぁ、悪かったな。戯言だったと忘れて構わない」
「別に……あれは余計では無かったわよ。ムカつくけどね……一応、ありがとうと言っておくわ」
そういって、霊夢は顔を背ける。
「……それで、結局あうんは一円札で騒いでたの? なんかちらっと揉めるような声も聞こえた気がしたんだけど……」
首を傾げる霊夢に、高麗野はバツの悪そうなかおをした。
「いえ、実は私がこのお兄さんを賽銭泥棒だと勘違いして……」
「賽銭泥棒? うちの神社に? なんでそんな勘違いしたのよ、あんたそんなにおっちょこちょいでもないでしょうに……」
「それが、お兄さんから邪気のようなものを感じて……あぁ、でも! 同時にすごく強くて神聖な力も感じて……」
「ん? 全然話が読めないんだけど……」
「そこからは俺が話そう。前にも言ったが、俺は稲荷明神の使いをやっていてな、その加護が俺にはある。で、それとは別に、外の世界で退魔師をやっていたときに、とある神霊に呪いをかけられたことがあってな……彼女はその気配を感じ取ったんだろう」
嘘ではない。ほとんど影響を及ぼすことができていないが、自身の肉体が過去に対峙した怪異の呪いを受けているのは事実である。最も、狛犬である少女が見抜いてみせたソレは、決して外部由来のものではないのだろうが。
「呪いって……随分物騒ね。賽銭のお礼に解除してあげようか?」
「そんな簡単なモノじゃない。俺は生まれつき耐性があるのと、宇迦之御霊様の加護があるから相殺できてるだけで……下手に触るとどうなるかわからんから、遠慮しておこう」
創一の身にふりかかった呪い、祟りともいってよいそれは同じ神霊の力をもってしても解呪できない代物である。【負の感情を力とする程度の能力】を持ち、肉体そのものが呪いの受け皿として至上の逸品である創一だからこそ平気なのだ。幾ら腕が良いといっても、それは人間に解呪できる限界を超えていた。
「それに、毒が薬になるように、呪いというのも上手く使えば役に立つものだからな」
「ふーん、うまく使えば、ね……それって、あの時に見せた姿と関係があるのかしら?」
「…………」
あの時、というのは黒霧異変の時に見せた姿を言っているのだろう。
自身が最も忌む姿、己の能力の神髄の型。それを滅ぼすべき敵以外に見せてしまったことは、創一としても決して本意では無かった。
閉口する創一に、「まぁ、どうでもいい」と霊夢は鼻を鳴らす。
「別に、あんたの事情に深入りするつもりはないわ。ただ、そういう生き方してたら、それこそ取り返しがつかなくなるんじゃないかしら? 人を捨てる気が無いなら猶更ね……」
「肝に命じるよ」
「あっそ、精々私の仕事だけは増やさないでね。人外化した元人間を粛正するのは、博麗の巫女の役目だから」
剣呑というわけでは決してないが、何処となく冷えた空気が流れる。それまでの様子を見守っていた高麗野が不意に声を上げた。
自身のあずかり知らぬ会話がようやくひと段落したと判断したのだろう。
「あ、あの! それで、お話を戻しちゃうのですが……結局、お兄さんはなんで博麗神社に? 人探しのついでって言ってましたけど……?」
「ん、あぁ、友人に会いに来たんだ。なんでも、神社の地下室に住んでいるらしい」
創一の言葉に、博麗が眉を潜めた。
「は? 地下室ってあんた……まさか、クラウンピースのことかしら?」
「そうだ。より正確に言うならその主人に用があるんだが、俺の方の連絡手段が空振りしてしまったから、あいつから一報入れてもらおうとな」
「主人……あのヘカーティアとかいう女神ね。どういう知り合いなのよ? あ、でもクラウンピースなら少し前に出かけた姿を見たような……」
「私も見ましたよ。まだ帰ってきていない筈です」
「そうなのか? 仕方ないな、帰ってきてたら俺が訪ねていたことを伝えてくれるか? 後日に改めようと思うんだが」
「別に私はいいけどさ、急ぎじゃないの?」
「まぁ、なるべく早いに越したことはない」
「じゃ、うち上がっていく? 賽銭も入れてくれたし、一応、あんたには色々と助けられたからね。お茶くらい出すわよ」
「……博麗がそれでいいなら、お言葉に甘えさせてもらおうか」
「じゃあ決まりね。あと、霊夢でいいわよ。博麗なんて呼び方する奴あんま居ないし、役職名みたいなもんだから、落ち着かないわ」
「あ、じゃあ私もあうんでいいですよ。そういえばお兄さんのお名前をまだ聞いていませんでしたね」
「狐守創一、創一でいい」
◇
「鏡の怪異か……また面倒なことに首を突っ込んでるのね。あんたもしかして、マゾって奴? それとも単に暇なだけ?」
稗田阿求に相談された怪異事件の概要を話終えた後、一息ついて霊夢は怪訝そうな目で創一を見た。
「暇というのは合ってるな。代々続く神徒の役目を終えて、幻想郷で隠居暮らしをしている身だから……」
「え、何あんた、本当に暇でやってるの? 生活のためとかじゃなくて?」
「依頼料は貰っているが、別に収入がなくともどうにかできる蓄えはある。こちらの貨幣は乏しいが……貴金属や時計は何処でも換金できるしな」
「うわ、ムカつくわね。ブルジャワって奴? あーやだやだ、適当な理由で私らの生業を荒らして欲しくないんだけど?」
そう言って霊夢が肩を竦めた。
「別に博麗の巫女の生業自体は妖怪退治じゃないだろう? あくまで調停者の任と聞いたが? それに、ちゃんと新参者であることくらい弁えてるさ。宣伝活動なんてしてないだろう?」
「それはそれで変だと思うけどね。勿体ない気がするわ……まぁ、私は文句言える立場じゃないけど……それにしても、あんた阿求とどういうつながりなの?」
「狐守家の初代が幻想郷出身でな、稗田家と懇意にしてたとかなんとか……」
「それだけ? あぁ、でもあの子って代々転生してるんだっけ……何? 昔恋仲だったとか?」
キラリとちょっとだけ霊夢は目を輝かせた。意外な反応である。ほぼほぼ仕事漬けで、青春などというものとは程遠い生活を送っていた創一では、いまいち実感が湧かないが、十代半ばの少年少女としては、彼女の態度の方が余程健全なのかもしれない。
「さぁな。無いとは断言できないんじゃないか? 訳アリっぽさはあったし……いや、プライバシーの侵害だな、今のは忘れてくれ」
「意外ね、そういうの配慮するんだ? 私の時はだいぶずけずけと言ってた気がするけど……」
「ケースバイケースだ。普段はそんな残酷な真似はしない。感情はやすやすと侵してよいものじゃないからな」
「ふーん、あんた、人が好いのか悪いのか分からないわね。変な奴」
「ちょっと霊夢さん、流石にその物言いはひどいですよ」
無遠慮な霊夢の物言いをあうんが咎めた。最も、霊夢は発言を訂正する気はないようで、不遜な態度のまま卓の中央に置かれた煎餅へと手を伸ばし、それをばりばりと齧る。
「もう……ごめんなさい創一さん。霊夢さんも別に悪気があるわけじゃなくて、いつもはこんなに失礼な人じゃないんですが……あれ? いつもこんなものだったっけ?」
自分で言葉にして、不思議そうにあうんが首を傾げる。
割と通常運転のようらしかった。
「俺は気にしていない」
そう言って、創一は自分の前に置かれた湯呑に口をつけた。
……こいつ、大分雑に茶を淹れたな。
一瞬だけピクリと眉を動かすが、すぐに取り繕って創一は半分ほど茶を飲み干す。
「……しかし、一体どういう経緯でクラウンピースに地下を間借りさせたんだ?」
ことりと湯呑を卓に置き、ふと思い出したように創一は尋ねた。
死穢れを嫌う神道に対して、地獄の妖精という存在はあまりにミスマッチなものである。純粋に何故そうなったのか興味があった。
「別に許可なんて出してないわよ。一回追い出したけど、また勝手に住み着いてね。寒い時期は床暖房になるし、とりあえず見逃してやってるだけよ」
「そういうことか。妙な話だとは思っていたんだが……まぁ、よくも悪くも妖精で、地獄の住人では悪意が薄い奴ではあるしな。放っておいても惨事にはならんだろう」
「友人って言ってたわね……あんた、あの妖精とどういうつながりなのよ」
「腐れ縁というか、昔馴染みだな。俺が十歳くらいのときに、たまたま現世を来訪していたヘカーティアに出会ってその紹介で……それなりに付き合いが長い」
「子供の時に妖精とお友達になるって、なんだか童話みたいで素敵なお話ですね!」
「地獄のって枕詞がつかなければだけどね……」
「はは、違いないな」
そんなこんなで、取り留めのない話を続ける三人。クラウンピースが神社へと戻ってきたのは、ちょうど二時間ほど経った頃だった。
「え、ご主人様への連絡方法? さぁ、知らないけど?」
そして、創一のプランが音を立てて崩れるのには数秒もかからなかった。
◇
燃え盛る業火が、女の真紅の髪を照らしていた。
亡者の身をたちまちに引き裂く地獄の辻風に晒されながらも、彼女はまるでそよ風を受けているかのようにそっと前髪をかきあげる。
「――本当に手こずらせてくれるわね。潰しても潰してもキリが無い」
刃のように鋭く美しい声が女の口から紡がれ、そのルベライトの瞳が射貫くように――地に跪く男へと向けられた。
襤褸切れのような黒衣を纏った男。彼の体は、無数の傷が刻まれ、四方の地面を突き破って伸びる鎖によって縛られていた。
「それで、あなたを潰して、あとどれくらい分体は残っているのかしら? ねぇ――
「…………くっ、かかっ」
喉を鳴らして、道満は笑う。割れた額から滴る己の血液を、べろりと舌で舐めとって、彼は爛々と瞳を輝かせた。
「いやはや、げに恐ろしき地獄の女神よ。そう警戒せんでも、もう片手で数えられる程しか残っておらんわ。お陰様でな」
「そう、それは良い報せね。このつまらない害獣駆除もようやく終わりが見えてきたわ」
「くく、これはまた辛辣な。我が呪術によるもてなしは、西洋魔道の祖相手には不足だったかのう?」
「別に、
「なるほどのう、こいつは失礼した。次の機会があれば、そういうもてなしも考えておこうか」
「うふふ、遠慮するわ。早く私の目の前から消えて頂戴」
微笑みを浮かべて女が指を鳴らせば、道満に巻き付く鎖が真っ赤に輝き拘束を強める。
「――ぐぅっ!」
苦しそうな呻き声あがり、それがそのまま彼の断末魔となる。
ぐしゃり、と鈍く不快な音を奏でて、男の体は文字通りの八つ裂きとなった。鎖に帯びた高熱が、そのまま体の残骸へと移り、生臭い臭気の混ざった煙を立てて、めらめらと燃え上がった。
「やっぱり、汚物はしっかり消毒しないとね」
殺害と火葬を同時に済ませた彼女は、一仕事を終えた満足感に浸りながら炎を眺める。
だが、それもほんの一瞬のこと。騒動が終わったとみて、離れた位置から駆け寄ってきた部下へと向き直ったときには、彼女は既に再び地獄の支配者の顔をしていた。
「ヘカーティア様! 今しがた連絡があったのですが、どうやら畜生界や修羅界でも騒ぎが起こっているようでして……!」
「はぁ、まぁそんな気はしてたわよん。畜生界には私が、修羅界には
「畏まりました。他の地獄の支配者たちはどうしましょうか?」
「うーん、比較的マシな
「はい、直ちに!」
命を受け、部下はすぐさまその場から飛び去ってゆく。その背中を見送るのも程ほどにして、ヘカーティアはふと思案気な顔をした。
(一月ほど前の鬼神と怨霊の一件といい、事態はかなり深刻よね。此岸と彼岸の境界はぐちゃぐちゃ。悪影響が出てるだろう幻想郷の方までは手が回せないし、ピースのことがちょっと心配だけど……)
「……まぁ、なんとかなるでしょ」
肩の力を抜いて、ヘカーティアはふっと口元を緩める。
幻想郷の住人は、自分が手を貸すまでもなく強かなのだ。何より、今のあの郷には
(ごたごたが片付いたら、純狐を連れて遊びに行くのも悪くないわね)
大切な友人たちの顔を少しの間だけ思い浮かべ、ヘカーティアは自身の職務へと戻るのだった。
次回、紅魔館へ。