東方狐神録   作:パック

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吸血少女

 

 

 壁も床も目に痛いくらいの紅い館。羽を生やした少女や、緑肌の小人達が館の中を行きかっている。その様相は正しく伏魔殿とでも呼ぶべきものだ。人間という存在が足を踏み入れるのは場違いだろう。

 

 しかし、創一は実に軽やかな足取りで館の廊下を突き進んでいた。館の住人の傍を通り過ぎる機会は一度や二度ではない。だが、未だに創一の存在を気取る者は一名の例外を除いて居なかった。

 

 かごに山盛りとなった衣類を運んでいる少女の隣をすっと創一は横切る。彼女の視界の端には間違いなく創一の姿が映っていただろうが、彼女がそれに気づくことは無い。

 

 人外から人が身を守るために編み出した陰陽の法、隠形術による効能だ。

 どこぞの瞳を閉じた覚妖怪ほどの規格外の性能は無いが、並みの妖の目なら簡単に誤魔化せる。少なくとも、視界の中心に捉えらなければ創一の存在が気づかれることはない。

 

 「…………!」

 

 しばらく歩いて、ぴたりと創一は足を止めた。彼の視線の先には曲がり角が待ち受けている。館の詳しい構造は知らないが、創一の予想ではその先を行けば図書館へと通じるはずだった。実際、今も騒がしい音がその方向から聞こえている。

 おそらく、一足早く屋敷に侵入した霧雨魔理沙が、図書館の主と交戦しているのだろう。その証拠に、強い魔力の波動を感じ取ることができた。

 

 (だからこそ、今まで気づかなかった)

 

 創一は戦慄した。強力な魔法同士がぶつかり合っている地点から、何かがこちらへと近づいていた。とてつもなく強い魔力。そして、異質な気配。

 

 (これは予感だ)

 

 創一の瞳には特別な力が宿っている。感情という不確かなものを色付きのオーラとして視認する能力だ。だが、それはあくまで創一が持つ本来の能力のオマケ、副産物に過ぎない。

 【負の感情を力とする程度の能力】を活かすための機能として、瞳が開花した力が感情を視認する能力なのだ。そして、能力を活かすために肉体が発達した機能は、何も目だけにとどまらない。

 

 聴覚、嗅覚、触覚、味覚、あるいは直感、より強い感情を前にすれば視覚以外の感覚すらも、感情を捉えるという目的のために、実に効率的に機能し始めるのだ。

 それ故に、創一は誘われることとなる。かつて、創一が幻想郷屈指の危険地帯である無縁塚へと、足を運ぶはめになったのもそれが原因だった。

 

 運命などという言葉を持ち出したくなるほど、創一は意思に関わらず負の感情というものに引き寄せられるし、逆に負の感情を宿す人や物体も、創一の元へと引き寄せられる。

 そうした数奇な因果を持ち得る創一だからこそ、まだ見ぬ何者かに対して確信を持つことができた。

 

 強い魔力と存在感を撒き散らしながら、こちらへと近づいてくる誰かは、絶対に碌な者では無い。好奇心を刺激されないと言えばウソになるが、今の状況を省みれば可能な限り関わりを避けるべきである。そう考えて、創一は近ばで人気のない部屋へと素早く飛び込んだ。

 

 懐から取り出した符を部屋の四隅へと張り付け、創一は小さく呪文を唱えて手印を結ぶ。符がぼんやりと青い光を帯びたかと思えば、その輝きが部屋中にダイヤモンドダストのように散らばってゆく。

 これもまた陰陽の法の一つ、鬼を遠ざける術である。

 

 (隠形と百鬼夜行除けの結界の二重……これでやり過ごせればいいが……)

 

 気配がまた一段と近づく。術で強化した創一の聴覚が、微かな足音を捉えた。

 足音から分かる情報は馬鹿にできない。小柄な体格。おそらくは少女だろう。

 

 (屋敷の主人? いや、違う気がする)

 

 紅魔館の主、吸血鬼レミリア・スカーレットの存在は創一も聞き及んでいる。接近を続ける気配の主は、確かに悪魔の館の主として相応しい力を持つように思える。があまりにも――

 

 (――歪んでいる。少なくとも、あのメイドや門番を従わせられる気質の持ち主ではないはずだ)

 

 創一が身を隠した部屋の前で、少女の足音が不意に止まる。創一が室内に施した結界は、無意識のうちに妖怪がその場所を避けるという性質のものだった。つまり、彼女が足を止めている時点で異常であり――

 

 (――あぁ、これは駄目だったな)

 

 儚い希望が消え去るのと、部屋に張られた符が粉々に破れ散るのはほとんど同時だった。蹴り飛ばされた扉をひょいと創一は躱す。

 

 「へぇ、鼠らしくすばしっこいわね。ちょっとは楽しめそうで良かったわ」

 

 そう言って、現れた少女が悪戯っぽく笑う。

 日の光を知らないような白肌に、眩い金色の髪。此方を見つめる瞳の色は屋敷と同じ色をしている。

 

 「……駄目もとで聞くが、どうやって俺の術を破った?」

 

 「術? あぁ、なんか妙な感じがすると思ったら……いつもは無い()があったから、とりあえず壊してみただけよ」

 

 「目か……この屋敷の主人には、破壊に特化した能力を持つ姉妹が居ると聞いてはいたが……お前のことか」

 

 「えぇ、そうよ。私の名はフランドール、よろしくね鼠さん」

 

 スカートの端を持って、優雅にフランドールは一礼した。妙に上機嫌そうな顔を浮かべていた少女だったが、彼女はすぐに不機嫌そうな顔になる。

 

 「……ねぇ、あなたは名乗ってくれないのかしら? レディにだけ名乗らせるなんて、不躾じゃない?」

 

 血のような瞳に、俄かに敵意の色が混じり始める。気性の緩急が激しいタイプなのだろう。刺激することは避けたい。偽名でも使うかと考えて創一は口を開くが、すぐにフランドールが制した。

 

 「あ、待って待って、まずはお顔を拝見しなきゃね。そんな陰気なお面相手に会話する趣味なんて無いもの」

 

 そう言って、少女は手を創一へと向けて伸ばし、きゅっと拳を握りしめた。その瞬間、創一の般若面が音を立てて崩壊する。

 

 「あら、中々可愛らしいお顔が出てきたわね。もしかして、相手に舐められないための涙ぐましい努力だった?」

 

 からかう様にフランドールが言う。創一は面とそう変わらない仏頂面で応えた。

 

 「そういうわけじゃない。あくまで愛用品の代替だ。俺の名前は創一。まぁ、見ての通り招かれざる客という奴だ。館の魔女に用があってな、同行者が先走って騒ぎを起こしたようだが……」

 

 「ふーん、あなた魔理沙の連れなのね。じゃあ、流石に壊しちゃまずいかしら?」

 

 つま先から頭まで、値踏みするような視線が創一へと注がれた。

 

 「是非そうして欲しい。見ての通り、俺はか弱い人間だからな」

 

 「それはどうかしら? この郷、変な人間も結構いるから……妙な術も使うみたいだし、魔理沙の連れならそれなりに楽しそうだけど――――ねっ」

 

 かき消えたと見間違う程の速度で、フランドールが接近する。鉄すら切り裂くだろう威力の爪が、創一の喉元目掛けて振るわれる。が、創一は僅かに後退して致死の一撃を躱した。冷や汗一つ垂らさず、能面のような顔を保ったままで創一はフランドールを睨んだ。

 

 「危ないだろ」

 

 「殺されそうになったときの反応がそれ? あなた、面白いわね。簡単に壊れそうでもないし……気に入ったわ。私の部屋に来て、もてなしてあげる」

 

 「是非、遠慮願いたいんだが……」

 

 「拒否権なんて無いわよ。部屋に来るならあなたは私のお客だけど、そうじゃないならただの侵入者だから。客としてパチュリーに紹介された方が、あなたも都合が良いんじゃなくて?」

 

 尋ねるフランドールに、創一は少々苦い顔を浮かべる。

 フランドールが持つ感情の色は明らかに常軌を逸した者のソレで、油断はできない。だが、状況的に創一に断る選択肢が無いのも事実だった。

 渋々と、創一はフランドールの誘いに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 「うーん、可笑しいわね。そろそろ咲夜が紅茶とケーキを持ってくる頃なんだけど……」

 

 不思議そうにフランドールが首を傾げる。その原因を作ったのは言うまでもなく創一である。給仕の少女ならば、何処かの茂みあたりで気絶したままだろう。

 しかし、わざわざ馬鹿正直に白状する理由などない。

 

 「銀髪のメイドなら、魔理沙に負けて気絶していたぞ。起きるまで時間がかかるんじゃないか」

 

 素知らぬ顔で、創一は魔理沙へと自分の所業をなすりつけた。魔理沙も魔理沙で大概なので、特に罪悪感は湧かない。

 

 「魔理沙に? 美鈴はともかく、簡単に遅れをとる奴じゃないんだけど……」

 

 「体調が悪かったんじゃないか? 俺たち人間は常にコンディションが良好とはいかないんだ。ちょっとした気温変化や気圧変化でも影響が出る。なんだか疲れていそうに見えたからな」

 

 訝し気な顔をするフランドールに創一は嘘を重ねる。それもそうかと、彼女は最終的に納得してくれたようだった。

 

 「じゃあ、妖精に頼むしかないかな。味が落ちるから嫌なんだけど……」

 

 「何だったら俺が淹れようか? 紅茶に緑茶、コーヒーも、それなりに上手いと自負している。元々貴人に仕えていた身だからな。それか、こういうものもあるぞ」

 

 言いながら、創一は懐に手を入れ、琥珀色の液体が入った瓶を取り出す。ラベルにはWHISKYというスペルが刻まれている。

 

 「懐にいつもお酒を入れてるわけ?」

 

 「正確に言えば、懐に入ってるわけじゃない。これもまた術だ。ドラ〇もんのポケットみたいなものだな。蒸留酒以外に、日本酒やワインもあるぞ」

 

 眼前のテーブルに、質量を無視して懐から取り出した様々な酒を創一は並べてゆく。

 とりあえず酒を出しておけば、妖の機嫌はとれる。最も、酒癖が悪い妖怪も相応に多いため、事態が悪化する可能性は無視できないのだが。

 

 「ドラなんとかが何かは知らないけど、便利そうね。日中からお酒ってダメ人間みたいだけど、まぁ私人間じゃないし、いいわ、飲みましょうか」

 

 「よしきた、少し待ってくれ、グラスと氷を用意するから」

 

 酒と同じように、術で造った空間からグラスとアイスペールが取り出され、テーブルに置かれたグラスの中に、宝石めいた氷が投入された。琥珀の液体が注がれ、亀裂の入った氷が小気味の良い音を奏でる。

 

 「お気に入りの一つだ、遠慮なく飲んでくれ」

 

 興味深そうにグラスを眺めていたフランドールだったが、創一の勧めにゆっくりとグラスに口をつけた。

 

 「……強いわね。まぁ、嫌いじゃないわ。ウヰスキーなんて初めて飲んだけど」

 

 「だろ? 口に合ったようで良かった。しかし、お前も中々奇特だな。不法侵入者を自室に招くだなんて……個人的には助かったが」

 

 言いながら、創一は部屋の中を見渡した。高級ホテルのスイートルームじみた豪華な一室だが、全体的な色合いや細かい装飾が幼げな雰囲気を帯びている。

 天蓋付きのベット周辺にはたくさんの動物のぬいぐるみが置かれているが、その半数ほどがズタズタに引き裂かれていた。部屋が地下にあり、窓が無いことも相まって閉塞感や陰鬱さが滲んでいる。

 

 「別にあいつが困っても私は気にしないし……それに、いつも運命がどうとかほざいてるし、この状況だって読めてたでしょうよ。そうじゃなければ、あいつはとんだペテン師だわ」

 

 ウヰスキーを舐めるように飲みながら、フランは不満げに言う。

 

 「あいつ?」

 

 「私の姉よ。【運命を操る程度の能力】だなんて、御大層なものを掲げているけど、実際はどうだか分かったものじゃないわ」

 

 「なんだ、姉とは仲が悪いのか?」

 

 「まぁね、もうあいつの話は止めましょう。客なんて珍しいんだから、あなたの話を聞かせて頂戴。言っとくけど、つまらなかったら別の()()に変更するから」

 

 ぱきりと、フランドールは指の関節を鳴らした。創一としては、これ以上館の住人とことを荒立てるのは御免である。

 おそらくは血や臓物を見ることになるだろう遊びを回避するため、創一は目の前の少女を満足させることに注力するのだった。

 

 

 

◇ 

 

 

 

 「――で、そいつは七十キロの金塊を抱いてマリアナ海溝に沈んだんだ。高速船と一緒にな。おかげで俺は泳ぎで太平洋を横断することになった。空を飛ぶと目立つからな」

 

 「じゃあ、その友人は海の藻屑になったってわけ?」

 

 「いや? 五日後にイギリスの海岸で発見されたよ。何故太平洋からイギリスにたどり着くのか分からんが、深海程度じゃ奴の不死性は突破できなかったらしい」

 

 「へぇ~外の世界にも変な人間がいるのね。話を聞く限りあなたも大概みたいだけど……中々面白かったわ。別の遊びをするのは勘弁してあげる」

 

 「それはよかった。じゃあ、そろそろ図書館へと案内してもらえるか?」

 

 とりあえずは戦闘が避けられそうなことに安堵して、創一は言う。フランドールは少々考えこむような素振りを見せて、やがて頷いた。

 

 「まぁいいわよ、約束したしね。そろそろあっちも一息ついた頃でしょうし……魔理沙がまだ元気なようなら、遊んであげるのもいいわね」

 

 「お手柔らかにしてやってくれ」

 

 悪戯っぽく笑うフランドールに創一は内心魔理沙に同情した。最も、彼女に明確な殺意があるわけでもないので、どうこうする気は無い。

 

 「あーあ、でもちょっと残念だったな」

 

 部屋から出る直前、扉を前にしてフランドールがぼやいた。振り返って創一を見る彼女の瞳は、濡れたような艶を帯びている。

 

 「――――最後まで隙を見せてくれなかったわね。あなたとなら、きっと楽しい遊びができたと思うんだけど……」

 

 探りを入れるようなフランドールの言葉に、創一は何処までも平静を保ったままこたえた。

 

 「買いかぶり過ぎだ。俺はただ、いつ取って喰われるかと気が気じゃなかっただけに過ぎない」

 

 

 「ふーん……そういうことにしておいてあげるわ。今日のところはね……けれど」

 

 つかつかと歩み寄り、フランドールはふいに創一の胸倉を掴んだ。凄まじい力で創一の体が引き寄せられる。

 互いに息がかかるような距離。紅玉と青玉が視線を交えた。

 

 「次はその澄ました仮面をぶち壊して、本当の顔を引きずりだしてあげるから――覚悟していなさい」

 

 そう言って少女は不敵に、獣のように牙を見せて笑うのだった。

 

 

 

◇ 

 

 

 

 三階分の吹き抜け天井に吊るされたシャンデリアがぎらぎらと輝いている。本棚に並ぶ色とりどりの背表紙が、光を受けて鮮やかに艶めいていた。

 空気は涼しく、心地よい。年月を経ているであろう古書の類が多くを占めているにも関わらず、埃臭さとは無縁の場所だった。

 清潔で静謐な、知のオアシスとでも評せるような素晴らしい図書館である。

 

「……で、こんな心地よい図書館でお前は一体何をしているんだ?」

 

 心底呆れたような声音で創一は言った。彼の視線の先には、およそこの場所には似つかわしくない程、派手にめかしこんでいる少女が居た。

 

 フリルやリボンで飾られたピンクを基調としたドレス。差し色には黒。逆に頭部には、ピンクのリボンで彩られた黒のミニハットが被せられている。所謂ゴシック&ロリータなどと呼ばれる類の服飾。纏っているのは他でもない、霧雨魔理沙その人である。

 

 「……あんまりジロジロ見るんじゃない」

 

 屈辱に顔を赤くし、ぶっきらぼうな口調で魔理沙は視線を逸らした。その様子についに耐えきれなくなったのか、創一の隣でフランドールが噴き出した。

 

 「ふふっ、あははは! あ~お腹痛い! 魔理沙ってば意外と少女趣味だったのね。まぁ、そうじゃ無ければスペルカードに恋符なんて名付けないか! ふふっ」

 

 「うるさい、笑い過ぎだぞフランドール!」

 

 キッと睨みつけるが、今の魔理沙に迫力などあるはずもない。むしろ余計に滑稽に映ったのか、フランドールは腹を抱えて笑ったままだ。それを尻目に、改めて創一は魔理沙に視線を向ける。

 

 「お前が一人ファッションショーをしようが俺は一向に構わないが……勿論、本は手に入れたんだろうな?」

 

 その問いに魔理沙は押し黙る。相変わらず彼女と目が合わないままだ。だが、その理由はどうやら彼女の羞恥心だけではないらしい。

 

 「……おい」

 

 「いや待て! 違うんだ! あともうちょっとだったんだが……!」

 

 冷えた声を出し始める創一を魔理沙は手で制しながら、自己弁護を始めようとする。だが、その試みはあえなく失敗することとなった。

 

 「何があとちょっとよ、今日はあんたずっと私に圧倒されてたじゃない」

 

 「そうですよ! だから、私の着せ替え人形になってもらってるんですから!」

 

 紫の長髪をたなびかせる少女に、一目で悪魔の類と分かる赤髪の少女が図書館の奥から姿を現し、口々に言う。

 感じる強い魔力から、すぐに創一は紫髪の方が図書館の主だとあたりをつける。

 

 「もしかして、貴女がこの図書館の主か?」

 

 「そうだけど、あなた誰?」

 

 不審な視線が創一へと向けられる。彼が答えるより早く、魔理沙が口を開いた。

 

 「そいつの名は創一、私の連れだ。お前の知恵に用があるんだとよ」

 

 「私の? いや、それより魔理沙の連れってことは……あんたも()ってことでいいのよね?」

 

 少女の瞳に剣呑な光が灯る。

 まずい、やはり魔理沙を頼ったのは間違いだったと再び後悔が襲う。

 

 「ううん、違うよパチュリー。だって創一は私のお客様だから」

 

 創一の片腕にすっと抱きついて、フランドールが助け舟を出した。周囲の顔が皆一様に固まる。呆然とした表情のまま、少女たちは創一とフランドールを見比べた。

 

 「客……あなたの?」

 

 到底信じられないと行った様子でパチュリーは再度確認する。彼女の反応が面白いのか、フランドールは揶揄う様に口角を吊り上げた。

 

 「そうだよ。だからパチュリー、あなたでも勝手に手を出すことは許さないわ」

 

 創一から手を放し、パチュリーの前へ身を乗り出すようにして、フランドールは言った。

 

 「……なぁ、お前どうやってあいつを手懐けたんだ?」

 

 心底不思議だと耳打ちする魔理沙に、創一は思わず鼻を鳴らす。

 

 「お前の目は節穴か? あいつの顔をよく見てみろよ、どう考えたって、目を付けた獲物が横取りされるのを厭ってるだけだ」

 

 小声で答えながら、創一は頭を抱えたい衝動に駆られた。上手く回避できたというのはおめでたい勘違いに過ぎず、創一の実態は依然、猛獣に狙われる兎とそう変わらない。

 

 「俺は哀れな草食獣というわけだな」

 

 「いや、過去にあれだけ暴れたお前が言っても戯言だろ」

 

 異変時の暴虐を思い返して魔理沙がツッコむが、創一は取り合わない。

 

 (偶にはトントン拍子でことが運んでくれていいんだがな……)

 

 魔女と吸血鬼の動向を見守りながら、創一は重い溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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