<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
メビウス杏里ちゃんは一日目に死んでいたのですが、二日目死亡に変更します
■【高位設計士】メビウス杏里
クラスで20人中4番目か5番目といった程の美少女、それが私だ。
造形は自分でも悪くはない……思う。
けど、内向的な性格が災いし、私はクラスで孤立していた。
陽キャとは話が合わないし、顔も性格も悪い下層とは一緒にされたくないし。
「杏里ぃ。昨日の見た? SNSで話題になってたやつ」
「ごめん……見てない」
「おい、坂島。ノートの提出今日までだぞ。ちゃんとやったのか?」
「あ……忘れてた」
返答がつまらなかったのか、クラスメイト達は二言以上は返してこない。
コミュニケーション能力も、成績もあまり良いとは言えない私は、いつしか自宅自室ことが自分の城となっていた。
「ムカつく……ムカつくムカつくムカつく……!!」
ぬいぐるみをベッドへと乱暴に投げる。
大きな熊のぬいぐるみ。
従兄が誕生日にくれたものだ。
これだけが私の唯一といっていい宝物。
感情的に投げてしまったことを後悔し、慌てて定位置にぬいぐるみを戻した。
「また、やっちゃった。ごめんね」
熊の頭をそっと撫でる。
ほつれた糸のせいで垂れかけた瞳は構わないと言っているようだった。
「明日はイベントの日か。変な依頼受けちゃったなぁ」
一日だけクランに属し、メンバーとしてイベントを勝ち抜いて欲しいという依頼。
縛られる時間にそぐわない高額な報酬に即答で頷いてしまったが、今更後悔が訪れる。
「よく考えたら知らない人達のクランに入るんだよね……うまく話せるかな」
自身のエンブリオの中にいるならともかく、顔を合わせるとなると不安しかない。
どうにかリモートとかにならないかな。
ネットでどうやったら初対面の人とうまく話せるか調べる。
会話を広げるだとか、相槌がどうだとか、出来るなら最初からやってるよといった、何のためにもならないものばかり載っている。
「ん? キャラをつくる……?」
なるほど、自分とは別のキャラクターを演じれば、その間だけは自分ではない私が話しているということ。
……。
これはやってみる価値があるかもしれない。
そんなわけで本日よりメビウス杏里はちょっと生意気な美少女キャラになったというわけである。
◇◆
「ちぇ。もう近づいてくる人いなくなっちゃった」
一日目こそ私のエンブリオを攻略しようと多くの人間が集っていたが、二日目はもう近寄ろうとはしてこない。
たまに道に迷ったのか逸れたのか1人2人、私の存在を知らない〈マスター〉が近づいてくる。
効率としては悪いが、仕方ない。
1人2人のために必殺スキルを発動し、確殺していく。
「また来た……せめてさっきのと一緒に来いよ」
モニターに映し出されたのは神輿?のような船の形をした何かに乗る男。
幾人かの人型の何かに船を運ばせ移動している。
「変なの。チャリオッツ系かな? ま、能力は移動力上昇とかになるだけだし、別にいいか」
付近には他に〈マスター〉の気配は無い。
すぐに必殺スキルを発動した。
「《
舩に乗っていた〈マスター〉は船ごとカエサルの内部へと転送されていく。
何が起こったのか理解できていないのだろう、きょろきょろとあたりを見渡している。
『やあやあ! ようこそ私の盤上遊戯へ』
『ええと、ここは?』
埴輪を通じて男の声が聞こえる。
何故埴輪なのかは私にも分からない。
「ここは私のエンブリオの中! 安心していいよ。中にいるだけなら危害は無いから」
『ふうん?』
男へとこの人生ゲームのルールを説明していく。
頭は悪く無いようで、すぐに理解したのか、幾つかの質問が投げ返された。
『エンブリオが類似した能力になるってことだけど、『出目の選択』っていうのがそうなのかな』
「お、当たりじゃん。それ、けっこう運が良いよ。サイコロを二つ振って、好きな方を選べるんだ。止まりたくないマスがあったらそれで避けられるかもしれないよ」
我ながら物も言いようだなと呆れる。
本来であればマスに応じたイベントに対する抵抗能力が失っているようなものだ。
更にはマスは止まってみるまでは何があるか分からない。
複数人で挑み、予め知ることが出来るならばともかく、1人で挑んだのであれば、出目を選べたところで、果たして何が正解なのか分かり様がないのだ。
『運が良い、ね。そうか』
「その幸運でこっちに来れるかな? それじゃ、用意スタート!」
男の戦意はそれほど高くない。
これまでの馬鹿な男たちと違い、私と会話を楽しむ気はないようだ。
まあいい。
だったら、さっさと死んでもらうだけ。
『出目は……4と5か。それじゃあ5で』
止まったマスは何も起こらない。
ちっ……安全マスか。
『次は6と3か。そしたら3にするかな』
何も起こらない。
安全マスを続けて引いた?
本当に幸運なんだな。
『3』
安全マス。
『5』
安全マス。
『1』
安全マス。
安全マス安全マス安全マス――
『2……これでゴールか』
安全マスに止まり続け……男はゴールへと辿り着いた。
「……は?」
何が起こった?
止まったマス全てが安全マス?
なにそれみたことないんだけどわたししらない。
「なんで……どこに安全マスがあるか分かっていたの!?」
2つのサイコロを振れるのならば、普通は出目が大きい方を選ぶ。
だが、この男は1や2を選ぶこともあった。
そしてたまたま、その先に安全マスがあった。
ゴールしたことで、クリアしたことで《賽は選択の度、幾度も投げられた》は解除され、平原地帯に私と船に乗った男、そして私のクランのフラッグだけが残される。
「知らないよ。君が言ったんじゃないか。僕は運が良いんだ」
「……へ? エンブリオのスキルとかじゃなくて? たまたま安全マスを選んでいたっていうの?」
「そうだよ。不思議とね、昔からそうなんだ。人生ゲームで危険マスに止まったことが無い。結婚マスとか出産マスは止まれるんだけどね。いやぁ、今回こそはどうかなって思っていたけど、いつもと同じだったか」
いやだ。
いやだいやだいやだ――ここで終わりたくない!
「この世の終わりみたいな顔をしているね。……分かった! 僕の幸運力は分かってくれただろうし、君にもチャンスをあげよう」
「チャンス?」
「僕は君を見逃すよ。元々君と戦うつもりでここに来たわけじゃなかったしね。君を見逃すという幸運。これを君にあげる」
「え、あ、ありがとう……?」
その代わり、と男は続ける。
「幸運と不運は釣り合うものだ。もしかしたら君にとっての不幸がやってくるかもしれない。仲間がいるのなら合流した方がいいかもしれないよ」
「わ、分かった! 多分まだ生き残っているクランメンバーもいることだしすぐに合流する。うん、あなたに敗れたことだし私は二日目は裏方に徹するよ」
「そうだね、それがいい」
うんうんと男は頷く。
そして、再び船に乗ると、どこかへと去っていった。
何をしたかったのか、結局分からなかった。
名は……何だったか。
不思議と、凡庸な人間に見えた。
さて、仲間か。
クランメンバーはどこに散っていたかな。
探して合流してそれから――
「――なぁんてね! 今みたいな攻略法が出来るのなんて他にいるわけがないし! 良い機会だから狩場を移してまだまだ雑魚狩りに勤しむとするよ!」
全マス安全だなんてもう二度と起こらないだろう。
あの男にもう会わなければ、攻略なんてもうされない。
そうと決まれば警戒しながら場所を移すとしよう。
「……ん? まだ歩いてる人がいる」
また1人か。
けっこうMP使うんだけどな……仕方ない。
「《賽は選択の度、幾度も投げられた》」
巨大な箱が出現していく。
私を内部へと格納し、男が近づくのを待つ。
しばらくすると男は無防備にぺたぺたと箱を触り、正体を探り始めた。
「それじゃ、ゲームスタート!」
◇◆
「ルールは以上! 理解できたかな?」
『大体は。だけど俺の能力っていうのか? それがエンブリオの能力とはどうみても違うんだが』
うん?
今回の参加者に与えられた能力は肉体の鋼鉄化。
物理的なダメージをカットするけっこう当たりの部類の能力。
実はこれだけで2割近くの危険マスを回避出来たりする。
「あー、エンブリオがこっちの規格に一切合致しなかった感じかぁ。それだとエンブリオも使えちゃうんだよねぇ」
まあ攻撃的な能力は剣とかの能力に変えられるし、こっちにそこまで危険はないかな?
多分、そんなに使えない能力で、この人生ゲームの役に立たないようなものなんだろうし。
『エンブリオのストックもフルになっているが』
「そういう仕様みたい。使えるなら使ってみたら?」
ちなみにこの人生ゲーム内ではHPやMP、ゲージの類は満タンの状態となる。
闘技場内と似たようなシステムになっているようだ。
「まあそこまで影響はないでしょ。クリアントだっけ? そのまま進めていいよ」
男は――クリアントは黙ってサイコロを振る。
出目は1。
マスは……マグマの雨か。
鋼鉄化も虚しく、クリアントの肉体はマグマによって溶かされる。
完全なる死亡。はい、ゲームオーバーです。
クリアントは悲鳴をあげることなく死に――
『死んだら最初からなのか』
スタート地点に立っていた。
「――は?」
『クリアするまでは出られないってことか』
「いやそういうゲームじゃないから! 人生ゲームだから! 一度しか出来ないから!」
何で?
何で何で何で?
『ん? 能力が新しく追加されているな。剣の威力アップ……と剣をくれるのか』
ワッツ?
今なんて?
追加?
「ちょ、ちょっと待って!? 何でさ! 何で死んでないの!?」
『いや死んだだろ。だからスタート地点に戻ってきたんだが』
「違う! 死んだらそこでお終いなの! やり直しとかじゃなくて、そのまま本当の肉体も死ぬ仕様なの!」
『……? ああ。俺のエンブリオの能力だ。死んだら新しい肉体になる。でもお前の必殺スキルの内側にいるからスタート地点にいるってことか』
「……ッ!?」
待って。
そんな人いままで一人もいなかった。
というか、何?
その感じだと、その余裕ぶりからだと、まだ生き返れる?
『次は2か』
2マス目に止まるとクリアントは水に包まれ、溺れ死んだ。
「これで――」
『お、今度は対応した能力みたいだな。無呼吸活動可能だとさ』
「……」
確実に死んでいく。
その度に新たな能力を得ていく。
そうして9度目の死亡の後、全ての能力を手にしたクリアントは、
「待って待って待って待って――」
『ゴールだ』
ゴールへと辿り着いてしまった。
「あ……」
必殺スキルが解除されていく。
「ん? フラッグもあったのか。運が良かった」
クリアントがフラッグを軽く蹴飛ばすと、容易くへし折れる。
それが自分の首のようにみえてならなかった。
「……あの」
「ん? どうした」
戦いの最中とは思えないほど、緊張感の無い返事に私は一縷の望みに賭ける。
「み、見逃してくれる? ほら、私ってばこの人生ゲームという名のデスゲームに囚われてたお姫様みたいな役割でさ。景品は私ってわけにはいかないけど、こうして美少女である私の姿を拝めたわけだし」
「……」
「あ、もしかしてフレンド登録とかしておきたい? うーん、そうだな……普段はそんなファンサしないんだけどどうしてもって言うなら今回だけはしてあげてもいいかな。うん、そうしよう。お友達になろうよ! それでさ、友達だからってわけじゃないんだけど――」
「別にフレンド登録をするのは構わないが」
クリアントは武器を構えた。
「戦いの最中だぞ?」
「はひ……」
こうして私の二日目は不幸にも閉じたのであった。