URAファイナルズを優勝した四年目のナイスネイチャさん。
入学生向けの広報用VTRを撮影するのでスピーチをしてほしいと頼まれる。
そんなある日の光景。

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ネイチャさんが嬉しそうにしているだけのお話

 

 

●REC

 

「なに撮ってんの? トレーナーさん」

 

 ナイスネイチャが首をかしげて、こちらを見つめてくる。彼女はトレセン学園指定の赤いトレーニングウェアに身を包んでいて、タオルで額の汗を拭っている。

 

 ナイスネイチャはトレーニングコース横の休憩用のベンチの前に立っている。そんな彼女の背後では、併走トレーニング中のほかのウマ娘たちが髪としっぽをなびかせ、内ラチ沿いをあっという間に駆け抜けてゆく。

 

 そんないつも通りの平日の午後のことだった。

 

 天気は快晴、秋の青空。

 飛行機雲がしゅるしゅると空にウェーキを描く。ターボファンエンジンの轟音が遠ざかってゆく。

 

 コースの刈り揃えられた芝を凪ぐように柔らかい風が吹いた。ナイスネイチャのツインテールがふわりとカーテンのように持ち上げられる。木々が梢を揺らした。

 

 合同トレーニングの走り込みをしているウマ娘たちの楽しげな掛け声がどこからともなく聴こえてくる。

 

 ふぁいおー、ふぁいおー、ふぁいおー……。

 芝の敷き詰められた地面を叩く、くぐもった蹄鉄の音。

 

●REC

 

「おーい? トレーナーさんやーい」

 

 ナイスネイチャの戸惑うような表情がファインダーのなかに写り込む。近付いてきて、ひらひらと手を振った。

 彼女の視界には、四年目の付き合いとなった担当トレーナーの姿が映っている。この先もずっといっしょにいれたらな、とひそかに願っている最高のパートナーだ。

 

 ナイスネイチャからそれほどまでに慕われている彼――トレーナーはカメラを構えたまま、言った。

 

「ああ、秋川理事長からな。トレセン学園に入学してくるウマ娘を対象とした広報VTRを作るから協力してほしい、って頼まれてな」

 

 ナイスネイチャはあごに指先を当てて、目を細める。

「ほうほう……って」

 ぱっ、と手を広げて眉を潜める。

 

「……なんでアタシなんかを撮影するのさー。それなら、もっときらきらした娘たちがいるじゃん」

 

 ――トレーナーはカメラを降ろす。

 

 ナイスネイチャの目をじっと見つめると、

「ネイチャが一番きらきらしているから」

 顔色も変えず、しれっと告げた。

 

「うぇっ!? ……きらきらってアタシが?」

「うん」

 

 ナイスネイチャはぽりぽりと頬をかいた。

「……はー。アンタって人は、どーして。真顔でそんなこと言うんだか」

 

「本当のことだよ。ネイチャは有記念だって勝ったし、URAファイナルズも優勝したじゃないか。もう誰が見ても、立派なきらきらスターウマ娘だ」

 

「……そうなの……かな?」

「もちろん! 自信を持っていい!」

 

 戸惑いがちなナイスネイチャにトレーナーは胸を張る。

 

 G1ウマ娘という実績を積み上げたのだから、もっと自信たっぷりに振る舞っても良さそうなものなのに、どこか遠慮がちなのがナイスネイチャという少女だった。人の本質は変わらない、ということなのかもしれない。

 なにかと周りの大人たちに遠慮して自分の要求を我慢していた幼年期を送ってきた影響もあるのだろう。堂々と自己主張することを恐れている節もある――。

 

「そ、そーお? ……う、うん。トレーナーさんがそこまで言ってくれるのなら……調子、乗っちゃおうかな?」

 

 ――とはいえ、ナイスネイチャも最近はちゃんと自分というものを出せるようになってきていた。成長の証だ。自信がついてきているのは良い傾向だと言っていいだろう。

 

「そうそう。というわけで……」

 

 トレーナーは再び、カメラを構える。

 

「これからトレセン学園に入ってくるだろう新入生たちに向けてスピーチを頼む」

 

 ナイスネイチャが困惑したように髪の毛の先をいじる。

 

「えー? アタシがスピーチ? や、マックイーンとかだったら完璧な在校生代表挨拶みたいなものもできちゃうんだろうけど……アタシには出来そうもないし。……トレーナーさんはどう思う? どんなふうにスピーチしたらいいのかな?」

 

「自然体のネイチャが一番」

 と、トレーナーは答えた。

 

「ナチュラルなネイチャさんで大丈夫なんかねー」

 

「あとから編集もするし、細かいことは気にしないで」

 

「そうなんだ。わかった」

 

 ナイスネイチャは身だしなみを手早くチェックしたあと、姿勢を正して、カメラのほうをじっと見つめてくる。

 

「ん。準備おっけー。いつでもいけるよ」

「よし、撮るぞ。3……2……1……」

 

 

●REC

 

 

「新入生の皆さん、トレセン学園へのご入学おめでとうございます。……えっと、何を言ったらいいのかな」

 

「心構えなんてどうかな」

 

「心構えかあ。そんなに大層なこと言えないんだけど……」

 

「アドバイスみたいなものでもいいんだ」

 

「うーん。……アドバイスか。じゃあ……。あ、ここら辺はカットしておいてね」

 

「もちろん」

 

 ナイスネイチャは目をつぶって深呼吸をする。やや、間があって――再度、カメラ越しの『誰か』に視線を合わせた。ゆっくりと語りかけ始める。

 

「いま、入学するあなたはどんな気持ちを胸にこの映像を見ているのかな。未来への希望に満ちている? 自分は栄光を掴めるはず? 勝利をこの手に? ……うん。そうだよね。最初から負けるつもりでトレセン学園に入ろうだなんて思うはずがないよね」

 

「でもね……。余計なお節介かもしれないし、入学してくるみんなはわかっているのかもしれないけれど、ひとつだけアタシからアドバイスさせてもらってもいいかな?」

 

「トレセン学園ってさ。凄い子たちが集まってくるところなんだ。……だからさ、自分の力が全然、通用しなくて、ショックを受けちゃうことがあると思う。アタシもそうだったから」

 

「きらきらの主人公になれるって信じてさ。入学してみたら全然、自分よりも凄い子だらけで。その子たちと比べてアタシなんかどうせって、思ってた」

 

「一着になりたいのに、そんな自分に嘘をついて。アタシは良いとこ止まり、ほどほどでいいんだよって。いま思えば、自分のことしか見えてなかったなって。ちっぽけなプライドが傷付くのが怖かったんだ。努力しても勝てない、そんな現実に打ちのめされていたんだ」

 

「でもね。それじゃあ、やっぱり駄目なんだ。負けるから駄目なんじゃなくてさ、いや、勝つに越したことはないけど。……そうじゃなくて、勝ちたいって気持ち、悔しいって気持ち、そして――夢を叶えたいって気持ち。それを誤魔化したら、自分に自信を持てなくなっちゃって、きっと、いつか心がぽっきり折れちゃうと思う」

 

「現実って苦しいんだ。すごく。叫び出したくなるくらい。……トレセン学園って、そういうところなんだ」

 

 ナイスネイチャはそこで自分の胸に手を当てた。うつむいた。指先がゆっくりと握り締められてゆく。目を閉じた。数秒の沈黙。

 再び、まぶたが開かれる。灰色の瞳がゆれる情念の炎を灯していた。少女は、諦めや絶望を幾度となく跳ね返してきた者特有の強い眼をしている。

 

「だけど……それでも走り続けたいって思える。それはきっと、アタシのなかに夢があったから。きらきらの一番星になりたいっていう夢が」

 

「これから入学してくるあなたもきっと夢を持っているんだよね? だったらさ」

 

「その熱い気持ちを失くしちゃだめだよ。……もしかしたら夢は叶わないかもしれない。途中で夢は変わっちゃうかもしれない。でも、それでもいいんだ。胸の奥にその熱を灯し続けるかぎり、きっと、何度だって立ち上がれるよ。そして、努力の先になにかを掴み取ることができる。……少なくともアタシはそう信じてる」

 

「もちろん辛くなることは何度だってあると思う。自分のことが信じられなくなっちゃうこともあるかもしれない。その時はさ……」

 

「あなたと共に走る仲間や、トレーナーさんに相談してみて。どうしようもなくなったら助けてって頼ってもいいんだよ。きっと、いっしょに悩んでくれると思う。……もし、悩みを話せるような相手がいなくて困っていたら、アタシでよかったら相談に乗るからさ。解決するかどうかはわかんないし、メンタルケアはあんまりネイチャさん得意じゃないかもだけれど……」

 

「あらためて、トレセン学園への入学おめでとう。……夢、叶えられるように頑張ろうね」

 ナイスネイチャはほんのりと暖かな笑みを花開かせた。

 

 ――スピーチの終わりの気配を察して、カメラを止めた。トレーナーがひょっこりと顔を覗かせて、悪戯っぽく笑う。

 

「うん。良かったぞ、ネイチャ。でも……そこは頑張ろうぜ、じゃないんだ?」

 

「いやいや、何をおっしゃいますかトレーナーさん。アタシそんなキャラじゃないでしょーが」

 

 ナイスネイチャがひらひらと手を振った。トレーナーは首をかしげながら、ぼやく。

 

「……たしかにネイチャはそんなこと言わないな」

 

「ね。そうでしょ。アタシもなんか言ったような気がしなくもないけど、やっぱりそんなこと言ってないし」

 

 ナイスネイチャが不安そうに目を細めた。口元に指先を持ってくる。

 

「……ところで、入学案内ってこんな感じでよかったの? もうちょっと前向きなメッセージのほうがよかった? 頑張れば夢は叶~う! とか。トレセン学園で切磋琢磨しましょ~! ……とかさー?」

 と、ナイスネイチャは話しながら、合間合間に人差し指を天に向けて、そのあと握りこぶしを作ってガッツポーズをしてみせた。最後はコメくいてーのポーズだ。

 

 トレーナーは首を横に振った。微笑む。

 

「いや、ネイチャらしくて素晴らしかったよ。むしろ、これがいい」

 

「そうなんだ?」

 

「ネイチャも知っていると思うけど、入学しても夢が叶わずに涙を流す子はたくさんいる。だけど、たとえ夢が破れてもそこで終わりじゃなくて、熱い気持ちがあれば、何度だって立ち上がれるっていうのは俺も常々思っていたことなんだ。……だからさ。ネイチャがそれを言ってくれるだけで救われる子はきっといるはずだ」

 

「へ、へー。希望の星になれたよーでなによりで……」

 

 と、ナイスネイチャは照れたように頬をかく。

 

「さて、あとは練習風景なんかも撮影したいな。ネイチャ、すまないけど軽く走ってもらえるか」

 

「ん。わかった。いいよ」

 

 

 そのあと、練習風景を撮影していたら、ナイスネイチャと仲が良い友人であるマヤノトップガンとマーベラスサンデーが飛び入り参加してきた。急きょ併せトレーニングをすることになり、結果として、ずいぶんと迫力のある映像が撮れた。菊花賞ウマ娘と大阪杯ウマ娘とグランプリウマ娘という豪華なメンバーだ。

 良いPR映像になりそうだ、とトレーナーは思った。

 

 

「ふぃー。あの二人相手の併走きっついわー」

 

 マヤノトップガンとマーベラスサンデー相手に一歩も遅れることなく併走トレーニングを終えたナイスネイチャがコース横のベンチに戻ってくる。

 

 ナイスネイチャはベンチに置いていたスポーツドリンクのボトルを手に取ると、そのフタを開けた。

 ひと足早く、コースから立ち去ろうとしているマヤノトップガンとマーベラスサンデーが、こちらに向けて手を振ってくる。元気いっぱいな声が飛んできた。

 

「ネイチャちゃん、ありがとー! また走ろーねー!」

「マーベラスなトレーニングだったねー☆」

 

 ナイスネイチャは喉を潤しながら、しっぽと髪をなびかせ遠ざかってゆく二人の友人に手を振り返す。

 そんなナイスネイチャの後ろから、カメラを包むように手元に収めたトレーナーが近付いてきた。朗らかに笑う。

 

「お疲れ様」

「トレーナーさんもお疲れー。良い映像は撮れた?」

「ばっちり。見る?」

「うん」

 

 トレーナーはカメラの映像を再生する。ナイスネイチャが彼の隣にやってきて、カメラのモニターを覗き込む。そこには併走する三人の姿が写っていた。

 

「……おー。マヤノもマーベラスもきらきらしてるねー。隣を走るアタシのモブ感よ」

 

「そうか? ネイチャも目立っているけど。可愛いぞ」

 

「……か、かわっ!? いやいや! 何をおっしゃいますやら……アタシが、その……可愛いとか」

 

「ネイチャは可愛いぞ?」

 

「……トレーナーさん。もしかして、からかってる?」

 

「なにが?」

 

「……はー。トレーナーさんはさー……。いっつも真顔で不意打ちしてくるよねー。……でも、そっか……可愛い……アタシが可愛い……? 可愛いって思ってくれてるんだ……」

 

 ナイスネイチャはもふもふツインテールで熱を持った頬を隠しながら、ごにょごにょと口を動かしたあと、

「……へへっ」

 へにゃり、と嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

 コースの柵の向こう側では、合同トレーニング中のウマ娘たちがランニングをしている。シューズ裏に打ち付けられた蹄鉄で地面を叩く音と、女の子たちの掛け声が近付いてくる。

 

 すいーつ、すいーつ、すいーつ、すいーつ……。

 

 んー? なんか甘ったるい匂いしないー?

 口のなかがジャリジャリするー!

 ラブコメの味かなー!

 いいねー! ラブコメくいてー! 出会いほしー!

 あはは! なにそれ、変なのー!

 

 すいーつ、すいーつ、すいーつ、すいーつ……。

 

 そして、姦しくぺちゃくちゃとお喋りをしながら、練習コースの第2コーナーへと走り去っていった。

 

 

 閑話休題。

 

 

 門限の厳しい全寮制の女子校としての側面もあるトレセン学園では、意外と出会いもなく、恋愛話も少ない。ウマ娘たちも思春期の女の子である。恋バナに興味がないわけではないのだけれど、それよりも学業とトレーニングの両立で忙しくて、そちらに時間を割く余裕がない娘も多い。

 

 恋愛にかまけているうちにレースに負けたらどうしよう、というウマ娘特有の心理もあるかもしれない。ウマ娘が競走能力のピークを発揮できる『本格化』の時期はそれほど長くはないのだから。

 

 もっとも、トレーナーちゃん好き好きデートしよ、とか言っているどこかの天才ウマ娘とか、ウマスタグラムのフォロワー300万人のカリスマウマ娘とか、例外はちらほらいるのだけれど――。

 

 それにトゥインクルシリーズに出るようなウマ娘には別の問題もつきまとう。

 

 いわゆる日本の『中央』のレースというのは世界的に見ても賞金額が極めて高く、勝ち進んでゆけば、年頃の少女が手にするにしては分不相応な金銭を獲得することもあり得る。

 さらにトップクラスのウマ娘ともなれば、億を越えることすら珍しくない。逆に未勝利クラスも脱出できないウマ娘は学費を払うのも一苦労で貧困に喘いでいたりもするが……。

 

 つまり、お金目当てで近付いてきて、何も知らない年頃の少女を騙そうとする悪人もいない話ではないのだ。

 

 ゆえに恋愛に関しては禁止こそはしていないが、相手選びは人生を棒に振らないよう慎重に行うべし! と入学案内時の冊子にも注意書きがされている。なんでわざわざ注意書きされているのかといえば、ひょっとすると過去に恋愛絡みで不幸になったウマ娘がいるのかもしれない――。

 

 トレーナーとウマ娘が揃って休日に出かける行為が黙認されているのは、そういった事態を予防するためでもある――なんて噂もささやかれているぐらいだ。

 

「今日はネイチャもよく頑張ったからな。なにかご褒美をあげたほうがいいかな? 商店街で食べたいものとかあるか? なんでも奢るぞ」

「おー。トレーナーさん、太っ腹だねー。んー、じゃあ、焼き鳥屋さんのつくね食べたい」

「ああ、あの店のつくねか。美味しいよな、あの店主さんの作る焼き鳥」

 

 ちなみに、担当してくれたトレーナーとの結婚がじつはウマ娘にとっても幸せなのではないか、などという説もある。

 中央のトレーナーというのは高給取りなことに加えて、変人はちらほらいても人格的に破綻している人間は少ない。

 担当ウマ娘が活躍するまえからの付き合いなので、重賞ウマ娘といった肩書きや収得賞金に惹かれて――などという理由で選ぶこともなく、ひとりの女性としての人格をちゃんと見て選んでくれる。思春期の大切な時期を共に駆け抜けた、という思い出も共有している。

 

 そのおかげかどうかはわからないが、担当トレーナーとその愛バが結婚した場合、おしどり夫婦となり、離婚率がきわめて低いというデータもある――らしい。

 一説によるとウマ娘は愛が重いだとか、一途だとか、湿度が高い(?)だとか、色々ささやかれているが真相は定かではない。真実は闇ぴょいなのである。

 

 もちろん、有名になったとしても、素晴らしい結婚相手に出会えないわけじゃない。

 

 でも――。

 

「明日も頑張ろうな、ネイチャ」

「うん」

 

 トレーナーとナイスネイチャが肩を並べて歩き、その場を去ってゆく。ナイスネイチャのイヤーカフを着けたウマ耳がぴょこぴょこ揺れていて、彼女のしっぽもご機嫌そうにゆらゆら振られている。

 

 

 誠実に向き合ってくれて、苦しいときには励ましてくれて、大切な三年間をともに駆け抜けて、栄光の頂点へと二人三脚で登り詰めて、ウィナーズサークルで抱き合って歓喜の涙を流してくれた最愛のパートナーがそこにいるというのならば――。

 

 

「トレーナーさん」

「うん?」

「これからもよろしくね」

「……もちろん!」

 

 

 

 人生のパートナーに選んでみるのも、お互いにとって、悪くはない話なのかもしれない。

 

 

 

 

 後日談――。

 

 

 

 

 ナイスネイチャのメッセージに対する秋川理事長の評価は『上々ッ!! 天晴れッ!!』とのことであり、さっそく入学案内VTRに採用された。

 

 そのURAファイナルズチャンピオンらしからぬ等身大のメッセージは多くのウマ娘たちに感銘と共感を与えたらしく、その年の新入生は心が折れて退学する生徒が例年よりはるかに少なかった――と、のちに判明する。

 

 ナイスネイチャ自身も周りとの能力差に悩む下級生の相談によく応じ、共感してあげて、優しく励まし、コンプレックスに押し潰されそうだった後輩たちの心を次々と救い、彼女たちからとても慕われる未来を引き寄せることになる。

 

 

 

 そして、恩義を抱いた下級生のウマ娘たちが『ナイスネイチャ先輩と担当トレーナーさんの仲を応援し隊』なるファンクラブを結成し――。

 

 

 

 くっつきそーでくっつかない二人を毎日のようにストーキングしては握りこぶしを作り、歯ぎしりしていた。

 

 

 

 今日も今日とて、何人もの下級生たちが両手にカモフラージュ用のブロッコリーみたいな枝木を持って、物陰に隠れている。彼女たちのウマ耳がぴーん、と同じ方向に向けられていた。しっぽもぶんぶん振られている。

 

 視線の先には商店街でデート(?)中のナイスネイチャとその担当トレーナーの姿。

 

 しどろもどろしているナイスネイチャに、どこか遠慮がちなトレーナー。でもよく目は合う。慌てて目をそらす。やっぱり、また合う。距離感はすごく近い。だというのに、手すら繋げない。じつにもどかしい。URAファイナルズ優勝直後よりも三倍(商店街比)はお互いに好きな気持ちが増し増しになっていると見える――。

 

 

 下級生のウマ娘たちは掛かり気味になった。

 

 

 どーしてネイチャ先輩と担当トレーナーさんはくっつかないんですか! どーみても両片思いじゃないですか! がばっ、といけー! がばっとー!

 

 むー! 見ててじれったいですね! あたし、ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!

 

 じゃあ私は商店街の人たちに根回ししてきます! くじ引きの景品をぜんぶ温泉旅行券に入れ替えるよう頼んできますから!

 

 ならこっちはマムシドリンクを仕入れてきますね! 33本もあればいいですかね!

 

 安心してください! ネイチャ先輩! 苦しいときに助けてもらったご恩には必ずや報いてみせます! そう! 私たちは! いえ! 私たちこそが!

 

 

 

 

 商 店 街 で す っ !!!!!!

 

 

 

 

 意味不明だけど真夏の太陽のように暑苦しいパッションをほとばしらせる下級生のウマ娘たち――いや、商店街(?)――によって、凄まじい勢いでナイスネイチャとトレーナーの外堀が埋められてゆく未来があったとか、なかったとか――。

 

 

 卒業後、ナイスネイチャとトレーナーが無事入籍した――かどうかはご想像にお任せするとして。

 

 

 こーして、みんな幸せになりましたとさ。おしまい。

 うまうま、ぴょいぴょい。あんしん、あんし~ん。

 

 

 

 


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