夏休みの宿題から始まる思い出、それは少年少女にどのような感情をもたらすのか___。

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夏の宿題から生まれる、思い出の1ページ

 

 夏休み。

 それは今を生きる若い者たちに与えられる至福のひと時。

 

 その期間は短くて1、2週間という指定もあれば長くて1ヶ月という所だろう。一般的な大学では2ヶ月程夏休みが存在するらしい。

 そんな天国のような時間で若人たちは自由な時間を思い思いに過ごす。海や山、プールにキャンプ、ショッピングに映画館…………。

 そんな夢に満ち溢れた……強いていうなら楽園に来たような気分になれる。それが夏休み。

 

 

 

 

 だがしかし、ただ1つ…………忘れてはいけない物もある。

 

 

 

 

 

 そう、『夏休みの宿題』だ。

 これを疎かにし、前半から遊び呆けると8月になってから……また、お盆を開けてから地獄を見ることになる。 何しろ夏休みで計画的にやれば上手く片付く物を後から処理するのだ。当然と言えば当然…………言ってしまえば因果応報だろう。

 

 

 さて、そんな話をしたが実際にその困難に直面しつつある青年がいた……。

 

 

「…………暑い……」

 

 汗をかきながら自転車を漕ぎ、5分毎にその言葉を漏らす青年『早見詩音』は現在図書館へと向かっていた。理由は単純明快で自室での唯一の暑さを凌ぐための器具である扇風機が壊れ、とても家で宿題に集中出来る状況では無くなったからだ。そこで、この辺りで冷房が聞いていて勉強に集中出来る施設といえば…………そう、図書館しかあるまい。

 

 と、意気込み自転車に跨り外に出たのは良いのだが…………

 

 

 

 彼は忘れていた。

 本気を出した日本の夏はヤバいということを。

 

 

 

 最初の3分程はまだ良かった。しかし、その後からが本当の地獄だった。

 の家から駅前の図書館までは自転車を使っても15分はかかる。たかが15分、しかし夏の外出ではされど15分。その時間でいつ熱中症にかかってもおかしくは無い。

 

「と……とりあえずコンビニでなにか飲み物買おう……」

 

 近くに見えた緑と白が目立つコンビニエンスストアに自転車を起き、ハンカチで汗を拭くとそのまま自動ドアを通った。

 

 暑い気温で火照った体を落ち着かせるには丁度いいかな……と思っていた詩音だが……

 

「寒っ……!」

 

 そう、コンビニ内は冷房をこれでもかというほど効かせていた為、彼の体がこの温度差に驚いてしまったのだ。これこそ夏場ではよくある話である。読者の皆様も人生で何度か経験したことがあるのでは無かろうか。

 

「いらっしゃいま…………」

 

 そして店員の声も聞こえてきたのだが、その声は突然途切れてしまった。

 それもそのはず、この声は詩音も聞き覚えがあった。

 

「野澤? こんな所で何して…………もしかしてバイト?」

 

 彼女の名前は『野澤玲奈』。学校でのクラスメイトで席も隣同士な為会話もする事も少なくは無かった。

 

「詩音くんか……まさかこんな所で会うことになるとは……」

「なんか不味かった?」

「いや、別に不味いってことは無いけど……」

 

 どことなく歯切れの悪い玲奈に詩音は首を傾げるが、当初の目的を思い出し、飲み物売り場へと向かった。とりあえずスポーツドリンクと麦茶を1本ずつカゴに入れて再び玲奈のいるレジに向かった。

 

「で、なんで私のところに来るの……」

「いや、今レジに野澤さんしかいないし……」

「そういえばそうだった……」

 

 ハァ……と溜息をつきながらも慣れた手際で2点の商品のバーコードを読み取った。レジの電子表示板に映し出された値段を見て詩音も財布を取り出していた。

 

「ねえ……これからどこか行くの?」

 

 そんな中、玲奈は詩音に聞いた。

 

「え? ……いや、ちょっと宿題やりに図書館に」

「宿題かぁ……。……結構残ってるの?」

「うーん……数学と英語に古文の課題がまだ……」

「うっわ、主要科目ばっかり。…………そういや前から詩音くん、苦手だって言ってたもんね……」

「じゃあ野澤さんは終わったの?」

「……まあ、生物と歴史以外は」

 

 玲奈がそう答えると詩音は「すげぇなぁ……」と呟いた。

 玲奈は勉学の成績はそれなりに優秀で、生物と歴史が苦手という弱点はあるものの、テストではいつも平均点を上回る成績をたたき出している。

 

「……あのさ、詩音くんって来週の日曜日って予定あるの?」

 

 詩音が頭を抱えている中、玲奈は突然その質問をした。

 

「来週の日曜日……特に何も」

 

 そう返答すると「そっか〜」と上辺を見ながら玲奈は呟いた。

 そして少し考えるような時間が流れた後、彼女は再び口を開いた。

 

「じゃあ、1つ提案があるんだけどさ…………乗ってみない?」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 その後、詩音はお会計を済ませてコンビニを後にし、図書館へと直行した。

 

 先程持ちかけられた提案に少し考えたのだが、後のことを考えると今のうちに少しでも宿題を片付ける事の方が優先されるとの結論により、詩音はその誘いに乗った。

 そして、玲奈からは「後10分でバイト終わるから先に図書館で待ってて」と言われ、彼は向かいあわせで2人座れそうな席に腰掛けていた。

 

 とりあえず、彼女が来るまでできるところだけでもやってしまおう。

 そう思い、持ってきた問題集とノートを開き宿題に取り掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 そして3分後、早速詩音は行き詰まっていた。

 開いた科目は英語。彼が苦手とする科目の1つである。

 その問題集には約60行に渡り、様々な文法や英単語を詰め込まれた英文が綴られていた。

 最初は1つ1つの単語や文法を調べて和訳する事に徹していたが、その気力も3分で消え去った。その気力の持ち具合は正しく某光の巨人の地球での活動可能時間と同じである。

 そしてこの瞬間、彼は確信した。

 

 

 これは今回もダメそうだ……と。

 

 

「で、なんで私が来る前にへばってるの?」

 

 と、気がつけば玲奈が彼の席の向かいに立っていた。

 服装も先程のコンビニの制服から白いノースリーブに青色の丈の短いプリーツスカートと女子高生の私服という感じの物に変わっていた。

 

「あーいや、なんか考えてたら逆にやる気が削がれたというかなんというか」

「全く、君の宿題が全く進まないのってそれが理由じゃないの?」

 

 面目ない、と罰が悪そうに詩音は頭をかいた。

 そんな様子を見て思わず溜息をつきそうになった玲奈はそれを堪えて、詩音の向かいの席に腰をかけた。

 

「よし、それじゃあ早速始めるよ。私が君の分からないところ教えてあげるから、君も私に生物と歴史、教えてよね」

「わかった」

 

 こうして、2人の夏休みの宿題の大掃除が開始された。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 それから時は過ぎ、時刻は17時。図書館から閉館のアナウンスが流れ、2人の宿題はまだちょっと残っているものの、規則には守らなければならない。2人は参考書等を片付け、そのまま図書館を出た。

 外に出ると蝉の鳴く声が聞こえ、夕陽もまだ登りきってはいなかった。夏は昼の時間が長く、夜が短いと言われてる影響だろう。

 

「はぁ……結局お互い終わらなかったね……」

 

 今回の結果に思わず玲奈は溜息を着いた。

 

「でも、玲奈のおかげでこれまでよりも大分終わったよ」

「大分終わったってより、君の宿題が殆ど終わって無かったからでしょ」

「……そっすね」

 

 痛いところをつかれてしまった詩音は思わず苦笑いをした。そんな彼を呆れたように玲奈は流し目で見た。

 

「で、でも後は玲奈が教えてくれた所を見直せばなるとかなりそうかも」

「そっか、それは良かったよ」

「にしても玲奈、ホントに生物と歴史苦手だったの? なんか教えたらすぐにほとんどの問題解けるようになってたけど……」

「私は飲み込みが早いのよ」

 

 そう呟き、玲奈は空を見た。

 空はまだ青色が広がっていたが、徐々に夕陽ものようなオレンジ色へと変化しつつあった。

 

「…………ねえ詩音くん」

「ん?」

「詩音くんは泳げる?」

 

 突然の質問に詩音は「え?」と声を上げそうになるが、その言葉を飲み込んだ。

 

「うん、多少は」

 

 その代わりに彼は先程の質問に対する返答を口にした。それを聞いた玲奈は「そっか」と呟くと鞄からあるものを取り出した。

 

 

 

 それは、最近話題になってる水上テーマパークのチケットだった。大きめのプールやウォータースライダーや水上アスレチックといったアトラクションも完備されている……いわば水の遊園地といった所か。

 

「これどうしたの?」

「お父さんが会社で貰ってきたんだけど……」

「……もしかして、あの時の提案ってこれの事?」

 

 コンビニで詩音が玲奈から受けた提案、それは『宿題を教える代わりに今度の日曜日、自分に詩音の時間を貰う』という事だった。

 

「うん……。他に誘える人もいないし、1番中が良い友達かなって……」

「良いけど……それ本当に俺でいいの?」

「……うん」

「わかった。付き合うよ」

 

 そう言って、詩音は玲奈からチケットの1枚を受け取った。

 次の瞬間、「水着、買いに行かないとなぁ……」と2人の思考か重なったのだが両者共にその事は気付くよしも無いだろう。

 

「じゃあそれまでに宿題、ちゃんと終わらせてね! 何か分からなかったら私に連絡頂戴ね!」

「ハイハイ……って、ちょっと待って」

「どうしたの?」

「俺、玲奈の連絡先知らないんだけど」

 

 詩音がそう言うとそういえばそうだった、と玲奈は頭を抱えた。

 

「じゃあ今の内に交換しよ」

「え? ……あ、うん」

 

 気がつけば空はすっかりオレンジ色へと変わっていた。

 夏の残り少ない日々の1日が終わってゆく、そんな中で少女は新しい思い出を重ねて行くことに喜びを感じながらも、その時間が終わりゆく寂しさの板挟みになり、少年は少女に振り回されながらもその関係が何処と無く心地よく感じていた。

 

 

 2人がこれからどのような思い出、そして関係を気付きあげていくのか。

 この時、その答えはまだ誰も知らない。

 

 

 





ご閲覧、ありがとうございました。

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