【完結】【自己ベスト記録】過ぎ去りし時を求めてSS~聖竜の勇者ルートRTA:24時間31分44秒22 https://syosetu.org/novel/238767/ の三次創作です。
蛇足の上にバッドエンドなのでチラシの裏にあります。

ハッピーエンドを迎えた勇者アイ。そこにたどり着いたのはまさしく奇跡と言ってもいい。数多の勇者はそこにたどり着くことなく朽ち果てたのだから。

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うたかたのむこうの

 すべてはうたかたのゆめのむこう。

 

 両想いの愛、その奇跡のような末路。勇者に召し上げられた少年を貶め、天に君臨する大樹を堕とし、世界そのものを「剪定」したその先。

 それは緩やかな滅びへと向かう透明な時代。ただのアイと、アイが過ぎ去りし時を求めてまで護りたかった愛しい人々と穏やかに過ごす日々。

 

 あいする神の目はもはやない。それすなわち、ある種の守護……絶対の摂理がないということ。しばらくはそれでも世界は存続しようが、もう「次」はないだろう。

 世界を滅ぼす巨悪の出現も、それを阻止する光の子の誕生もないということだ。

 

 だから、本来歴史に残らないような小さな悪に世界は滅ぼされるかもしれなかったし、なんということもない凡人の気まぐれで滅びゆく世界が救われるかもしれなかった。

 もはや観測者なき、切り離された世界なら。奇跡なき、勇者なき世界なら。

 

 必然だけが支配している。当たり前の残酷さが蔓延っている。

 

 それでも。人は生きるし、変わらず愛は紡がれるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな、勇者アイ一行がようやく掴み取ったハッピーエンドを迎えたその裏側で。幾多もの「勇者」は生き残れず、数多の世界が滅びゆく。

 

 そう、あんな展開は奇跡だった。両想う愛の結果は彼らにとってほぼ唯一の勝ち筋だったのだ。

 

 「聖竜の勇者ルート」を「プレイし、クリアした」人間はほかにもいただろうし、あの走者だって一度目のプレイでもクリアでもなかった。しかしながら、たいていの場合はゲームクリアの裏側であのような大団円を迎えてはいない。

 

 例えば途中でプレイヤーが飽きてしまい、それ以上先には進めなくなってしまった場合。

 あるいは、単純にクリアに時間をかけすぎてしまった場合さえも。

 

 「勇者」の少年は無事ではすまされない。

 

 あの闇のチカラを手にし蝕まれた勇者アイは、あれでも稀有な最善手を歩んでいた。それも、これ以上のない最善手だ。なぜなら通(・)常(・)プ(・)レ(・)イ(・)では、「勇者」は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いともあっけなく散っていく。その世界の枝はすでに枯れ、無惨にも打ち捨てられる。彼らを愛する神の目をおのれらの意思で閉ざしたのではなく、神の方から見るのをやめてしまった世界。

 二度とロードされることもない、冒険の書のセーブデータすらない、すでに「再走」された、なんの記録にもならない世界の末路。

 

「どうして、どうして、僕は……僕はもう動けないの」

「いいのよ、いいの。自分を責めないで。そこにいてくれるだけでいいの。生きていてくれて嬉しいの」

 

 震える姉の声は届かず。

 

「誰、誰が僕の横にいるの。僕、何も見えないよ、どうして? 何も聞こえない。こんなに元気なのに! どうして? ねえ!」

「あぁ怪我はないさ。痛くないならいい。苦しくないならもっといい。それだけが救いってやつかよ……」

 

 相棒はただただ嘆き。

 

「みんなはどこにいるの、ここが時間の狭間なの? 僕がみんなを置いてきたから、バチが当たったの? ねぇ! じゃあ止めてくれたみんなにどう顔向けしたらいいの! これなら、死んだ方がマシだ! ベロニカ! ロウじいちゃん! 母さん! テオじいちゃん!! ねぇ、僕を迎えに来て!」

「わしはここにおるよ……のう、もう一度こちらを見ておくれ」

 

 死を願う孫に絶望する祖父がいて。

 

「また僕は失敗したんだ! 僕が弱かったから……だから、ああ……」

「違う、違うわ。いつだってあんたは全力だったもの」

 

 悟り諦めた少女は静かに囁いた。

 

 「勇者」とは「あなた」に操作されるものだ。本来は。

 愛し見守る「神」なき今。ただ目を塞がれ、ただ耳を閉ざされ、ただ体かたく縛りつけられたも同然の彼はもはや普通にだって動けやしない。この場合の仲間たちは世界の摂理から解き放たれているわけではない。だから、愛しい「勇者」を解放できやしない。世界の理は以前のままなのだから。

 世界の理から脱する方こそ、異端なのだから。

 

 それはなんということもなく、ぷちんと軽い音を立てて消し去られた光景。指先ひとつで生み出された不幸。見なかったことにされた不都合な展開。そんな沢山の、おびただしい「ありふれたもの」はこうして打ち捨てられている。

 

 あるいは。

 

 勇者アイと同じように闇のチカラをその身に受け入れ、見事邪神を打ち倒し、賢者セニカの過ぎ去りし時さえ求めさせて。およそ完璧に行動した「勇者」もいた。もちろん魔法使いベロニカや賢者ロウを「以前」のように死なせることなく、イシの村は焼き打たれず、デルカダール防衛戦に勝利し、仲間の大切な人を誰一人失わせることなく、もちろん大樹が魔の手によって落ちることなく。全滅の憂き目にも遭わず、しっかりと「世界のハッピーエンド」を迎えて。

 むしろ勇者アイよりも無茶をせず、仲間も自分も見事に戦い抜かせた、堅実だった「勇者」。

 

 その世界の「勇者」の仲間たちもアイの世界のように手を打った。闇の手を取らなかった将軍ホメロスも手を打った。故郷の家族もまったく同じように彼の無事を祈っていたし、「ハッピーエンドの世界」となんらその行動は変わるものはなかった。

 

 同じように、相棒カミュは勇者の紋章を消し去ろうと画策し、聖賢セーニャは憎悪の炎で諸悪の根源たる大樹を焼き払わんとし、戦姫マルティナは「勇者」の犠牲を肩代わりしようとしたし、将軍ホメロスの聖なる献身は炎に捧げられた。

 同じように、命を救われたことを理解していた魔法使いベロニカは影でセーニャと同じ結論に至っていただろうし、旅芸人シルビアは笑顔にすることができない大切な仲間をどうやったら救えるのかと精一杯「勇者」の暗い噂を打ち消しながら考え込み、「勇者」の祖父であるロウはそれこそ目に入れても痛くない孫が受け続ける受難に大樹の信仰を反転させてその叡智を動員させていたし、英雄グレイグは仲間たちの考案する方法全てをどれだけ手荒であっても自分が矢面に立って必ずや実行させてやると意気込んでいた。

 

 まったく同じ覚悟だった。すべてまったく同じようになされた。しかしただ違っていたのは。

 

 「勇者」たちは、世界を救うのに時間をかけすぎてしまったのだ。

 

 それは「勇者」だった瀕死の少年の体が、賢者セニカの転移魔法に耐えられなかった世界。生き残れなかった「勇者」は膨れ上がった憎悪によって燃え落ちる大樹を墓標にひとり葬られる。

 それは「勇者」が忘れ去られた塔で力尽きた世界。賢者セニカが消えた瞬間にはすでに少年の命の灯火が消えていた世界。全てもう手遅れで、ただその場にいた者たちの悲痛なる嘆きの叫びだけが黄昏の光の中に木霊する。

 それは「勇者」が大樹の生命力を持ってしても蘇生に耐えきれなかった世界。全ての傷を完璧に癒されてもなお、二度とそのまなこが開くことはなく、ただ呼吸するだけの生ける屍に愛した者たちが代わる代わる呼びかけるだけとなった世界。

 

 幾多もの失敗は、ただの舞台裏であった。

 数多の「勇者」の死は、誰にも語られることすらない。

 

 元来冒険譚とはそういうもの。そうだ、成功したからこそ彼は「勇者」であり、成し遂げたから語られる。やり遂げたから「主人公」なのだ。

 使命を成し遂げたとしてもハッピーエンド以外のイフの物語のその後なんて……『世界を救った「勇者」はその後、ひとり深い眠りにつきましたとさ』とただありきたりな一行を付け足すだけでいいのだから。

 

 それはただ少しかけ違えただけ。悲運であった。哀れではあった。それだけである。

 

 そう、すべては、ただのうたかたのむこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なァに、嘆くことはない。

 

 「元勇者」アイは今日も、なんてこともないくだらないことに笑って、愛しい人たちと懸命に生きている。幸せな結末の枝葉だってあるのだから。




まったくもって蛇足です。お粗末さまでした。

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