Q:貞シンマリとは何ぞや?
A:「貞本義行版エヴァの碇シンジと真希波マリがもし平和時空(エヴァとそれにまつわる事象が無い世界線)で出会っていたら」という仮定に仮定を重ねた概念の事を指します。まあ一度読んでみてよ
pixivにも同じものを投稿しているので是非そちらでも読んでみて下さい
外で蝉がけたたましく鳴いている。
エアコンの効きは悪く、額から流れた汗が向かっている机に落ち、紙に染み込んでいく。
母が入れてくれた麦茶のコップに浮かぶ氷がからん、と音を立てた。
天気は昨日の大雨に洗われたせいで一層綺麗に晴れ渡っていて、何を考えても直ぐ霧散してしまう蒸し暑さが僕の部屋を支配していた。
「…………ねえ、シンジくん」
「………………何ですか? 真希波センセ」
「いい加減その真希波センセっての止めない? 何拗ねてんのよ」
「別に拗ねてませんよ。たださっき母さんに向けていた愛想をもうほんの少し僕に向けてくれてもいいのにな、ってだけです」
「…………はぁ……」
僕の家に今年の春から住むことになった人、"真希波マリ"……マリさんは僕の返事にため息だけを返し、閉じていた本を開いて自分の世界に戻っていった。
夏の午後の気怠い湿気がまた部屋を支配していく。
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暑い。
汗はとめどなく出てくるし、背中に至ってはピッタリと張り付いてしまっていて気持ちが悪い。
麦茶を飲んでみても、喉元を過ぎてみればまた暑さがじんわりと内から滲み出てくる。
ここまできたら僕の部屋のエアコン、壊れちゃったのかもしれないな……。
課題がある程度終わり、一息ついたついでに頬を伝う汗を服の袖で拭う。
……マリさんはどうしてるのだろう?
ふと気になった僕は、拭ったついでに横目でちらりとマリさんを観察してみた。
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彼女は母に家庭教師を買って出た後、僕が課題を進めている間、進捗を確認する以外は僕のベッドの上で横になってくつろぎながらずっと持ち込んできた本を読んでいる。
ここから見える限り本の種類は様々だ。
「運動する物体のエーテル電磁気学」とかいう珍妙な名前の本から、
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」という有名な小説、
はたまた「ラプンツェル」のような童話集までその脇に重ねている。
ここからはその顔は見えないが、彼女はこの部屋の暑さにそこまで苦労している様子は見えなかった。
マリさんは長丈のTシャツにデニムショートパンツを履いていて、脚を組みながら太ももを大きく曝け出して本を読んでいる。
Tシャツをその裏から押し上げる大きな双丘は、重力に負けることなく呼吸の度に動いているのが見てとれる。
その他には時折襟を持って、ぱたぱたと服の中に空気を送り込む動作以外にはさして大きな動きが見られない。
…………まあその時にちらちらと現れる腹部の日焼けしていない白い肌とへそに付いている汗の玉とがどうも色っぽく見えてしまって仕方がないんだけどね。
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マリさんは僕の2つ上の女の子でしかないのに、何故か僕よりも何歳も上の大人の女性に見えてしまう。
それもそのはずで、彼女は飛び級で大学に入れる程の卓越した学力の持ち主であり、母さんと知り合ったのもそれが1つの理由なのだという。
初めて会った時は、見るからにはしゃいでいた彼女が僕の顔を視認するなり露骨に「何でガキが居るんだ」と雄弁に語る表情を浮かべたのを見て、「あ、この人とは絶対に仲良く出来ないな」って思ったんだっけな……
今ではお互いがこの家に居ることにも慣れて……慣れ過ぎて色々と
……でもマリさんは時々キスの経験の有無や、言い寄ってくる大学の同級生の話をして何かと僕を煽るような振る舞いをする時がある。
僕も男だし、そういう雰囲気になってしまう時もある訳で……けどマリさんは想定していなかったみたいで、その時は年相応の女の子のような反応をしてくるのだ。
肩を掴んで顔を近づけた時のマリさんの顔はまるで生娘のように顔を真っ赤にしていたのを覚えている。
唇を重ねた後はまるで置物のように大人しくなってしまっていたのを忘れるのは難しいかもしれない。
……その反応を見て、少し気分が落ち着くのか僕は"その先"に進めようとしたことはないのだけれど。
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「……む。何見てんのよ……えっち」
横目で僕が自分を見ている事に気づいたマリさんは、自分の気を抜いた格好を見られた恥ずかしさからか少し頬を赤らめながら、腕で自らの身体を隠すようにしてこちらをジト目で睨んでいる。
「いや、マリさんは暑くないのかなーって。初めての日本の夏だし……」
「……。私は大丈夫、昔連れられた熱帯雨林に比べたらまだマシだし…。というより課題は進んでるの?」
最初に小さく「やっと機嫌直したか」って言っていたのは聞こえない振りをしておこう……脳内にメモだ。
「うん、結構進んだよ。次のテストもこれならいい点数取れるかも」
「ふーん…」
マリさんがキスの経験で煽ってきた時の悪だくみ顔をしている。それやって思った通りの反応返されたことない癖に……。
「な、何……?」
「そんなに自信があるなら、『次のテストでいい点数を取れたら何でも1個だけ言うこと聞いてあげる』ゲーム、してあげよっかなーって」
…………マリさん……頭は凄くいいのにホント何でこんなに勝負事に目が無いんだろうか……。
「いいよ。ホントに何でも言うこと聞いてくれるんだよね?」
「う、うん……。ゲームだし……」
心の中でため息をつきながら、僕は次のテストは本気で満点を取ってやろうと意気込むのであった。
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そして結果発表の日。
マリさんの顔はまるで競馬で賭けた馬が120億溶かした時のような顔をしていた。
「…………さて、マリさん?」
僕の声に反応してピャッみたいな鳴き声をマリさんがあげる。ちょっと可愛い。
「約束、守ってくれるよね?」
「う、うううう……!」
マリさんは今更ゲームの条件に「何でも」と入れた事を後悔しているようであった。
乙女特有の妄想回路が全開なのだろう、顔は真っ赤にして正に「混乱の極み」という文字が今のマリさんには相応しいぐらいの動揺をみせていた。
「な、何でも言えば良いじゃない! 負けは負け……なんだし!!」
ほぼもうやけっぱちになってしまっている。フシャーッ!と威嚇している様はもう猫そのものだった。
「じゃあマリさん……」
フシャーッ!からガルルルルに移行しつつあるマリさんの瞳を見つめながら、僕は要求を口にした。
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「これからは僕を子供扱いしないで欲しいんだ」
ガル? となっているマリさんに少し説明する。
「マリさん、時折僕を子供だと思って色々と煽ってくるよね。……でもね、僕は子供じゃなくて1人の男としてマリさんに見てほしい、と言うか少し意識して欲しいというか……」
マリさんが段々と平静を取り戻し、僕の言葉の意味を理解するにつれてその頬の赤らみをさらに増していった。
「ばばばば、バッカじゃないの!?!? そんなのアンタには10年早いっての!!!」
「でもマリさん何でも言うこと聞いてくれるって言ったじゃん」
「う」
「マリさんは僕よりも"2歳も年上"で"大人"なのに約束守らないんだ?」
「うううううう!」
墓穴にハマりまくっているマリさんは見ているだけで少し楽しい。
そうやって逡巡しているマリさんを眺めていると、やっと決心がついたのか小さな声で「……分かったわよ。やればいいんでしょ、やれば」と呟いていた。
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よし、これで1歩先に進める…………でも進めるって何に……?
自分の中に湧き出たこの感情と思惑の正体に僕が気づくのはもう少し後になるのだが、それはまた別のお話。