「ちな、ちな! 見てこれ!!」
「んー」
一軒家の一室に少女が二人。
片方は住人でもう片方は親友とでも呼べる間がらの少女である。
「星五がでたよーん。10連でなんと三体も! 排出率0.03%って意外と大きな数値なんだね」
「それは0.2%のレアドロを狙って一年半、未だにひとつたりとも出てきてない私への当てつけかな」
「いやいやちがうよ、ちな。私はただ運が悪い君に幸運というものを見せつけてあげようっていいっ!? ひはひ! ほっへひっはらはいへー!」
ちなと呼ばれた少女は散々煽って見せた少女の両頬を全力で引っ張った。
見ると額に薄ら青筋を浮かべている。
要するにご立腹だ。
「お前に運がぶんどられてんじゃないだろうね……なあ
「まさか、そんなわけ…………あっ」
「あ゛ぁ? なにか心当たりでも?」
容疑者の証言を聞くために頬の拘束を緩めたちなは先を促した。
「そういえば最近私がコックリさんをやった時あったでしょ」
「……あーそういえばそんなこともあった気がするね」
「その時さー完遂っていうのかな? それとも儀式を終わらせるっていうのかな? ……終わらせ方ミスっちゃって。その後、数日ちなってば数十分おきに転んでたなーって」
「あ、れ、は、お前のせいか蒼福……どれだけ青タン作ったと思ってるんだこの幸運吸い取り機! こんなアホらしいミスでコックリさんの信憑性を増させてどうすんだ!」
緩めていた両手は頭を両側からゴリゴリする拳に進化した!
ギャーギャーと姦しいこれがこの二人の日常なわけである。
と、ここでにゃーと叫んだ蒼福がばぶんとベットに押し倒された。
小柄なちなもベットに寝転がる蒼福も互いにぜーぜーと疲れきったご様子でその場でストンと座ってくつろぎ始める。
どうやら休戦したらしく、座り込んだところでいつもならここで互いにスマホを握り直すかテレビゲームを提案するところだった。
しかし今日はそこでちなが珍しく大あくび。
「ほう……あの健康時間が健康的すぎるちながこの時間にそんな手で口を隠さずはしたない」
「蒼福が学校で授業中居眠りで叱られた回数しっかり覚えてるよ?」
「なんでちなそれ知ってるの……まさか、ストーカー……」
「バカ野郎、お前の後ろの席の身になってみろ。先生に起こす役割押し付けられるんだぞバカ」
「それはそれはご愁傷さまで……」
「元凶サン、私に朝に起こされて幾度遅刻回避した? 私に起こされてなんど授業中叱られずに済んだ? ねーねーおーい聞いてるー?」
「……」
片手でいち、に、と数え始めた蒼福の指はついに両手まで及んで今度は立てた指をたたみ始めた。
「……二十回以上?」
「お前は高校生になってそこまでしか数えられんのか」
「ひどいなぁ……ちなに三角関数わっかり安く教えたのは……わ、た、し、だ、ゾ?」
蒼福は横向きに寝転びながら手で頬を支えるテレビをみるおっさんみたいな格好をしながら右目をウィンクしてみせた。
言い返せないと諦めたちなは再び大きなあくび。
「……そんなに眠いの?」
「昨晩めっっっずらしく夜更かしをしたからね……誰かの電話のせいで」
「ふふふ……それはそれは可哀想に……それならここで寝ていいんだよ? 今ならセットで私が付いてくる!」
「驚くほどに図太い」
蒼福は自分の寝るベットの空きスペースをポンポンと手で叩いてニヤニヤと笑った。
ため息とジト目を送ったちなは意趣返ししてやるかとベットに飛び込んだ。
「ぎゃー!」
「はははっ二人仲良くお昼寝なんて何年ぶりかな」
「私だけ永眠しちゃう、潰れる!」
「失礼な、蒼福より軽いはずだけど?」
「5kgの米袋が重いのと同じだと思わない!?」
どーんとのしかかった勢いで蒼福は仰向けになり、それにのしかかる小柄なちなはちょうど顔が胸に埋もれていた。
器用に足元の掛け布団を足の指で掴んだと思うと蹴り上げてガバッと二人に被さる。
「ちょっと! ちなちゃん!? ……まさかそのまま寝る気で……」
「……すぅ……すぅ」
「うそ、もう寝てる!?」
驚愕しながらも頬をぷにぷに脇腹をぷにぷにとしてちなが一向に怒らないことから眼前の親友が本当にこの短時間で深い眠りに落ちたことを悟った蒼福はピシッと動きを止めた。
そして、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
今度はそーっとちなの頭に触れる。
「うわぁ……さらさらな髪……えへへ、黙れば可愛くて話せば美人さんなちなちゃんさいきょーまじてんしー」
ゆっくりと指で髪を梳きながら、苦しくない程度に抱きしめた。
実はこの蒼福という人物、好きなもの、ちな。大好きなもの、ちな。吸いたいもの、ちな。虐めたいもの、ちな。モフりたいもの、ちな。な重度の変態であった。
ちなも普段はそれを察しているからか貞操の危機になるようなことは冒さないのだが、今日に限っては眠気が原因なのか眼前に肉を置かれて『待て』をされた飢えた肉食獣の上で快眠を初めてしまったのである。ちなみにこの肉食獣の『待て』の期間は約十年、幼稚園の頃から仲が良かったちなに蒼福が恋をした小学校のその頃からである。
それを察しながら自分と仲良くしているちなも実は
何を言いたいのかというと、今この瞬間ちなという人物は人生最大の危機を迎えているのだ。
これを好機であるといやらしく笑うのが蒼福という生物だ。
「ネームペン……確か……ここら辺にっ!」
枕元からベットの外に下に手を伸ばして必死にネームペンを探したと思うと、蒼福はおもむろにフタを開けた。
油性ペン独特の香りが広がる。
「……今、ちなのおでこに肉って書いたら怒るかな……いや、いやいやいや、それより逃しちゃいけないチャンスでしょ神尾蒼福! お正月に羽付きで負けたちなちゃんに『ちなちゃん負けたし墨で太ももに正の字書いていい?』って聞いたらノックアウトされてなかったことにされた屈辱を今取り返すのだ!」
蒼福は空いた方の手を拳に変えて、ぐっと握りしめて決意した。
必ずやかの邪智暴虐なちなの貞操防衛機能を乗り越えて成し遂げて見せる、そう心に誓ったのだ。
しかしちなは眠っている。
回避も受け流しも振れない、虎穴から逃げおおせた先が剣ヶ峰であった……どちらが邪智暴虐かもかわからない地獄の手を払い除けるその救いは、果たして!
「…………さぁ! 早速書いて行きまごふぅっ!?」
寝ぼけの拳、であった。
拳で世界を取る夢でも見ていたのか、性格無比に打ち上げられたアッパーカットが蒼福の顎にクリーンヒットしたのだ。
「いい拳だ、ね……きゅぅ」
がふっと血を吐くように意識を落とした蒼福のカウント十秒。
この戦い、