ウマ娘プリティダービー ~月毛のウマ娘~    作:蒙駄目猫

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 ウマ娘にはまり、気が付けばいつの間にか書き始めていた作品です。

 オリジナルウマ娘、オリジナルトレーナーが登場しますが、それを気にしない方は是非ともご一読頂ければと思います。


♯1.月毛のウマ娘

 ――千葉県(ちばけん)船橋市(ふなばしし) 中山(なかやま)レース場――

『第三コーナーカーブ、いまだ先頭はレインシンフォニア! 二番手との差をじわじわと広げていく!』

 暮れの中山レース場、そこに詰めかけたおよそ一○万人の歓声が響く。一年を締めくくるグランプリ、GⅠ有馬記念に訪れた観客の熱と興奮が渦巻いていた。

『一番人気の七番ファイントパーズは内側で足を()めています!』

 第四コーナーの終盤、310mと短い中山レース場の直線に差し()かる瞬間、そのウマ娘は五番手の位置から大外へ抜け出し、一気に加速した。

『ここで大外から一気にヴァイスシュトルムが来た! ヴァイスシュトルム、凄い足で上がってきます! これは凄い! レインシンフォニアに並ぶかどうか!?』

 観客席からどよめきにも似た歓声が上がる中、珍しい月毛――ホワイトブロンド――の髪と尻尾を(なび)かせて、ヴァイスシュトルムは一気に先頭のレインシンフォニアに追いつき、並ぶことなく抜き去る。

『並ばない! 並ばない! 並ぶことなくヴァイスシュトルムがレインシンフォニアをかわしました! ファイントパーズ懸命(けんめい)に追うが差が縮まらない! これは決まったか!?』

 先頭に躍り出たヴァイスシュトルムは、ゴール前の高低差5m程の急坂――中山レース場の有名な心臓破りの坂だ――でますます加速し、後方に二バ身半のリードを付けてゴール板を駆け抜ける。そして、観客席に向かって高らかに拳を突き上げた。

『ヴァイスだ! ヴァイスです! ヴァイスシュトルム今一着でゴールイン! 二着のファイントパーズに二バ身半の差を付けての完勝です! 暮れの中山に白い嵐が吹き荒れた!』

 実況者も興奮を隠し切れていないのが声でわかる。ますます熱の入った実況の声に、ヴァイスシュトルムの耳も否応なしに揺れる。宝塚記念、天皇賞秋、ジャパンカップ、そしてこの有馬記念。シニア級だけではなく、勢いあるジュニア級からも強豪ウマ娘が集う中での四連勝は、格別の嬉しさがある。更に言うならば、あの『皇帝』シンボリルドルフですら、同一年秋シニア三冠は達成できなかった偉業だ。そして何よりも、ついにシンボリルドルフのGI七冠記録に並んだのだ。レースウマ娘として嬉しくないはずがない。

『ヴァイスシュトルム、暮れの中山でグランプリ勝利! 秋シニア三冠、春秋グランプリ制覇です! 昨年度の皐月賞、NHKマイルカップ、日本ダービーの変則三冠も加えて、ついに皇帝シンボリルドルフのGI七冠記録に並びました! 皇帝を超える八冠への期待が高まります!』

 ヴァイスシュトルムの勝利に、観客席がまるで爆発したかのように湧き立つ。その様子に、ヴァイスシュトルムは笑みを深くしてウィナーズサークルへと足を進めた。

『一着は九番ヴァイスシュトルム、二着七番ファイントパーズ、三着十四番マリンダンサー……』

 実況が掲示板の着順を読み上げる中、ヴァイスシュトルムは観客席に笑顔を振りまく。そこには心底嬉しそうな彼女の姿があった。

 

 

 ウマ娘。彼女たちは、走るために生まれてきた。

 時に数奇で、時に輝かしい歴史を持つ別世界の名前と共に生まれ、その魂を受け継いで走る。

 それが、彼女たちの運命。

 この世界に生きるウマ娘の、未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。

 彼女たちは走り続ける。

 瞳の先にあるゴールだけを目指して。

 

 

 ――東京都(とうきょうと)府中(ふちゅう) 日本ウマ娘トレーニングセンター学園――

 穏やかな春の陽気漂う学園の廊下を、一人のウマ娘が肩を怒らせて歩いていた。そんな彼女とすれ違ったウマ娘は、びくりと肩を跳ねさせて、そそくさと立ち去っていく。普段ならばそれを見咎(みとが)め、トレセン学園に通う者としての矜恃(きょうじ)を持てと注意するところだが、彼女には今、そんな時間はなかった。足早に廊下を進み、階段を上り、屋上へ出る扉の前でようやく足を止めたウマ娘は、一つ大きく息を吸って呼吸を整えてから、扉を勢い良く開け放ち、腹の底から声を張った。

「ヴァイス! ヴァイスシュトルム!」

「……ぅん? ……ぐぅ」

 屋上に設置されたベンチの上で、肩甲骨の辺りにかかる長さに(そろ)えられた珍しいホワイトブロンドの髪を、まるで水面に浮かべたかのように揺蕩(たゆた)わせて昼寝をしていたウマ娘は、自分を呼ぶ声に反応を示し、そしてすぐさま夢の世界へ戻ろうとする。芸術家がこの光景を見たならば、大慌てで絵画に残したであろう(ほど)の美しさを(たた)える一幕だが、見慣れてしまっている者からすれば、重要な意味を含んでいた今日の模擬レースをサボった一人の生徒でしかない。そして、その見慣れてしまっている者の一人であるウマ娘は、額に青筋を浮かべ、カツカツと足早にヴァイスシュトルムと呼んだウマ娘に歩み寄る。

「いい加減起きろ! ヴァイス!」

「うぅん……」

 耳の傍で大声を出されて顔を歪めたウマ娘、ヴァイスシュトルムは、その綺麗な空色の瞳を開き、非常に迷惑そうな顔をして睡眠の邪魔をしてきたウマ娘を見る。

「……エアグルーヴ、一体何のよう?」

 ヴァイスシュトルムの心底迷惑そうな顔を見て、ため息を()いたウマ娘、エアグルーヴはヴァイスシュトルムの耳元にそっと口を寄せる。そして――。

「……お前が今日の重要な模擬レースを欠席したと聞いて、探しに来たに決まっているだろう。大バカ者が」

「ひゃぁぁぁ!? ちょ、それやめ……」

 わざと囁くように呼気を多分に含ませた声を、耳元で発してくるエアグルーヴに、顔を真っ赤にしたヴァイスシュトルムは何とか離れようともがくが、力が抜けてしまいどうすることもできなかった。

 

 

「うぅ……エアグルーヴに野外で(はずかし)められた……もうお嫁に行けない……」

「人聞きの悪いことを言うなバカ者。そもそも、お前が模擬レースをサボらなければ良かっただけの話だろう」

 よよよ、と言わんばかりに大袈裟(おおげさ)に芝居がかった泣き真似(まね)をするヴァイスシュトルムを無視して、彼女の隣に座ったエアグルーヴは腕を組んで彼女を見つめる。そんなエアグルーヴを、ヴァイスシュトルムは半眼で見つめ、()ねたような表情を浮かべた。

「それで? 今日サボった理由は何だ?」

「えー? 言わなきゃダメぇ?」

「言わなくても良いが、その場合はフジキセキに貴様の尻尾を手入れして貰うしかないな。大体なんだ、そのぼさぼさになっただらしのない尻尾は! トレセン学園に通う生徒ならばもっと見た目にも……」

Scheiße(ちくしょう)!!」

 エアグルーヴの言葉を遮る用に叫んだヴァイスシュトルムの顔色が真っ赤になり、すぐに青色に急降下した。そして、ややあってから重々しくヴァイスシュトルムは口を開いた。

「言う。言うから。フジキセキに私の尻尾を手入れさせないで……私の心が死んじゃう」

 両耳を左右にばらばらに動かした後に前に向けて伏せ、完全に落ち込んだ様子のヴァイスシュトルムを見て、エアグルーヴは(ひそ)かに口角を上げた。

「それで、どうしたんだ?」

「……『大して足が速くなくても、人形として飾るだけで見栄えが良い』何て言うトレーナーが混じってるのに、なんで私の走りを見せないといけないのよ」

 両耳を前に倒したまま、どんよりとした空気をまとうヴァイスシュトルムの言葉に、エアグルーヴは片眉を跳ね上げる。一体、どこのバカがそんなことを言っていたのか。

「そりゃあ、ルドルフやフジ程の光るものがあるわけではないかもしれないけどさ……まだ走ってもないのに、『月毛』だから遅いと決めつけられて、『月毛』だから飾りとして欲しい……なんて言われてまで、走る気になるわけないでしょ」

「……」

「だからほら、『月毛のヴァイスシュトルム』じゃなくて『ウマ娘のヴァイスシュトルム』として見てくれるレアなトレーナーが見つかるまで、自主的に休養取ろうかなーって」

 茶化すように明るく言い放ったヴァイスシュトルムだが、耳は前に倒れたままで、その両手は悔しそうに握りしめられていた。そんな彼女の様子を見たエアグルーヴは、大きなため息を吐くと、ヴァイスシュトルムにデコピンをお見舞いした。

Autsch(いたっ)!? 何すんのよエアグルーヴ……?」

「このたわけが。無理するなといつも言っているだろうが」

 呆れたような視線を向けるエアグルーヴに、耳を後ろに伏せ、頰を膨らませてムッスリとしたヴァイスシュトルムはしかし、大人しく額を(さす)るだけだった。

「お前はもっと友人を頼れ。私でもフジキセキでも、パーマーでも良いだろう。そんなことくらい、友人として何とでもしてやる」

 そう言ってそっぽを向いたエアグルーヴは、ほんの少し頰を赤らめた。そんな彼女の姿に笑みを浮かべたヴァイスシュトルムは、尻尾を高く上げ、耳が左右に小刻みに動くのを抑えられなかった。そして、体を駆け巡った喜びの衝動のままに、勢いを付けて彼女に抱きつく。急に抱きつかれたエアグルーヴは、ヴァイスシュトルムを支えることができず、ベンチに横向きで倒れこんだ。

「おいバカ、やめんか!」

「エアグルーヴが嬉しいこと言ってくれるからじゃん。もうしばらくこのままでいさせてよ」

「まったく……」

 先程まで不安や落胆を示していた彼女の耳は、リラックスしたのか横向きになり、体の上にのしかかったまま尻尾を元気よく左右に振っている彼女に、エアグルーヴは諦めの境地に達する。いつまでも笑顔で抱き付き続けるヴァイスシュトルムの様子に、頰を緩めたエアグルーヴはしかし、フジキセキに今晩にでも彼女の尻尾を手入れするように伝えようと、固く心に誓ったのだった。

 

 

 翌日、朝からげっそりとした様子のヴァイスシュトルムが寮の食堂で食事を摂っている姿に、対面に座るファインモーションとメジロパーマーの二人は苦笑いを顔に浮かべていた。

「おはよ……」

「おはようシチー、土曜日なのに早いじゃん」

 眠そうに目を細めながら、「百年に一度の美少女ウマ娘」と呼ばれるゴールドシチーが寮の食堂に姿を(あらわ)すと、メジロパーマーが声を掛けた。

「朝から撮影があるから……ところで、ヴァイスは一体どうしたの?」

 (うつ)ろな目で黙々と食事を摂っていたヴァイスシュトルムは、顔を上げゴールドシチーを認めると、口の中の食べ物をもそもそと飲み込んでから口を開いた。

「Guten Morgen Gold City. ......Ich hatte eine schlimme Zeit mit der Fuji Kiseki......und ich bin nicht sicher, ob ich diesen Groll loslassen sollte.(おはようゴールドシチー。フジキセキに酷い目に()わされてさ……この(うら)みはらさでおくべきか)」

 流暢(りゅうちょう)なドイツ語で話しかけられたゴールドシチーは、困惑を顔に浮かべた。

「ごめんヴァイス。アタシ、ドイツ語わかんないから何言ってるのかちょっと……」

「Ich will hausgemachte Wurst......(私の家のソーセージが食べたい……)」

 そう言ってまた、下を向いて黙々と食事を再開するヴァイスシュトルムの姿に、終始クエスチョンマークを頭に浮かべていたゴールドシチーだが、ヴァイスシュトルムの美しく整えられた綺麗(きれい)な尻尾を見て、彼女がこうなっている理由に合点がいったらしい。

「それはそうとヴァイス」

Was()?」

「尻尾、凄く良い感じになってるじゃん。フジに『また』手入れして(もら)ったんでしょ?」

 ゴールドシチーはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、ヴァイスシュトルムが座る右隣の席に朝食の盆を置いて着席する。そんなゴールドシチーに顔を向けたヴァイスシュトルムは、首を右に向けたままの少しマヌケな姿勢で固まる。

 たっぷり十秒ほど()ってからようやく再起動したヴァイスシュトルムは、虚ろな目に光を灯し唇を戦慄(わなな)かせて顔を真っ赤にした。

「Scheiße!!!!」

 そう一言だけ叫んで、残りの食事を猛然と()き込み始めるヴァイスシュトルムに、その机を囲む全員が目を丸くする。

「ちょ、ちょっとヴァイス。そんな食べ方したら体に悪いって……」

 ヴァイスシュトルムの正面に座るメジロパーマーが声を掛けるものの、耳を貸すこともなく食事を掻き込み続けるヴァイスシュトルムは、あっという間に食器を空にした。

「ご馳走様っ!」

 そう叫ぶように言ってヴァイスシュトルムは勢い良く立ち上がり、空になった食器の乗った盆を持って駆けていってしまった。あっと言う間のことに、全員がポカンとしていた。

「……やっば、からかい過ぎたかな」

「あはは……。ヴァイスはあれで初心(うぶ)なところがあるからねぇ……。でも、()ずかしがってるだけだと思うから、大丈夫じゃないかな?」

 そう言ったファインモーションは、フォークを手に取ると、朝食のサラダを食べ始める。ゴールドシチーはヴァイスシュトルムの駆けていった方向をもう一度だけ見て、自分も食事を始めるのだった。

 そして、そんなやり取りの一部始終を食堂の陰から(うかが)う一人のウマ娘がいた。

「ひょぇ~! ゴールドシチーさんとヴァイスシュトルムさんが並んで座るだけで理想郷(シャングリラ)みたいな空間になるのにゴールドシチーさんがヴァイスシュトルムさんをからかってそれでヴァイスシュトルムさんが顔を真っ赤にして照れて走り去るとか待って無理尊い天国はここにあったのね……幸せぇ……♡」

 アグネスデジタルは、そう一息に(つぶや)くと、恍惚(こうこつ)とした幸せそうな表情を浮かべて食堂の床に倒れ伏した。その後に食堂へとやってきたサザンエースは、幸せそうな顔で倒れているアグネスデジタルを見て額に手をやった後、声を張り上げた。

「ねぇ、デジタルがまた倒れてるんだけど!!」

 

 




第一話はいかがでしたか?
これから細々と続けていきたいと思いますので、気が向いたときに読みに来て頂ければなと思います。
※誤字脱字報告はこっそりオナシャス(恥ずかしいんで……)
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