ウマ娘プリティダービー ~月毛のウマ娘~    作:蒙駄目猫

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♯10.秋のファン大感謝祭(中編)

『秋のファン大感謝祭』開催当日のトレセン学園は、様々な人やウマ娘(たち)でごった返していた。縁日や祭りのように屋台が建ち並ぶエリアは特に盛況で、老若男女問わずあちらこちらを楽しそうに歩き回っていた。

「開場してすぐだって言うのに、すごい人だな」

 感心したように呟いた神谷は手元のパンフレットを取り出すと、ヴァイスシュトルムのクラスを確認する。

「フジキセキのステージは十一時からだし、今行っとけば間に合うか」

 そう言って教室棟へ歩き出した神谷は、本人も気づかぬうちに楽しそうに歩いていたのだった。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様! お嬢様!」

 ヴィクトリア風メイド服、ミニスカメイド服、和風メイド服のうち、自分の好みやクラスメイトからの熱望を受けたものを着用したウマ娘達が、訪れる客を「ご主人様」あるいは「お嬢様」と呼び給仕する。トレセン学園生によるメイド喫茶を訪れた客はメイドに扮したウマ娘から料理に「おまじない」を掛けて貰ったり、一緒に記念撮影をしたりと大いに(にぎ)わっていた。中でもヴァイスシュトルムの人気は(すさ)まじく、あちらこちらから記念撮影を頼まれていた。

「ヴァイス、8番テーブルのお客様にオムライス持って行って! ご指名なの!」

「はーい! ……忙しすぎない?」

 あっちで写真、こっちで料理におまじない、そっちでお見送りにお出迎えと、ヴァイスシュトルムは着用した和風メイド服を(ひるがえ)して店内を歩き回っていた。

「行ってらっしゃいませ、お嬢様方!」

 出入り口で一組見送り、「ふぅ」と一息入れたヴァイスシュトルムの前に影が落ちる。ヴァイスシュトルムの視界に入ってきた、黒のチノパンにすっきりとしたチャッカブーツ。相手が男性だと判断したヴァイスシュトルムは、満面の笑みを浮かべて相手に挨拶をした。

「お帰りなさいませ! ご主人様!」

「おお……和風メイド姿がよく似合ってる。まさにマ子にも衣装だな」

 聞き慣れた声に相手をよく見ると、それは(まぎ)れもなくヴァイスシュトルムの担当トレーナーである神谷だった。ヴァイスシュトルムはそれを知覚した瞬間、顔を()れたトマトの如く真っ赤にした。

「とっ、ととと、トレーナーさん!?」

「おう、お疲れさん。賑わってるみたいだな」

 慌てふためくヴァイスシュトルムを気にした様子もなく、神谷は飾り付け等を眺めるように首を動かす。

「ヴァイス~? ご主人様を早く案内して欲しいの」

 ヴァイスシュトルムが中々案内しないことを不思議に思い、出入り口から顔を(のぞ)かせた白のサンバイザーを付けたウマ娘、アイネスフウジンは、熟れたトマトの如く真っ赤になって固まるヴァイスシュトルムを見て、にやにやとした笑みを浮かべた。

「ほらほら、ご主人様に中で(くつろ)いで貰わなきゃなの!」

 アイネスフウジンは二人の後ろに回ると、とても楽しそうにヴァイスシュトルムの背中をぐいぐいと力強く押しながら神谷を店の中へ(いざな)う。神谷はその誘いに素直に従い、アイネスフウジンに続いて教室に足を踏み入れた。

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

「ご主人様、こちらへどうぞなの!」

 神谷が教室に入るとすぐにそこかしこから挨拶(あいさつ)が聞こえて来る。神谷はそのことにやや圧倒されながらも、席へと誘導するミニスカメイド姿であるアイネスフウジンのすぐ後ろをついて歩く。

 アイネスフウジンに案内された席は、キッチンスペースのすぐ傍にある周りから目隠しされた席だった。

「ご主人様、何になさいますか?」

「ええと……、朝ご飯食べ(そこ)ねたんだけど、何かオススメあるかな?」

 メニュー表を見たものの、とても出し物でやっているとは思えないほど料理とドリンクの種類が多く、神谷の目にはどれも魅力的に映っていた。

 自分で決めるのは無理だと早々に敗北宣言を出した神谷は、アイネスフウジンに助けを求めるようにオススメメニューを尋ねたのだった。

「うーん……どれもオススメだけど、オムライスセットとかどう? 結構好評で頼んでいくご主人様とお嬢様が多いの」

 顎に指を当てて少し考えたアイネスフウジンは、オムライスとドリンクのセットを神谷に勧める。アイネスフウジンの指し示したメニューを見た神谷は、首を縦に振った。

「じゃあ、それで頼むよ」

「はいなの! ドリンクはどうする?」

「そうだなぁ……アイスティーで頼むよ」

「かしこまりましたなの!」

 放心したようなヴァイスシュトルムを一番奥の席に座らせたアイネスフウジンは、神谷の注文を聞いて元気よくキッチンスペースに入っていった。神谷は、ヴァイスシュトルムはこのままで良いのかと疑問に思ったが、ヴァイスシュトルムとの記念撮影を希望する客に、他のメイド姿のウマ娘達が休憩中だと伝えている声が聞こえ、神谷の疑問は解消された。

 料理が来るまでの間、手持ち無沙汰(ぶさた)になった神谷は、椅子に座ったまま微動だにしないヴァイスシュトルムをしばらく眺めていた。そして、(おもむろ)にポケットからスマホを取り出すと、写真を一枚撮る。シャッター音に反応したのか、ヴァイスシュトルムは耳を何度か動かしてからようやく再起動したらしい。ほんの少し辺りを見回してから、不思議そうに席に着いている自分を見ていた。

「あれ? なんで座って……?」

「……呆然(ぼうぜん)としてるなと思ってたけど、まさか記憶までないとはな」

 ヴァイスシュトルムに(あき)れたような視線を向けた神谷は、もう一度スマホをヴァイスシュトルムに向けて写真を撮る。写真を撮られたことに気付いたヴァイスシュトルムは、駄目元(だめもと)で写真を消してもらえないかと神谷に頼んだ。

「トレーナーさん、その写真消して?」

「だが断る。せっかく可愛いヴァイスシュトルムの写真が撮れたんだから、消すなんてもったいない」

 可愛らしく首を傾げて、精一杯のおねだりで写真を消すように頼み込むヴァイスシュトルム。相手が神谷でなければ効果はあったかもしれないが、やはり効果はなかった。ダメだと即答した神谷は、鼻歌交じりにスマホをポケットに仕舞(しま)う。そんな神谷を(うら)めしそうに見ていたヴァイスシュトルムは、拗ねたように頰を膨らませると、机に突っ伏してしまった。そんなヴァイスシュトルムの様子を含みのある笑みを浮かべて神谷は眺めていた。

「お待たせしましたなの! 特製萌え萌えオムライスになりま~す♪」

「おお、美味しそうだな!」

「あたしが腕によりをかけて作ったの! 味は期待して良いよ」

 神谷の言葉に、アイネスフウジンは得意()に胸を張る。彼女の言葉通り、オムライスからは食欲をそそる良い香りが漂っていた。

「……なんか、アイネスの機嫌良くない?」

 ヴァイスシュトルムが半眼で神谷に甲斐甲斐(かいがい)しく給仕するアイネスフウジンを見て言うと、アイネスフウジンはどこか面白がるような笑みを浮かべた。

「ふふん、ヴァイスが慌てふためいてらしくない姿を見せてくれたお礼なの♪」

 鼻唄(はなうた)でも歌い出しそうなほど機嫌が良いアイネスフウジンに、ヴァイスシュトルムは大きく息を()いた。アイネスフウジンの言葉に神谷は少し首を(かし)げると、不思議(ふしぎ)そうにヴァイスシュトルムを見つめた。

「……何? トレーナーさん」

「いや、いつも通りのヴァイスシュトルムだなと」

「当たり前でしょ」

 神谷の視線に、じろりと(にら)み付けるように返したヴァイスシュトルムは、腕を組んだまま不機嫌を隠そうとしなかった。アイネスフウジンは不思議そうにする神谷に近寄ると、少し屈んで神谷の耳に口を寄せる。

「ヴァイスが不機嫌を隠そうとしないのは、甘えてる部分もあると思うよ。トレーナーさんと出会うまで、あんまり表情の変化は見せない方だったの」

「そうだったのか……」

 二人の内緒話が気になるのか、耳を(しき)りに動かすヴァイスシュトルムは、それでもツンとした様子を崩そうとはしなかった。しかし、アイネスフウジンと神谷の距離が近いことが気になるらしく、眉間にはシワが刻まれていた。

 それを横目で見たアイネスフウジンは、神谷から離れるとケチャップを手に持つ。そして意味ありげな視線をヴァイスシュトルムに送るとケチャップをオムライスにかけ始める。

「愛情をたっぷり込めてケチャップかけさせて貰うの。美味しくなーれ、萌え萌えキュン♡」

「なぁっ!?」

「おお、やっぱりそういうサービスもちゃんとしてるのな。流石メイド喫茶」

 メイド喫茶の定番をやりきったアイネスフウジンは、満足したのか休憩と称して神谷と同じ席に着く。アイネスフウジンを信じられないと言わんばかりに見続けるヴァイスシュトルムは、口を大きく開けて固まっていた。

「ヴァイスシュトルムは何に驚いてんだ?」

「あ、アイネスっ! 何であんなに嫌がっていたおまじないを私のトレーナーさんにはやったの!」

「ふふーん♪ ひ・み・つなの♪」

 含みのある笑みを浮かべて神谷にウインクをするアイネスフウジンに、ヴァイスシュトルムは更に詰め寄る。そんな二人を眺めて仲が良いな等と神谷は思いながら、アイネスフウジンお手製のオムライスを黙々と食べるのだった。

 

 

「貴女を(まも)るためならば、例えこの身()ち果てようともかまいはしません」

「いけません! 私のために、これ以上傷つかないでください!」

 フジキセキの出演する舞台は、とても学生がやっているとは思えないほど完成度の高いものだった。フジキセキの演技力はもちろん、それに合わせるため一生懸命(いっしょうけんめい)に練習したのだろうと思えるほど素晴らしいものだった。

「これはすごいな、プロにも引けを取らないんじゃないか?」

 思わずそう呟いてしまうほど真に迫った演技で、周りの観客達も圧倒されていた。

 たった一時間弱の劇でありながら、まるで数時間を過ごした気にさせられる劇の終幕に、観客席から万雷の拍手が鳴り響く。ちらほらとスタンディングオベーションを行う人の姿も見え、神谷もそんな中の一人だった。

 

 それからもフジキセキのイリュージョンショーを観覧し、気になっていた「会長の快調なトークショー」まで見終わって(シンボリルドルフらしいトークショーだった。しかし、所々ダジャレのようなものがあった気もするが、聞き間違いだろうか。話の流れとしてはおかしくなかったのだが、『この自販機では炭酸水が一番売れているそうだ』とは一体?)、神谷はフジキセキと一緒に出店を見て回っていた。

「ところでトレーナーさん。私の舞台に満足できたかい?」

「ああ、劇も手品……イリュージョンショーか、も素晴らしかったよ。特にヒシアマゾンを串刺しボックスから一瞬で客席に移動させるマジックなんてどうやったんだ? いくら考えてもわからなくてさ!」

 興奮気味に話す神谷に笑みを深くしたフジキセキは、嬉しそうに耳を動かす。()められて喜ぶその姿は、普段のフジキセキとは違って幼く見えた。

「喜んでもらえて良かったよ。これでも不安だったんだ」

「そうなのか? とてもそうは見えなかったが……」

「それはそうさ。堂々と見せないと、お客様に心の底から楽しんで貰えないだろう? それはエンターテイナーフジキセキの名折れだからね」

 片目を(つむ)って右手を胸に当てるキザったらしいポーズも、フジキセキがやると嫌みのない格好良さが際立(きわだ)つ。王子様然としたその仕草に、神谷は一瞬目を奪われる。何も言わずに固まる神谷に、フジキセキは小首を傾げた。

「どうかしたのかい?」

「ああいや、格好良いなと思ってな」

 ますます機嫌が良くなったフジキセキを横目に見ながら、神谷はゆっくりと歩く。彼女達の夢が叶うのはもちろんだが、こんな何てことのない穏やかな一日が増えれば良いと思いながら。

 

 

「トレーナーさん! また来てくれたの?」

「ああ、フジキセキがメイド姿のヴァイスを見たいらしくてな」

「なるほどなの。それにしても、トレーナーさんも隅に置けないの」

「何のことだ?」

「べっつに~。ご主人様とお嬢様がお帰りなの!」

 ヴァイスシュトルム達のやっている出し物を見たいとのフジキセキたっての希望を聞いて、再びメイド喫茶を訪れた神谷は、アイネスフウジンと少し話していたのだが、彼女の目が段々と据わってきていた。

 口を尖らせて席に案内するアイネスフウジンの様子に、神谷は首を傾げるしかできなかったのだが、フジキセキにはアイネスフウジンの拗ねた原因がわかっているらしく、やれやれといった風で神谷に苦笑していた。

 神谷がフジキセキに理由を尋ねるも、フジキセキは「乙女の秘密かな。私の口からは教えられないよ」と言ったきり口を(つぐ)んでしまったので、神谷はお手上げ状態だった。

「こちらになりますなの。メニューが決まったら声を掛けてほしいの」

 席に案内して、自分はフロアからわかる位置に立ったアイネスフウジンはすまし顔で、少しばかり拗ねている空気を(かも)し出していた。

「ううん……。何で拗ねられているのかわからん……」

「うーん。トレーナーさんは、こういう所が欠点になるのかぁ。色々と大変だなぁ……」

 ぼそりと呟かれたフジキセキの言葉は聞こえなかったらしく、神谷はずっとメニューを眺めていた。

 

 二人してメニューを決め(神谷はパンケーキセット、フジキセキはサンドイッチセットだった)、料理が来るまでの間寛いでいると、勢い良くキッチンスペースのカーテンが開く。その音にフジキセキと揃って見ると、ミニスカメイド姿になったヴァイスシュトルムが仁王立ちしていた。

「お、今度はミニスカメイドか、よく似合ってるな」

「Danke. ……ってそれは今はどうでもいいの。トレーナーさんがフジキセキも担当するって噂が蔓延(まんえん)しているんだけど!!」

 神谷からの褒め言葉に一瞬赤面したヴァイスシュトルムは、すぐに取り(つくろ)うと眉を吊り上げた。ヴァイスシュトルムの言葉に神谷は「は?」とだけ返すと、フジキセキと顔を見合わせた。

「そんな話どこから流れたんだ? 今日はフジキセキの舞台を見てその後一緒にここまで来ただけなんだが……」

「うーん、トレーナー契約を結ぶ話も何もしていないしね、今はまだそんなことにはならないかな」

 突然降ってわいた噂話に、当事者であるはずの二人は(そろ)って置いてけぼりを食らっていた。二人して首を傾げる様子に、ヴァイスシュトルムは()れたように靴を鳴らした。

「そういう仲の良さが噂の元になってるの! ついでに言えば、朝の一件でアイネスの担当になるんじゃないかって噂も出てるからね!?」

「えっ」

 タイミング良く料理を運んできたアイネスフウジンは、噂話の当事者になっている事実に料理をのせたトレイを持ったまま固まってしまう。

 たっぷり数秒後に再び動き出したアイネスフウジンは、顔を赤くしてぎこちなく配膳すると、神谷の正面に立ち、話の続きを待った。

「そんな話が出てるのか……誤解がないように言っておくけど、今の段階で二人の担当になるとは言えないからな? 二人の素質を疑う訳ではないが、走りを見てない以上、契約するとは言えないな……。それは、ヴァイスシュトルムも知っているだろう?」

 神谷がそう言ってヴァイスシュトルムを見れば、彼女も首を縦に振る。その隣でアイネスフウジンは少し残念そうにしていた。

「でも、契約の予約はできるんだよね?」

 悪戯(いたずら)を思いついた子供のような笑みを浮かべて、フジキセキがそう言うと、神谷は嘆息をもらして肯定した。その一連のやり取りに、顔をパッと明るくしたアイネスフウジンは、神谷の隣に座り込んだ。

「それなら、あたしは契約の予約をさせて欲しいの!」

「あー……。それは構わないけど、実績が殆どないトレーナーでいいのか? ここ(トレセン学園)には、もっと実績のある優秀なトレーナーも多いだろう?」

 アイネスフウジンの言葉に神谷は嬉しそうにしながらも、よく考えて決めた方が良いのではないかと提案する。しかし、アイネスフウジンの決意は固かった。

「あたしはトレーナーさんが良いの。ヴァイスの普段の様子見てたら、あたし達(ウマ娘)の事をよく考えてくれているってわかるし。それに、トレーナーさんいい人だし!」

 目を爛々(らんらん)と輝かせて前のめりに熱弁するアイネスフウジンに、神谷も折れざるを得なかった。

「わかった……そこまで言うなら予約と言うことで。本契約は模擬レースか選抜レース後に」

「わかった! よろしくお願いしますなの」

 とんとん拍子にアイネスフウジンの契約予約が進む様子に、ヴァイスシュトルムは呆れたような視線を二人に向ける。それから、神谷の隣で静かに微笑んでいたフジキセキに耳打ちする。

「フジは良いの?」

「私? そうだね……、今はトレーナー契約の事は何も考えていないよ。それに、まだ選抜レースには出られそうもないからね」

「……そんなコト気にせず、予約してしまえば良いのに」

 ヴァイスシュトルムの言葉に、微笑みで返すフジキセキは、静かにカップを傾ける。彼女が何も言うつもりがないと判断したヴァイスシュトルムは、嬉しそうに神谷の世話を焼くアイネスフウジンの姿を見つめるのだった。

 

「ご馳走様。美味しかったよ」

「ありがとうございました! トレーナーさん、今度の模擬レース楽しみにしててね」

 笑顔で手を振るアイネスフウジンと、照れたようにそっぽを向くヴァイスシュトルムに軽く手を上げて応えた神谷は、またフジキセキと一緒に出し物を見回りに歩いて行く。そんな二人が角を曲がるまで見送ってから、アイネスフウジンとヴァイスシュトルムは店内に戻った。

「それにしても、トレーナーさんモテすぎじゃない? フジに続いてアイネスまで射止めるとか何なの……」

「うーん……。多分だけど、トレーナーさんの(まと)う空気みたいなのも影響してるんじゃないかな。トレーニングの腕も悪くないのはヴァイスを見てればわかるし、ヴァイスの練習中とか色々と用意してあるのを見て、本当にあたし達(ウマ娘)のことをちゃんと考えてくれてるなって」

 饒舌(じょうぜつ)に語るアイネスフウジンに、ヴァイスシュトルムは面食らったように彼女の顔を見つめる。

「どうかしたの?」

「いや、アイネスってトレーナーさんのことしっかり見てたんだなって」

「ふふーん。ちょっとは見直した?」

「それほどでもないかなぁ」

 胸を張って自慢気な顔をするアイネスフウジンに、すぐさま否定してみせたヴァイスシュトルムは、近くのテーブルの食器を片付ける。その後ろ姿に「もうっ!」と声を上げたアイネスフウジンもまた、接客に戻るのだった。

 そんな一部始終を見ていたアグネスデジタルは、メイド喫茶に入ってから何度目かの尊さを噛みしめていた。

「ハァァ~ン……。ウマ娘ちゃんがメイド姿なだけでも天国なのに、ヴァイスシュトルムさんとアイネスフウジンさんがじゃれてるなんて……幸せぇ……あたしここに住むぅ……」

 恍惚(こうこつ)とした顔でテーブルに突っ伏そうとしたアグネスデジタルは、メイド姿のサザンエースに止められる。

「お嬢様? ウチの備品になるのはやめてくださいね?」

「サザンエースさんがお嬢様呼びしてくれたぁ……デジたん死んでも良いぃ……」

「やめてね? デジタルはもう……」

 しょうがないなといった顔でアグネスデジタルに微笑むサザンエースが引き(がね)になった。

「あっ、無理ぃ……サザンエースさんがあたしに優しく微笑みかけてくれるなんて幸せすぎるぅ……がくっ」

「あっ、ちょっと、デジタル!?」

 とても良い笑顔で気絶するアグネスデジタルに慌てふためくサザンエース。その光景にアイネスフウジンとヴァイスシュトルムは顔を見合わせた。

「まーたサザンがデジタルに振り回されてる……」




大変お待たせしました。第10話になります。
本来なら前後編で終わるはずだったファン大感謝祭なんですが、三部構成になってしまいました。
どのウマ娘も出したい欲には勝てなかったんや……。

後編もその内上がると思うので、お待ちくださいませ。
それではまた次回。
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