本格的に暖かくなり、春の陽気に若葉が
『穏やかな春の陽気に包まれました、中山レース場。パドックでは本日のメインレース、GⅠ皐月賞出走ウマ娘の紹介が行われています』
パドックに設営されているステージの裏で、ヴァイスシュトルムは静かに自分の番を待っていた。周りのウマ娘は、レース場内に立ち込める熱気や観客達の興奮度合い、自分達に向けられる注目度合いといったGⅠ特有の空気に、気合いを入れていたり、緊張して落ち着かない様子を見せていたりと様々だった。しかし、その中でもノーブルライトとサファイアペガサス、サザンエースといったGⅠを経験したウマ娘は、ヴァイスシュトルムと同じように落ち着いて堂々と自分が呼ばれる時を待っている。
ジュニア級のGⅠとはいえ、そこでの競走経験を持つウマ娘はGⅠ独特の空気に浮かされる事なく、普段通りに過ごす事ができていた。
『本日の三番人気に推されたのはこの娘、12番、ヴァイスシュトルム』
『スプリングステークスの時とは違って、良い感じに仕上がっていますね。今日の一番人気に推されたノーブルライトとは、朝日杯FS以来の勝負とあって、どちらが勝つか非常に楽しみです』
ヴァイスシュトルムは、ステージの前方に出ると同時に、肩に
スプリングステークスの時よりも
歓声に包まれるヴァイスシュトルムの様子を観客席で見守る神谷達は、堂々とランウェイを歩くヴァイスシュトルムの姿に笑顔を浮かべる。
「後は
「それにしても、本当に私が着てたパーカーを勝負服に組み込んでくれてるなんて……」
ステージ上に投げていた真紅のパーカーを羽織り直し、ステージを後にするヴァイスシュトルムを見送りながら、シュプリュレーゲンは感慨に
「やっぱり、ヴァイスさん素敵だなぁ……あんなにカッコいいのに、優しいし……」
「シフォンちゃん、そろそろ行かないと前の方で見れなくなっちゃう!!」
シフォンと呼ばれた幼いウマ娘は、友達のウマ娘に引き摺られるようにパドックを後にする。しかし、
幼いウマ娘のあまりにも純粋な視線に、シュプリュレーゲンは顔を綻ばせると再びヴァイスシュトルムに優しい視線を送る。それを横から見ていた神谷には、シュプリュレーゲンが一体何を思っているのか判断する事はできなかった。
地下バ道をゆっくりと歩くヴァイスシュトルムの隣を、同じく皐月賞に出走するウマ娘が二人、
「トレーナーさん、何かあったの? あ、作戦変える?」
「いや、そうじゃない」
そう言ってから言葉を探すように黙り込んだ神谷は、目の前でじっと黙って待つヴァイスシュトルムに何を言うべきなのか迷うことになった。
生涯一度のクラシックレースに臨むヴァイスシュトルムに、どうしても伝えたいことがあったからこそここまで来たはずなのだが、肝心のその伝えたいことを上手く言語化できない。そのもどかしさに顔を
「なあ、ヴァイスシュトルム」
「うん、なあに?」
「正直、レース直前に言うものではないんだろうが……その、なんだ。とにかく、楽しんでこい。結果は自ずと着いてくるだろうしな」
ようやく口を開いた神谷から出てきた言葉に、ヴァイスシュトルムは目を
「それじゃあ、楽しんだ上で勝ってくるね」
ヴァイスシュトルムの挑発的な笑みに、神谷は怖じ気づいていた自分に気づいた。そして、ヴァイスシュトルムを信じ切れていなかった事を恥じ入った。
「ああ、そうだな。誰よりもレースを楽しめ。そして、ヴァイスシュトルムが誰よりも早くゴールを駆け抜ける事を信じている」
自分が担当するウマ娘の頼もしい姿に、活を入れられたような心地になった神谷は、真っ直ぐにヴァイスシュトルムを見つめる。その視線と神谷の言葉を受け、益々得意気な笑みを浮かべたヴァイスシュトルムは、たった一言「トレーナーさん自慢のウマ娘の走りを良く見てて」と言うと、真紅のパーカーを翻して神谷に背を向け、振り返ることなくコースへと駆け去った。
その背中を見送った神谷は、地下バ道に来たときとは打って変わって嬉しそうに口許を
『中山レース場第11レース、本日のメインレース「GⅠ皐月賞」の発走時間が近づいてきました。出走ウマ娘達が続々と入場してきます!』
実況するアナウンサーの声に呼応するように、観客席から歓声が上がる。その歓声に出迎えられて、皐月賞に挑むウマ娘が一人、また一人と地下バ道から姿を見せ始めた。
『スプリングステークス三着の実力を発揮できるか、9番フレアカンパリ。続いて本日の二番人気に推された7番サザンエース』
ヴァイスシュトルムに先んじてコースに立ったサザンエースは、観客の歓声に応えて大きく手を振る。手を振り終えたサザンエースが軽く駆け出せば、観客席からは拍手と大きな声援が彼女へ向けて送られた。
『本日の一番人気、GⅠウマ娘17番ノーブルライトが姿を見せました! その後に続くのは12番ヴァイスシュトルムです! 今日はどんな熱いレースを繰り広げてくれるのか、期待が高まります』
ノーブルライトに続いてターフへと踏み入れたヴァイスシュトルムを、大きな歓声が包み込む。多くの人が詰めかけ、熱の入った歓声を上げる様子に、ヴァイスシュトルムの胸に火が点く。その火は瞬く間に
「……やっぱり、GⅠはすごいな」
大きく深呼吸をしてからそう独り言ちたヴァイスシュトルムは、彼女の前にコースへと出たウマ娘達と同じように観客席へ深く一礼してから芝を力強く蹴ってゴール板を駆け抜けて見せた。
出走するウマ娘達が見せた走りに場内の興奮は益々膨れ上がり、観客達は皆一様に皐月賞の発走を今か今かと心待ちにしていた。
『春の陽気に包まれたここ中山レース場。好天に恵まれ、馬場状態は良と発表されました。ゲート前では、GⅠ皐月賞に出走するウマ娘たちの枠入りが始まろうとしています』
『快晴の中山で一体誰が「最も速いウマ娘」の称号を手にするのか、注目ですね』
GⅠ皐月賞。クラシック三冠の第一関門であり、「最も速いウマ娘が勝利する」とも言われるこのレースは、中山レース場芝2000Mを舞台に施行される。
一生に一度しか手にすることの叶わない栄誉あるGⅠの一つを求めて、数百人もの中から選ばれた十八人のウマ娘は、目の前にあるゲートに入る時を静かに待っていた。
白のジャケットを着た発走委員が壇上に立ち、手に持った赤旗を高く上げると同時に、快晴の中山レース場に関東GⅠファンファーレが高らかに鳴り響いた。発走委員が上げていた赤旗をゆったりと振るうのを合図に、奇数番のウマ娘から順にゲートへと入っていく。サザンエースとノーブルライトが先にゲートに収まるのを見送って、ヴァイスシュトルムも自分が入るゲートを見つめる。奇数番最後のウマ娘がゲート入りを完了すると、続いて偶数番のウマ娘達が次々とゲートへ収まっていった。
『大きなトラブルもなく枠入りが順調に進んでいきます。最後に大外18番、サファイアペガサスがゲートに入りました。体勢完了』
ゲートの中で瞑想するように目を閉じていたヴァイスシュトルムは、一番最後の後ろ扉が閉まる音で目を開いた。熱く燃え滾る心とは裏腹に、頭の奥はずっと冷静で視界はどこまでも澄み切っていた。走る前から自分がどう身体を使うのかが何となく
ただ当たり前のように走り、当たり前のように勝つ。
今、ヴァイスシュトルムの脳内には、そのことしかなかった。
『スタートしました、GⅠ皐月賞。十八人の選ばれしウマ娘が一回目のホームストレッチを駆けていきます』
ゲートが開くと同時に勢い良く飛び出したヴァイスシュトルムは、加速しながら徐々に内側へと切り込んでいく。スタートしてすぐの谷を抜け、一度目となる中山の坂を駆け上がる。ヴァイスシュトルムが坂も何もかもを気にした様子もなく加速していく様子に、周りのウマ娘はざわついた。
「ヴァイス飛ばしすぎじゃない?」
「はっや……序盤から飛ばしてどうするのよ……っうわ!?」
そう口にするフレアカンパリとグレアダイヤモンドの隣を勢い良く、ラッキーフィールドが駆け抜けていく。先頭目指して加速するその速さは、ヴァイスシュトルムのそれを軽く上回っていた。
『好スタートを決めたのはヴァイスシュトルム。その後ろから勢い良くラッキーフィールドが迫ります。サザンエースとノーブルライトは先団やや後方、五、六番手に付けています。ここで先頭入れ替わりました。坂の頂上でラッキーフィールドがハナに立ちます。観客席からの暖かい拍手に見送られ、ラッキーフィールドが十七人を引き連れて一度目のホームストレッチを駆けていきます』
『ラッキーフィールドはやはり、ヴァイスシュトルムとノーブルライトを警戒しているのでしょうね。彼女達になるべく自由に走らせないように気を付けているようにも見えます』
解説の言葉通り、ラッキーフィールドは慎重に後ろを走るヴァイスシュトルムの動きを注意していた。皐月賞を走るにあたって、アクアスフィアが離脱した現状に置いて注意しておくべきウマ娘は、間違いなくヴァイスシュトルムとノーブルライトの二人だった。
昨年末の朝日杯FSで二人が見せたレースは、何度も見返し、二人の仕掛けるポイントと前半の走りを研究し尽くした。そこから導き出したラッキーフィールドが勝つために取るべき戦法は、序盤でハナに立ち、自らがレースをコントロールした状態で第三コーナーに入る事だった。
(今のところは順調……足の調子も最高、これなら、いける! お父さん、お母さん見てて!)
ヒトの両親から生まれたラッキーフィールドは、ヒトの方が多い地元では幼い頃から何かとやっかみを受けることが多かった。
何かにつけて『ウマ娘のなり損ない』や『中途半端なウマ娘』等と言われ、受けた嫌みや暴言の数は枚挙に
そんな幼少期を過ごしていたラッキーフィールドに転機が訪れたのは、近くに競走クラブができた時だった。
両親に連れられて行った体験入会で初めて見た元競走ウマ娘の走り。その走りに魅入られたのは、ウマ娘として走りたいという本能からだったのか、それともラッキーフィールドが変わりたいと願っていたからなのか、今となってはわからない。それでも、本格的に競走クラブへ通うようになってから、ラッキーフィールドは明るく元気な娘へと変わっていった。
今まではヒトの子供に囲まれて、何処か異彩を放っていたラッキーフィールドも、その競走クラブでは数多くいるウマ娘の一人でしかなかった。変に怖がられることも、ウマ娘だからと悪口を言われることもなく、のびのびと自分らしく過ごす事ができる場所ができたラッキーフィールドは、徐々に走り方も変わっていった。それまでの窮屈そうに押さえ込むような走り方だったのが嘘のように、のびのびと跳ねるような走りになり、それに伴ってタイムもどんどん良くなっていった。
クラブ内で徐々に頭角を現し出したラッキーフィールドは、元競走ウマ娘のコーチに勧められてトレセン学園の門を叩くことになる。
トレセン学園に入学してからは、授業や教官の指導で揉まれながら過ごして、ようやく担当トレーナーが付いた。それからしばらくしてメイクデビューが決まったラッキーフィールドの胸は、希望に満ちあふれていた。これから先、重賞を勝ち、クラシック戦線も勝ち抜き、GⅠ勝利を重ねるぞと、青図面を描いては顔をにやけさせたりもした。
そんなラッキーフィールドに襲いかかってきた無情な現実は、漆黒の絶対王者ことアクアスフィアと、白嵐とも雌ライオン(一部による呼称)とも呼ばれるヴァイスシュトルムの二人が同期となることだった。
両親が見に来たメイクデビューで、その二人と同じレースだったラッキーフィールドは、良い見せ場を作ることができないまま、アクアスフィアとヴァイスシュトルムの競り合いを眺めながらの六着に沈んだ。その後、未勝利戦を勝利し格上挑戦の三勝クラスを勝利して何とか出走できたホープフルステークス(もちろん、これも格上挑戦となった)では、序盤こそ健闘したものの結果は七着。若葉ステークスでの勝利がなければ皐月賞も走れない可能性が高かった。だが、現実としてラッキーフィールドは今、皐月賞で走っている。
「(ヴァイスはこの間まで本調子じゃなかったし、まだ私にもチャンスはあるはず)……絶対、勝つ!」
気合いを入れ直したラッキーフィールドは、勢いそのままに第一コーナーを駆け抜ける。その姿に、観客席からは歓声と意表を突かれたような
『快調に逃げるラッキーフィールド、およそ十バ身ほど空けてナイトメアドリーム。その後ろにアカノリュウセイ、その外並んでサザンエース。半バ身空けてノーブルライト、そのすぐ後ろにヴァイスシュトルムと続きます』
好スタート、好ダッシュを決めたヴァイスシュトルムは、内側をキープしてからは速度を緩め、前に立つウマ娘を使って上手く風よけを作っていた。第二コーナー終盤に差し掛かってのレース展開は、ラッキーフィールドの大逃げを除いて、概ねヴァイスシュトルムが思い描いた通りに進行していた。
『向こう正面に入ってラッキーフィールドまだ先頭』
『これは予想していませんでしたね、このまま決着があるのか、面白い展開です』
バックストレッチ(向こう正面)に入り、まだ先頭を保っているラッキーフィールドは、坂の下りで付いた勢いそのままに駆け続けていた。間もなく残り1000Mを過ぎようかというところで、後ろをちらりと見たラッキーフィールドは、付いたリードの大きさに頰を緩める。そして、緩んだ頰に気が付いて自らを叱咤した。
「ここで油断してどうするの、まだレースは終わっていないんだから……!」
ラッキーフィールドの言葉通り、まだレースは終わっていない。
(……そろそろ、かな?)
ラッキーフィールドが1000Mを通過してすぐ、ヴァイスシュトルムはゆっくりと加速していく。周りのウマ娘達も、ヴァイスシュトルムに釣られるようにして加速を始め、ラッキーフィールドが第三コーナーに差し掛かる頃には、大きく開いていた差をかなり縮めていた。
『第三コーナーに入ってバ群が差を縮めてきました! ラッキーフィールドから三バ身ほど空けてナイトメアドリーム、そのすぐ後ろにサザンエース、外からヴァイスシュトルムが並びそうか! 一バ身空けてノーブルライト、その内並んでアカノリュウセイ、サファイアペガサスと続きます!』
あっという間に追いつかれたラッキーフィールドは、後ろから迫る重圧に恐怖を覚えていた。
ほんの数秒前まで遠くに聞いていた足音は、いまや真後ろにまで迫っている。それでも、皐月賞勝利と言う栄光は諦めたくなかった。
(後少し、後少し頑張って私! そしたら皐月賞の冠が手に入るから!!)
真っ先に二度目のホームストレッチに帰ってきたラッキーフィールドはすぐにスパートをかける。しかし、それと同時に第四コーナー半ばからスパートをかけたウマ娘が複数いた。
『第四コーナー最初に立ち上がったのはラッキーフィールド! しかし、そのすぐ後ろにサザンエースとヴァイスシュトルムが迫っている! 一バ身空けてノーブルライト!』
ラッキーフィールドを捉えたサザンエースとヴァイスシュトルムは、並ぶことなくラッキーフィールドを抜き去る。そして、真っ先に坂へと辿り着いたのはサザンエースだった。
『サザンエース先頭に代わった! ヴァイスシュトルムが追い
二度目の坂を駆け上がるサザンエースの脚色は、他のウマ娘と比べても衰えを見せていなかった。それでも、この二人には及ばない。
坂に入ってほんの少し脚色の鈍ったサザンエースを、並ぶことなくヴァイスシュトルムが抜き去っていく。それに遅れること半バ身、ノーブルライトが追い縋る。
『ヴァイスシュトルム、ヴァイスシュトルムだ! ヴァイスシュトルムここで先頭に立った! ノーブルライトも必死に追うが厳しいか!?』
「っの……うああああっ!!」
絶叫にも似たサザンエースの声を背に、ヴァイスシュトルムとノーブルライトはゴールへと迫る。互いに全力で譲らぬデッドヒート。あまりの接戦に、中山レース場は総立ちになる。そして、遂にクラシック一冠目を制したウマ娘が決定した。
「……取った!」
『ヴァイスシュトルム! ヴァイスシュトルムです!! ヴァイスシュトルムが見事、三冠の第一関門皐月賞を制し、一冠目を手にしました!』
ゴール板を駆け抜けたヴァイスシュトルムは、どうだと言わんばかりに観客席、特に神谷の方へ向かって拳を突き出す。その瞬間、まるで爆発が起こったかのように歓声が中山レース場全体に響き渡った。
予想外の歓声の大きさに、身体を大きく跳ねさせたヴァイスシュトルムは一呼吸置いてから、満面の笑みを浮かべて再び観客席に向き直る。
観客席から送られる万雷の拍手には、彼女の実力を疑う色は殆ど含まれていなかった。
僅かクビの差でノーブルライトを降し、皐月賞を制したヴァイスシュトルムは、ウィナーズサークルで観客席へと挨拶をする。笑顔を浮かべながらファンへ手を振ったり、笑顔で応えている様子を遠目で見たラッキーフィールドは、両手を硬く握りしめて俯いていた。
直線の立ち上がりでサザンエースとヴァイスシュトルムに抜かされた瞬間、ラッキーフィールドは彼女達と自分との間に大きな壁が立ち塞がっていることを思い知らされた。全身全霊を掛けたスパートを至極あっさりと、数秒間併走することもなく抜き去っていくサザンエースの背中。その背を追いながら更に加速していくヴァイスシュトルムとノーブルライト。全力を出しているにもかかわらず、縮まるどころか開いていくばかりの差に、ラッキーフィールドはようやく、自分が自惚れていたことを自覚させられた。
――自分なんかがヴァイスシュトルムに勝てるわけなかったんだ――。
「今回は残念だったけど、ラッキーフィールドの走りも良かったよな」
「え……?」
不意に聞こえてきた男性の声に、ラッキーフィールドは観客席へと目を向ける。
「それ思った! あれだけ走れるなら、更に成長したらどんな走りを見せてくれるのか楽しみ!」
興奮気味に話す観客の言葉に、ラッキーフィールドは呆気に取られる。そんな彼女に気が付いた観客達は、口々に温かい言葉を掛けてきた。
「次も応援するから、頑張れよ!」
「またラッキーフィールドのレース見に行くね!」
「次のレースも期待してるぞ」
慌てて涙を拭い、観客席に向けて頭を下げたラッキーフィールドの瞳からは再び涙が溢れ出す。しかしその涙は、先程までの悲しいものではなく、暖かいものだった。
ウイニングライブのセンターを務め、控え室へと戻ってきたヴァイスシュトルムは、得意気な顔で神谷の前に立った。神谷は困ったような、呆れたような顔をしてから口を開いた。
「おめでとうヴァイスシュトルム。見事な走りだったよ」
「ふふん。少しは私の実力を信じてくれる気になった?」
得意満面に褒めて欲しいと言わんばかりのヴァイスシュトルムの言葉に、神谷はほんの一瞬だけ呆れたような顔をした。しかし、すぐに口許を綻ばせると、それを取り繕うように軽口を叩いた。
「そうだな、日本ダービーでも結果を残せたらな」
「はーっ!? 信じらんない! そこは素直に褒めるところじゃないの!?」
神谷に対してぎゃんぎゃんと騒ぎながら詰め寄るヴァイスシュトルムだが、口調とは裏腹に嬉しそうにしており、シュプリュレーゲンはそんな二人の様子をニコニコしながら眺めていた。
また、こんな光景が見られることを願いながら。
ヴァイスシュトルム、まずは一冠!
日曜日の中山レース場では、GⅠ皐月賞が開催された。春の陽気に包まれた中山レース場だが、場内は真夏の暑さにも匹敵しそうなほどの熱気に包まれていた。
「最も速いウマ娘が勝つ」とも言われる皐月賞を誰が制するのか? 観客の期待はレースが近付くに連れて高まっていた。
レースの展開は、序盤から15番ラッキーフィールドが大逃げする波乱の幕開けに。第四コーナーまでラッキーフィールドが逃げ続ける展開に、ヴァイスシュトルムやノーブルライトを心配するように観客席は響めいていた。しかし、ラッキーフィールドが最終直線に入るや否や、GⅠ級ウマ娘達が牙を剥いた。
7番サザンエースが坂の手前でラッキーフィールドを捉えると、続けざまにヴァイスシュトルムと17番ノーブルライトがラッキーフィールドを交わしてサザンエースを追走する。サザンエースも最後まで踏ん張りはしたものの、坂の半ばで二人に交わされ、後はヴァイスシュトルムとノーブルライトの一騎討ちに落ち着いた。
半バ身の差を付けられたノーブルライトだったが、諦めることなくヴァイスシュトルムに食らい付き続け、中山の急坂で激しい先頭争いを繰り広げた。二人の熾烈なデッドヒートに、観客席は大盛り上がり。
最後はヴァイスシュトルムがクビの差でノーブルライトに競り勝ち、見事、皐月賞ウマ娘として歴史に名を残した。
ヴァイスシュトルムはこれが初めてのGⅠタイトルとなった。
今回、五着までに入ったウマ娘には、来月開催される東京優駿「日本ダービー」の優先出走権が与えられる。
全着順は以下の通り。
一着、ヴァイスシュトルム、一分五十九秒七。
二着、ノーブルライト、クビ。
三着、サザンエース、一バ身半。
四着、サファイアペガサス、半バ身。
五着、フレアカンパリ、ハナ。
六着、ラッキーフィールド、半バ身。
七着、グレアダイヤモンド、一バ身。
八着、タイムジャンパー、三バ身。
九着、ホワイトデモン、二バ身。
十着、アカノリュウセイ、ハナ。
十一着、バイトアルヒネムイ、半バ身。
十二着、ナイトメアドリーム、クビ。
十三着、スイートメモリーズ、ハナ。
十四着、スノーコンダクター、ハナ。
十五着、ヒョウケイスター、半バ身。
十六着、キョウケンアミュボ、一バ身。
十七着、アルフライラ、三バ身。
十八着、オシエテブチョー、二バ身。
お待たせしました。
何とか七月中の投稿に間に合……ってないな。八月になってるじゃん()
そんなこんなでようやく皐月賞が終わりましたよ。
はいそこ、現実だととっくの昔に皐月賞は終わってるし、日本ダービーさえも終わって夏競馬が始まっているとか言ってはいけない。私に刺さるから。
皐月賞で掘り下げたモブウマ娘改め、ラッキーフィールドさんにはこれからも頑張って欲しい。
何なら、名前通りに幸運の塊でその内GⅠをバンバン獲るようになって欲しい。
話は変わりますが、読者の皆様はコロナ大丈夫ですか? 私は職場がコロナまみれなので、最早諦めの境地に突入してます。……コロナ君早く根絶されてくれない?
皆様もコロナと熱中症にはくれぐれも気を付けてお過ごし下さい。
塩分補給と水分補給はセットで、スポドリは飲み過ぎないように!
何の話だこれ……次回は早ければ今月中に上がるかもですが、私自身資格試験があったりして忙しいので、気長にお待ちください。
それではまた次のお話で!
※勝ちタイムを二千メートルのタイムではなく、二千四百メートルのタイムで出すと言う凡ミスをやらかしたので修正しました。お詫びして訂正します。(2022/8/15)