ウマ娘プリティダービー ~月毛のウマ娘~    作:蒙駄目猫

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♯23.大雨の日本ダービー

 ――東京レース場、芝コース2400M――。

 快晴の良バ場で行われた今年のオークスは、距離適正を不安視された一人のウマ娘が圧勝してみせた。

『メイクンリリーだ! メイクンリリーだ! メイクンリリー、今一着でゴールイン! 二着は接戦です! ライラックブーケがわずかに体勢有利か。メイクンリリー、桜花賞に続きオークスも無敗で戴冠(たいかん)! ティアラ最終戦の秋華賞への期待が高まります!』

 二着のライラックブーケと三着のシトラスノートを五バ身も引き離して勝利したメイクンリリーの活躍に、翌日の新聞やニュースサイト、テレビ番組などには『最強女王メイクンリリー、オークスも堂々戴冠!』といった見出ししか躍っていなかった。

「上がり3ハロンが三十三秒九……。メイクンリリーはマイラーだと思っていたが、クラシックディスタンス(中長距離の中で最もスタンダードな距離と言われる2400Mで行われるレースのこと)でも問題なく実力を発揮するか……」

 メイクンリリーの記録したタイムを新聞で詳しく追う神谷は、眉間に(しわ)を寄せて唸るように呟く。そして手に持った新聞をやや乱雑にたたむと、神谷はパソコンに向き直り、URAがウマチューブ上で公開している重賞レース映像の再生リストを表示する。最新の投稿として一番上に表示されているオークスの動画を再生すると、神谷はメイクンリリーの走りに注目してじっくりと研究を始めた。

「何回見ても、筋肉の付き方、走りは共にマイル向き……、中距離で走れても良いとこ2000Mが限界そうなんだがなぁ……。一体この子の小さな身体のどこにこれだけのスタミナが……」

 文字通りパソコンに(かじ)り付いてメイクンリリーの走る姿を見返す神谷は、画面と手元に置いた研究ノートを交互に見ることに精一杯で、休憩も昼食も忘れて研究に没頭していた。だからこそ、トレーニングの開始時間となり、ヴァイスシュトルムとアイネスフウジン、そしてシュプリュレーゲンがトレーナー室に入ってきたことにも気が付かなかった。

「一体トレーナーさんは必死な顔で何を見て……、うわ……」

 突然頭上から聞こえてきた聞き慣れた声に、神谷は声の主の方向へと体を向けて、心底驚いた様子で固まった。神谷の頭越しに画面を見ていたヴァイスシュトルムは、メイクンリリーの脚、特に太腿(ふともも)がアップになったシーンで一時停止されていたパソコン画面と神谷を見比べて、非常に冷めた、軽蔑したような冷たい視線を彼に向けていた。

「……ふーん。トレーナーさんはリリーの太腿がお気に入りなんだ?」

「いや、これは違っ! あくまで研究用に見てただけで!!」

「中等部の子の太腿を大写しにした映像で何を研究するのさ! この変態!!」

 ヴァイスシュトルムの冷め切った声で我に返った神谷は、大慌てでヴァイスシュトルムに弁明するが、ヴァイスシュトルムの機嫌は最高に悪かった。耳を絞って笑顔で神谷に相対するヴァイスシュトルムを尻目に、シュプリュレーゲンは神谷が書き込んでいたノートを手に取るとざっと目を通す。そこには神谷の言葉通り、メイクンリリーが見せたオークスでのパフォーマンスについての考察と私見が書き込まれていた。

「トレーナーさんってば、何もやましい事なんてないんだから、堂々としてれば良いのに」

 シュプリュレーゲンの肩越しにノートを覗き見たアイネスフウジンは、呆れを含んだ優しい声音でそう言うと、神谷に助け船を出すべくヴァイスシュトルムへと向き直る。シュプリュレーゲンはアイネスフウジンが神谷の弁護を始めるのを流し聞きながら、手に持ったままだった神谷の研究ノートをじっくりと読み進めていた。

 

 アイネスフウジンのお陰で、何とかヴァイスシュトルムの誤解を解消できた神谷は、額の冷や汗を拭うと安堵の息をついた。

「危うく首が飛ぶところだった……」

「アハハ……」

 本心からそう独り言ちた神谷に苦笑いを向けたアイネスフウジンは、一人静かにノートを読み耽るシュプリュレーゲンに近寄ると横からノートを覗き見る。そこに書かれていた几帳面ながらも、さながら呪文のような文字の羅列に顔を一瞬(しか)めて、しかし面白そうに眺めていた。

「それで、リリーの太腿から何がわかったの?」

 まだほんの少し怒気の混じったヴァイスシュトルムの声に、神谷は慎重に言葉を選ばなければならなかった。もし万が一にでも、たづなの耳に「ウマ娘の太腿に欲情している」等と聞こえようものなら、今晩から冷飯すらも食べられなくなるだろうことは想像に(かた)くない。それだけは避けなければならなかった。

「あー、その、だな。まず第一に、メイクンリリーの筋肉の付き方を見ると、あの娘の適正距離は千六(1600Mのこと)だと言わざるを得ない。どれだけ頑張っても、一着争いができるのは二千までだ」

「でも、2400Mのオークスで五バ身差の余裕勝ちだったじゃない?」

「こういう言い方は誤解を招くかも知れないが……。オークスで競ったウマ娘達が、メイクンリリーに至らなかった、オークスで勝てる水準になかったとも言える。現に、元競走ウマ娘の識者や陸上選手……もちろん走りを専門にする選手な。彼らからは俺と同じような意見もいくつかでてきてる」

 そう言って神谷がヴァイスシュトルム達に渡してきた紙には、確かに神谷が今述べた意見が(まと)められていた。

「もちろん、そんなことはなく、メイクンリリーがオークスに向けてスタミナを徹底的に鍛えたとも言えるが、それだけで距離適正の壁を打ち破ったとの判断はできない」

 いくらスタミナを付けたと言えども、マイルと中長距離では求められる、必要な筋肉の質が異なる。短距離・マイルを得意とする選手が長距離を苦手とするケースは多く、その逆もまた然りだ。

 短距離・マイルを主戦場とするメイクンリリーは中距離までは何とか対応できる可能性はある。実際神谷や他のトレーナー達の多くは、メイクンリリーはティアラ三冠の内、桜花賞と秋華賞の二冠を取ることは可能だが、中長距離となるオークスは無理だと桜花賞時にメイクンリリーが見せた生長度から判断していた。よしんばスタミナを鍛えたとしても、掲示板がやっとだろうと。

 しかし、実際の結果は、何とか掲示板どころか、二着に五バ身もの差を付ける圧勝をして見せた。

「身体の限界を超える『何か』があったのか……だとしたら、その『何か』は一体何だ?」

 ヴァイスシュトルムに話しながら、次第に思考の海へと潜っていく神谷から目を外したヴァイスシュトルムは、汗ばむような陽気に包まれた窓の外へと目をやった。澄み切った青空に現れた白い直線は、まっすぐに長く横切っていく。一直線に伸びる飛行機雲は、風に流されながらも長く、長く残り続けていた。

Flugzeugwolken......(飛行機雲、か……)

 ヴァイスシュトルムが零した呟きは、誰の耳に入ることもなく消えていく。後のトレーナー室には、シュプリュレーゲンが(めく)るページの音が規則的に鳴るだけだった。

 

 

 先週の日曜日に快晴だった事がまるで嘘だったかのように、週の半ばから大きく崩れた天気は回復することなく過ぎ去り、日本ダービー当日となった今もなお、朝から雨が降ったり止んだりと不安定な状態が続いていた。

「今年の日本ダービーは雨で不良バ場か……」

「これはヴァイスシュトルムのダービー勝利に危険信号が灯ったな!」

「バカ、何言ってんだお前。今回のメンバー内で唯一不良バ場経験者だぞ、ヴァイスシュトルムは」

「そうは言っても、たかが未勝利戦の一レースだけだろ? 重賞ならともかく、そんなの経験の内に入らねぇって」

 開場前から並んでいた男性達が話す内容が聞こえてきたシフォンエクレールは、耳を(せわ)しなく動かしてその話題に対して無言の抗議を行った。

 ――ヴァイスシュトルムさんは、不良バ場でも負けないもん――。

 胸の前でその小さな手をぎゅっと固く握りしめたシフォンエクレールは、早くヴァイスシュトルムの姿を見たいと思っていた。

 

 日本ダービーのパドック終了までは雨の止み間で曇っていた空も、本バ場入場の時には再び降り始めていた。

『生憎の天気となりました、東京レース場。気象庁は今週の水曜日に、例年よりも早い梅雨入りを発表しています。バ場状態は芝、ダート共に不良と発表されました』

 雨脚が強くなりつつある中、ターフへと姿を現したヴァイスシュトルムは、うんざりした顔で空を仰ぎ見た。

「雨降りすぎ、ジメジメしすぎ……。トレーナーさんの言うように、しっかり身体を暖めないとキツいかな……」

 そう呟いたヴァイスシュトルムは、スタンド前をゆっくり駆け抜ける(もちろん、観客席に手を振ることも忘れなかった)と、身体を冷やさないようにゲート前で入念にウォーミングアップを始めた。

 入場前に暖めておいた身体は、雨に濡れた箇所からどんどん冷えていく。それを少しでも遅らせ、また冷えてしまった筋肉を暖めることに、出走するウマ娘は皆集中していた。

(……この強い雨も問題だけど、ほんの少し踏み締めただけで(あふ)れる水も厄介かな。ここまでグチャグチャだと、踏み込むときに気を付けないと滑りそう……ああ、考えることが多すぎる!)

 ヴァイスシュトルムは地面を睨み付けるように唸ると、頭を振って余計な考えを振り払う。

「よし」

 無意識のうちに、口に出していた言葉に少しだけ笑って、ヴァイスシュトルムは真剣な瞳でゲートを見つめる。彼女の準備は整い、後はその脚で「日本ダービー制覇」という栄冠を掴み取るだけとなった。

 

 観客席へヴァイスシュトルムの両親を案内した神谷とシュプリュレーゲンは、彼らの後ろに立つと、他の観客に習ってゲート前へと目線を移す。

 ゲート前に集った多くのウマ娘は、雨で柔らかくなった地面と、滑りやすくなった芝に辟易(へきえき)した様子を見せているが、地面を確かめて軽く頭を振ったヴァイスシュトルムは一人だけ雰囲気(ふんいき)が異なっている。その姿に、観客席で神谷と共に並ぶシュプリュレーゲンは口許を綻ばせた。

「大雨の未勝利戦のレース映像を見たときも思いましたけど、やっぱりヴァイスは雨をあまり気にしませんね」

「ああ、こうも酷い雨とバ場だと、どうしても走り方を変えないといけないからな。それを嫌がったり、走りにくいと不満を現す娘は多いんだが……」

 幸いヴァイスシュトルムは走り方を変えることに対して抵抗がないから、そこは強みと言えるだろうと締めくくる神谷に、シュプリュレーゲンも同意する。

「大雨で実力を発揮できないまま、着外に沈む娘は多いですからね。その点、ヴァイスは晴れでも雨でもいつも通りに走るから、一緒に走る娘は嫌でしょう。もし私がそうだったら、嫌なプレッシャーを感じていたと思います」

 どこか楽しそうにゲートの方向を見るシュプリュレーゲンに、神谷は複雑そうな表情を一瞬浮かべる。しかし、何も言うことはなくシュプリュレーゲンに習ってゲートの方向を見据える。雨の中鳴り響くファンファーレに、ヴァイスシュトルムが無事に2400Mを走りきってくれることを祈ることしか神谷にできることはなかった。

「ヴァイスシュトルムは、中長距離適性は間違いなくある。でもまだ、スタミナと身体とが適応できていないんだよな……」

「……後はもう、ヴァイスのダービーにかける思いが他の娘達を上回っていることを願うしかないですね」

 神谷の呟きに対して、真剣な声でシュプリュレーゲンは答える。

 思いの強さという不確かなもので距離適性を覆すことが本当にできるのか、神谷は半信半疑だった。しかし、現役時代に欧州のGⅠで三勝をあげ、「ドイツの至宝」とまで呼ばれていたシュプリュレーゲンの言葉を、頭から否定することはできなかった。

 実際にレースで走り、結果を出してきたシュプリュレーゲンの言葉に対して、そんな経験を一度もしたことのない神谷がいくら否定しても、それは単なる空虚なものにしかならない。

(……現役時代に、シュプリュレーゲンは思いの力を感じたことがあるのだろうか? それとも、彼女自身思いの力で勝ったことがあるのだろうか?)

 神谷は隣に立つ元競走ウマ娘をじっと見る。神谷の視線に気付いた様子もなく、ただただ楽しそうにゲートを見つめるその横顔に、神谷は再びシュプリュレーゲンの心情に思いを馳せる。だから神谷は、次のシュプリュレーゲンからの問いかけに反応するのが遅れてしまったのだった。

「そういえば、おじさんとおばさんがこのレースを見に来れてよかったですね」

「えっ、……ああ、そうだな。本当によかった」

 反応が遅れた神谷に、不思議そうに首を傾げたシュプリュレーゲンは、しかし深くは追求せずに再び視線を戻す。そんなシュプリュレーゲンを見ながら、神谷は再び先ほど考えていたことを思い浮かべる。

 いくら神谷が考えたところで意味はないが、それでも、彼女がヴァイスシュトルムやアイネスフウジンを指導する姿を見る度につい考えてしまう。

 ――シュプリュレーゲンは本当に、レースに対して未練はないのだろうか――と。

 

 

『梅雨の大雨に見舞われました、東京レース場。降り(しき)る雨の中、詰めかけた九万人の観客は熱気に包まれています。本日のメインとなる第十一レース、東京優駿「日本ダービー」は、いよいよ発走の時を迎えます』

 発走委員が手に持った赤色の旗を振り上げた時、雨脚は更に強くなっていた。東京レース場に鳴り響くファンファーレの音が、雨で籠もったようにぼやけて聞こえる中、ゲートに収まるウマ娘達は、誰も彼も溢れる闘志を隠そうとしていない。雨で冷える東京だが、日本ダービーの発走を待つ東京レース場だけは、出走するウマ娘と詰めかけた九万人の観客による熱を(たた)えていた。

 雨に打たれながらも前を見据えるヴァイスシュトルムは、水を吸って重くなった真紅のパーカーを気にした様子もなく、ゲートが開く瞬間を静かに待っていた。

 雨によってじわじわと奪われていく熱が気がかりではあるが、ゲート内でできることも限られている以上、どうしようもないと割り切るしかない。後は全力を出すだけだと思い直し、ヴァイスシュトルムはゲートが開くその時を、ただひたすら集中して待っていた。

『各バ体勢整いました。生涯一度の栄冠に、十八人のウマ娘が挑みます。東京優駿「日本ダービー」今スタートです!』

 

 ゲートが開くと同時に、十八人のウマ娘達が飛び出していく。弾かれたようにゲートから飛び出したヴァイスシュトルムは、自分が走りやすいポジションに落ち着くために周囲の様子を横目で(うかが)った。

『本日の一番人気、13番サファイアペガサスは後方から。7番ヴァイスシュトルムはNHKマイルカップとは打って変わって現在先団にいますが……やや速度を落としたか』

『最高の形でスタートを切れただけに、そのまま先団で走った方が良いように思いますが……。彼女の何かしらの作戦でしょうか』

 8番のラッキーフィールドを先頭に据えて走るウマ娘達は、それぞれが走りやすいポジションを争っていく。肩や腕をぶつけ合い、誰もが押し合い()し合いしながらポジションを形成していく。しかし、ヴァイスシュトルムはそのぶつかり合いを上手く(かわ)していた。

「ヴァイス、そこは私の場所だから!」

「どうぞどうぞ。譲るから追い抜いて行ってよ」

 すんなりとポジションを譲ったヴァイスシュトルムに、得意気な顔をして追い抜いていく10番のナイトメアドリーム。彼女に心の中で舌を出したヴァイスシュトルムは、中団やや外側に落ち着くことができていた。後方の様子も先頭の様子も全てを把握するのに丁度良い場所で、ヴァイスシュトルムは改めて周囲を把握するように努める。

(……ラッキーが先頭、サザンは前方内側の五番手、グレアは私の少し前最内側。ペガサスは私の左後方にいて、カンパリがその後ろ)

 レースの全体図を頭の中で描き出したヴァイスシュトルムは、神谷が予想して見せた通りの展開におおよそ収まっていることにほくそ笑む。数日前に変態だの何だのと罵倒したりもしたが、やはり自分のトレーナー、神谷の読みは素晴らしいものであると再確認できた。

(……やっぱり、トレーナーさんは優秀なんだよね。もっと評価されてもおかしくないのに)

 ふとヴァイスシュトルムが思い出すのは、もう一年以上前になる屋上での神谷との出会いだった。

 

 ――自信なさげな顔をして屋上へとやって来たくせに、自分を見るなり惚けたような顔をして固まった新人トレーナー。話を聞けば、スカウトが全滅したと言って悄気る顔が気に入らなくて、自分から担当契約を結ばないかと持ちかけた。

 丁度、エアグルーヴからもいい加減選抜レースに出ろと催促されていたのもあって、スカウトが全滅したトレーナーであっても契約すれば、うるさく言われないだろうしと打算があってのことだった。自分の外見には自信があったし、トロフィーとしてでも欲しがるトレーナーが多くいたから、断られるなんて欠片も考えていなかった。ところが、彼からの返答は「まだ契約できない」だった。

 衝撃だった。自分のプロポーズを断るトレーナーがいるなんて思いもしなかった。

 今まで走りなどどうでも良いから、トロフィーとして、客寄せパンダとして契約してくれだの、クラシックは無理でも重賞なら何とか勝てるようにはしようだの、珍しい月毛で美少女としての外見だけが必要とされていた状況を彼に、神谷トレーナーによって変えさせられた。

 走りを見ないと契約しない、そう言ってのけた新人トレーナーに「是非とも契約してくれ!」と言わせたいが為に直近の選抜レースに見に来るように伝えたのは、意地もあったに違いないと今は思う。

 走る前から諦めるウマ娘とは契約しない。そうとも聞こえた言葉に頰を張られた気分だった。だからこそ私は走れると言いたかったし、私の走りを本当に見て欲しいと思ったのだから。

 走りで驚かせたい相手にトレーニングを付けて貰うのも(しゃく)で、神谷トレーナーと同期の桐生院トレーナーに無理を承知で選抜レースまでのトレーニングを見て貰い(桐生院トレーナーも嫌な顔を見せずに、むしろ楽しそうにトレーニングを付けてくれた。彼女は彼女で人が良すぎると思う)。そのお陰で選抜レースで見事に勝ち切って見せた。

 選抜レースでの走りを見てから、約束通り契約を結んでくれた神谷トレーナーさんのトレーニングは、優しいメニュー見えてその実本当にキツくて(桐生院トレーナーの方が遥かに優しいと思えた)、契約した当初は寮に戻ればベッドに倒れ込む毎日だった。でもそのお陰で私は、今、ここで、日本ダービーで、強力なライバル達と競り合えている――。

 

「……トレーナーさんにこのお礼をするには、やっぱり勝つしかないよね」

 そうポツリと呟いたヴァイスシュトルムは、大雨で(にじ)む視界の中、顔を上げる。

 顔を上げた先では、ラッキーフィールドに続いて先頭集団がバックストレッチにある坂へと差し掛かり、先頭で逃げるラッキーフィールドとの距離が詰まるところだった。それを見たヴァイスシュトルムは、ほんの少し息を入れると、速度をやや上げる。第三コーナーで先頭に食い込み、ゴールを先頭で駆け抜けるための準備に取りかかったのだ。

 日本ダービーの道程(どうてい)は、まだ(ようや)く半分……1200Mを終えたところだった。

 生涯一度しか挑戦できない栄冠が輝くゴールまでは、まだまだ遠く厳しい道のりが残されていた。




お・ま・た・せ♡

あっ、ちょっ、石投げるのは止めて!
どうせ投げるならケーキにしてく……ゲフゥ

いや本当に遅くなって申し訳ありませんでした……。
待望の(?)日本ダービー編でございます。

Q.ここまで待たせておいて続くの?
A.すまない。どうしても一話に纏めきれなかったんだ。

そんなこんなで、日本ダービーは久し振りの前後編になります! うん? 前後編で収まるのか?
……中編が入るかも知れない。

なるべく早く次を出したいとは思っているので、日本ダービーの結果はもうしばらくお待ちください。
ヴァイスシュトルムは無事に日本ダービーを勝てるのか、乞うご期待!










(プロローグで結果はわかっているだろってツッコミはしてはいけない。いいね?)
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