とある学校の、とある少年、大宮圭吾にはある噂があった。
曰く、彼には未来予知能力があるとかないとか。
そんな彼の元には、半信半疑でありつつも、自らの未来を知ろうとする人々が現れる。
彼女、武田香菜もその一人だった。
「……君が、大宮圭吾さんですか?」
帰宅途中の圭吾に、香菜はおずおずと、恐れのような感情を抱きながら、尋ねた。
「要件は分かった。先に言っておく、お前が考えているようなことはしない。こんな呪われた力、使う気は更々にない」
何の脈絡もなく、圭吾はそう告げると、香菜がいる場所とは反対方向へ歩き出す。
「そんなッ! だって、友達はして貰ったって言ってましたよ! どうして、私だけはしてくれないんですか!」
香菜はそう叫ぶ。公平でないことの理由に気付け無い香菜に、圭吾は聞こえないように舌打ちをする。
「未来なんて、知らない方が楽しいぜ? 可能性は腐るほどにあるんだから」
「でも、何が起きるか分からないじゃないですか! それに、こういうのが届いたんですよ。……知りたいって思うのが普通じゃないですか」
そう言って、香菜は小さな紙を取り出す。
――明日の大会には出るな。さもなければお前を殺す。
新聞紙の切り貼りで書かれた典型的な脅迫文。典型的であるが故に、害意を嫌というほど主張している。
「先に聞いておく。お前の名前は?」
大きな溜息の後に、圭吾はそう尋ねる。
「……武田香菜です。してくれるんですか、未来予知」
「俺の力は未来予知なんかじゃない。詳しくは、次会った時に説明してやる。――だから、次会うなんてことにならないことを願っておく」
「……?」
「意味なんて分からなくてもいい。ちょっと触るぞ」
「はい」
香菜の了承を得た後、圭吾はそっと香菜の頭に触れる。同時に、圭吾の頭の中に幾千モノ映像が流れてくる。それらを選別、判断、そして、選択する。
「これが一番マシ、か。ヤバい奴らに狙われてるな、狂ってやがる」
「……どう、いうことですか?」
圭吾の発言に漠然とした不安がよぎる香菜。圭吾の言葉の意味は分からないが、決して良い状態ではないのは、理解出来る。
「……いいか、お前は明日の大会へ行け。交通手段は徒歩。徒歩で会場まで行き、会場前にあるお前宛の箱へ近づけ。そしてその箱を開けろ。開けて――それでお前の最悪の事態は避けられる」
「……?」
「分からなくてもいい。それ以外は、最悪の事態が起こる。それだけを考えろ」
そう言い残して、圭吾は呆然としている香菜を残して岐路につく。
「……頼むから、信じてくれよ。もう、嫌なんだよ」
明後日。大宮圭吾は病院へと向かった。看護師に、入院している患者の名を告げ、病室を教えてもらい、病室へと入った。
「……圭吾、さん」
「やっぱり、足は切断、か」
そこにあるはずの足が無いのを見て、圭吾は冷静にそう呟く。
「……知ってたんですか。知ってて、開けさせたんですか」
「あぁ」
「どうして! こんなことになるなら、家にいたほうが良かった!」
「……家にいたら、お前や、お前の家族は皆殺しだった」
「なっ……、そんな訳」
「……この前、俺は言ったよな。次会った時に俺の力を説明してやる、って」
話の流れを断ち切って、そう言う。冷静に、感情を抑えて。
「俺の力は未来を予知する力じゃない。……未来を『確定させる』力だ」
「未来を、確定……?」
「俺は頭を触れた相手のあらゆる可能性が流れこんでくる。例えば、何を着るか、朝食は何にするのか、誰と、どこで遊ぶのか。そんな感じ全てが、一気に流れ込んでくる」
「…………」
「そして、俺はその中の一つを選択しなければならない。選択したソレは、絶対に起きてしまう。俺がまだこの力を理解していなかった時に、『母親が車に轢かれる』という未来を、あり得ないと思って選択してしまったが故に、母親は事故死した。絶望なんてもんじゃねぇぞ、なにせ、自分が母親の死を決めたんだからな。まぁ、そんな感じで家族も友達も、知らない人も、何もかもの人生を選択していた。ヤケクソになって、あらゆる人に一番マシな未来を選択したこともある。……お前の友達も恐らくそれの一人だ」
「……それで、呪われた力」
「だから言ったんだ、未来なんて知らない方が楽しい、って。未来を見てしまえば、それしか可能性がなくなる」
「その中で、貴方がこれを選んだ。ってことは」
「なかなかに狂気じみてるな、脅迫文を出した犯人。コレ以外の選択は、全て誰かが死んでいた」
「……そんな」
「それに、俺はこうも思う。俺の見ている未来はどれも最悪なモノばかり。もし、俺が見なければただの『脅迫』で済んでいたのかもしれない」
可能性は無限。それに対して、圭吾が見ることが出来るのは、どれも最悪の可能性ばかり、一つぐらいは良い物があっていいはず。――圭吾はそう信じている。
「……だけど、最悪の可能性だけだったかもしれない。なんとなく、ヤバい気がしたんだ。だから特別にお前の未来を見た。だから、すまない。とりあえず、詫びだ」
そう言って、圭吾は一枚の新聞の切り貼りを取り出す。
――謎の爆発事件、犯人は事故死か。
「……これ、って」
「意味は自分で考えろ」
それだけ言い残して圭吾は病室を出て行った。
未来予知って実はこんな力なんじゃね? っていう思い付きです。
補足:圭吾君はちょっと精神が壊れてます。主に死という価値観については。