早くも3年目となり、春の天皇賞が近づいてきたある日。
僕はいつも通りポケットから鍵を出して、自宅の鍵を開ける。かちゃりと鳴るように設計されている鍵穴だが、どうやら今回もお休みしているようだ。
普段よりもやけに重く感じる扉を開けば、ふわりと美味しそうな匂いがした。そのまま視線を台所に向ければ予想通りというか…鹿毛の尻尾が柔らかく揺れていた。
「ル〜ド〜ル〜フ〜?」
やや強めの口調で彼女の名前を呼ぶと、鹿毛の尻尾がぱたぱたと強めに揺れた。
「あ!おかえりなさい。トレーナー君」
「うん、ただいま」
かちっと火を止める音がした後、ぱたぱたとスリッパを鳴らしながらデフォルメされた猫が大量に描かれたエプロンをした彼女が出迎えてくれた。彼女に鞄を渡してにこやかに微笑んだ後、すぐに真顔に戻して僕は怒っていると顔で表現する。
「で、なんでいるの?門限は?」
「えっと、それはだな」
今、僕を悩ませている事…
『うちの担当が通い妻化してる事件』だ。
***
彼女、シンボリルドルフは皐月賞、東京優駿、菊花賞からなる三冠とマイルCSら有馬記念と天下無双の如く圧倒的な走りを見せてスターウマ娘の地位を確立した。そのおかげでメディアやレース人気ではもちろんのこと、トキノミノル票が多かった『最強ウマ娘は誰』かと言う居酒屋談話でも負けないぐらい人気になっていた。
そんな彼女だが、期待というプレッシャーに負けないようにとトレーニングと生徒会の仕事がオーバーワーク気味になりがちで、さらに休み下手という欠点を抱えていた。
流石にこれはいけないと、彼女を休ませようと考えて河川敷でお散歩したり、ゲームセンターで大きなトウカイテイオーのぱかプチを取ってあげたり、冷やかしがてらトレセンに落語会を開きに来たという落語家の祖父とダジャレ談話で盛り上がってたりと色々あって適度に休めたようだ。
いくら三冠ウマ娘といっても人間で言えばまだ高校生。いろんな事を全力で楽しんでほしい。ただ今のルドルフってクラスに1人いるちょっとズレてる子なんだよね。
恋愛ドラマを見に行ったら展開についてガチ考察視点で見てしまうし、ダジャレを始めたきっかけも端的にいえば親しみやすくするためだし…そして、春の天皇賞を間近に控えた今、僕の悩みの種になる出来事が起きてしまった。
夏季合宿を終えた頃から僕は生徒会室で仕事をするようになっていた。無理ばっかして自分に仕事を回してくれない会長を監視してほしいというエアグルーヴからの提案があったからだ。
「ルドルフ、そろそろオフを入れようか?」
僕は春の天皇賞の出走登録をしながら、生徒会長の椅子に座り業務をしているルドルフに声をかけた。
「休息日かい?ふむ…天皇賞を間近控えている中で休息を入れるのは不安要素では?」
顎に手をやって、生徒会の書類を見ながら応える彼女。相変わらず絵になるし予想通りの返答をくれる。
「いいや、休まないのはむしろ逆だと思うよ?」
「…逆だって?」
それまで書類に向けられていた桃色の瞳がこちらを向く。ほんと綺麗な目をしてるよなぁ〜じゃなくて
「端的に言えば『がんばりすぎ』ここ最近は怪我をするギリギリの強度を2日に1回。その間も生徒会の業務でまともに休めてるとは思えないから…ってこの話4回目」
「うっ」
ジト目で彼女を見れば痛いところを突かれたような表情で目を逸らされた。この子、ガチのワーカーホリックなのかなぁ
「はぁ…明日はオフに決定だな」
「あした?明日かい!?」
呆れながらオフを明日にすると言えば、それはそれは驚いたように立ち上がった。
「どーせ君のことだから業務を言い訳にして有耶無耶にするつもりなんだろ?」
「うっ…」
ジト目で彼女を見れば痛いところを突かれたような表情で目を逸らされた…って短時間で同じツッコミと反応を繰り返すのはやめてほしい。…実はこのくだり、皐月賞を取ったあたりから繰り返している。慣れた手つきでスマホのカレンダーを起動して『会長の休日』と打ち込む。
「さて、明日は何する?」
「そうだな…少し、考えさせてもらっていいかい?」
立ち上がった事が恥ずかしかったのか、頬を少し赤らめたルドルフは誤魔化すようにそっぽを向いた。(かわいい)
「わかった。じゃ、登録も終わったし、先に上がらせてもらうね」
エンターキーを調子良く弾き、テキパキと撤収の用意をして彼女に声をかけた。
「うん。お疲れ様」
しかし、ここで気づいた。彼女の桃色の瞳が少し寂しさを纏ったのを…これを見逃すほど僕は未熟じゃあない。
「と思ったんだけど…もう少しいようかな」
「ん?どうしたんだい?」
「ちょっとルドルフが寂しそうだったから」
そういえば何も聞いていない素振りで、眉一つ動かさず業務を続ける彼女。まぁ、その口元が僅かに緩んでいる事を見逃すわけがないんだけどねー。
…それから彼女が業務を終わらせるまで、およそ10分。絶対そんな早く終わらない量だったのに。
「さぁトレーナー君!帰ろう!」
他のウマ娘やトレーナーには絶対見せないだろうウキウキ顔で寄ってくるルドルフ。察するに明日のオフは自分の中で最高の予定が出来上がったんだろう。
帰り道で聞いてみれば僕に『モーニングコール』をしてみたいらしい。
うーん…テイオーのお陰か少しは女の子っぽいオフの楽しみ方を覚えてくれたようでなりよりです。
***
さて、時刻は朝の5時…
いくらトレーナーとはいえ、現役高校生からのモーニングコールを楽しみに思わないハタチドクシンオ-はいないだろう。普段起きる時間よりもかなり早く目が覚めてしまった。
だが今日はオフ。至福の二度寝ができるのだ!
ウマ娘のトレーナーの習慣ルーティンはほとんどがウマ娘の予定に振り回される。しかし、それは同時に自分がオフと言えば仕事がない限り休むことができる職業という事を指している。
「あぁ〜二度寝できるの神…」
とまぁ彼女には見せられないようなぐでぇっとした表情で起こした体を再度ベットに落とした。あ、いつモーニングコールするんだろう……スヤァ
それから数時間経った頃。
「……くん。トレーナーくん」
しばらく微睡の中にいると、不意に体を揺すられた。
「うん?……るどるふ?」
「おはようトレーナー君。宣言通り、モーニングコールをしに来たよ」
目の前には特徴的な桃色の瞳。自分をトレーナーと呼ぶ低くて心地よい声。凛々しく微笑む表情。
これはルドルフだな………は?
「はぁ!?」
文字通り、ベットから飛び起きる。
時計を見れば朝の7時を指していて、彼女の服装はお出かけする時のものだ。起床してから支度をする時間を考えれば、普段通りの時間で起きたと予想できる。
いや待てなんでトレーナー寮の部屋に入れてんだよ!
「何で!?てかどうやって入ったん!?」
驚いて聞けば、反応の予想が当たったと、嬉しそうな表情をするルドルフ
「さっきも言ったが、私はモーニングコールをしに来たんだよ。あと、鍵は…ちゃんと閉めようね」
あ、昨日帰ってから鍵閉めてない。
「いや、でもモーニングコールってのは」
「うん?違うのかい?」
Oh…マジか
「モーニングコールを君に提案したのは?」
「確かテイオーの同室の…」
僕は思わずうなだれた。マヤノトップガンじゃん…『オトナの女性』はみんなやってるなんて言って教えたんだろうなぁ
「あの、モーニングコールってのはさ…」
僕は目の前でドヤ顔を決め込む生徒会長にモーニングコールとは何かを教えた。
「・・・」
「ルドルフ…」
目の前には顔を真っ赤にして俯く生徒会長
「その、まぁ…いらっしゃい」
「うん。おじゃまします」
いつもと違う、とても慌ただしい朝だった。
***
その後、未だに顔が赤いルドルフにコーヒーではなく紅茶をだして朝食の支度をする。
学生時代は朝食なんて縁のない生活をしていたけど、トレーナー認定試験を受ける少し前から食べ始めるようになった。簡単なものを朝に食べるだけなのに、その日1日は調子がすごく良くなることに感動したなぁ。
…今日は生徒会長という予想外のお客様がご来店なさいましたので、チョコソースを塗ったトーストが毎度の当店ですが、それに加えまして本日は少し厚めのベーコンに目玉焼き、少し寒いので生姜を使った簡単なスープをご提供することにいたしました。フフッ
「トレーナー君。なにか面白いことでもあったのかい?」
「いーや?何も。さ、食べよう」
僕もルドルフも普段から自炊をしてお昼はお弁当を食べているので、その時のあるある事を話しながら少し頑張った朝食を食べる。彼女も朝はトーストを食べるらしく、美味しそうに頬張っていた。
ただ一点、気になることがある。
「ルドルフ。普通、向かいに座らないか?」
「そうだね」
彼女は向かいにあった椅子をわざわざ僕のところにまで持ってきて隣に座ったのだ。
「どうしたの?」
「いや、特に深い意味はないさ。あ、チョコがついているよ?取ってあげよう」
そう言ってウェットティッシュを渡して…はくれずにそのまま拭いてこようとした。
「ありがと。で、どうしたのルドルフ」
「何がだい?」
うーん。知らんぷりはいけない。
僕は目の前でしてやったり顔を決め込んでいる生徒会長の両方のほっぺをちょっと強めにつまんだ。
「ううう… ほへーにゃーふん、いひゃい トレーナー君、痛い」
「そーですか。で、どーしたの?ルドルフ」
「 はにゃふはら、はにゃひて 話すから、離して」
パッと両手を離すと、少し間を置いてから彼女がわざとらしく咳払いをした。
「実は、君に確認したいことがあってね…」
確認と言ったルドルフだが、その目は明らかに何か決心をした事を告げていた。
なに、告白でもするのか?勿論、断るけど。
「その、君は…こ、恋人とかいる「いない」
うわ、マジなやつだ。と、悟ったので食い気味で答えてペースを崩せば彼女はわかりやすく動揺する。結構前の模擬レースでナイスネイチャに負けかけたのもささやき戦術食らったからかぁ。
意外な弱点を露出し、そのペースを崩された三冠馬、シンボリルドルフはどんな表情をしているかというと…
「トレーナー君!」
先ほどより何倍も強く決意した表情をしてました。
What the heck!?(真顔を維持しつつ)
「あー。どしたん?海外遠征するのか?」
「そんなちっぽけな事じゃないよ」
うわ、海外遠征をちっぽけって言ったぞ
「私は…シンボリルドルフは…君に好意を持っている」
「それ「恋に恋してなどいないよ?」
今度はこっちが遮られてしまった。
やめてくれ彼女いた事ないから表情変えずに君の告白聞いて断るの嬉しいし辛いし気恥ずかしいからせっかく作り直したペース崩すのほんとやめてほしい(ここまで早口)
「君はトレーナーだ。そして私は生徒会長の身…だから私の告白を簡単に受けられないのも、他の生徒に示しがつかなくなるのも重々承知している」
「なら卒業してからでも良くないか?」
卒業式に担当トレーナーに告白するケースは多い。受けるかどうかは五分五分で意外と高く、中にはそのまま結婚して家庭に入る子もいるとか。
「それではダメなんだ!」
バン!と怒ったような焦ったような表情で机を叩くルドルフ。
「まさか君、気づいていないのかい?」
「何を?」
この後はルドルフがなぜ告白を受けるべきなのか熱弁(30分)するので割愛するが、大まかな内容は
・二冠あたりから女の影がチラつく
・アナウンサーの距離が近くなった
・他の子が指導を受けて顔を赤くしていた
・女性トレーナーの彼氏候補常連
と、こんな感じだ
「うん。それで?」
「それで、と、取られたくなかったから…」
目を伏せて細い声で応えるルドルフ。
うーん。出会ってから1番女の子してるなぁ
「まぁ応える気はないけどね!」
「どうしてだ!」
さっきよりも強めに机を叩くルドルフ。壊れる壊れるそれ自費で買った奴だから!
「えーっと。社会的に死ぬから」
「…どういう事だい?」
「三冠路線制覇は当たり前。なんならオープン戦でさえ負けでもすればシンボリ家から弱者の烙印を押されるような環境だよ?そんな中で付き合って負けたら…」
「じゃあこれまで私にトレーナーが付かなかった理由って」
「シンボリ家の重圧のせい」
言葉通りに頭を抱えるルドルフ。
世間も後輩のウマ娘も中等部時代のルドルフがトレーナーを付けなかった理由は『なんでも1人でできるから』と考えていたらしい。そんなことはなく、単に『負けたらシンボリ家に抹殺される』という恐怖からスカウトできなかっただけなのだ。
「じゃあ…」
「ん?」
「じゃあなんで私と契約してくれたんだい?」
「そりゃあ、じいちゃんとの夢だからさ」
ルドルフが顔を上げた。
「あの落語家のお爺さんかい?」
「そうそう。あの人は根っこからのウマ娘ファンでさ、落語が流行ってた当時に結構な家の人達と仲良くなったそうなんだ」
「じゃあ、私の家の人達とも?」
「いいや。ここは少し複雑でさ。じいちゃんが1番仲がいいのはメジロ家なんだ」
この話の流れでメジロの名が出るとは思ってなかっただろう。彼女は訝しげな表情を向けてきた。
「それで、俺がトレーナー試験に受かった時に、おじいちゃんが『お前がが育てた子がメジロに土をつけるのを見てみたい』って言い出したんだ」
「メジロとお爺さんは仲がいいんじゃないのか?」
ルドルフは最もなツッコミをする。
「うーん…じいちゃんもメジロの人も『リスペクトしたうえで上からぶっ潰す』みたいな図太い感性を持ってて、それがフル活動した結果なんだよね」
「ふふっ…それは面白い。私は君の祖父のためにメジロ家と戦うのか」
ダジャレ談話で仲良くなった人が実はメジロ家と癖が強めな交友関係にあったなんで驚きだろう。
「うん。ごめん」
「いや、私も新しい目標ができて嬉しいよ。そんな話を聞いたら、また君のお爺さんにまた会わないといけなくなってしまったね」
「どうして?」
「メジロ家には負けないということと、君を婿にするということの決意表明をね?」
本日3度目のドヤ顔を決め込む生徒会長。
はぁ…ここは顔を赤くして頷く展開が彼女に取って理想なんだろうけど、駄目です。
てか諦めてなかったのかよ!!
「1つめはいつでもいいけど、1つ目は卒業式まで待て」
「っく…これでも断るか……っ〜あー!」
急に頭を抱えて叫んだルドルフは、ウマ娘のパワーを持って僕を抱えあげてベットに押し倒した。あれ?僕食われる?
「ふふっ。もう逃げられないぞ?」
舌なめずりをするルドルフ。
実はルドルフの方が1センチだけ身長が高い。学生の頃は高身長の同期を見てため息をついたことがあったなぁ…
「トレーナー君。君に選択肢をあげよう」
昔話に意識を向けているのがバレたのか、不服そうなルドルフが提案をしてきた。
1、このまま私に食べられる
2、私と恋人になる
の二択だ。うーわまじか。
「さぁ好きな方を選んでくれたまえ!」
明らかに優勢と見たルドルフはこの度4度目のドヤ顔を決め込んできた。
なんか気に入らないので自分の頭を右にずらして隙間を作り、両手で肩のあたりにあるルドルフの手をスパン!と払って姿勢を崩すし、ルドルフの顔が低反発の枕に突っ込む。この動作、約2秒。
「きゃっ!と、トレーナー君!?」
「3、このままお昼まで寝る」
いい作戦だったけど必然的に抱き合うような形になってしまい、いい匂いがするわ柔らかい感触がするわで大変だった。
「いや!そんなことより!」
「ルドルフが卒業まで待てない理由を話さないなら、応える気はないからね」
「それは…」
言いながら彼女を転がして腕枕して向かい合う。
てか彼女がいたこともないのにこんなムーブできるなんて天才か?と思ったけど最近はアグネスデジタルとの並走が多くてその後のオタク談義に付き合わさせていたのが原因と分かってやや落ち込んだ(早口)
だがその落ち込みよりも重い話を聞かされることになる。
「私は、卒業と同時に決められた人と結婚する」
「はぁ?」
素っ頓狂な声を出したが、よく考えたらあの厳しい名家のことだからあり得る話だ
「私は面白みがないと家の者たちからも言われていてね。ここに来た時も正直、ただ勝てばいいと思っていた。」
「でも勝てなかったと」
「そうだ。中等部の頃は負ける時はいつも惨敗でね…あの頃は本当に苦しかった」
ルドルフの声に涙が混じる。
「その頃に、許嫁の話があったんだ」
「うわ、中等部には早いしタイミングとしては最悪だな」
「ああ。最悪だった。だから私は…レースで手を抜こうとしていたんだ」
シンボリルドルフがレースで手を抜いた。
にわかには信じられないが確か高等部に上がる前のレースだったか、名家のウマ娘としてスカウト筆頭だったシンボリルドルフは確か転倒して最下位になった。
怪我こそしなかったものの、シンボリ家に恥をかかせたとして周囲のスカウトからの評価も最悪だった。
「まさかわざと転んだのか?」
「ああ。そこまでは計算通りだった…だが」
ルドルフは伏せていた目をこちらに向ける
「君にスカウトされてしまったという誤算ができてしまったんだ」
「そりゃあ、お疲れさん」
「ただのスカウトなら断ればよかったんだ。でも」
「ん?一目惚れでもしたか?」
この瞬間、言わなきゃよかったと思った。
ルドルフは恥ずかしそうにこくん。と頷いたのだ。
What the heck…(虚無)
「その、まぁ背景はわかった」
がばっと、ルドルフが顔を上げる
「じゃあ!」
「いや、付き合わないよ?」
「どうしてだい…」
ルドルフの耳が垂れ、心の底からしょんぼりしているのが嫌でもわかる
「卒業まで待ってな」
「だから卒業したら!」
「まぁ、なんとかする。別にフッた訳じゃないんだ。僕もルドルフが彼女だったら嬉しいし」
「トレーナー君…」
さっきまで垂れてた耳がぴんと立って尻尾がぱたぱたと忙しなく揺れ動く。ほんとウマ娘ってのはわかりやすい。
好意を寄せ合っているのがわかったルドルフは、安心した様に眠りについてしまった。よく見ると目の下にうっすらと隈がある。
おおよそ告白をすると決めたせいで眠れなくなっていたんだろう。すやすやと眠る彼女に釣られる様な形で、僕も眠りの世界に入ってしまった。
***
それからというもの、ルドルフは僕に対してわかりやすく好意を見せるようになった。
レースで勝利した後、ご褒美としてハグを求めてきたり、人前で手を繋ごうとしてきたり…春の天皇賞を制したと思ったら合鍵をねだられたりした。(渡した)
その合鍵がいけなかった。
トレーニングが早く終わった日は僕の家に入って夕飯を作り、一緒に食べるという事をしだしたのだ!(ルドルフの作る料理はハイセンスで美味しい)
しかし、寮長のヒシアマゾンがなぜポンポンと外出許可を出しているのか気になったので聞いてみたら
「え!?トレーナーと会長って付き合ってなかったのかい?そりゃ初耳だよ!!」
と返ってきた。もうわけわかんないよ…
「トレーナー君。このラタトゥイユ。初めて作ってみたんだ…どうかな?」
「うん。程よく味付けされてて美味しいよ」
「そうか!よかった!」
「…で、なんでまた来たの?」
笑顔から一転、ジト目で見ればルドルフはわかりやすく目を逸らす。
「エアグルーヴから休養を取れと言われてね」
「そうですかそーですか」
そして理由にならない理由を聞いて終わり。
もうね…惚れた弱みというか…なんというか。実はこの習慣はルドルフがモチベーションを常に高く保ててる一因だったりするので、変えようにも変えようがないのも事実。
え?シンボリ家が怒るんじゃないって?
…もちろん、手は打ちましたヨ。
「ん、すまない。電話だ」
ルドルフがスマホを持って離れようとするのを止めて、スピーカーモードにするよう促す。
「トレーナー君。知らない電話番号なんだ」
「だからだよ。ほら、早く」
そして不安そうな表情で通話ボタンを押した
「はい、ルドルフです」
『おいルナー!』
電話越しに聞こえたのは男性の大声。それと同時にルドルフは驚愕していた。
「せ…先生…ですか?」
『まったく。君のトレーナーから聞いたよ?相談してくれてもいいんじゃないのか?』
「はい。その通りです」
実は、ルドルフからの告白を受けてシンボリ家のわがままをどうしたものか考えていた。それがおじいちゃんの耳に入り、半ば無理矢理話をすることになった。そしたらこのじいさん
「お前の相棒が辛い思い隠して走ってんのなんざみたかないし、万全じゃなきゃメジロを倒せんだろぉ?」
なんて言い出して、気づけばメジロ、テイエム、サトノと名家の重役達が集まってしまったのだ。
What the heck…!?(興奮気味に)
そして、ルドルフのいう『先生』を見つけ出して電話をかけてもらった。という訳だ。この先生は野平という男性でシンボリ家専属のトレーナーだったらしい。
「今、先生はどちらに?」
『海外で相変わらずトレーナーやってるよ』
「わざわざすみません野平トレーナー」
しばらく談笑させてから話に入る
『いえいえこちらこそ。結果こそ見てますが…ルナはちゃんとやれてますか?』
「最近は通い妻と化してます」
「トレーナー君!?」
まさか言われないと思っていただろうルドルフはそれはもうとんでもない速さでこちらを向いた。もちろんそれを聞いた電話越しの先生は大爆笑していた。
『それはそれはっ…ルナ!トレーナーさんに迷惑かけてんじゃないぞ?』
「か、かけてなんかない!」
『本当か?小さい頃は何でもかんでもルナのっ!って言って返してくれなかったからな』
「先生!!」
それを聞いて僕は思わず吹き出した
「トレーナー君まで!」
『まぁ、元気そうでよかったよ。あと、ルドルフの足枷になっているだろう結婚問題だけど』
「先生がなんでそれを知ってるんですか!?」
「僕が話した」
『落ち着けルナ。俺もよくわからないんだが…ルドルフの将来を中等部の段階で決めつけていたのは権力を欲しがる小物達らしくてな。先方の重役からのお叱りを受けたらしい』
「はい…」
『そんで先方の婿予定の人とルナのトレーナーが話をして取り消しになったそうだ」
さっきよりも早くルドルフがこっちを向いた。
「トレーナー君…どういう事だい?」
『じゃあ、後はそっちで。ルナ、また連絡しよう』
ルドルフがスマホの通話を切ったのを確認してから、ゆっくりと話し始める。
「相手は僕と同じ年で、至極真っ当な…それでいて優秀な人だったよ。僕がトレーナーという職業じゃなかったら100%交わらない、雲の上の存在だった」
「そうだったんだね」
「でも、話はとてもスムーズに進んだんだ」
「えっ?」
「実は…その人にも別に好きな人がいたって訳」
「そうだったんだね…じゃあ」
抱きついてきそうなルドルフはもちろん牽制
「卒業まで我慢!」
「どうして!!」
「よし、集合!」
手を叩いてそういうと、玄関から入ってきたのはエアグルーヴにナリタブライアン。
「グルーヴに、ブライアン?どうして」
「会長?校内新聞を読みましたか?」
そう問いかけるエアグルーヴからはまるで般若のような、鬼の様なオーラが溢れ出ていて、後ろにいるブライアンもなにか4本足の動物のようなオーラを出して彼女と共に眼を光らせていた。
「いや、見ていない」
「ではこちらを」
すっと渡された校内新聞の内容は
『我らが生徒会長!学生結婚か!?相手はトレーナー?』
そして、それを読んだルドルフはにこやかに微笑んでいた。
…こめかみに青筋を浮かべながら。
「うーん…廃部だな」
「「その前に説教ですね」だな」
「え?」
と、エアグルーヴとブライアンに引きずられて行った。
***
結局、2人にこってり絞られた生徒会長はしょんぼりした表情で生徒会の業務をこなしていた。ルドルフには内緒だが、この新聞は僕とデジタルで作ったもので、エアグルーヴとブライアンは最初から知っている。
2人とも卒業と同時にトレーナーを懐柔する算段だったらしく、抜け駆け断罪!と乗り気で了承してくれた。まぁ、2人がかりで絞ってたので、ルドルフが過度なスキンシップを控えてくれるといいんだけど…
「トレーナー君。今日の夕飯は何がいい?」
「は?…………ルナの好きなヤツで」
「わかった!」