王直属護衛軍が余の胃を殺しにきてる 作:小指の魔術師
今回は王様が思春期の少年バリにザワザワしてる。
ウジウジからスパッと切り替わる描写がちゃんと出来ていればいいんだけどなぁ。
あともっとハンタ小説増やして。みんな書くんだよ!
抱えた盲目の少女を庇いながらもなお労せずその襲撃を避ける。軽いステップや少し首を避けるだけの作業ではこの身を捉え切るどころか、消耗させることも叶わないが。
それでも意味はあった。
少なくとも精神は揺さぶられた。
去来する感情の連鎖爆発。困惑し理解した直後に来る虚脱感や絶望感、もはや運命と言うレールからは脱線出来ないのかと胸中を巡る異物感が癇に障る。そして怒りが、熱く滾った憤怒が身を焦がす。
パリストン、あの男は手を取り合おう等と謳いその実最初からそんな気などサラサラない。企みがあるだろうとは思っていた。しかし想定が甘かった。まさかのあの食えないやり取りの応酬全てがブラフ。
丁寧にカットした宝石を懐に仕舞うように見せかけながらドブに投げ捨てるその行為。今すぐにでもパリストンを一緒のドブに放り投げてしまいたい。
随分と手間暇掛けて作り上げた虚像だ。それが出来る頭に人、金があると言う事なのだろう。
従僕の徒も私と同じく無傷で損耗した様子はない。しかし同じく怒りを孕んでいる。敬愛してやまない私が貶められた事実が許せないのだろう。その怒りの矛先は私か敵か、それとも己なのかはそれぞれの胸の内にしか預かり知らない。
雨が止んだ頃合で倒れた椅子を起こし少女を座らせる。何が起こったか分からない少女を暫し黙殺した後、私も相対するように座した。私の椅子は見事に粉砕されていたから尾を椅子の代わりとする。
「茶が冷めた」
冷めたでは済んでいないが飲めたものじゃないと言う事実は変わらない。プフを見遣り新しい物を要求する。簡単だカップをコツンと爪弾くだけで伝わる。
但し追加で
「はっ」
粛々と茶が用意されていくのを横目に少女に改めて顔を合わせる。口を噤んでソワソワと忙しない様子だ。能力の発動もして居ない処から何かしらの制約が絡むのだろう。
「追加で客が来る。招待も受け付けない粗忽な茶会となるが許せ」
「え、あ……はい」
なお困惑極まるだろうが私にも適切な対応の用意が無い。
「ピトーは客をここまで案内せよ」
危険な行為だと強く反発するだろう従僕を有無を言わせず従わせる。だがいざとなれば一斉に掛かり轢き殺すと胸に決めたのだろう。その顔は落ち着きを取り戻し翻って邪悪さを携えた。
ユピーが気を利かせて椅子を人数分持ってきた。パイプ椅子と言う王が座るには粗末なものしか用意できない事を詫びられるも私は気にしないと一言返す。寧ろ自発的に行動した事を褒めたい所だ、しかし生憎そんな気分にはなれない。許せユピー。
壁越しで伝わる強者の馨香。その中でなお匂いたつ存在が一つ。
ドア枠だけが残った扉から覗くのは、先頭にピトー、次に老人2人に巨漢が1人。緊張が伝わってくる。私を目視してから目を見開き汗を流す姿からその緊迫ぶりが窺い知れるというもの。
「お客様をお連れしました王様」
「うむ」
役目を終えたピトーもユピーに倣うように背後に並ぶ。
「座れ」
一言。たった一言そう発した。
「随分と悠長だのォ」
「二度言わすな」
口を開いた暗殺者の老人に殺気を飛ばす。一般人だった私にそんな芸当できる筈もないのだが、この世界では殺気はより明確な形がある。ただ最大限の悪意を込めてオーラを放出するだけ。
直ぐに収めるが脅しとして十分役立ったろう。如何に表面上取り繕おうと早鐘を打つ心臓は止まらない。まぁそういう状況下でオーラが乱れていないのは凄まじい胆力と技術だと思う。
引かれた席に着席した面々、キッチンからはふわりとお茶の芳香が漂ってくる。暫し香りを楽しだ甲斐あってある程度心が安らいだ。
「して、如何なる用向きだ?」
沈黙が流れる。
いや私も分かっている、しかしそうあって欲しくないからこそ問わずにはいられない。最初から答えなんて知っているのに。
「心」Tシャツに短くなった髪。
この姿で現れた時点で何しに来たのか、否応なしに分かってしまう。そしておそらく戦えば私が勝利し、直ぐに死に絶える事になることも。
「この身に託された願いは全種族の統合。そしてそれは摂食交配により実現される」
ざっくり話すとこの星の生物を喰らい尽くし、生物としての完成形へと至る的な話。その為には強くならなくちゃいけないわけで、人間はエサとして優秀であるわけだ。
悲願達成には人間の家畜化が一番効率がいいって事で原作ではああなったんだろう。
人間からすればそりゃ相容れない。そしてこの悲願もまた本能、いや遺伝子により強制される傾向にある。少なくとも王としての私はそうすべきと吼えている。
だが私は抗える。
王としての余も、人間としての私も共存できる。実際に私は未だに人肉なんて食っていないし、この先も食う気はない。種の繁栄の件も考えがある。
「だが既に人間は遺伝子に組み込まれている。更に必ずしも摂食交配だけが手段ではない事も知っている」
だから戦う必要はないのだ。そのはずだ。
「故に既に余たちの前に戦う理由は存在しない」
だから何か言ってくれ。
「互いに難儀じゃな。名はたしかメルエムだったかの?」
そこへプフが茶を運んできた。所作はどこで勉強したのか優雅で嫋やか。表情も微笑で感じも良い。目の前に優しく置かれたカップからは盲目の少女が入れたもの以上の仕上がり。見て学んだのか元々知っていたのか、これでなんで料理は出来なかった。
ここまで完璧な従僕を持てて鼻高々だったが、私以外の扱いが露骨に雑だった為一瞬で鼻がへし折れた。ドスンじゃないぞプフ。毒とか盛ってないよな?
取り敢えずお茶を飲んで一息。美味。
「母から聞いたか?」
「部下から弱った女王を保護したと聞いとる。まぁどちらにしても真面に動ける状態じゃないらしいがの」
もとより放っておけば直に死んでいた命。保護される形で少しでも生き長らえるならそれはきっといい事だ。私のエゴの様なもので、親孝行なんて綺麗な物じゃないが少しは母の為になっただろうか。
「そうか、感謝する」
護衛軍ステイ。後ろに並んだ3人から異様な圧力を感じる。人に頭を下げて礼をする事がそんなに看過出来ないか?
いや出来るはずもないか、王は自らの命より大切だものな。立場を理解していない行動をした私が悪い。だから殺意を漏らすな仕舞っといてくれ。
「互いに立場がある。ぶつかり合うことはもはや避けられぬと言うことか」
「然り、だから速いとこおっぱじめたい。今もどんどんその気が削げてく」
この様子だとプロハンター数人を殺った極悪非道な王様として情報が流されてるか。それで実際会ったみたらこんなだったと。まぁ後ろの3人組は極悪と言って差し支えないが。
「それでも闘うのか。既に我々がどのような存在なのか理解したはずだ。余から死臭はするか?」
「フム、確かに危険は無いのかもしれないの。だがそれじゃ納得しない人間が多いのよ」
「平行線、か」
「さてな、もっと話し合う時間があればいずれ混ざりあったやもしれん。じゃが時間もそこまで取れんからの」
いやそれをするにはもっと入念な準備が必要だった。速さでは無い。けれど私には強い後ろ盾は無いし、ネテロも板挟みで身動きは取れない。唯一パリストンさえ言いなりに出来たなら望みもあっただろうが、正直不可能だと思う。
完全に詰んだ。
腹を決めるしかないのか。
乾いた唇をカップに残るお茶全てを使い潤す。息を吐いて思考をまとめ、前を向く。目の前にはアイザック=ネテロ、ゼノ=ゾルディック、シルバ=ゾルディック。まさに選りすぐりの強者、古強者と言ってもいい。
私は初めて確かな像として3人を見た。ピントを合わせる。これより如何なる攻撃を撃ち落とし、防御を上から砕こう。可能不可能ではなく、してみせると心を燃やす。
「場所を移すぞ」
席を立って外へと向かう。少女の横を通る際に肩に手を置き世話になったと伝えておこう。なんだかんだで仮住まいを壊してしまった。いや私はやってないが、まぁ似たようなもの。パリストンからは報酬をたんまり貰え。ピンハネを許すな。
「王の恩情感謝するといいにゃ人間」
(訳:王様の機嫌次第じゃ死んでたぞお前)
「実に口惜しいですが、私としてはまたの再会を期待します」
(訳:次は実験動物になってね、また会おう)
「じゃあな」
(訳:じゃあな)
なんか期待通り過ぎる内容に泣けてくるな。不意打ちこそされたが、正面ならば王は負けないとか思っているんだろう。いや好都合だから口には出さないが。
「じゃあの」
「ご馳走さん」
「邪魔したな」
その後困惑を隠せない少女の叫び声が家の外まで聞こえてきた。最後まで阿呆っぽいというか、気が抜ける少女だったな。
「此奴に乗ってくぞい」
それで出されたのは龍。ゼノの【
「やれやれ高いタクシー代だわい」
「結果的にぼろ儲けもいいとこだったわ。次の依頼代は20くらい負けてやるぞ」
曲がりなりにも激励のつもりなんだろう。少し居心地が悪いな。
「我が護衛軍よ」
「「「はっ」」」
一斉に跪く異形の従僕たち。私はここで最も残酷な命令を下す必要がある。私が私である為に、余が余である為に侵してはならない境界線を設ける必要がある。
「これより許可があるまで一切の手出しを禁ずる。たとえ余が死に絶えそうになったとしてもだ」
動揺は直ぐに顔に出た。まさに蒼白、今にも死んでしまいそうなほど痛々しい。踏みしめる足元は亀裂が出来るほどに強い荷重が掛けられている。
「そ、れは? 一体……」
「余等はケダモノか? 違うはずだ。余と言う王がいる以上そこには法があり、道理も存在する。無くとも今定めた」
確実にネテロに勝つなら護衛軍と協力してリンチにすればいい。攻撃は私とピトーが、防御にはユピーが、幻惑し牽制するならプフが。だがそうはしない。
何故ならそれをすればもはや私は自分を律せない。そんな事をしてなお人を食うなと言えるか、言えるはずない。
高潔な存在になろうとは思っていない。ただ自分を誇れない生き方を続けると魂が腐り落ちる気がする。そしてそんな生き方を知らない従僕たちに手本を見せる必要がある。
この先も共に生きるために私から学び取って欲しい。
「よいか、この禁を破った時は余に泥を塗る行為と知れ」
どうせ罰を与えると言っても覚悟の内ですと突っ込んでくるに違いない。なら彼らにとって絶対譲れない存在たる王様を人質に取る。自分を人質とか妙な気分だが。
不承不承といった様子で命令を嚥下させたら尻尾を龍に絡ませて固定する。いざ決戦の場へ。
◇◆◇
決戦の場は代わり映えのない廃墟跡だった。音の反響で分かるが地下に広大な空間がある。如何にも今からお前を爆死させてやるぜと言った気概を感じる。
ドラゴンタクシーを降りると直ぐに護衛軍へ向く。皆一様に真剣味と悲壮感、焦燥、諦観などの感情が綯い交ぜになっている。
ゼノたちを見る。恐らく護衛軍の見張りだろう。しかし帰って貰いたい。あそこまでキツい命令を課している以上納得して貰いたかったな。
「其方等は帰れ」
「それは無理な相談じゃ。これも立派なお仕事だからのォ」
「……良かろうならば納得させる」
一瞬警戒されたが護衛軍に再び向くと困惑が伝わってくる。
「我が忠実なる護衛軍よ。【我に全てを捧げよ】」
念能力を発動する。とは言え派生技の様なものだが。
「「「【イエス・ユア・マジェスティ】」」」
【
配下限定で発動する念能力であり、対象のオーラを大量に吸い込む前に【イエス・ユア・マジェスティ】と唱えさせる事で了解を得たとし、対象の念能力、オーラを獲得する。なお対象と私は
そして上記の内容を予め説明し了解を得る必要があり、操作系能力などで強制させる事は出来ない。
オーラの吸引は半分も吸えば十分だが今回は8割は吸う。残り2割は自衛の為に使わせるから残すが戦闘能力は激減するはずだ。元来の肉体強度の高さがあれば死ぬことはないだろう。
「護衛軍はあくまで見届け人だ」
髭を撫で付けてネテロに視線をやるゼノは不服である事を隠さない。対してネテロはニィっと笑い手をフラフラと振る。
「帰ってよいぞォ」
「おいおい正気か?」
「タイマンで決着をつけたいと抜かすんだ。なら応えてやらんとな」
顔を顰め鼻から息を勢いよく出すと黙って振り返った。シルバもそれに続くが最後まで気を張っているとそう感じる。
気配が遠くに消えていくのを確認し改めてネテロに相対する。一切構えて居ないように見えて何時でも百式を繰り出せる状態まで練り上げられている。
吹けば吹き飛びそうだった老人は既に居ない。見えるのはもはや世界樹に並ぶのではと言うほど巨大な老樹。揺るがないオーラと圧倒的存在感、葉など付いていない木は不自然なほど生気に溢れている。
「握手は必要か?」
私はオーラを解放する。
光子が揺らめく、拡散したそれは光の帯となり世界を包む。その勢いは大気と激しくぶつかり合いまるで裂帛の如く鳴り響く。
構えた直後、頭上より不可避の速攻。目にも止まらぬ観音の手刀が振り下ろされる。
「これが握手だ」
火蓋は切られた。
中には今までの話何だったの? なんて言う人がいるかもしれない。
結局ネテロと戦ってるもんね。避けようとしてたのに結局やり合うんかいみたいな感じ。
でも作者的にいると思ってね……
言語化がムズいから具体的にこうって言えないのが歯痒い。でも必要だと思うのよ。伝われェ。
ネテロの内心。
序盤→強い相手なのはいいけど気が進まん。
中盤→へぇ面白い蟻んコ。
終盤→♡感謝するぜ♡
感想、評価、誤字報告ありがとうございます。
我感想沢山欲す。