王直属護衛軍が余の胃を殺しにきてる 作:小指の魔術師
なのでここをこうしたらいいとかあればこっそり優しく教えてくださいね。
あとネテロ原作より強化してます。
乾いた大地が砕け粉塵が周囲を覆う。【百式観音】が放った不可避の一撃は容易く蟻の王メルエムを殴打した。捉えたと確かな手応えをネテロも感じていた。
「乱暴な握手もあったものだ」
やはりなとネテロは独り言ちる。砂煙に覗く敵影を睨み付けながら、声の持ち主の隠せない強大さで大方察することが出来ていた。
しかしその圧倒的な彼我の差がネテロにとっては嬉しくて堪らない。
晴れた煙の先でメルエムは立っていた。小さな傷も無く、立ち昇るオーラにも翳りがない。
「呆れた頑丈さだわい」
そのまま百式の手刀を引こうとしたがどうにも動かない。ビクともしない。原因は直ぐに判明した。メルエムの手が何倍も大きい百式の手を掴んでいたからだと。また根を張るように広がるオーラが楔の役割を果たしていた。
驚くべき膂力、そしてオーラの操作技術。とてもではないが齢数日とは思えないと目を見張る。護衛軍の《纏》からキメラアントがヒトより熟達速度がずば抜けていると推察出来るがメルエムはそれを比較しても異次元。
「握手は握り合うものだ」
ただ一言そう零しメルエムは手を離した。
元の鞘に収まった百式を霧散させ暫しの静寂。
ネテロの胸中は早鐘を打つ心臓と共にあった。勝ちが見えない。この短時間で生まれた戦況が物語っている。けれど胸の奥底から沸き立つそれはどうやらこの事態にへこたれる様子はないらしい。
久しく忘れた勝ちに対しての飢餓感。
その事実がネテロをこの場に立たせていた。
「初手は譲る」
その一言にむかっ腹が立ったがそれならそれでと再び【百式観音】を顕現させる。選んだ型は連続の掌底。宣言通りメルエムは避ける素振りすら見せず眼を閉じている。
高速で放たれ続ける掌の雨は最早滝壺にも等しく、淵を深く更に深くとメルエム諸共沈下させていく。そしてその光景を言葉そのまま指を咥えて傍観していることしか許されない護衛軍の心さえ沈下せしめる。
(あぁ王よ、何故なのですか? 何故このような仕打ちを……)
プフは到底理解出来なかった。敬愛する主人の心も命令の意図も。今からでも遅くないと飛びかかる体勢に移るがそれは両脇からの妨害で成り立たなかった。
プフは震える唇を噛みちぎった。滲む血は顎に伝うとそのまま地面に青い染みを残してゆく。俯くプフを見てピトーはそれが涙のように思えた。
ピトーもユピーも気持ちとしてはプフと同じところにあった。それが分かっているからこそプフは何も恨み言を吐けずにいる。
「王命は絶対だ」
「分かっています。分かっていますとも……」
本来王を心配することすら不敬。メルエムは絶対強者である事は最早疑いようも無く、またネテロがメルエムより劣る存在だという確信があった。負ける筈がない戦だと重々承知しているはずなのだ。
しかし三者三様ではあるが護衛軍は目の前の闘争に焦燥感を覚える。まさに虫の知らせと言えようその直感は徐々に虚像から実像へと変わろうとしている気がする。
メルエムの移動速度は最早目で追いきれるものではなく、瞬間移動と見紛う乃至そのものだと感じるほどに常識外れの速さを得ている。溢れ出すオーラから光そのものが縦横無尽に飛び回っているようだ。
凡百の人間なら一瞬にして原型をとどめない肉塊へと成り果てる。どんなに優秀な戦士でも数回のぶつかり合いで結果を同じくする。
けれど目の前の老木は数十数百の打ち合いの果てに未だ健在。よもや目で追えて居るのかと護衛軍は驚愕しているが、事実は異なる。
(ダメだこりゃ、なんも見えんわい)
ネテロはメルエムの影すら捉えていない。
度々メルエムを撃ち落としている百式の掌は彼の勘、そして想像によるもの。最早自身が想像するメルエムを相手取る他出来ることがないと即座に見抜いたのだ。
しかしこのまま弾き続けてもいずれ力尽きるのは自分。いや力尽きるより先にメルエムが想像上のメルエムを上回るのが速いかもしれない。ネテロは思う「このまま真綿で首を絞められる様に縊り殺されるのが1番しょうもなくて、つまらない」と。
全神経を集中させ胸の内に収まる心音すら忘れ祈る。一瞬の煌めき、ネテロはその一瞬にメルエムの姿を見た気がした。幻影であろうと構わない。この腕に全霊を載せて振り抜ければ。
斯くして手刀は振り抜かれた。これまでで一等強い一撃は地を穿つ。立っていた地面は崩壊し重力に従い地下空間へと落ちて行く。手刀の延長上は例外無く砕かれ地下にまで破壊の余波が見て取れる。
特に凄まじいのはやはり手刀の延長上。巨大なクレーター、その中心に残る人の影を残す穴。そうネテロは見事メルエムに攻撃を与えた。弾くでも流すでもなく、まして握手でもない。初めて攻撃らしい攻撃を与えた。
この一矢がネテロを急激に興奮させる。遅咲きだった武の道。更に蕾が開花するかもしれない。
「まだ道半ば、未だに見えぬ武の極点ってか。笑かしてくれるじゃねぇか! こうでなくちゃな!」
闘気を高めるネテロに対してメルエムは激しい動揺の中にいた。原作のメルエムの様に軍儀の如き詰め方は出来ない。しかし全てに於いて比類ない身体能力、オーラ総量、何より原作知識を持ってすればネテロを圧倒する事も不可能ではないと思っていた。
それ故にこの状況を理解する事が阻害される。
揺れる視界、血の味、地に埋まった五体。
痛み。有り得るはずのない痛み。
(傷を負ったというのか……)
穴を脱しながら完治されつつある負傷は認識し難い。だが確かに痛んだ。口に溜まった唾を吐き出せば血が混じっていた。
「試すか」
癒えた身体で高速機動を開始する。噴出するオーラを起爆剤に立体的に飛び掛りネテロの四肢を狙い穿つ。先程までなら【百式観音】の手により塞がれ弾かれる結果に終わっていた。
メルエムとネテロの目が合った。
「見切ったぜ!」
阻んだのは掌ではなく貫手。勘で振るわれていた【百式観音】は結果的にネテロの身を守れていただろう。しかし確信を持って振るわれた【百式観音】は翻弄してきたメルエムの神速を味方につけた。
柱をへし折りながら内臓まで届く鈍痛に僅か目を見開く。オーラを集中させれば防げるだろうが他の部位を狙われようものなら良くて破裂と言ったところ。肉弾戦でネテロの鉄壁を崩すのはリスクが高くなった。速度を落として原作をなぞろうとしても通用しないだろう。
「なら次は力で押す」
右腕が泡立ちはじめ変容する。肩は薬室、腕は砲身、手は砲口。無尽蔵に感情とオーラを溜め込み放出する大砲の完成だ。やや禍々しいのが難点。
吐き出される光は大気を切り裂きながら直進する。遠くに待機する護衛軍にまで熱と光は届き着弾の衝撃は火山噴火を想起させた。
「当たったらお陀仏じゃな」
受けられないと判断するまで時間を掛けなかったネテロは有無を言わず走った。余波で瓦礫に頭から突っ込む羽目になった以外は限りなく幸運と言える。
燻る砲口に目を細め煙を切るように一振する。
「威力に重きを置くとどうしても速度に欠けるな」
攻撃力にほぼ全振りした念の砲弾は冷静な判断力を持ったネテロには当たることはない。申し訳程度に放散する様にしたものの結局は避けられた。これも失策。
ならばとメルエムは両腕を突き出した。
「当たらなきゃもう一発か猿知恵だな」
「どちらかと言えば猿ではなくゴリラだな」
左腕を大砲にすると続いて肩から、背から、腿から。そしてメルエムを幹とし肉の枝葉を広げ大小様々な砲口を覗かせる。
「避けて見せよ」
斉射。
光と甲高い音だけが場を支配する。潤沢なオーラを湯水の如く消費させ弾幕を張り続ける。一生続くと思われた破壊は軈て終わりを告げた。煙の立ち昇るその場には破壊痕以外何もない。普通はその筈。
だが影が見える。
「避けきったか」
ネテロである。肩で息をしているし裂傷が目立つが確かに立っていた。
「バカスカ打ち込みやがって。もうちっと年寄りを労われ」
「年寄りか其方に似合わぬ表現だな」
荒れた息を整えるのを見届け、大砲を引っ込めるのを見届け、両者は改まって向かい合う。
「
「余もこれ以上手札を出した所で望む結果は得られぬ事は理解した。受けて立とう」
メルエムはネテロの手元を伺う。それに気付いたネテロはニィっと笑うとゆっくり合掌する。
祈る。
目の前で仁王立ちする好敵手とそれに巡り合わせた武に最大限の感謝を捧げる。この闘争に幕を引く時が来た。この一撃に全てを込める。勝とうが負けようが最早そこより先はない。全てを賭す。故にこれが人間にして武人アイザック=ネテロ最期の祈りとなるだろう。
ゆらりとメルエムの
「【百式観音】〝零乃掌〟」
目の眩む光は次第にメルエムの表皮を炙り濁流となって呑み込む。ネテロがこの時まで溜め込みに溜め込んだ全オーラを凝縮して打ち出される。すっからかんになるまで、零に至るまで無慈悲にまで撃滅する奥の手。
繰り出されたならば必死であろうその奔流の中、メルエムは一人勝利の確信を得た。
口を大きく開き吸引する。オーラの捕食は《周》の施された武器からも、《纏》や《練》と言った身体を覆った状態でも対象のオーラを捕食する。それは念弾であろうと例外ではない。
つまり〝零〟も例外無く捕食する事が可能。
この捕食能力の弱点は口からでしか吸引出来ないところにある。事実メルエムの大部分は未だに奔流の中だ。けれど言い換えてしまえば口からならば吸引が可能なのだ。
腕に脚に胸に腹に口を作り出せるならば、身体中に口が有るならばこの捕食能力は使用可能という事になる。普通なら不可能だがメルエムはつい最近その不可能を可能とした。ユピーの能力によるものだ。
腕や目を増やし、羽や馬の胴体を作り出し、身体の質量さえ自在の変身能力。口を増やす程度あまりに容易い。この能力は運用次第であらゆる制限を超える。今回の制約の件もあるがメルエムには本来備わっていない蝶の羽を生やしプフの能力も使用出来る。
誤算があるとすれば奔流の勢いが増して体内を焼いた事くらいだろうか。消化器官を軒並み焼かれ再生し焼かれといたちごっこになり想像を絶する痛みを発している。だが吸引はやめない。
社畜じゃなかったら気絶していたかもしれない。
「耐えよったか。まぁ知っとったがの」
老人とは思えない筋肉がしなしなの枯れ木に変貌したネテロは大の字で倒れた。
「満足か?」
「満足かって? 無理だなそりゃ。一生満足出来ねぇ」
「全力を出せたのにか?」
「出せたから余計に、じゃな」
とは言うもののしわくちゃの顔は充足感に溢れているように見えた。かと思えばネテロは「あっ」と声を漏らしバツの悪そうな顔をする。
「ワシ後ちょいで死ぬわ」
「は?」
「そんでもってここら一体焦土と化した上で毒撒き散らすわ」
「……猶予はどれくらいだ?」
「3分くらい。それでワシの心臓が鼓動を止める」
三本指をフリフリ。
見事な空気ぶち壊しムーブにメルエムの鋼の表情筋もヒクりと痙攣する。
「ピトー緊急手術だ!! 執刀医は余が務める。ユピーは近くで守れ。プフ《円》で警戒せよ」
激戦をハラハラで傍観していた護衛軍は王の勅命を耳にした瞬間全力で行動を開始した。
「「【
◇◆◇
あの日薔薇が咲いた。
地獄の業火に有害物質の拡散。ニュースでは某国が実験を行ったとセンセーショナルに報道されている。コメンテーターは環境汚染やら生態系への影響に言及しているが、結局は在り来りな事を吐くだけである。
続いてのニュースは思わず顔を顰めた。ハンター協会会長アイザック=ネテロ氏の訃報。とある依頼を命懸けで達成したとアナウンサーが言っているがどのような依頼だったのか誰の依頼なのかは伏せられている。実際このアナウンサーも知らないだろう。
ゲストでプロハンターが出演しているが全く知らない人物だった。肩書きもプロハンターとしか出てきていないので本物なのかも定かじゃない。
「つまらぬ」
溜め息を零して弛緩する。見るべきものは無いとテレビの電源を落とす。キメラ=アントに関するニュースが流れるかと警戒していた最初の自分の肩を叩きたい気分だ。
バシンと後方のドアが勢いよく開いた。
「扉くらい静かに開けよプフ」
「申し訳ございませんメルエム様。しかしながら直ぐにでも相談したき儀がございます」
ふむ遂にキメラの誰かが暴れ出したか。チラリとプフの顔を見てみるとその表情は非常に高揚していた。嫌な予感がする。
「暗黒大陸についてです」
「誰だ此奴に悪知恵を施したのは?」
「ワシじゃよ」
助けなかった方が良かったか?
少しばかり若々しくなった故アイザック=ネテロが鼻をほじりながら出てきた。
「ちょっくらボンクラのハントに付き添ってくれや」
「余が必要とは思えん」
「行く方が面白いって」
面白いで暗黒大陸に行くバカがいるか、いや居たな。
「メルエム様、暗黒大陸は我々の故郷でありあらゆる資源に溢れています。今一度大海を渡り是非ともメルエム様の手で平定──」
これは物の見事に焚き付けられているな。下手人はしたり顔で見てくる正直殴りたい。
「あぁ素晴らしい景色ですメルエム様が治める国のなんと美しい事か。えぇ是非とも我々護衛軍も傍に侍りましょう。私が出来ることなど些細な事ですがただそう、メルエム様の為に馬車馬のように働く、ただそれだけの事!!」
なんでこうなった。
いやぁ難産でしたね。
全部メルエム視点で書いてたものがあってそこからボツで三人称で書き直したので余計時間掛かりました。リアルも忙しかったですし。
気になった点があったら感想のついでに聞いてください。正直わざと描写しなかったものとか、割愛した部分があるので。