サムライミ版のピーターに憑依した男っ!!   作:紅乃 晴@小説アカ

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Vol.Ⅰ パーカーショック
プロローグ


 

 

僕が誰かって?

 

本当に知りたいの?

 

まぁ……臆病な人には向かない話だよ。

 

僕の人生の話を、幸せなおとぎ話だとか、普通の男の話だとか、悩みのないやつの話だとか言うヤツがいたら、そいつはウソをついてる。

 

 

「おい!停まってくれ!乗せてくれ!」

 

 

ミッドタウン高校に向かうバスの横を必死に叩いている。

 

そう……これが僕。メガネに猫背で、いかにもオタクっぽい格好が学校の同学年の奴らから格好のいじめの標的にされてしまっている。バスの運転手も、車内で僕をバカにする奴らに便乗してわざと追いつけるか、追いつけないかの速度で走ってるんだ。

 

そんな意地悪なバスの横を並走するように僕は走っている。

 

誰も僕を助けてくれない。

 

それが当然だと、心のどこかで納得していたから、あんな事故に遭うことになったんだ。

 

 

「おい!乗せて……」

 

 

再び叫ぼうとした時、横の路地から飛び出してきた車に僕は跳ねられた。ボンネットの上に叩きつけられた上に、数メートルほど吹っ飛んだと後から聞いたけど。

 

 

「パーカー!!」

 

「ドジなパーカーが車に撥ねられたぞ!!」

 

 

流石にヤバいと思ったいじめ相手が、救急車を呼んでくれたことだけには感謝はしたかった。

 

そして、そこから僕の物語がはじまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパイダーマンという作品に出会ったのは、まだ幼い頃だった。

 

それまでは脚が8本もあってネバネバした糸を出して、あらゆるところに巣を張って獲物を待ち構える蜘蛛が苦手だったのに、スパイダーマンというヒーローはその嫌悪感を吹き飛ばしてくれるほどの衝撃を与えてくれた。

 

手首から出す糸。強靭な肉体。ニューヨークの摩天楼を飛ぶ鮮やかなスイング。

 

そしてイカしたデザインの衣装もさることながら、一番魅力を感じたのは、どんな苦境に立たされても必ず立ち上がる主人公、ピーター・パーカーの在り方だった。

 

彼は市民からバッシングを受けようが、デイリービーグルに悪態記事を書かれようが、どんなヴィランに打ちのめされようが……そして大切な友人や大切な人を失いながらも、必ず立ち上がって悪に向かい、挑んだ。

 

そのヒーローとしての姿が、幼い頃の自分には眩しくて、強烈で、とても憧れ、尊敬した。

 

その時から、スパイダーマンという作品の虜になったのかもしれない。自分の好きだったサム・ライミ版のスパイダーマンは三部作で終わってしまったが、その後のアメイジング・スパイダーマンや、マーベルシリーズのスパイダーマンも観たし、ゲームも初代から最新作まで買い漁って朝までプレイしたものだ。

 

あの日も、最新作のスパイダーマンの予告を見てからニューヨークを飛び回れるスパイダーマンのゲームを堪能して、布団に入ったはずだった。

 

だというのに。

 

目が覚めると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

 

「ピーター?」

 

 

目の前にクリフ・ロバートソンがいて、CV勝部演之さんの声が聞こえる。

 

いやいや、待て待て。待って?脳内が混乱して思わず布団を口元まで上げてしまった。変な声が出そうになった。

 

そして、そんな俺の混乱など知ったことかと言わんばかりに脳内がかけられた言葉を自然と処理した。

 

 

「やぁ、ベン叔父さん……」

 

 

あかん、今回の夢は相当アタリらしい。目の前に……あのベン叔父さんが……大いなる力には大いなる責任が伴うとピーターを諭してくれたベン叔父さんがいる!!と、内心でこんな夢を見れてラッキーとガッツポーズを取る俺に、ベン叔父さんは優しく体を撫でてくれながら微笑んでくれた。

 

 

「車に撥ねられたと聞いた時は心底驚いたものだ」

 

 

そしてベンの後ろ、そこにはローズマリー・ハリス演のメイ・パーカーがいた。彼女は花を花瓶に入れてから、目を覚ました俺に向かって微笑んでくれる。

 

 

「よかったわ、ピーター。頭を強く打ったとは聞いていたけど無事そうで何よりだわ」

 

 

おっほ、CV谷育子さんやないかい!!いよいよもってこの夢グッジョブすぎだろ、と声を荒げたくなるが、ふと俺はここであることに気づいた。ベン叔父さんと、メイ叔母さんが見ず知らずの俺にこんなに優しげな声をかけてくれることなどあっただろうか?

 

いや、流石に人のいい2人でもあり得ない。

 

そこで俺は自分の中に沸いた疑問の答えを得るためにベッドから起き上がった。

 

 

「叔父さん、叔母さん。ちょっとトイレに行ってくるよ……」

 

「おいおい、無理をするもんじゃあないぞ」

 

「んん、平気……大丈夫だから」

 

 

頭はちょっとフラフラするけど、目立った怪我が無かったのが幸い……幸い?怪我?なぜ、そんなことを考えるのか?ああ、これは夢だからか。単純に納得して俺は病院の廊下に出た。見た目からしてアメリカンな病院。通路ですれ違う人もみんな外国人だが、妙に違和感を覚えなかった。

 

何か妙だ。

 

そんな感覚はどこかにあった。

 

はじめての病院だというのに迷うことなく俺は洗面所にたどり着いて、鏡に映った自分の姿を見た。

 

ああ、間違いない。

 

この夢は……スパイダーマンの世界だ。それもまだ能力を得てないピーター・パーカーの……。

 

この顔……トビー・マグワイヤそのものじゃあねぇか!驚きの声を上げると同時に、自身の声もCV猪野学ということに気がつく。

 

ということは……このスパイダーマンの世界はサム・ライミ版のスパイダーマンだ。何という僥倖。スパイダーマンという作品に出会うきっかけとなった世界に、夢とはいえ入り込む……しかもピーター自身になれるとは本当に夢のようだった。

 

だが、夢にしては……あまりにも出来すぎていた。妙にリアルで、浮遊感や夢見心地といった感覚はなかった。

 

まぁ、これは夢だし、せっかくのサム・ライミ版のピーターになったんだからと楽観視していた過去の自分を殴ってやりたい。

 

だって、病院で数日検査入院を終えて、郊外にあるパーカー家に戻ってきても、隣に住むヒロイン、MJことメリー・J・ワトソンとその父の言い合いを聞いても、学校でフラッシュにいじめられても、ベン叔父さんと2人で天体観測してもまっっっったく夢から醒めないもの!!!

 

え?なに?夢にしてはリアルすぎるし長すぎない?フラッシュにぶん殴られた頬は痛いし!!ちなみにぶん殴られた理由はフラッシュ・トンプソン役のジョー・マンガニエロに会えて感激すぎて人目を憚らず抱きついたのが理由だったりする。あとMJと初めてあった時は驚きと嬉しさのあまり硬直したのちに卒倒しました。保健室にお世話になったの計2回です。

 

だがしかし、フラッシュにぶん殴られたあたりで気づいたけどこれは真面目に夢じゃないと思う。信じられないし、俺も信じたくはないけど、確かにこの世界はスパイダーマンの世界であり、あろうことか単なるファンでしかなかった俺が恐れ多くもスパイダーマンであるピーター・パーカーの肉体に入ってしまっているのだ。

 

オイオイオイ、俺死んだわ。

 

数日というか、数週間この世界で生活してみて分かったけど、おそらくピーターがコロンビア大学の研究室で蜘蛛に噛まれる一ヶ月前くらいに来てるわ俺。

 

つまり、俺はもうすぐスパイダーマンの能力を手に入れることになるし、後の親友であるハリー・オズボーンの父、ノーマン・オズボーンは未完成の超人薬を飲んで狂人化した人格が形成されたグリーンゴブリンになるわけだ。

 

そしてなにより、ベン叔父さんの死が間近に迫っている。

 

現実逃避してもこの世界がリアルに近い非現実であることに変わりはない。俺は学校でいじめられているし、コロンビア大学に社会見学に行くのも確定しているのだ。

 

あかん、元のピーターがどういう精神構造をしていたのかはわからないけど、俺程度……単にスパイダーマンが好きな一般人にあんな過酷な運命を歩めるはずがない。

 

そう気づいたとき、俺は最初は夢見心地で最高だと思っていたこの世界が途端に恐ろしくなった。

 

ハイスクールに行くのも怖くて、家を出るのも怖くて、ベン叔父さんやメイ叔母さんに心配されたまま俺は学校をズル休みしていた。

 

流石に2日連続ズル休みとなると居心地も悪くなるものであって、2日目は学校に行くふりをして近くの公園で無職になったリーマンよろしく項垂れる時間を過ごしていた。

 

寝ても覚めても、この世界から目覚める兆候はない。いったい俺はどれだけの時間をここで過ごさなければならないのだろうか?

 

今は17歳。もう少しすれば高校も卒業だ。その頃に原作通りに進めば俺はきっとスパイダーマンの力を手に入れることになる。

 

けど、その大いなる力のために大いなる責任を負う覚悟なんて出来ていない。出来たとしても背負って生きていける自信がない。

 

そうだ!いっそのことコロンビア大学なんて行かずに今日みたいにズル休みをすればこのままスパイダーマンにならずに平凡なピーター・パーカーとして生きていけるのではないか!?

 

そんな打算にも似た思考に陥っていた時だった。

 

ふと、公園の入り口から外へボールが跳ねて出ていくのが見えた。それを一心不乱に追う少年。ボールは車道に出て行ってしまい、少年は構わずに歩道から車道に飛び出そうとした。すぐそこに大型のトラックが来ていることに気づかずに……。

 

 

 

 

勝手に体が動いていた。

 

少年の後を全力で追って、車道に飛び出す直前に少年の手を掴んで引っ張ることができた。自分と少年の眼前を大型のトラックが過ぎ去る。ほんとにスレスレで後一歩出ていれば俺も少年と同じように轢かれていただろう。

 

少年を抱きとめて後ろ向きに倒れた俺は、異変に気づいた少年の母親がこっちに駆け寄ってくるのが見えた。

 

母親は少年を抱き上げて、何度も何度も俺に礼を言ってきてくれた。さっきまでウダウダと現実逃避をしながら学校もサボって公園でぶらついてる俺にだ。

 

手を繋いで去ってゆく親子の背を見ながら俺は考えた。何故、あの時勝手に体が動いたのだろうか。ヒーローなんて責任重大な存在になる度胸もないのに。

 

いや、そんなことじゃない。そんなことはわかっていた。きっと、ピーター・パーカーという存在はスパイダーマンの力を手にしなくても不屈の精神と正義の心を持っていた。その心に俺も無意識に影響を受けていたのだろうか。

 

そんなもの、わからない。

 

だが、本当に感謝してくれたあの母親と、助けてくれてありがとうと言ってくれた少年の言葉だけは本当で、事実なのだと思った。

 

きっとこのために、ピーターは……スパイダーマンは、どんな困難にも苦難の状況からも立ち上がって、立ち向かうことができたのだろう。

 

 

 

……よし、決めたぞ。

 

もう、ヒーローになれないとか、元の世界に帰れないとか、スパイダーマンになるのが恐ろしいなんて言わない。まだ何も現実になっていないことにクヨクヨ迷ったり、悩んだりしない。

 

たしかに、スパイダーマンことピーター・パーカーが歩む道は苦難の道だ。

 

だからこそ、俺はこの悲劇のフラグをへし折って、幸福なスパイダーマンとして生き残ってやる……!!

 

原作知識を使った無双ピーター・パーカーってやつを見せてやろうじゃあないか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、幸福に生きてみせるぞ、と何処かの殺人鬼ばりな決意表明をしたのはいいが、まずはスパイダーマンの能力を授かるところから始めなければならない。

 

となれば、学校に通うことから再開だ!と思っていたのだが……。

 

 

「おおぃ!待ってくれー!!乗せてくれ!!頼む!!止まってくれ!!」

 

 

相変わらず、スクールバスは止まってくれない。座席に座るクラスメイトたちがニヤニヤしながらバスを叩いている俺を見下ろしている。そうこうしないうちにスタミナが切れて、バスが行ってしまうのを見送った。

 

もう少し頑張って走ったら、もしかするとあのバスに乗れたかもしれないけど、喉の奥はイガイガして、胸は痛いし、息苦しいし。気分は最悪だ。

 

どんだけ扱い酷いんだよ……メガネでオタクな感じがそんなにダメなのか?顔立ちは整ってると思うんだけどなぁ、こちとらトビー・マグワイアだぞコラァ!

 

そんな悪態を内心でついていると、黒塗りの車が俺の少し前でぴたりと止まった。え、なに怖いんですけど、黒塗りの車に後ろから突っ込んで免許出せコラァって言われるんですか?海外版ですか?ビリー兄貴呼んでもらえません?

 

 

「やぁ、ピーター」

 

 

黒塗りの高級車から降りてきたのは、我がピーター・パーカーの後の親友であるハリー・オズボーンだった。ほぇー、マジでジェームズ・フランコじゃねぇかイケメンすぎやろ。しかも声は鉄野正豊さんですよ!!専属声優さんってやつですね!!

 

 

「ハリー!」

 

「さっきからバスの横でマラソンしてるのが見えたからさ。一緒に乗っていくかい?」

 

 

そう後ろに目を向けるハリー。史実のピーターなら、割と情けない姿を気にしてるからハリーの気配りを断ったりするだろうけど、だが覚悟を決めた俺は断りはしない!!是非とも乗らせて頂こう!!とハリーの申し出を快諾した。

 

あと、ハリーは超金持ち。そのせいでフラッシュとか他の悪ガキからたかられたりするからそれとなく守ったりして俺が殴られたりしてるから、原作より若干仲良くなってたりしてる。あと庇ったというより俳優さんたちにテンション上がって突っ込んだらぶっ飛ばされただけです。

 

 

「ハリー、なんか元気ない?」

 

 

車に向かう途中、どこかゲンナリしてるハリーにそう問いかけると、ハリーは肩をすくめて応えた。

 

 

「父からちょっとお小言を言われてね」

 

「お小言とは随分な言い方じゃあないか」

 

 

リムジンの中から、聞き覚えのある声が聞こえる。このCV……山路和弘!!ジェイソン・ステイサムの声が一番ピンとくる声優さんだ!!あとゴットファザーシリーズにもよく出てますね!!

 

え、というかこんなとこでエンカウントしたっけ、ハリーのお父さん。

 

ハリーと共に車に乗り込むと、座席には高級そうなスーツに身を包んだウィレム・デフォー……もとい、ノーマン・オズボーン社長が足を組んで座っていた。ひえ、カッコいい。

 

 

「やぁ、ピーター。ハリーからは話を聞いている。私は……」

 

「ノーマン・オズボーンさんですね!あなたの学術論文は全て目を通しました。内容も革新的で実利も伴った素晴らしいものばかりです」

 

「あー……全て読んだのかね?」

 

「はい、貴方の大学研究員の時の遺伝子工学最優秀賞を取ったものから全てです」

 

 

本音を言えば貴方のハイスクール時代に出した色々な論文まで国立図書館や母校まで調べてひっくり返して読み漁りましたごめんなさい。だってピーターの知識まんま使えんだぜ!?英語も日本語バリに読める環境なんだ!読まないわけにはいかないぜ!!あとトニー・スタークの論文とかも読んでみたかったけどこの世界にはアイアンマンはいないみたいです。無念だ……!!

 

あと論文の中にはグライダーの雛形の構造力学とかの資料もあってめちゃめちゃ読み応えありました。わからん用語もたくさんあったけどな!!

 

 

「……素晴らしい。一度、君とはゆっくり話したいものだ」

 

 

ノーマンさんからお墨付きをもらえて嬉しいです。あとハリーが少し複雑な顔をしていました。うーん、ちょっと嫉妬的な感じがありますね!だがそんな複雑な感情なんて関係ないぜ!!

 

ノーマン・オズボーンが設立したオズコープの本社前でノーマンさんが降りるのを見送り、ハリーと一緒にハイスクールに行く道中、俺はハリーにある提案をした。

 

 

「ハリー、ちょっと共同研究に付き合って欲しいんだ」

 

「共同研究?」

 

 

首を傾げるハリーに、俺はカバンからノートを取り出してページをめくった。中に書かれているものを見たハリーは少し怪訝な顔をして俺を見てくる。

 

 

「あ、あぁ、えっと……これをどうするんだ?」

 

「見た目からしてどう?」

 

「まぁセンスは無いな?」

 

 

うん、知ってる。俺がメモしたのはパッとみPCの部品でしかない。基盤をいくつか繋ぎ合わせてバッテリユニットを固定したガラクタだ。見栄えはかなり悪い。

 

 

「だろう?だから外観を君の手でアレンジしてほしい」

 

「……本気かい?」

 

 

まじまじとこっちを見るハリーにオフコースと言わんばかりに俺は頷いた。

 

 

「本気だよ、まじだ。君のアイデアと、僕のアイデアを組み合わせて作るんだ。きっと君のお父さんも驚くものだ」

 

 

構想をノーマンさんに説明したあと、できれば予算の交渉と実験できる小さなラボが借りられたらという本音も交えてハリーに話すと、彼は少し考えてから手を差し伸ばしてきた。

 

 

「いいよ。一枚乗った」

 

「そうこなくっちゃ」

 

 

後日、俺とハリーは資料をまとめて休暇中のノーマンさんの書斎をたずねた。結果、資料を見たノーマンはラボと資金の提供を快諾。データなどはオズコープに提出することになるが、そこは想定の範囲内。

 

ピーターの頭脳をフルに活かして、ハリーを巻き込んだ研究が軌道に乗り始めた頃。

 

ついにコロンビア大学の研究室見学の話が舞い込んでくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 


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