サムライミ版のピーターに憑依した男っ!!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第八話

 

 

どうも、スペース・ロジック社を襲ったグライダー爆撃を受けて這う這うの体でラボに戻ってきたピーター・パーカーです。

 

通信用のインカムと映像送信用のサングラスを爆風で木っ端微塵に破壊された結果、ラボの屋根裏から入るとハリーが顔面蒼白で出迎えてくれた。うむ、カーゴジャケットはボロボロだし、サバイバルパンツも焼けてるし、背中は痛いし肋は痛めてるし傷も多くてしんどいけど俺は元気です。

 

変装用の服をとりあえず着替えて、包帯を巻いてもらってるところで祝賀会後のお偉いさんの付き合いで遅くなったオクタヴィアス夫妻とノーマンが帰還。ちょっと見ない間にズタボロになった俺をみて全員が絶句してた。

 

なんて言い訳したものか、と考えていたらハリーがまさかの爆弾投下。俺とハリーで調べたスペース・ロジック社の技術横領を説明して、ハリーはロジック社に事実確認をしに行ったところ、車に轢かれたと俺が軌道修正しておいた。

 

軍経験者が見れば、俺の傷は明らかな爆風による裂傷だとわかるだろうが、このオクタヴィアス夫妻もノーマンも軍属ではなかったため車に轢き逃げされたということを信じてくれた。ノーマンは「車の特徴やナンバーを教えろ。なにがあっても捕まえて償わさせてやる」とグリーンゴブリンも真っ青なマジギレ顔でそう言ってきてくれた。とりあえずでっちあげると地の果てまで架空の轢き逃げ犯を追いかけそうな勢いだったので轢かれた衝撃でなにも覚えていないということにしておいた。

 

一方で、オズコープ社の技術が同業他社に流出していた件については、ノーマンの方で出どころを調べるということで一旦預かりとなった。オクタヴィアス博士としては、アークリアクター技術は既に確立されたシステムであり、複製や模倣されるのは仕方がないというが、オズコープ社製だとわかれば社会批判は免れないだろうと言っていたので、ノーマンもすぐに動くと約束していた。

 

 

「私の研究はある意味完成したが、ピーターやハリーの若い者たちの未来を奪うのはどうにか避けなければならない」

 

 

そう真剣な眼差しで言う博士の顔には、トリチウムによる新エネルギーの研究に没頭していた時のような生き急いでいる雰囲気はなく、純粋に俺やハリーの将来を心配している大人の表情が浮かんでいた。彼の結末の一つを知る者として、今のオクタヴィアス博士の姿に少し泣きそうになったがヒビが入った肋を押さえて痛みで誤魔化した。

 

とりあえず俺はそのまま救急車に乗せられて病院へ。ノーマンから連絡を受けたメイおばさんとベンおじさんも病室に駆けつけてくれた。

 

最近はよく車に轢かれるわねえ、と無事の俺の姿を見てホッとしながらメイおばさんは言う。たしかこのピーター・パーカーに憑依したのも交通事故が原因だったっけ?おじさんは「とにかく養生して力をつけなさい」とゴツゴツした手で頭を撫でてくれた。

 

入院も明日の朝一から検査を行なって、問題なければ夕方にでも退院できるらしい。ぶっちゃけスパイダーマンパワーのおかげて痛みはほぼ引いているし、ヒビが入った肋も徐々に治っている。治癒力も馬鹿みたいに上がってるんだなぁとか思いながら、ハリーやオクタヴィアス夫妻、ノーマン、おじさん夫婦でごった返していた病室からそれぞれが帰路についていく。

 

ハリーは心配だから泊まると言ってノーマンを見送った後、部屋に鍵をかけて窓にカーテンを広げた。

 

 

「ピーター、あそこで何があった?あのグライダーには……本当にウェンディが乗っていたのか?」

 

 

悲しさと困惑が入り混じったような顔でそう問いかけてくるハリーに、俺は少し迷ってから頷く。親友であり、とことん付き合うと言ってくれたハリーには嘘はつきたくなかった。ウェンディが軍事利用。しかも自立型AIとして使われていることにハリーも、そして俺自身もショックを隠しきれなかった。

 

 

「俺たちは、人殺しをさせるためにウェンディを作り出してしまったのかな……」

 

 

項垂れて顔を手で覆いながら弱々しい声でハリーはつぶやく。ハリーと一緒にウェンディのAIを作っていた時は、こんな悲しみなんてなかったはずだ。

 

ウェンディは、そんなことのために生み出されたAIではない。人の役に立ち、人の手助けをし、人に感謝されるために生み出された存在だ。決して、人殺しの道具になるために生まれてきたんじゃない。

 

俺は立ち上がった。痛みに顔を歪めながら、けれど決して諦めずに立ち上がる。ハリーはいきなりベッドから立ち上がった俺に驚いていたが、躊躇わずにハリーに言った。

 

 

「助けよう。僕たちが作ったウェンディを」

 

 

たとえ相手が軍でも、国でも、政府であっても必ずウェンディを取り戻して、本来使うべきはずだったものに役立てよう。俺ははっきりとハリーに言った。無謀なことだとはわかっている。取り返せる可能性なんて万が一にもありはしないかもしれない。

 

だが、それがどうした。

 

それが諦める理由になんてなるものか。それが絶望する理由になんてなるものか。なんとかして、最後には必ず立ち上がる。

 

それが、俺の目指す本物のヒーローであり、スパイダーマンなのだから。

 

 

「……ピーターは、いつも突拍子もないことを言うからな」

 

 

〝なぁ、ハリー!ビルフロアサイズの機械を一緒に自動販売機サイズにしな……いったぁ!?いきなりなんで殴るんだよ!?〟

 

〝あーハリー。計算上大丈夫だろうけど重水素とパラジウムの配置間違えたら下手すると水素爆発起こすから……え?それは設置する前に言え?あー、ごめいったぁあい!!〟

 

〝ハリー大変だ!オクタヴィアス博士がシェイカーでニトログリセリンをシェイクしようとしてる!止めるの手伝って!!〟

 

〝ただい……うわぁ、酒臭ッ!!!ハリーなにしてるんだ!?ワインボトルを空けるなんて僕ら未成年……え?設計図書いたから見ろ?そんな状態で書いた図面が上手くいくわけ…………ハリー、君は天才なのかい?〟

 

〝え?MJにアプローチするか迷っている?男ならドーンと好きな女の子にアタックだよ、ハリー!え、お前もMJのことが好きだったんじゃないかって?このレポートと面接スケジュールみてそんな余裕あるように見えるかな?〟

 

 

うむ、ハリーとのやりとりを瞬時に思い返したが割と酷いというか、これは酷いの連続だったような気がする。けれど、充実していた。ハリーもそれを感じているらしく、小さく笑ったその顔にはもう悲壮感は残っていなかった。

 

 

「あぁ、このまま諦めるなんてらしくない。だったら取り返そうぜ。俺たちの作ったウェンディを」

 

 

そう言って立ち上がるハリーと拳を軽く合わせる。いつもそうやって困難を乗り越えてきた。だから必ずウェンディを取り戻す。その道のりがどんなに険しかろうともだ。

 

 

「男の子同士の友情を確かめ合うのはいいけれど、そろそろ就寝の時間ですよ」

 

 

その光景を見回りに来た看護師さんに見られた。俺とハリーはなんだか恥ずかしくなって、すぐに合わせていた拳を下ろしていそいそとベッドとソファへと引き上げることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

翌朝、起床後に朝食を食べてすぐさま検査となったが、回復が思ったよりも早くて昼過ぎには退院できる目処が経った。ハリーは俺の検査結果を見届けた後、側近と共に高校へ。MJをほったらかしにしてしまったフォローもしなきゃならないらしい。

 

迎えにはメイおばさんとオクタヴィアス夫妻が来てくれるようで、特にない荷物を簡単にまとめて病室を後にし、玄関ロビーに行くとすでに三人は待合場所で待ってくれていた。

 

 

「ピーター、体の調子はどうかしら?」

 

 

心配そうな眼差しで言うメイおばさんに、肩をぐるぐる回して元気いっぱいと笑顔で答える。見てくれた医者も「え、なんで君入院して……ああ、車に轢かれたのか。……本当に轢かれたのかい?」と若干引き気味に言っていた。それくらい体も回復している。

 

タクシーを待たせているから先に行くわね、とメイおばさんが玄関から出て行くのを見送ると、俺の入院費用諸々を立て替えてくれたオクタヴィアス博士が隣にやってきた。

 

 

「さて、ピーター。以前君に私の知り合いの学生を紹介すると言ったな?今晩に都合が付くのだが、夜は私の家に来てくれないかな?」

 

 

鞄に入れていたミネラルウォーターを取り出して口に含んでいるときにそう言われたもんだから思わず吹き出しそうになったけれどなんとか持ち堪えた。たしかにMJとハリーの関係を見ていると羨ましいとか思う自分もいるけれど、こんなに早く場を設けてもらえるなんて想定外だった。

 

ちなみにもうメイおばさんとベンおじさんにも話を通しているらしく、帰っても夕飯は準備されていないようだ。選ぶのは君の自由だと笑顔で言うけど外堀を見事に埋めてませんかね?そういう目を向けていたのか、オクタヴィアス博士の隣にいた妻、ロージーがおかしそうに笑った。

 

 

「主人はそれほどピーターを心配してるのよ。それに悪い子じゃないわ、きっと会えば気にいるはずよ」

 

 

なんでも元はオクタヴィアス博士が教鞭を執っていたサイエンス学習塾の生徒であり、今でも科学系の話題でやりとりをしているのだとか。そんな話を半分聞いてタクシーに乗り込む前に、オクタヴィアス博士は写真と名前を俺に告げた。

 

 

「名前はグウェン・ステイシー。ブロンドの髪が特徴的な快活な子だよ」

 

 

WHAT'S?俺はタクシーに乗り込んだオクタヴィアス博士にそんな言葉しか返すことができなかった。

 

 

 


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